双主革新奇聞ディストリズム 作:マッキー&仮面兵
――ニッコロ・マキャヴェッリ
『天下五剣とはかくあるべきだったのか。これまでも含め、作者側の個人思想が駄々洩れですが、私達二人はこうあってくれたらいいなと考え、こんな展開を作りました』
――仮面兵
「――皆の者、そろったかえ?」
「何の用であたくしたちを呼び出したので?」
「花酒が呼び出したことは構わないが……居ない者がいるぞ」
「来てない方はいますよ。眠目さんです」
「あぁ……さとり姫は題材が題材故に呼ばんかった。いまだ予断を許してはいない状況だと聞いておる」
「……左近衛か」
「うむ」
天羽斬々による一連の騒動は、彼女の別称から『女帝の乱』として愛地共生学園、天下五剣の歴史に記されることとなる。
この騒動は一つの大きな疑念を学園内部にもたらした。
それは、『現在の天下五剣という存在の意義』。
元々天下五剣の成り立ちそのものが、かなりの曲者だった。
女子校だった当学園が共学へと変革されていく際に、風紀組織の中から行き過ぎた女子生徒によって過激派武装自警団が設立され、その中でも上位実力者五名が『天下五剣』の原型であった。
成り立ち自体が暴力機構としての面を色濃く抽出してしまったがゆえに、現在の五剣も極端な更生を続けていた。
年月が過ぎ、人の心に多様性という物が生まれ、多面的な視点が得られるようになったことで、その暴力的側面の強い『天下五剣』に対して、強い疑念を抱くものも多かった。
しかし人は基本弱いもので、力がある者に対しては逆らいの意を述べようとしない。
――裏を返せば、力を亡くした時こそ、そのような反感的な態度が噴出し始める。
その力を亡くした時というのが、この女帝の乱によって、天下五剣がなすすべもなく敗北し、それを解決したのが天下五剣に目を付けられている男子『納村不道』であったという現実。
即ち、『天下五剣の弱さの露呈』ともいう。
反抗する者にとって、天下五剣が未だ強者であるかどうかが重要なのではない。
その暴力機構が上回る暴力によって粉砕され、その暴力を下したのが暴力機構によって狙われた存在であった。と言うことが反抗者の声を大きくさせた。
「……では、この四名で緊急の五剣会議を開く。眠目には後程わらわから内容を知らせておく。よいか?」
「事前に聞いている内容からして、自分に異論はない」
「あの話が事実とするなら、これは死ぬほど深刻でしてよ」
「……ひとしきり話終わったなら私から一つ希望があるのでそれもお願いします」
現五剣最年長の蕨はこの事態を重くとらえた。
自身らが絶対的権力として学園でふるまえていたのは無敗であったからだ。
輪とメアリが女帝に敗れたときも、納村がワラビンピックを攻略した時も、未だ敗れていない面々がいたからこそ不満を抑え込めていた。
しかし、さとりが独断の暴走によって動いた挙句、普段より連れ添わせている祈願もろとも女帝に重傷を負わされた姿、自身を始めとした花酒三獣士の完敗、歴代五剣の中でも上位に座すると賞されることもある因幡月夜の辛い敗北。
数々の五剣の敗北が重なった今、抑え込めるほどの力がないと舐められてしまったのだ。
蕨は思案した。元々現状の五剣の在り方が時代錯誤だと思う者もいる、と。
暴力機構ではなく、秩序を守る風紀機構として、原初のあるべき姿に作り直す必要があるのではないかと。
改革をするのであれば、現在の五人全員が一丸となる必要がある。バラバラの秩序をつかさどったが故に、さとりの暴走を許し、月夜の独自立場という形での不干渉を許してしまう等の不備も多く犯したのだから。
なれば、今一度一丸となるための準備としてまずはどうしていくべきか、自身の考えを伝える必要がある。
故に彼女は、普段始業前に行っていた五剣会議をあえて放課後に設定した。
題目は――眠目さとりと左近衛祈願について、および今後の天下五剣の在り方について。
「まず、件のさとり姫と左近衛のことじゃ。女帝の乱数日前に、ノムラ、左近衛、貫井川の三名が女子寮の床を踏んだことは周知よな?」
「左近衛さんと蓮さんについては私が。我が弟子については花酒さんの方が詳しいでしょう」
「おうとも。ノムラはこの三名の中で唯一不法侵入としておったからな。事情もその時聴いた故、月夜姫の様に権限での許可証発行までは至れなんだ」
「あの時は私も緊急事態として、女子寮母も兼任するエヴァに話を通して特別に発行したものです。おそらく二度目以降はあり得ないかと……まぁ、事情を碌に確認せずあの二人を襲った人もここにいるのですが」
「うっ……すまない……自分はありえないと前提から疑ってしまった……」
「死ぬほど紛らわしくてよ。あたくしたちにはその話を通しておくのが『マナー』という物ではなくて?」
「亀鶴城さんは緊急事態だという言葉をきいていましたか? 事前に話を通す余地がないから特殊発行をしたのですが……」
「『クソガキ』!」
「亀鶴城、落ち着け。因幡も剣を収めろ、事前に確認できないほど事態が切羽詰まっていたというのは納村から聞いている。あの二人を疑う前提で話を聞かなかった自分たちにも非がある」
「ええいそういう話をしてるわけではないわ! いや、する予定じゃが今はその話ではない!」
蕨が話を中断する。
このままほおっておくと脱線してしまう。
「ノムラ達が女子寮に訪れたというのも、元々はさとり姫がノムラの外出許可証を奪取したのが原因。さとり姫がその行動に及んだのは、左近衛に対する異常なあやつの保護心によるもの。本当ならばこれだけでみるなればさとり姫か左近衛に重い処分を下すものじゃが……」
「……だが、天羽の件では左近衛が防犯ブザーを使用したことで色々と救えた事実も、否定できない。左近衛が天羽に向かったのは眠目を想うが故の決断だった」
「学園長にどのような『意図』があるかは不明ですが、退学・休学などを選ばなかったのですから、処分はなくてもよくて?」
「話を最後まできけい。いまおぬしらが言ったように、あやつらに助けられたこともそれなりにある。わらわたちの中ではさとり姫がぶっちぎりで暴走しがちで、その理由は左近衛じゃが、さらにその大元の事情をわらわの伝手で調べたのじゃ」
「祥乃に無理を言って個人情報を私に仕入れさせておいてそれを言うんですか花酒さん」
「ぐっ……許せ月夜姫。コホン、それでじゃ、調べたところ……わらわは少しばかり左近衛に同情を抱いてしもうた」
そういいながら、蕨は祈願についての情報をまとめたレジュメを取り出し、輪とメアリにそれを渡す。
ちなみに月夜は学園長から仕入れた情報を耳で聞いているため、大体の内容は把握している。
「これは……!」
「……『ひどいものね』」
「ミソギから聞いた話によると、左近衛が一度授業中に過呼吸に陥っていたこともあったそうな。他者を触れさせようとしないことにさとり姫が過剰になったのもまぁ、わからいでもない」
レジュメの内容に一通り目を通した二人は怒りを抱く。
基本男嫌いとして学園内でも有名な両者ではあるが、弱者をいたぶるという行動などを嫌う、高潔な精神の面が強い。
男女のステレオ染みたジェンダーを押し付けがちという難点が特に目立つものの、それは裏を返せば『正々堂々』を基礎とした武士道や騎士道に傾倒しているという潔さを表してもいる。
そんな二人が祈願の過去――転校理由を含めた彼のうけた行いや、精神科医による鑑定のデータを見たならばどんな反応をするか、想像に難くはない。
「授業の方を頻繁にサボっておるのは、まぁ元々逃げたがるところもあるのじゃろうが、こういったトラウマ症状を抱えているからということも大きいじゃろう」
「それで花酒……自分たちに何を提言する?」
「話が早くて助かるぞい。そうさな……こやつのトラウマを軽減させ、さとり姫の暴走する理由を減らしてやろうでじゃないか」
「それは良い考えです。眠目さんは左近衛さんがまた『他人』によって傷つけられることを恐れました。私たちまで警戒していたのは、左近衛さんにとって私たち全員が『他人』だったからにすぎません。おそらく、我が弟子もその中に含むでしょう。少なくとも警戒する対象を減らせれば、眠目さんは少しなりとも気を張らずに済みますし、私たちが混ざることで『私たちも左近衛さんを守る側です』と彼女に認識させることもでき、暴走する危険性を一つでも減らせられるともみます」
立て板に水を流すがごとくスラスラと述べる月夜に対して少しばかりの冷や汗を流しつつも、蕨はその理解の速さに感謝した。
しかしそこに疑念を投げるものも当然いる。この場合はメアリだった。
「……さとりさんのためにあたくしたちが彼を助ける必要がどこにありましてよ?」
「当然の疑問じゃな亀姫。ここでわらわが二つ目に提言した『これからの天下五剣』につながるのじゃ」
「つまり、花酒さんは『天下五剣という一つの組織としてまとまるために、その一歩として眠目さんと左近衛さんについて一丸となっていこう』ということを言いたいのです」
「月夜姫、わらわのセリフとるとか鬼か……?」
「別に、手柄を取られた分取り返そうなんて考えていません。がっかりです」
しらじらしい月夜の言葉にガックシとうなだれながら、蕨は彼女の解釈に肯定する。
ミソギの協力の元覆面女子を通じて入手した、天下五剣に対しての現在の生徒の反応をまとめたレジュメをまたもや取り出し、二人に渡す。
「それを見ればわかる通り、わらわも含め今代の五剣は好き勝手やりすぎたとおもうての」
「蕨さん、それはワラビンピックを続けたアナタに責任の大半があるのでは……?」
「……ゴホン。まぁ、元々天下五剣自体がぶっちゃけてしまえば暴力機関じゃ。現在の矯正プランも、とりあえず剣で殴って従わせるか逃げ出させるかの二択。その方法や基準も各々五人ごとに大きく異なっておる」
「……確かに、だな。そう言われれば納得もできる」
「ただ、急に手を抜いても舐められるのが現実。なれば、プラン自体は未だ変えぬとして、その方法や基準を五人で共有しようという話じゃ。女帝の件も、女子寮侵入の件も、バラバラにやっていったがゆえの結果じゃとわらわは反省しとる故な」
各々がそれなりの心当たりを回想する。
そして、蕨の言葉に同意するようにうなずく。
「無論、風紀を守る組織として、一致団結し学園を守っていこうという話である故には、わらわも、その後任になるであろう存在にも徹底はさせてゆく。少なくとも、ノムラと貫井川と左近衛と言った男子生徒三人が仲良くやっとるのに、わらわたちが意地張ってガンつけあっては笑い話にしかされぬであろうしなぁ」
「……そうですね、蓮さんは私たちの関係を『友だちと呼んでも不思議ではない』って言っていました。ちゃんと私たちが友達になる……というところには、賛成です」
「あやつそんなこと言っておったのか……あやつらしいのぅ」
『友だち』という点に対し、四者は一同にどこか気恥ずかしさを覚える。
コホンと咳ばらいをし、月夜は神妙な表情で話を切り出した。
「友だちになったら……携帯電話でやり取りをするのがよくあることだって、蓮さんが言ってました。ですから、私たち全員もそうしていく必要があるのではないでしょうか」
「……月夜姫は目が見えんからそのやり取りは難しいじゃろ……」
「ほよ、でしたら蓮さんやエヴァに手伝ってもらいますので、お構いなく。ああそれと、折角なので蓮さんたち三人にも携帯電話を使ってもらいましょう」
「何を言っているのだ因幡。男子の携帯使用は禁止、所持も禁止だ!」
「いや、存外いい案じゃとわらわは思うぞえ?」
輪を諫め、何かをたくらんだ表情になる蕨。
月夜は表情が見えないため、自分の案に蕨が乗ったことに喜び、顔がほころんでしまう。
「よく考えてみよ。さとり姫の件は、左近衛の奴が監禁されていたことなどが表に出なかったということも問題であった。直接接触する相手がさとり姫とミソギに限られておったのだから、いたしかたもなくはないが……携帯電話という形で気軽に連絡をとれるツールがあったなら、もしかすると未然に防げたという線もあり得たのじゃぞ?」
「それはさすがに死ぬほど『こじつけ』がすぎましてよ!?」
「あやつらとわらわたちが連絡先を持ち合っていることで、不法侵入の件は少なくとも解決したやもしれぬのぉ」
「ぐっ……それを言われると……」
「何より、気軽に話ができればよりわらわたち五人が密にやり取りできる故、友だちとしていい経験にもなりそうじゃのぉ?」
この合法ロリ最上級生、実に悪い顔をしながら述べていく。
先入観による失態を突かれた輪は消沈し、友だちというワードに弱い発起人の月夜は首を痛めない範囲でブンブンと縦に振っている。
唯一蕨に飲まれていないのはメアリだけだが、彼女も彼女でそれなりに負い目はあるし、心はせる納村に対してより密に接しやすくなるなどと言われては揺れ動くのは仕方がない。
「で……言い出しっぺの月夜姫、どうかの? わらわは賛成したいと思うのじゃが……」
「ま、待ちなさい! 肝心の携帯電話はどうするおつもりですの!?」
「……月夜姫、学園側でレンタル専用の携帯電話を用意することは可能かえ? 卒業時返却用とかでのぉ」
「できます。いえ、させます。間違いなく、実現できます」
「なぁに、心配なれば機能を制限すればよい。通話機能、メッセージ機能だけでもあれば十分じゃろ? 亀姫が何に懸念を抱いてるかまでは知らぬが……なぁ?」
メアリは敗北を悟った。
ライバルを通り越して相棒のような存在になりつつある輪は、「通話……やり取り……」と若干トリップしてしまっている。
なんて羨ましいことか、自分も早くそうすればよかったと後悔するが、それはそれで敗北を宣言することになるのを彼女は気づいていない。
――とにかく、彼女は屈した。
「よし、なれば月夜姫。まずは貫井川とノムラに携帯の準備じゃ。任せたぞ」
「任されました――私の分も用意してもらってきます」
「ではわらわはさとり姫に説明に行くでの。暗くなる前に寮に戻るのじゃぞー」
ウキウキと上機嫌で出ていく蕨を見送り、メアリはシミュレーションに取り組んだ。
題材は『納村とのメッセージやり取りの一言目をどうするか』である。
結局、輪がいち早く復帰し、彼女を引きずって寮に帰る事になるのだが、それは語られることもないだろう。
――そして、その数日後、祈願の体調が面会可能まで回復したと、ミソギから蕨に連絡が届いた。
天下五剣の実力構図としては、原作での会話等から見るに
月夜>>さとり>蕨≧輪≒メアリ
となっていると考えてもよい。
かといって輪とメアリが本当に弱いかと言うと実はそうでもない。
時の運で輪は蕨から勝利を掴める。
服装次第では相性的にメアリはさとりを下すことも可能。
月夜だけ飛びぬけているのは、同作者前作時代からの継続故に技量が大きく異なっているからかもしれない。
ちなみに前作当時月夜はまだ小学生未満。とんだデザイン英才教育ベイビーである。