【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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The Knight of Despair_4

おかしい。

タブレットのメッセージを何度も更新するのに、一向に次の作業指示が来ない。

おかしい。

なんどもメッセージを開いて閉じてをする。でもやはり来ない。

 

「……んー?」

 

試しにぶんぶん振ってみても何も起きない。

いや、これで何か起こるとかは思ってないけど。調子の悪いテレビを叩くように、何となくやってみただけだ。

チーム本部での待機があまりにも暇でそんなことをしてしまう。ずっとタブレットと睨めっこ。

どうして急にメッセージが来なくなったのだろう?

待機している私の横をエージェントさんが忙しそうに通り過ぎていく。

まるで私が仕事していないみたいで気まずい。自分のせいでないと分かってても、肩を竦めた。

 

「あ、」

 

その時、ピロンっと通知音。

待ってましたと意気込むが、なんだか文面がいつもと違って凝視する。

 

〝静かなオーケストラの収容室へ移動〟

 

移動?作業ではなく?

どういうことだろう?

 

疑問に思いながらも慣れた道を移動する。追加の指示はなく、あっという間に収容室の前。

扉を目の前に立ち尽くす。これ、中に入ってもいいんだろうか?

扉を開けようと液晶に指を添えた時。

 

ばちんっ!

 

「痛っ!?」

 

強い電流が手に走った。

静電気?にしては強すぎる気がするが……。

恐る恐るもう一度指を近づける。するとなんだかビリビリとした感覚が指の先にある。

液晶に触れない。

 

「Xさんがなにかしてるのかな……、」

 

なんの考えがあって?そんなにオーケストラさんの収容室に入って欲しくないのだろうか。

ここまで拒否されると、少し落ち込むのだが……。

中にも入れず、指示を待ってただ立ちつくす。その間に時間つぶしも兼ねてエンサイクロペディアを開いた。

 

「絶望の……騎士、っと。あった、」

 

 

【絶望の騎士】

 

【彼女はかつて、王国と人々を護る騎士であった。】

【絶望の騎士は時々無力な涙を流すが〈 Name 〉に何も言わない。】

【黒い涙が唯一の感情となった絶望のアブノーマリティ。】

 

黒い涙か、唯一。

悲しみだけが、唯一の感情ということだろうか。

それは……とっても、悲しいことだと思う。

彼女に、エミという名前を付けたのは少し軽率だったかもしれない。人それぞれ色んな事情があるのに、笑って欲しいからエミ、だなんて……。

 

「……皮肉だったかな、」

 

そうぼやいて、タブレットの指を動かす。

やはりまだ来たばかりのアブノーマリティだから、情報は少ない。

ぴろん。と、そこで通知音が。

新たな指示を期待して開いてみる。そこには〝今日はもう帰っていい〟の文字。

 

え?リストラ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

護りたいものがあった。

だからあなたにいくつもの祝福を与えた。

悪いモノから遠ざけて。

どんな魔法にも、武器にも、傷つかないように。

 

〝みんなと貴方を護るためよ。〟

 

それなのにどうして、貴方の手は。

皆の血で、真っ赤に染っているのだろう。

私は、何を護ろうとしていたんだろう。

 

正義のために戦った。

でも振り返った時、そこにあったはずの正義が悪だったかもしれないなんて。悲劇であっても喜劇であっても。

とんだ、道化ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リストラの冗談は置いておいて。

早退していいと言うのなら、遠慮なくそうさせてもらおう。

時計を見るとまだお昼。ここまで早く帰れたのは久々で、残りの一日何をしようかと想像する。

映画でも見ようか、それともちょっといいカフェでお茶でもしてから帰ろうか。

鼻歌を歌いそうな位には浮かれていて。

だから目の前に、急に彼女が現れた瞬間、なんとも可愛くない声を出したのだった。

 

「ぎゃっ、」

「ユリ!」

 

かばっ、と。勢いよく抱きつかれる。

綺麗なブルーが私の視界に入って、キラキラと波をうつ。

ふわっと漂う女の子のいい香り。私はなんとか息を整えて、彼女に話しかけた。

 

「ア、アイ……どうしたの?」

「どうしたの、はこっちよ!!急にユリの気配が薄まって、だから急いで、気配を失う前にテレポートしてきたの!!」

「え、えぇ……?」

 

アイは本当に焦っていたようで、冷たい汗が頬に流れている。

最初私の首に汗が落ちてきた時、その冷たさに泣いているのかと思って私の方が焦った。

なんとか落ち着いてもらうために、細く滑らかな背中を撫でる。軽くぽんぽんと叩いてあげると、アイはほっと息をついた。

 

「なにがあったの?」

「別に何も無いよ、心配かけちゃってごめんね。」

「そんなはず……、ん?」

 

アイはじっと私を見つめる。大きな瞳に映るのが恥ずかしくも感じて、目を逸らした。

 

「……懐かしい、匂いがする。」

「匂い?」

「あの子に会ったの?ええと……名前、なんて言ったかしら……青い髪の……剣の使い手の……、」

「……あ!エミのことか!会ったよ!」

「エミ?」

「あ、エミは……私が勝手につけた名前で。ええと……、青いロングドレスの、魔女に会ったの。アイのこと知ってたみたいだし、懐かしいってその子のことじゃあないかな?」

 

エミに初めあった時は一定の距離があったが、今日の作業では触れる距離だった。

だから、敏感なアイなら気がつくだろう。

エミもアイのことを話していたし。

一人ではない魔法少女の存在に、なんだかワクワクしてしまう。

やはりこの後の空いた時間は映画を見ようか。出来ればヒーローものを。そんな気分になってきた。

 

「彼女は、元気だったかしら?」

「うん、元気だったよ。あ……でも。なんだか、何かに対して悲しんでたかな……。」

「悲しんでた?」

「うん。よく分からないんだけど……。」

 

私はアイに、エミが言っていたことを話す。

〝所詮は道具〟と言っていたこと。

〝魔女であることを悲しんでいた〟ように見えたこと。

私には理解できなかったけど、同じ魔女であるアイなら何か分かるかもしれないと思ったから、できるだけ細かく話した。

 

「何か心当たりないかな?私には、よく……分からなかったんだけど。」

「……危ないかもしれないわね……。」

「危ない?何が?」

「魔力の暴走が起こるかもしれないわ。」

「魔力の……暴走?」

「そう。前に私の先輩の魔女が……、ううん、怖がらせる話はしたくないわ。とにかく、その子にはできるだけ近付かないで。」

「え……、それは、」

 

できない、って言ったらまた不安にさせちゃうだろうか。

指示をされたらいかないといけないし。絶対に近付かないなんてこと出来ないんだよなぁ……。

 

「気をつけるね、ありがとう。」

 

私がそう言うと、アイはまだ心配そうな顔をして見つめてくる。

アイは私に手を伸ばしてきて、頬を撫でてきた。

 

「心配よ。……こんな魔法までかけられちゃって。」

「え?魔法?」

 

見覚えがなくて聞き返すと、アイははぁ、とため息をついた。

 

「私のヒロインは、無防備で本当に困るわ。」

 

そう言って、私の目の前で親指と人差し指をクロスさせる。

ぐっと力を込めて。指を鳴らした。──ぱちんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……X。エージェントユリへの作業指示が可能になりました。」

「うそ!?あ……本当だ、はー……よかった。」

 

モニターの前でぐったりとXは項垂れた。

先程まで巡り巡った不安や恐怖が一気に引いていく。

 

「……あー……早退させなくても良かったな、まぁいいか……。」

 

モニターのユリをみてXはそう呟いた。

Xがユリを早退させたの理由があって。なんと先程まで、ユリへの作業指示が一切出来なかったのだ。

移動の指示はできるが、作業をするように指示するとエラーが起こる。

アンジェラに聞いてもシステムに異常はないと。

一体どうなっていたのかと、がしがし頭を掻いてため息をついた。

 

「……まさか、な。」

 

Xはある収容室に注目する。

異常が起こったのは、このアブノーマリティを作業した後だ。

しかしだからと言ってXはこのアブノーマリティのせいだと考えていない。

確かにユリに何かをしたことで、ユリの行動に影響はあるかもしれない。

アブノーマリティのせいで言うことを聞かないエージェントなんて何度も見てきた。

 

しかしこの施設のシステムにまで影響が出るだろうか?

 

そんなことが、アブノーマリティにできるのか?

だとしたら?だとしたら。

 

アブノーマリティは、Xの存在に気がついていることになる。

エージェントを動かしている、指示をしている存在がいることに。監視されていることに。

Xは思わずモニターから目を逸らす。

いくつもの収容室の映像。その中のアブノーマリティ達が、一斉にこっちを向いたような。

そんな、気がして。堪らなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









なんどもなんどもコメント返す詐欺すみません。
以下、暗い話を含む言い訳です。読まなくても大丈夫です!!
これからも頑張るので見捨てないでください〜‪( ;ᯅ; )‬










暗い話↓


あまり自分の暗いことは書かないようにしてたのですが、一時期この小説は、もう消してしまった方がいいのかなと思う時期がありました。
色んな理由があるんですけど、ひとつ言えるのは皆さんのせいでは一切ないことです。

新作が出たことによって実はだいぶ混乱もしてました。
ついて行こうとして調べたり、書いたりしてたのだけど。やっぱり難しいですね( ̄▽ ̄;)
多分、元々ライブラリよりも、ロボトミーのが趣味に合ってるんです。ライブラリ素敵だけど、私はロボトミーが一番好きです。ごめんなさい。
レガシーを元に書いてたから、更新後も矛盾が出ないように書くのも頑張ってたつもりなんです。

そしてまた情報が更にきて、と。しかも絶望ちゃんはドンピシャで被ってあわあわしてました。

初めハーメルンで、まだロボトミー小説がなかった頃より随分作品が増えて本当に嬉しいと思ってて。
それと同時に、こんな未熟な作品を並べるのも恥ずかしい時があって。
もう全部消しちゃって。
どこか個人サイトに再掲載とかしながら直していった方がいいかなぁ、と思ってました。
でもそれやったら絶対もう書かなくなるってわかってたから踏みとどまりました。危ない。

言い訳ですみません。皆さんのコメント、返すの辛い時あったのが本音です。
それは、返す負担とかじゃなくて私が考えすぎてただけです。
こんなに嬉しい言葉をくれてるのに、この人たちが離れてくのが怖いって、すごい重いこと考えてました。メンヘラか。


でもちょっと元気になりました!おめでとうううう!コロナで落ち込んでたのもありました復活!!!!
どんなに未熟でも下手でもここまで続いたんだし、書いて楽しいし、お寿司は美味しいし頑張ろうって思いました!!

暗い話はしないようにしてたんですけど、ここまでコメント返す返す詐欺してたらちゃんと理由言わないとと思って書きました。うじうじしててすみません。
あ、でも普通に忙しくて返してない時ももちろんありました。
最近のは、その……この作品からも目を逸らしてました。現実から逃げてたんです。
もう大丈夫なはずです。すげぇ大型なアプデ来て全てが揺らがない限り大丈夫です。メンタル弱くてごめんなさい!!!!!!!



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