理不尽な世界を、君と生きる   作:H&K YAMATO

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遅くなりました。

opイメージ 轟音で搔き消した音 by 幽閉サテライト


edイメージ 百花繚乱 by kalafina


邂逅

俺の船は奴に衝突した。

かみたかの艦首は、奴の船体にしっかりとくい込んでいた。

 

「後進一杯!」

 

奴に追い打ちをかけるため、後退の指示を出す。

こうすれば、奴は大量の水を抱え込んで沈むはずだ。

 

「こうぅぅしん、いっぱぁぁい!」

 

復唱が返され、かみたかがゆっくりと後退を始める。

鉄と鉄が擦れるいやな音とともに、艦首が抜けていく。

 

「やったぞ!」

 

艦首が抜けきると、誰かが喝采をあげた。

奴の船体には大きな破口が穿たれていた。

 

「残りの奴らはどうした?」

 

「反転し、離脱していきます。」

 

見張員の声には、隠しきれていない喜びの色があった。

 

「こちらの損害確認を急げ!」

 

俺は皆に怒鳴って、浮ついた気持ちを引き締めさせる。

まだ戦闘は終わっていない。

 

「艦首大破!」

 

「速射砲、使用不能!」

 

「船体に亀裂があります、浸水が止まりません!」

 

矢継ぎ早に報告が入るが、最後のがまずい。

 

「船は後どれくらい持つ?」

 

「あまり長くないはずです、船の放棄を意見具申いたします!」

 

どうやら自分たちの戦果に酔う暇もないようだ。

 

「機関停止!総員退艦せよ!」

 

タービンの音が消え、乗組員が海に飛び込んでいく。

船内に人がいないか確認した後、俺も海に向かって飛び込んだ。

救命胴衣を着ているおかげで、体が水面に浮いた。

船の沈没に巻き込まれないように、泳いで距離をとる。

 

ピィィィィィィィィィ

 

「総員、ここに集まれ!」

 

沈みゆく船から十分距離を取った後、救命胴衣についているホイッスルを吹いて皆を呼び集める。

 

「これより点呼を開始する、番号!」

 

「1!」「2!」「3!」「4!」「5!」「6!」「7!」「8!」「9!」「10!」「11!」「12!」「13!」「14!」「15!」「16!」「17!」「18!」「19!」「20!」

 

とりあえず、全員いることに安堵した。

 

「ひとまず、ここで救助を待つ!全員なるべく動かず体力を温存するように。」

 

とりあえず待機という命令を下すと、今まで張り詰めていた空気が緩んだ。

生還を泣いて喜ぶ奴、隣にいる元乗組員と雑談を始める奴、疲れていたのか居眠りを始める奴もいた。

俺は、沈みゆくかみたかとホ級を眺めていた。

すると、後ろから声がかけられた。

 

「高須艇長、先ほどはすみませんでした。」

 

「葛城か。」

 

振り向くと葛城航海長がいた。

 

「俺は別に怒ってはいない。」

 

「しかし…」

 

「俺だって、ここが太平洋ならお前と同じ決断をしていた。」

 

何か言おうとしていた葛城の言葉を遮って言った。

 

「撤退は、卑怯なことでも、臆病なことでもない。ただ、退くことができない時は存在する。忘れるなよ葛城。」

 

「はい!」

 

葛城とそんな話をしているうちに、ホ級もかみたかも海上から姿を消していた。

春になったとはいえ、海水はまだ冷たい。

救助はいつ来るのかと考えていると、俺は異常に気づいた。

海が…光っているのだ。

太陽の照り返し、というようなものではなくもっと柔らかな光だった。

まるで海の中で何かが光っているような

 

「総員、警戒せよ!海中に何かいるぞぉぉ!」

 

俺は大声をあげて皆に警戒を促した。

正体不明の光はどんどん強くなる。

もはや海の色が白くなっている。

あまりにも眩しくて目を開けていられない。

 

「クソッ!今度は何だ?」

 

目を閉じていてもわかる強烈な光は突然消えた。

目を開けてみると信じられない光景があった。

ちょうどホ級が沈んだあたりに、同じ形の船がいるのだ。

 

「まさか………復活した…のか?」

 

俺は呆然とした。

沈めても復活する船などありえない。

かみたかの犠牲が、無駄だと言われている気がした。

 

「艇長、どうすればいいですか!」

 

そばにいた葛城の声が俺を現実に引き戻す。

俺はこいつら全員を陸に連れ帰る義務がある。

 

「総員、傾注!」

 

皆がいっせいに俺を見る。

 

「見ての通り敵が復活した。」

 

皆が悔しそうな顔をする。

自分たちの船を犠牲にしても勝てなかったのだ、当然だろう。

 

「だが、敵の船も復活したばかりで動けないようだ。」

 

事実、こうして話している間も動く様子が全くない。

 

「これより俺たちは、あの船に乗り込む!」

 

何が起こるかわからないが、やるしかない。

このまま待っているだけでは、無抵抗で攻撃を受けることになるだろう。

ならば乗り込んで乗っ取るしかない。

 

「先ほど以上に、危険だ。強制はしない。」

 

そう言って、俺は泳ぎだした。

後ろで皆が泳ぎだした音がした。

そのことに安堵しながら、俺は奴に近づいていった。

やがて、ホ級の側にたどり着く。

ここまで近づいても、奴は動かなかった。

機関部が動いている音はするのだがなぜ動かないのだろうか?

 

「そういえば、どうやって登るか考えていなかった…」

 

近づいたはいいが、登り方がわからない。

どうやって登るか考えていると、上からロープが降ってきた。

驚いて上を見上げると、

 

「何だこいつらは?」

 

人形を少し大きくしたようなものが、上にたくさんいた。

二頭身の人型で、背丈は目算で80センチぐらい。

どれもセーラー服らしきものを着ている。

俺はそいつらの丸い目に見つめられていた。

いざ敵地に赴こうという時に、なんとも敵意を抱きづらいものが出てきたものだ。

 

「艇長、登りますか?どうしますか?」

 

ついてきた葛城が、俺に聞いてきた。

はっきり言えば罠の可能性はある。

だがここからしか登れないならば

 

「登って乗船する。俺に続け!」

 

俺は乗船を選択した。

ロープをつかみ、甲板まで登る。

登りきったところで襲われるかもしれないと思っだが、奴らは俺を見つめるだけで何もしてこない。

 

「なんか気味が悪いな…」

 

思わずそう呟いていた。

 

「キミガワルイトハナンダ!シツレイナ!」

 

すると、1番近くにいた人型が喋った。

 

「喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

驚いた俺は思わず大声をあげてしまった。

 

「艇長、どうしました⁈」

 

後ろにいた葛城たちが慌てて登ってきた。

 

「そこにいる変なのが喋ったんだ。」

 

「ヘンナノトハナンダ!ヨウセイトヨベ!」

 

葛城たちも驚いていた。

俺たちにとっては人形が動いて喋るようなものだ。

 

「マアイイ、カンチョウガオヨビダ。ツイテコイ!」

 

自称妖精は、艦橋に向かって歩き出した。

 

「艇長…」

 

「あいつらについていってみよう。」

 

乗っ取るといってもどうすればいいかわからなかったので、とりあえずついていくことにした。

それに船の重要部分は機関部と艦橋なので、艦橋に行けば何かあるかもしれないという期待もあった。

 

「カンチョウ、ツレテキマシタ。」

 

そうして俺たちは彼(?)の先導で、艦橋に連れていかれた。

 

「ご苦労さま。」

 

そこには1人の少女がいた。

 

「さて、"私"の中にようこそ。」

 

彼女が俺たちに向かって話す。

白いリボンでまとめたボリュームのあるツインテール、澄んだ青い瞳、均整が取れた体に襟が茶色の白いセーラー服と赤いスカート、引き締まって弾力がありそうな足に白いニーソックス。

どう見てもこんな場所でするような服装ではないが、彼女の自然な立ち振る舞いが服装の違和感を感じさせなかった。

 

「とりあえず近くにいたから助けたけど、あなたたち何者?」

 

その身にまとう雰囲気は、なぜか以前俺が見た護衛艦の艦長に近いものだった。

ずっと戦場にいた奴特有の、こちらを冷静に分析しているような感じ。

 

「そちらこそ何者だ?なぜ俺たちを襲う?」

 

彼女の雰囲気に圧倒されながらも俺は質問を返した。

しかし、彼女から返ってきたのは予想もしない答えだった。

 

「襲う?何それ?私はそんなことしてないわよ。」

 

どういうことだろうか?

 

「とぼけるな!さっきまで戦っていただろうが!」

 

葛城が叫ぶ。

 

「冗談じゃないわよ!こっちだってさっきここにきたばかりなのに!何が起こったか聞きたいのはこっちよ!」

 

ここでわざわざ嘘をつく理由はない。

もし彼女が俺たちの敵なら、俺たちが乗り込んで来る前に殺すべきだしロープを投げるべきでもない。

もしかしたら復活したと思ったのは間違いで、実は別の個体なのだろうか?

 

「米兵ならともかく、なんで私が日本人を襲わなきゃいけないのよ!私は日本の軍艦よ!」

 

そんなことを考えていると、彼女の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。

 

「日本の?君が?」

 

「私は、長良型軽巡の五十鈴よ。覚えておきなさい!」

 

嘘をいっているようには見えないのだが言っていることが突飛すぎた。

俺が質問を続けようとした時、艦橋に別の妖精が飛び込んできた。

 

「オハナシチュウノトコロシツレイイタシマス。ミハリヨウセイガ、フシンセンヲハッケンイタシマシタ!」

 

「艦種は?」

 

「オソラククチクカントオモワレマス!」

 

「数は?」

 

「ニセキデス!」

 

五十鈴が冷静に報告を聞いているのを聞きながら、俺は首から下げていた双眼鏡で周囲を確認する。

そして奴らを見つけた。

 

「クソッ!奴ら戻ってきやがった!」

 

思わず舌打ちをする。

 

「何?あの不審船のこと知っているの?」

 

五十鈴がこちらに目を向ける。

 

「あいつらはイ級駆逐艦だ!今の俺たちの敵だよ。」

 

あのステルス性の欠片もない艦影は奴らで間違いない。

 

「じゃあ、あいつらは日本の敵ってことでいいのよね?」

 

「そうだ。」

 

俺の答えを聞いた五十鈴は"嗤った"。

 

「じゃあ、殺ってもいいのね?」

 

「お、おう。」

 

思った以上に好戦的な様子に驚く。

 

「しかし、できるのか?」

 

先ほどの光景が頭に蘇る。

 

「馬鹿ね、私を誰だと思っているの?」

 

五十鈴の声にはなぜか自信が感じられた。

なんの根拠もないが、信じてみたいと思わせる声だった。

 

「総員第一種戦闘配備!」

 

どのみちあいつらは倒さなければならないのだ。

ならば、信じてみるのもいいかもしれない。

 

「五十鈴、出撃します!」

 

 




次回 第ニ話 初戦

「撃ち方はじめ!」

次回の投稿はイベントのせいで今まで以上に遅くなると思います。 ごめんなさい。
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