双主革新奇聞ディストリズム   作:マッキー&仮面兵

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『別の人格を装うことは、場合によっては賢明な方法になることがある』
――ニッコロ・マキャヴェッリ

『蕨VSミソギ、納村VSさとりです。原作三巻以降での蕨のイケメンさにときめきクライシス』
――仮面兵


第四節
間章:歪んだ「姉妹」


――時は納村不道が招待状を受け取った日の夜。

招待状の代金は彼の大事な外出許可証だ。

一体いつの間に奪われたのか? そもそもいつからなかったのか?

彼は変に忘れっぽかった。だが、招待状には彼の外出許可証を持っている眠目さとりの写真があったことは現実だ。

彼は当然取り返しに動く。お目付け役の鬼瓦輪と亀鶴城メアリには内緒で来い。と指定されていたのもあって、こっそりと動かざるを得なかった。

 

『なんじゃ、こんな時間に忍び込む戯け物を見つけてしもうたわ』

『花酒か……悪い、ちっと黙っといてくんねぇか!?』

 

彼は変に不器用だった。女子寮に侵入したときには独り動かなければならなかった。

だが、天は彼に味方した。

最上級生の花酒蕨が彼を見つけたのだ。

実はワラビンピックの後行われた蕨たちの褌公開着用の際に、使っていたカメラは彼の心遣いで電源が入っていなかった。

情けをかけられたと気づいていた蕨は、女子寮に侵入した事情を彼から聞きだすことで、さとりが暴走しているのだということまでも見抜いた。

 

『――なるほどのぉ……左近衛を監禁し、お主の外出許可証を強奪し、終いには女子寮侵入を推奨とはのぉ……! それは笑って捨て置けん。さとり姫の元じゃな? 今から向かうのであろう? わらわも同行するぞよ』

『花酒蕨院……!? ありがてぇ……助かるぜ……!』

 

そして、『輪とメアリには内緒に』とは言われたが、『蕨に気付かれてはならない』と言われてない。

と、暴論を振りかざしながら、五剣最年長としての誇りを掲げ、さとりの制止に力を注ぐべく、彼に同行することを選んだ。

様々なハプニングがあったものの、どうにかさとりの部屋まで向かうことができた二人。

今彼らは、さとりの部屋を捜索した後。最後の砦、皆が遠慮しあうさとりの入浴時間の大浴場に足を踏み入れるのであった――

 

 

「――ノムラ!」

「声の大きさに気をつけろよー? どうしたぁ、何かあったかぁ?」

「逆じゃ……! さとり姫の刀がない……ッ! 置いてあるのは鞘だけじゃッ!!」

「――ってことはまさか……!?」

 

 

脱衣所にて、さとりの衣服を漁っていた蕨は、さとりの刀が抜き身でどこかに持ち去られていることに気付く。

二人の視線は戸の向こう側にある風呂場へと向く。

――直後、何者かの気配を感じて二人はさらに振り向く。

 

 

『テン――ソウ――メツ――』

「……ノムラ、気づいとるな?」

「ああ。オタク、ミソギって名前だったよな――あの時左近衛と一緒にいた女だな!」

 

 

現れたのはホッケーマスクを着けた、長髪のカツラを被った少女――ミソギ。

既に彼女はミソギの名で学園に在籍してしまっている。

故にその姿であったところで、覆面女子としての役割を果たすことはできない。

――だが、『ミソギ』にとって、本当に必要なのは姿見を隠すことではなく、眠目ミソギというただ一人の少女が覆面女子としての『ミソギ』として、振る舞うことそのものである。

 

 

『テン――ソウ――メツ――』

「おいおい、返事もないってのはちょっとひどくねぇかぁ?」

「ノムラ、こやつはまるで――左近衛が来る前の『ミソギ』じゃ。ひたすら役割だけに徹する……依り代よ」

「なんだぁ? つまりは無視ってことだろ……少し傷つくぜ」

 

 

軽口を叩く納村。

彼がよそ見をする間に、ミソギは武器の竹筒を構え、矢を吹き出す。

その距離実に六メートル以内。いくら彼の動体視力が五剣の剣を見切れるほどのものだとしても、初動に反応できなかった時点で避けられないことは確定している。

――それを防いだのが、蕨だった。

 

 

「――戯けっ! 油断するでないわ!!」

「花酒っ!? スマン! 大丈夫か!?」

「大事ないわ……!」

 

 

針に何かしら塗られていることを前提とし、針を抜いた直後血を吸いだしながら納村に返答する蕨。

初手の天秤はミソギに傾いてしまった。

二人は先手を譲ってしまったことによる精神的敗北を一瞬感じ、一歩後ずさってしまう。

 

――そこに、風呂場の扉が開く。

現れたのは――

 

 

「あ~~、待ってたんだよぉ~~? でもぉ~~蕨ちゃんがあんなことされたのに手を貸すなんてわからないなぁ~~?」

「さとり姫……!!」

「おいおいおい……嘘だろ……!?」

 

 

現れたのはさとり。予想通り抜き身の刀を携え、納村の外出許可証を防水パックして胸元に垂らしているまでは、まだよかった。

しかし彼らが一番驚いていたのは――

 

 

「なんであいつ……水着着てやがんだ!? それもちょっと過激!? あ、結構似合ってんな!」

「お主もう少し反応するところあるじゃろうが!!」

「うわぁ~~祈願ちゃん以外に褒められてもうれしくない~~」

 

 

蕨はともかく、納村は数えの齢が17のごくごく健全な男子高校生。視点が少しばかり邪なものに向かうのには仕方がないと思える。

さとりに気を取られた彼を狙うべくミソギが矢を吹くものの、二度の手は食わぬとばかりに彼は矢をつかみ取る。

 

 

「そうだね~~それで終わったら面白くないよねぇ~~?」

「……ノムラ、分担するぞよ。さとり姫は主に用があるらしいでの、ミソギはわらわが引き受けよう。風呂場で存分に語らうといい」

「花酒……すまねぇな、頼むぜ」

 

 

蕨の言葉を受け、さとりに向き合う納村。

さとりが水着のままで風呂場に移動しようとする姿を見て、彼は細やかな苦情を述べる。

 

 

「おいおい、服くらいきたらどうだぁ? 水着じゃあ湯冷めしちまうぜぇ?」

「ノムラちゃんってニブチンだぁ~~これでいいんだよ~~? 戦略のうちだしね~~?」

「おいおい……!」

 

 

さとりは納村の苦情に対し向き直り、やや胸を寄せるポーズで返答する。

彼はただそれを見て、こう漏らした。

 

 

「やっぱ思ったけど花酒よりあるなぁ……鬼瓦には負けるか……いや、逆かもしれねぇなぁ――あっやべぇ、これじゃあ魔弾が撃てねぇ……!?」

「今からお主の敵に回ってやろうか阿呆!? 真面目にやらんかノムラァ!!」

「うわぁ~~最初は裸も考えたけど~~水着にしててよかったぁ~~……」

 

 

男子高校生には少々刺激の強すぎる今の状況。

男性特有の生理現象によって前かがみとなったことで本能的に自身の不利を悟った納村に対し、蕨は自身の体型への暴言も含め烈火のごとく言葉を飛ばす。

 

そのまま蕨は扉を閉め、直後ふらつく。

――やはり薬が塗っておったか。

常識とは言え、薬自体に対して対策を講じなかったのは愚だったか。と反省を思う。

とにかく……どのようなことをしてでもここは守り通さねばならぬ。

 

 

「ミソギ――死合う前に聞くぞよ。お主は……何故……何故! 今、あの頃に立ち戻ってしもうた! ノムラが原因だとしようと、さとり姫があそこまで狂うまで放置したのはなぜじゃ! 何故主が止めようとせんかったのじゃ!!」

「――ッ!!」

「フッ! ……なるほどのぉ……今の動作にためらいが見えたぞえ? じゃがそれが答えならば……話すつもりがないとするなれば――この事態を事前に防げなかったわらわにも非がある。その予兆を知れなかったわらわには責任がある……ゆえに、わらわがその責をとって矯正してくれるぞよ!!」

 

 

 

 

「まったく――おたくがわからねぇなぁ……!?」

「さとりにも~~全く分からないよぉ~~?」

「安心しろよ……おたくの観察眼はちゃぁんとバケモノ染みてるぜ……!」

 

 

納村は多大な苦戦を強いられていた。原因は一つ、さとりの不規則な動きだ。

さとりの視野の広さとその広さを生かした行動に先手を取られ続け、そして風呂場という足場の悪さ等環境の悪条件が重なった結果、納村は思ったように動けていない。

 

 

「バケモノかぁ、よくいわれるよ~~? でもさとりは嬉しいんだぁ~~」

「……嬉しい?」

「そうだよ~~? だって祈願ちゃんに近づく人を減らせるんだよ~~?」

 

 

納村は思い出した。

自身が現在このような状況に在るのは、蕨曰く『左近衛に近づいたから』だということを。

――正直理不尽極まりない。

理不尽・強制・上から目線などがものすごく嫌いな納村にとって、さとりの行動理由は大変納得しがたいものだった。

 

 

「あー……撤回するぜ、少しわかったわ。おたくさぁ……左近衛に近づくやつをーって言ってるがなぁ……! オレぁそうやって束縛して自由奪って自分の思い通りにできるって考えるやつが大っ嫌いなんだよなぁ!」

「そうなんだぁ~~さとりもおんなじだよ~~? 祈願ちゃんに近づくやつはみぃ~~んな大っ嫌いだよ~~!!」

 

 

――おんなじじゃねぇじゃん! という納村のツッコミは届かない。

さとりにとっての『同じ』とは、互いに向ける感情が一致しているということ。

しかしなぜ祈願に近づく人がみな嫌いなのか、なぜ納村が自信を嫌っているのか、その点について彼女は自分自身と議論を行わない。

故に、彼女は率直な自身の望みで納村を排そうとする。

 

 

「――ッ!」

「だからぁ~~! ノムラちゃんは早く死んでねぇ~~!!」

「死ねるかよっ! 男子会やるって貫井川と左近衛と約束してんだッ!」

「――死ねぇッ!」

 

 

祈願の名前が納村の口から出てきたとき、さとりの動きは単調化する。

荒く、激しく、そして感情的な刃が納村を襲うが、彼は難なくと防ぐ。

争いは未だ、終わる兆しがない。

 

 

 

 

「――薬の周りが激しくなったか……!」

 

 

蕨は未だ脱衣所でミソギとの戦闘を継続していた。

最初に受けた矢に塗られていた薬がだんだんと回り始める。

痛みで無理やり目を覚ましていたのにも限界がある、蕨はだんだんと足元がおぼつかなくなっていた。

 

 

『テン――ソウ――メツ――』

「グゥッ!?」

 

 

矢傷の場所を筒で撃たれた蕨は更なる薬の周りを自認する。

――まったく、一昨年ほどまでのこやつらまんまではないか――

蕨は歯噛みした。さとりと祈願の関係は自分たちで解決してくれるだろうと甘く見てしまったが故の結果がこれだ。

何が最上級生か、何が天下五剣最長か。

これでは結局――何の秩序も守れてないではないか。

 

――それはいけない。それではならない。

己を奮い、彼女は唇の上側を噛みきる。同時に、手に持つ剣で傷口を大きく割いた。

 

 

「――!?」

「おーおー……言いたいことはわかるぞよミソギ。愚策とは自覚しておるぞ? しかしのぉ――勝つのはわらわじゃ! 言ったであろう、責をとるのはわらわの務めであると!」

「ッ!!」

「かかってこい戯け者! まだわらわは屈しておらんぞ、勝ちの確信は倒れるまでするものでないわ!」

 

 

 

 

「――おたくさぁ、何をそんなに殺意向けてんだぁ?」

「決まってるじゃ~~ん? ノムラちゃんが祈願ちゃんに近づくからだよ~~!」

 

 

納村は攻めあぐねていた。

さとりの使用する流派が警視流の木太刀型と見抜いたまではよかったのだが、彼女の『秘密の遊び』である剣術文字鎖が中々に厄介。

合間合間に、『なぜ自分がこのような目に合うのか』ということを問いただそうとしても、返事に来るのは『祈願に近づいたから』のみ。

――賭けに出るか――

あまりにも進歩しない自分の状況に対し、納村は一か八か、勝負を打つしかなかった。

 

 

「おたくさぁ! さっきからオレが左近衛に近づいたからって言ってるがなぁ! それってなんで近づいちゃダメなのかわかんねぇんだけどなぁ!?」

「ん~~? 祈願ちゃんに近づいたから消す……それの何がいけないの~~?」

「そこだよ、おたくの言ってることが全然正気じゃねぇんだ。オレぁ『なんで祈願に近づいたらいけない』のかってことが知りてぇんだよ!」

 

 

――さとりの動きが止まった。

なぜ、なぜ、なぜ。さとりは今まで正気を失ったことで気づけなくなっていた『なぜ』を探し、思考がもぐってしまった。

――決まった。

納村はすかさず、さとりに更なる疑問を投げつける。

 

 

「それだけじゃねぇ。なんでおたくは貫井川の奴も警戒してんだ? 貫井川は確かに二階の窓に上がるようなとんでもねぇ奴だが、おたくが恐れるようなことは何もしてねぇだろ!」

「ぬくいがわ……ロリコンちゃんが~~……あれ……あれれ……な~~んでさとり……あれ~~?」

「……オレらはな、左近衛のやつと仲良くしてぇだけなんだよ。男同士楽しく学園生活してもいいだろうが!」

「なか……よく……?」

「そーだ仲良くだ! オレらは左近衛に危害なんざ加えねぇよ!」

 

 

さとりは困惑した。

何故納村と貫井川を排しようとしたのか――祈願に近づいたからだ。

ではなぜ祈願に近づいたらだめだったのか――祈願を傷つけるからだ。

でも納村は祈願を傷つけないといった――では何のために自分は――

 

 

「――1発キツイのぶち込んでやる。その考えまとめる助けになりゃあいいなぁ!」

「――ッ!?」

 

 

納村は踏ん張った。

もしさとりの格好が全裸であったならば、水にぬれた体に対して魔弾を撃つのは不可能に近かった。

しかし、さとりは水着で、手をある程度固定するための布地があった。

ならばあとは気合でふんじばるだけのこと。

 

さとりが『祈願以外の男に裸を見せたくない』という乙女心を持ち、それに気づかぬまま無意識に水着を着用して勝負に挑んだが故のチャンス。

放たれた魔弾、彼の思いを込めた渾身の一撃はさとりを大きく湯船の中に吹き飛ばす。

 

 

「……おたくはさ、ちゃんと一回、左近衛の奴と話した方がいいぜ」

 

 

勝者納村、勝鬨はここにあげられた。

――が、この空間はすぐに壊される。

 

 

「もう投げるのはやめろあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「なんだっ!?」

「――祈願ちゃん?」

 

 

――ほかならぬ、事件の中心たる少年の存在によって。

 

 




さとりは警視流の木太刀型と居合型(原作四巻の無双返し)を習得している。
ちなみに、警視流には『柔術型』という物も存在していたという。
現在は世界的に使用されている講道館柔道に取って代わられてしまっている柔術型だが、かなりごちゃごちゃしたラインナップになっているらしく、各流派技一つずつ10種の木太刀型や五流派一本ずつの居合型と比べ、無名の技や名称のみ違うが実質同じ技などが多くみられている。
もしかすると、さとりは警視流つながりで柔術型も習得しているのではないだろうか(願望)
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