双主革新奇聞ディストリズム 作:マッキー&仮面兵
――ニッコロ・マキャヴェッリ
『女帝無双。サクサク行きます。天羽さんチートですよね。絶対的な性能の意味合いのチート。あれを容易く傷つけた理事長って……』
――仮面兵
――天羽斬々は動き出した。
彼女は察していた。天下五剣というシステムが崩壊の時を刻んでいたことに。
その根拠はただ一人自身を昂らせた男、納村不道の存在。
彼が愛地共生学園に転校したことに運命を感じながらも、同時にある確信を得ていた。
それが――天下五剣の崩壊。
彼女が転校してきた際、天下五剣から二人の少女たちが矯正に動いた。それが鬼瓦輪と亀鶴城メアリ。
しかし、当の斬々は二人をいともたやすく退かせた。
その日から実力に畏怖した生徒に名付けられた二つ名は『女帝』。
だが、彼女は満足していなかった。彼女はまだ、天下五剣全員を下してない。
いつかは下さねばならぬ、それが強者としての務めである。
そう期を伺っていた。いくら斬々と言えども一度に五剣全員を相手にするのは難しかった。
そんな時に納村が学園に訪れた。
彼女は運命のいたずらに感謝した。彼がいるならば、必ずやもう一度自身が支配し、彼を求めようと。
もちろん、最初はためらっていた。彼女たち二人の間柄に出来上がった溝は深い。
しかしながら、彼と輪が不遇の事故による口づけを交わしたときから、メアリと親しくなり、彼女らの妹分二人も混ざり、日々過ごしていく様子を見るたびに彼女の気持ちは抑えが効かなくなっていた。
そして彼女は決行した。天下五剣を下し、自身が権力を持ち、再び納村を求めるために。
彼女は獲物を選ぶために屋上へと昇った。
いつもHR前の時間には誰もいないはずのそこには先客がいた。
そう、二日前に納村と一戦闘起こした眠目さとりである。
彼女は納村との戦闘直後に、彼女にとって何においても最も優先すべき存在である左近衛祈願からの拒絶を突き付けられ、彼との思い出の場所で呆けているところだった。
斬々はさとりの姿がどこかかつての自分に被って見えた。
何時もべったりとくっついていることで有名な二人が昨日は一切一緒にいる姿を見かけなかった。さとりが祈願の話題を出されると脅えた目をした。等々……
うら若き女子学生の集団は少しの異変に目ざとく騒ぎ立てる癖がある。
いつもであればただの姦しい集団だと笑い捨てるのが女帝だったが、さとりの件については前前から少しばかり興味を持っていた。
五剣有数の実力者であると高名な彼女が、そこまで入れ込むとはどのような男か。
探った彼女はすぐに落胆した。
――なんて何もない普通の少年か――
斬々は納村の実力などを高く買ったうえで、自身にふさわしい男だと考えていた。
しかし、さとりと祈願の間にあるのはそのような関係ではない。
斬々は失望するとともに、少しだけ『なぜ彼女はあのような男に入れ込むのか』ということに興味がわいた。
結果としてわからなかった。
結局、さとりと祈願に接触をとることは中々にかなわず、その理由を知る前に、この時が訪れてしまったのだ。
斬々はさとりにここぞとばかりに接触した。
自身の中にある懐疑について、そのままにしておくことが気にくわなかった。
そのついでに、あわよくば自身の手駒としてスカウトしてやろう。そう考えていた。
「私に従え眠目さとり。私がこの学園を手中に収めた暁には、お前を邪魔する存在は全てねじ伏せられるだろう」
「……あ~~お断りするね~~……これ以上……ボクは祈願ちゃんを喪うことはしたくないんだ~~……」
「その左近衛祈願をお前の求めるままにできるとしてもか?」
「祈願ちゃんはね~~……ボクのそういうところが嫌いだったんだって~~……だから~~斬々ちゃんには従えないなぁ~~……」
彼女はひどく困惑した。
さとりという人物はとにかく祈願を第一とし、祈願さえ自分の元に居ればなんだとしても良いという結果を求めていたのではなかったのか?
そう、調べていたがゆえに、理解できない現実に立ちはだかられた。
彼女が仲違いした際に彼に拒絶された。ここまではいい。だが、それによって彼女が『自身に問題があった』と落ち込むまで予想できなかったこと。
斬々自身が、自身と納村の仲違いの原因を自分に求めてなかったが故の思い違い。
彼女は衝動的に激昂した。自身とさとりの何が違うか、それを知りたかったというのが根底にあったのだろうが――自身を制御できない今の斬々では荒々しい暴力での対話しかままならない。
故に、さとりを下した。
下してようやく、当初の目的を思い出した。
その時――さとりと同じく心神喪失状態に陥っていた左近衛祈願が、招かれざる客として訪れたのだった。
女帝――いや、天羽斬々という一人の恋い焦がれる乙女は、自身の目の前で行われた愛情劇に酷く嫉妬した。
――なぜ自分は彼とあのようになれなかったのか。
なぜあの男のように彼は自分に愛をささやいてくれなかったものか。
なぜあの男は何もないくせに自身より幸せそうに笑い会えているのか。
――たかが模倣しかとりえのない男に――
乙女は自身ごと燃やす炎に身をゆだねた。
炎の名は『怒り』、燃やしたい相手は目の前の男――左近衛祈願。
彼の体を貫いた、彼の体内を抉った、彼の慟哭を聞いた、彼女の悲鳴を聞いた。
それだけで溜飲が下がる。
とどめを刺す――その瞬間に、またもや乱入者が訪れた。
その名は天下五剣唯一の獣使い花酒蕨。
いつ気づいたのか、おそらく彼女が切り裂いた防犯ブザー、あのけたたましい耳障りな音だろう。
斬々はまたもや自身のする予定だったことを思い出した。
殺してやろうと思った祈願への興味はすっかりと失せ、失神した彼の体をさとりの側へほおり投げる。
彼の体を受け止めたさとりは、祈願が生きていたことに安堵し、涙し、もともと限界まで到達していた意識を手放した。
「どうした花酒蕨?」
「あー、取り込み中じゃったか……! 出直すかのぉ……!?」
「なに……ゆっくりしていけばよい。演目は一通り終わってしまったがな?」
蕨は自身が救援に入るタイミングに、遅すぎたか……! と歯噛みした。
けたたましい音が隣の校舎から響いたからと目を向けてみれば、そこはかの女帝とさとり、祈願が一堂に会する様子。
2日前の当事者かつ、その結末を後から聞いた立場である蕨からしてみれば、なぜ喧嘩別れをした二人が体を抱き合わせて支え合っているのか、なぜ二人は今日に限って屋上にいるのか。などと疑問を抱くことが山積みだが、ひとまずは女帝が動き出した事実を認識し、二人の救援に当たることを選んだ。
だが、一歩間に合わず。
たどり着いたその時にはすでに祈願は抉られ、ミソギは刺され、さとりは祈願を守る様に覆いかぶさって気絶している。
――一昨日の今日でこの様かえ……ままならぬのぉ――
蕨は女帝と相対することに恐怖した。
しかし、逃げるわけにはいかぬ。
天下五剣たるもの、脅かす存在には全霊をもって立ち向かうのみ。
その強い意志とともに、彼女は相棒の熊『キョーボー』とともに、刀を振りかぶった。
『アモオォォォォ!!!』
「……ククッ」
愛しの彼の叫びが聞こえる。
斬々は階段を下りながら口を愉しそうに歪めた。
天下五剣、残る刃は三本のみ。そのうちの二振りは既に一度砕いた。二度目も負ける道理がない。
問題は五剣最年少因幡月夜の方。彼女は、剣鬼一族として伝説になるほど高名な『鳴神一族』の血筋が一人。
この愛地共生学園における理事長であり、現世での一族最強と謳われる『鳴神虎春』を超えるために、虎春の同族である彼女は必ずや超える必要がある。
自身の腕がどこまで通るか、その期待に震えを感じながら、斬々は階下へと降りてゆく。
もはや彼女の中には先ほど抉った少年の存在など失せている。
同時に、彼によって感じさせられた怒りも鎮火した。
きっとその怒りが再燃するには――同じようなシーンを見る必要がある。
納村以外にも、女子と仲睦まじくやっている男子がもう一人いることに彼女が気づくのは……しばらく後のことであった。
「お前たちは蒙昧だ。馬鹿正直に受けてやる通りなどない……」
「足刀までも……文字通り刀だと……!」
「素手で刀を……!」
――愚かなものだ。
斬々は、輪とメアリを足刀によって吹き飛ばしながら、二人の愚者っぷりに落胆した。
自身に挑んだ際よりも、コンビネーションという物が出来上がっていること自体は喜ばしい。
しかしだ、二人の性質が変わらず前のめりであった。
作戦自体は変わらずじまいだというのに、どのようにして愉しめようか。
こんなのであれば、まだ不意を突かれた分さっきまでの方が愉しめた――
さらに言えば、因幡月夜は居らなかった。これでは不完全燃焼極まりない。
そうだ、では彼女らにとって大事である妹分二人を傷つけてみればどうか。
彼女は思い立った。
これまで大事な相手、関わる相手を傷つけたことで、左近衛祈願は奇策を用いて一矢報いた。眠目さとりは悲鳴をあげつつもがむしゃらに立ち向かってきた。花酒蕨はただ見ることについて泣きわめいて許しを乞うてきた。
そして――あの男はあの日『魔弾』を魅せてくれた。
斬々はニタリと口をゆがめた。
彼女にとって、弱い者いじめだとかそういう理論は無に等しい。
あるのはただ――弱肉強食、強き者がすべてを下すという暴力的真理。
妹分二人か、輪とメアリの二人が一言『アナタに従います』と言えば彼女は抜いた刃を納めることだろう。
しかしこの四人からはその言葉が告げられることなどありえない。
――突如、輪とメアリの妹分である百舌鳥野のの、鵜薔薇咲蝶華のそばに誰かが立ちはだかった。
斬々が今現状一番砕きたい剣、天下五剣最年少の鳴神一族、居合の達人――因幡月夜だ。
幸かそれとも不幸か、奇跡的な状態に斬々は感謝した。
天下五剣としながらも、特殊な立場としてかかわっている彼女が出張る理由は正直どうでもいい。ただ強者との戦い、それが斬々の喜び。
彼女も超えられれば――あとは理事長と、あの男のみ。
「――もし、お前が真剣を使っていたならば、刃挽きをしていたとしても敗北していたやも知れんがな……これでは、負けるわけがない」
「ゴホッ……ヒュー……ヒュー……」
「因幡まで……負けたというのか……!?」
月夜の刀が眩き煌めく、気づいたときには斬々の体には三度の斬撃。
悲しきかな、その刃が模造である故の通りきらぬ結果。
斬々はその反射神経による手刀を容易に放つことができてしまった。
彼女は哀しんだ。まさか最後の相手までもこの程度かと。
加えて月夜は病弱。その一度の一瞬のみの戦闘であると知っているがゆえに、その結果がこんなものだと思えば、その落胆ぶりが多少は伝わるのだろうか。
戦闘は終わった。結果は月夜の続行不可。
後に残るのは事後処理という名の一方的な制裁のみ。
月夜は当然のごとく武器を構えて抵抗をしようと望むが、元々病弱ゆえの体調が整わないことと、武器の模造刀が半分ポッキリと砕け折れていること、カウンターの手刀によって体を穿たれていることなどが重なって武器を思うように掲げられない。
――瞬間、彼女の体は大きく引き寄せられた。
斬々は月夜の体を動かした相手を視認する。
その男は彼女の求めた男ではなくて……
「悪いけど、せめてもの時間稼ぎだ……クソBBA、お互い望みの相手じゃなくて残念だろうが――本命来るまでダンスでも如何かな! とびっきりの長丁場でだけどな!」
「虫の様に非力な男が私の望むような踊りができるとは思えないな――貫井川蓮!!」
「一寸の虫にも五分の魂ってあるんでね! 精々ご期待くださいませ!」
因幡月夜のためにその身を戦いに投じられる男。
その名は、貫井川蓮。
――天羽斬々の怒りが再燃するまで、あと数分。
因幡月夜が盲目であることと病弱であることについては、彼女が度重なる近親相姦によって設けられた子という点が答えとなる。
色素が全体的に薄い点、アルビノである点なども踏まえると、遺伝子病と言えるだろう。
月夜の一族は能力面の伝承でのデザインベイビーを利用しているという背景があるため、実は背景が現状一番ダークな子でもある。