双主革新奇聞ディストリズム 作:マッキー&仮面兵
――マッキー
『俺は自他共に認めるロリコン。そんな正常なヒトとは違う俺だからこそ、性癖以外の常識には厳しくあるべきなんだと思う』
――貫井川蓮
変態の章:兎と変態の「軌跡」
「目が良いのが
「ちょろちょろ動き回りよって……!少し撃ち込んで来てみてはどうだ!」
「カウンター持ちにそんなこと言われてホイホイ行くと思ってんのか!?」
「なに、ちょっとした冗談、だ!!」
「だからっ、見えてるんだよぉ!」
女帝にケンカを売ったことは後悔していない。この学園で五剣の矯正から逃れてきた程度の力は持っているから。まぁ力といっても俺の得意分野は『回避・逃走』であって、得物も無ければ武術の類も知らないんだが。
“そんな逃げ専の俺が女帝に勝てるのか?”なんて疑問を壁下り中に抱いたが、思えば別に勝つ必要はないわけで。屋上で吠えてたヤツが来るまでやられなければいいんだ。こう考えると回避に特化した俺が
「考え事とはずいぶん余裕ではないか、気を抜いた瞬間に抉ってしまうかもしれぬぞ?」
「ん~、どう時間稼ぎしたものかと悩んでな。見切りは出来るんだが、俺の貧弱なボディじゃ一発掠れば落ちかねん。痛みにも耐性ないし」
「お前は武術をかじったことが無いと見える、であれば道理か。ではどうするのだ?」
「何も変えないさ。あんたはカウンターが怖いのであって、こっちが攻撃しなければ反撃はこない。加えてそっちの攻撃は見切れるときたら、変えるわけにはいかんだろう」
「……面白味のない男だ。虫と形容したのは間違いではなかったか」
「虫で結構。面白くもなんともなかろうが、俺はあの子の前で傷つかないと誓ったんだ」
後ろをチラと見る。5人の女子、その中でも1番幼い彼女を。
「さぁインターバル明けて第2ラウンドだ。それとも、こうやって会話してくれるか?こっちの方が楽で助かるんだが……」
「聞かなくても分かるであろう!」
「知ってた!」
「遊びは終わりだ、獲りに行くぞ!」
「品切れにつきお引き取り下さいな!」
右手刀の袈裟斬り
右足を引いて半身で避ける
左手刀の薙ぎ払い
一歩飛びのいて避ける
詰めて右手刀の突き
上半身を逸らす、ようはマトリックスで避ける
手を引いて右足刀の振り上げ
地面に手を突いてバク転で避ける
バク転中に女帝が後ろを向いているのが見えた。左足を軸に右足を浮かしている――肘を曲げて手に力をこめる、そして地面を押しのけて全身を宙に浮かせる!
回し蹴り――水平ではなく、上から下への振り下ろし――が俺の目の前を通り過ぎていく。ふわりと重力に逆らう前髪が切り取られていくのが見えた。とても危ない!
「流れるような殺人コンボやめろや!それとなぁ、今の回し蹴りは首持ってく気マンマンだったろ!避けられなかったら死んでたぞ!」
「流石に首は獲らんさ。当たりそうだったら止めていた」
「そういう問題じゃねえよ!目の前を踵が掠めていったのなんて初めてだわ!もう1回言うが死んでたからな!?」
「しかしあれだな、ここまで攻撃して全て避けられたことはない。貴様は誇っていいぞ?」
「聞けよ!人の話を聞けよ!!」
もうやだこのBBA!こっちは割と真面目に命の危機だったってのに話を聞かない!並の人間だったらここで殴りかかってるぞ!?殴りに行ったらあっという間に返り討ちだけどな!!
ヒーローはまだ来ないのか!?俺の手には少し余るぞ、早く来てなんとかしやがれ!
「だが……ふむ、お前も愉しませてくれるかどうか。それを確かめるのも一興か」
「……なんだと?」
「目の前で愛する者を喪えば――」
その言葉を聞いた瞬間、着地して膝をついていた体勢から一気に走り出していた。走りながら右の肩・肘・手首を
「ふざけたことを!!ぬかしてんじゃねえぇぇぇええ!!!」
「なにっ――」
「女帝を投げ飛ばしただと!?」
バカなことを宣った女帝が宙を舞う。文字通り俺が
やったことは簡単。右手の肩・肘・手首の関節を外し、それをヤツの右腕に蛇がごとく絡ませて動きを封じる――ただ腕を掴むだけでは確実にカウンターで抉られるから――。後はジャイアントスイングのように回して浮かせて投げるだけ。
クライミングで鍛えた腕力にかかれば祈願のようなひょろひょろボーイは勿論、がっしりした不道さえ飛ばしてやれる自信がある。無論、女性である女帝ならば投げるのは容易かった。
普段は女に手を出されても手はあげない主義で通している。だから五剣の矯正――という名の暴力行為――でも避けはしても反撃はしなかった。だが、だが!!
「月夜ちゃんに手を出すだと!?そんなこと俺が許さんぞ!俺だけを狙うならよかった、痛い思いをするのは俺だけだからな。だがお前はあろうことか部外者を巻き込もうとした!それも既に傷を負っている月夜ちゃんをだ!」
許さない
「上にいた祈願と緑姉妹の状況、それと今のお前の発言を聞けば分かる……あらかた好き合ってる、もしくは大切に思ってるヤツらを傷つけて逆上させてるんだろうよ。ふざけるな!」
許されない
「好きなヤツが、大切なヤツが、目の前で倒されたら怒り狂うのは当たり前だ!それを自分の愉しみで引き起こすような輩は人間とは言えねぇよ!」
許してはいけない!
「祈願と眠目の絆は!俺と月夜ちゃんの絆は!お前みたいな怪物が己の快楽のために引き裂いていいような代物じゃないんだ!!」
守る
「お前のようなヤツに、俺の大切なヒトを!」
守り抜く
「俺の短い人生で初めてできた、守りたいと思ったヒトを!」
守ってみせる!
「これ以上、傷つかせてなるものか!」
覚悟しろよ!!!
「月夜ちゃんには指1本触れさせねぇ!お前の相手は俺だぞ女帝ぃぃいいい!!!」
「…………いいところすまないが、その辺にしてやってくれ。因幡が凄いことになってるぞ」
鬼瓦に声を掛けられてはっとする。あれ、今すごく恥ずかしいこと言ってなかったか……?許さないとか、守りたいとか――
「…………ぁぅぁぅ」
「ぬあぁぁぁあああ!!!」
言ってた!超言ってた!めっちゃ恥ずかしい!!
人生で1番恥ずかしいよコレ!誰か助けて!
「あー、その~……月夜ちゃん?」
「…………」
「こんな恥ずかしいこと言ってゴメン!でもでも、大切とか守りたいとか、この学校で出会ってからキミのことしか考えてないとかは本当だから!」
「何を追い打ちかけているんだ貴様は!?それに何か付け足されてるぞ!」
「ここまで夢中になった子はキミが初めてだったり、通報しないでくれたり、いつでも俺の相手をしてくれたり!あとここに転校したのはキミが理由だったりするから!全部本当で、マジで好ましく思ってるから!」
「またいらない情報が増えましてよ……」
――って俺はまたいらんことをぉぉぉおおお!!
なんなの!?なんで女帝を投げ飛ばしたと思ったらこんなことになってるの!?わけがわからないよ!!
「なんかもうホントにごめん!」
「……もういいです」
「だよねぇ……もうあっち行っとくよ」
「――です」
「え?」
「私も……大切、です」
「はぇ?」
「だから、私も……~~~っっっ!!」
「え、ちょっ、まじぽん?」
「なんなんだこれは……」
「あたくしに聞かれましても……」
ああもう意味が分からない!俺は月夜ちゃんが大切で、月夜ちゃんも俺のことが――のおおおぉぉおおう!!
ダメだ、混乱してきた……いったん落ち着かなければ。
ってあれ?なにか忘れているような――
「1度ならず2度までも……!お前たちが『羨ましい』、お前たちが『憎らしい』!故に私はその羨望を、憎悪を、その元であるお前
「ちっ、結構な力で投げたんだぞ?それでも無傷か……」
「当然だ。私は全身が一振りの刃、強度も硬度も鋼に準ずる」
「んで?なんで羨ましい憎らしいかは予想がつくが、それでお前はどうしたいんだ?」
月夜ちゃんが何か合図を送ってくる。なるほど、やっとか。
「その感情を受け止める役は俺じゃ力不足なんだよ。だから大人しくキミの想い人を待ったほうが良いと思うんだが?」
「ほざけ!お前を引き裂くことに意味があるのだ、故にここで斃させてもらうぞ!!」
「そうかい」
「しっかり見極めねば抉って持っていくぞ!」
右手の正拳突き
半身で躱す
右拳を解き手刀の薙ぎ
身を屈めてやり過ごす
それは悪手だとばかりに女帝が嗤い、腰だめに構えた左手刀を突きだしてくる。
俺は笑う、それこそが狙いだったと――!
「獲ったぞ貫井川蓮!」
「それはどうかな!」
身体を左にずらす。手刀が頬をかすめ、ぱっくりと皮膚が裂けて鮮血が舞う。だがそんなものには構わない!懐に潜り込み、自分の肩を女帝の腹にあてがう。そして、ちょうど米俵のように
突然のことで流石の女帝も固まっている。まさか持ち上げられるとは思わなかったのだろう、だがしかし彼女の様子などには目もくれずに発射準備。左手は胸に右手は腹に持っていき、前に投げる体勢に入る。つまるところ――
「行くぞ王子サマ!しっかり受け止めてやれよ!」
「無茶言うな!」
「マーク3・『
――人間砲弾だ。
「マジで飛んできやがった……!分かったよやってやるよ!」
「アァァァモォォォウ!!!!」
「ノォォォムラァァア!!!!」
ゴッッッ!!!
おおよそ拳がぶつかり合ったとは思えない音が響いた。
***
「これが最後だ、ノムラ。この私のモノになれ!」
「いやだね、断る!まっぴらごめんさ――」
ドン……
不道の『魔弾』が女帝を貫き、そのまま地に背中をつけた。互いにボロボロになりながらも、最後まで立っていたのは不道。ここに『女帝の乱』は終結した――
「テン……ソウ……メツ……」
――かのように見えた、この覆面女子が女帝にたかるまでは。
「おいおたくら!なにしてっ……」
「やめとけ不道。その身体で無茶すんな、すぐに病院送りの傷なんだ。無傷の俺に任せろ、それに問いただしたいこともある。なぁ――」
「ぐっ……じょ、てい……!」
「――祈願」
そう、倒された女帝に寄ってきたのは覆面女子ではなかった。正しくは”覆面女子に支えられた左近衛祈願”だ。こいつは屋上でぶっ倒れていたはず、それも相当の重傷を負って。包帯などの応急手当は見えるが、こうして動いていいはずがない。
「その傷で動いて、ここまで来て何がしたいんだ?」
「じょて、い……!」
「おーい、祈願くーん?聞こえてるかー?」
「たおす……じょてい、を、たおす……!」
「だめだ聞いちゃいない。うーむ、手っ取り早く殴って止めるか――っておいおい!その警棒どっから出した!?覆面のヤツらもか!?」
どう見ても女帝にトドメ刺そうとしてるよな!?いかに倒れてるコイツがムカつく女だって言っても、こんな卑怯なことを見過ごすほど嫌いじゃない!
「待てお前ら「その必要はないです」っと、月夜ちゃん?」
「心配ありません、
「ユキノって……学園長の?」
「そうです」
瞬間、覆面女子と祈願が握っていた警棒が宙を舞う。かすかに見えたが……あれは糸、か?さすが忍者。
「校内では役職で呼んで……私……学園長ですので」
「学園長!貴女がいながらどうして祈願がここに――」
「気がついたら……逃げられてた……」
「逃げられてたって貴女ねぇ……」
「今度は逃がさないから……許して……」
そう言うやいなや、祈願はかくーんと眠るように落ちた。え、いったい何したの?さすが忍者で片づけていいの?なんか怖いよ。
「予鈴はもう鳴ってる……全員教室に入って……あぁでも貴方は別……」
言葉を切り、指をさした。その人物は――不道だ。
「そりゃどういう……?」
「決まってるでしょう……」
「貴方は退学です……」
ファッ!?
貫井川蓮
別称『軟体変態』
身体の異常なまでの柔らかさが異名の由来。
その柔らかさは現役の新体操選手にも匹敵するとされるどころか、オリンピック選考候補に入っていても不思議ではないほど。
もう一つ軟体的な動きとして特徴に上がるのは、全身の関節を意図的に着脱可能なところである。