双主革新奇聞ディストリズム   作:マッキー&仮面兵

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『君主は、自らの権威を傷つける恐れのある妥協は、絶対にすべきではない』
――ニッコロ・マキャヴェッリ

『さとり始動。走れメロスならぬ駆けよさとり――三巻内容よりお送りします』
――仮面兵


間章:「天通眼」は見逃さない

眠目さとりは激怒した。

必ず、かの傍若無人の納村を除かねばならぬと決意した。

さとりには男の交流とやらがわからぬ。

さとりは、天下五剣である。

男を玩具とし、情報を欲しいがままに得て暮らして来た。

けれども祈願に近寄る存在に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 

――祈願が納村と邂逅したその夜。

さとりは怒りに駆られ、自室にミソギを呼びつけていた。

 

 

「ねぇ~~? なぁ~~んでミソギちゃんがついてるのにぃ~~ノムラちゃんと祈願ちゃんが会っちゃったのぉ~~?」

「ご……めん……なさい……」

「さとりは~~すっごい怒ってるんだよ~~?」

 

 

ミソギは、部屋に入ってすぐさとりの異変に気が付いた。

彼女が自分のことを『ミソギちゃん』と呼ぶのは、祈願と出会う前までだった。

しかし今、彼女はその呼び方で自分を呼んでいる。

それだけではない。さとりは祈願とミソギの前では自身のことを子供のころのように『ボク』と呼称していた。

それが今、ミソギの前でも『さとり』と自身を呼んでいる。

――ミソギは、ただ事ではないということを改めて悟った。

 

 

「さとり困っちゃうなぁ~~? さとりはぁ~~ミソギちゃんがついててくれるっていうから~~祈願ちゃんの散歩を許してあげたんだよ~~?」

「まって……さとりちゃん……! 私も……すぐに去ろうとしたの……!」

 

 

さとりは、納村と祈願の遭遇するその場にいなかった。

故に、どのような事情で納村が祈願に近寄ったかというのを知らない。

納村がただ、夕方に学園内をうろついてただけのところを、同じく何も計画なく散歩していただけの祈願が遭遇していた――という事実を、さとりは見ていなかった。

今のさとりの頭にあるのは、『二度目の邂逅を必ずさせてはならない』と、いう危機感だけ。

その危機感が、祈願と出会う前の彼女を再び表面化させてしまっていた。

 

 

「口答えを~~許した覚えはないよ~~!?」

「がっ……!」

 

 

さとりはミソギの頬を手の甲で強く打った。

ミソギはここ一年で久しぶりに振るわれた暴力に一瞬呆ける。

そんなミソギのことを気にかけず、さとりは彼女の髪をつかみ、自身の顔を近づけた。

 

 

「もう一度聞くよ~~? なんでミソギちゃんがいたのに~~ノムラちゃんは祈願ちゃんに出会っちゃったの~~?」

「ごめ……ごめんなさい……!!」

 

 

ミソギは思い出してしまった。

祈願とさとりが出会い、さとりが祈願の虜になる前に自分が受けてきた痛みの数々を。

 

 

「ごめんなさいだけじゃわからないよ~~?」

「ごめんなさい……! ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 

ミソギは涙声でただ謝罪をひたすら述べる。

その謝罪は誰に向けてのものなのか、彼女にもそれはわからない。

ただただ、さとりに恐怖し、脅え、何に対してでもなくただ許しを請う姿しかそこにはなかった。

 

 

「も~~ミソギちゃ~~ん。そんなに謝られても困っちゃうよ~~」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」

「ほぉ~~らぁ~~さとりをみて~~?」

 

 

さとりはそんなミソギの両頬を両手で、それもかなり強めに破裂音のような音がするように挟み込む。

自身の頬から響く音にミソギはまたもや脅え、声も出せなくなってしまった。

 

 

「さとりは~~ミソギちゃんがだぁ~~い好きだから怒るんだよ~~?」

「うん……そう……そうだね……! さとりちゃん……」

 

 

――二人は過去に立ち返ってしまった。

祈願という存在によって変革した二人は、彼を守るためにという大義名分で元の姿に戻ってしまった。

さとりは指示を出した。

二度と祈願には誰も近づかせまいと。

そのために、徹底的に祈願に近づかせることのできない環境を作ると――

 

 

***

 

 

しかし、彼女の決意は微塵に砕かれた。

なんと、納村は再び祈願に接触してしまったのだ。

それも、今回最も予想だにしなかったポイントは、普段月夜にべったりくっついている貫井川が手を貸したこと。

彼女は困惑した。自分だけではなく、ミソギも部屋から離れた隙を狙って、窓から侵入するとまで考えなかった。

 

 

「なんで~~? なんでなんでなんで~~!? なぁ~~んで祈願ちゃんにみんな近づいてくるの~~!!」

 

 

納村一人じゃ、間違いなく祈願まで会いに来れない。

それを確信してたがゆえに、それを実行するためにわざわざ祈願を学校どころか外にも一歩も出さなかったというのに。

祈願に普段対して興味を持っていなかった貫井川が納村に手を貸してくるだなんて考えられただろうか。

 

――普通は考えられただろう。

普段のさとりやミソギであれば、そこらへんに視点を向けられていた。

しかし今の彼女たちは正常ではなかった。

あまりにも納村を警戒しつづけたせいで、彼女たちは本末転倒に『なぜ納村を排するのか』事態に頭を回せなくなってしまっていた。

だからこそ、『なぜ祈願に近づくのか』ということそのものにも気付けなくなってしまった。

 

 

「わからないよぉ~~! なんでロリコンちゃんが手を出してくるの~~!? 祈願ちゃんはさとりのものなんだよ~~! さとりだけが手を出していいんだよ~~!? 祈願ちゃんを大好きなのはさとりなんだから~~!」

 

 

さとりは『好き』というものに対して歪んだ考えを持っていた。

元々、彼女自身の考え方や行動の全ては彼女の『過去』に由来している。

その本質は『模倣』。彼女は自身が受けた経験から『好き』という物を感じていた。

 

彼女にとって、『さとり』という人物にとっての『好き』は『傷つけること』。

だからこそ、祈願を独占し、人としての尊厳を傷つけることが、彼に対しての『好き』を示す。

他の人に『傷つけさせない』ことが、自分だけ『好き』を伝えられるというアドバンテージだと、彼女は考えてしまっているのだ。

 

 

「こうなったら~~……ノムラちゃんを消すしかないよね~~ミソギちゃ~~ん?」

「っ……うっうん……!」

 

 

――こうなったのも、全部納村不道ってやつの仕業なんだ。

そうさとりは結論付けた。

彼が来てから、すべては歪んでしまったのだと。

彼こそが諸悪の根源だと、さとりは決定づけた。

 

しかし彼女は気づかない。

納村を嫌いだからこそ、『消す』という手段で『傷つける』。

『好き』ではない相手を『傷つける』という論理は、彼女の中で『成立してはいけない』ものだということに。

 

 

「でも~~……またロリコンちゃんに邪魔されたら困っちゃうよね~~? どうしよっか~~?」

「えっと……部屋を施錠して……窓も封鎖しちゃえばいいと思う……」

「それだぁ~~! ミソギちゃんすばらしいよ~~!」

 

 

貫井川の一番問題なところは『空間があれば大体どこからでも入ってくる』というところ。

今回納村を連れてでも窓から入ってきたのだから、入ってこれないように封鎖する以外はない。

それを破るためには実力行使、物理的に窓やドアなどを壊せるような存在でなければならない。

しかし貫井川はさとりの記憶違いでなければ今のところドアや窓を壊すような物理的手段を持ち合わせていない。

 

 

「じゃあ~~ノムラちゃんはどうやって消しちゃおっか~~?」

「彼は……その……外出許可証のハンコを……集めてる……」

「あ~~そういえばそうだったね~~……じゃあ、それ奪っちゃおっか~~?」

 

 

現在外出許可証は鬼瓦輪が証書発行をしている。

発行においては一人一枚と制限をされており、紛失した場合には翌年まで発行ができない。

過去に一度、模範男子生徒が外出許可証を紛失したと偽り、許可証の発行ビジネスを裏で行っていたということがあった。

そこから『第三者の手に渡らないように』と、使用期限を一年とし、再発行は翌年度からという制約が生まれた。

 

納村は今、外出許可証の印を集めることに集中している。

さとりに必ず会いに来るのだろうが、普通に会いに来させても彼を消すことが難しい。

輪、メアリの二名が必ずくっついてくるという確信が彼女にはあったのだ。

故に、さとりは『納村が二人に言い出しづらい』事情を作り出し、『自分に会いに女子寮まで忍び込みに来る』という手段を起こすことにした。

 

 

「もし失敗しても~~……フフフッ……あ~~楽しみだなぁ~~!」

 

 

さとりの敵はあくまでも納村不道一人であって、ほかの五剣は別に今下すものではない。

彼女の頭にはすでに、いかにして納村を『消す』か。もうそのことしか考えが及んでいなかった。

 

 

「それじゃあ~~祈願ちゃんは動かないように部屋に縛り付けておかなきゃね~~!」

「……っ」

「ミソギちゃ~~ん、やるよ~~?」

「……はい……さとり……ちゃん」

 

 

***

 

 

「くあぁ……ねみぃぜ」

「だらしないぞ、男ならばもう少しシャキッと立て!」

「そうは言うけどよぉ……」

 

 

さとりの決意から翌日。

自身の昨日の行動が輪などには発覚していないことに安心しつつ、納村はいつも通り登校していた。

彼は自身が入学してから段々と増え始め、だんだんと距離が近くなっていく女子生徒たちに対して内心焦りつつも表面上は余裕そうに振る舞う。

 

 

「納村くーん! おはよー!」

「おーおはようさん!」

「カッコいいなぁ……」

「おう、聞こえてるぜお嬢さんがた、サンキューなぁ」

 

 

女子の波に押し出されるように、少しずつ離れていく輪とメアリ。

『あの二人ならまぁ問題はねぇか』と若干の信頼を寄せる納村は、軽く後ろの二人に手を振る。

しかし、二人にとって、納村は女子に囲まれているために姿と現状がわからない

――五剣という最強のボディーガードの視界には、彼が映っていないということがどういうことか――

 

 

「――キャッ!」

「おぁ!? すまんな、ケガはないか?」

「あ……ごめんなさい……」

「気にすんなって、ちょっと役得だって思ったくらいだ」

 

 

一人の女子生徒が、女子生徒たちによって築かれた壁のせいで端に寄り損ね、納村に真正面からぶつかってしまった。

彼はぶつかられたことを咎めず、軽口をたたく。

ぶつかられたことは大して気にならない。

ちょっとばかし女子たちの寄りが近かったので、そこから意識をそらしてくれたことはありがたいの一言に尽きる。

 

 

「納村ァ!!」

「――ヤベ、教室過ぎてたじゃねぇか」

 

 

意識をそらしすぎて、教室の位置を間違えてしまったことには反省をしなければ。

少しだけ罪悪感を覚えた納村は、輪の元へと急ぐことにした。

周りの女子生徒たちは、輪の叫び声に反応し、蜘蛛の子を散らすようにいつの間にか去っている。

 

輪の元へ向かう時、先ほどぶつかられた部分などに触れた納村は違和感を感じた。

――なんか入ってやがる。

それはどうやら紙の類。靴箱ではなく、直接ポケットにほおりこむラブレターとは実に赴き深い。

いいお友達になれるかもしれないな。と、しょうもない思考を抱えながら、納村は怒鳴る輪をしり目に紙を取り出し、目を通す。

 

 

「本当に貴様と――おい、納村。何があった?」

「――いや……わるいな鬼瓦……何でもないさ……」

「……そうか、では教室に入れ。HRが始まるからな」

 

 

――時は動き出す。

全ては狂った少女の願いから。

その標的は、一人の反抗心豊かな少年。

少年への招待状は届かせられた。

少年は招待状を把握した。

 

では始めよう。

これが本当の、崩壊の始まり――




さとりは原作で『最もマキャヴェリズムを体現している』と評されているが、実はこの表し方は少々間違っている。

原作タイトルでもあるマキャヴェリズム。
これは考え方そのものを表すのであり、思想行為者ともいえる作品人物たちは総じて『マキャベリスト』や『マキャヴェリアン』と表すのが正しい。
つまり天羽さんは、『眠目さとり。お前は名誉マキャヴェリアンだ』と言った方が良い。

ちなみにマキャヴェッリの思想は『マキャヴェッリ的知性仮説』等、生物学にも利用されている。


次回
第四節
8/3、21:00より順次公開
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