【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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※思いっきりヤンデレ注意。








The Knight of Despair_5

次の日。私はリストラされることも無く無事に出社していた。

冗談は置いておいて。昨日の早退はなんの意味があったのだろう?

特に体にも心にも、影響があったとは思えないのだが……。

まぁそこは私が考える部分ではない。私はただ、指示されたことを精一杯やるだけだ。

さて。今日の最初の作業はオーケストラさん。

昨日は会えなかったので、少し心配していたのだが、彼はいつも通り収容室で静かに待っていてくれた。

 

「おはようございます。昨日は来れなくてすみません。目の前までは来てたんですけど……急に帰ることになって。」

 

──そうですよね、目の前まで来ていたことは分かっていましたよ。

 

「えっ、そうだったんですか?」

 

──はい。随分奇妙な魔法にかけられていたようですが……、

──効力も持って一日でしょうし、外に出るのはやめました。

 

「魔法……、私、なにか魔法にかかってたんですか?全然私わからなくて。」

 

──悪意はないようでしたけどね、外部接触の影響を

減少させる魔法。簡単に言えば防御魔法でした。

 

「防御魔法。」

 

それは何ともありがたい魔法だ。この危険で溢れている現場にはとても役に立つだろう。

……でも、私じゃない方が良かったような気もする。

それこそユージーンさんとか、ダニーさんとか。私は鎮圧作業とかまだほとんど行っていないし。もっと必要な人はいくらでもいるのに。

 

──…いや、防御よりも過激なものですね、上級の拒絶を含む魔法でしたから。

 

「拒絶?何か違うんですか?」

 

──他者のテリトリーに入らないようにする魔法ですね。目の前まで来たのに、入れなかったでしょう?

 

確かに。オーケストラさんの部屋の扉は開けられなかった。

 

──ユリさんの身体が拒絶していたんです。私のテリトリー、この部屋に入ることを。

 

「そんな……!」

 

──もちろん貴女のせいではありませんよ。会えないのは、寂しかったですけど。

 

オーケストラさんはどこか寂しげに、少し暗い声でそう言った。

多分……エミ、だよね。かけたの。

あの日はそれ以外はアイとしか会ってないし。

 

「心当たりはあるから……、本人に聞いてみます。なんでそんな魔法をかけたのか。」

 

──……あまり関わることはおすすめしませんよ。

──今は危害はなくとも、力がある相手なら、警戒するに越したことはありません。

 

「でも。私もそういうのは、困ります。」

 

アブノーマリティの収容室に入れないのは仕事に影響がでる。

なにより……みんなに会えないのは私も嫌だ。

 

──私が直接行きましょうか?

 

「いえ、それは大丈夫です。何かあったら助けてもらうと思うけど……。」

 

──ですよね、貴女なら断ると思いましたよ。少し頑張りすぎるところがありますから。

 

オーケストラさんの言葉に苦笑いする。

無茶をする所があるのは自負しているが、そんな綺麗な話ではなく。

単純にオーケストラさんが外に出たら、皆がパニックになってしまうから遠慮して欲しいのだ。

けれどそれをあえて言う必要も無いだろう。

 

「今日はこれで失礼しますね、また来ます。」

 

──あぁ、待ってください。

 

「?」

 

部屋から出ようと踵を返したところで、オーケストラさんに呼び止められた。

そして私の手の甲を支えて、開いた手の上にそっと何かを置かれた。

 

「これ……、」

 

──お守りです。

──危険なことがあったら使ってください。

 

……これって、ギフトってやつだ!

実は色んな人から言われていた。『静かなオーケストラのギフトはもらってないの?』と。

聞かれる度に、苦笑いして首を降っていた。貰ってないのは事実だけれど、首を振る度に辛かった。

アブノーマリティが気に入ったエージェントに渡すギフト。

私以外の人は、オーケストラさんのギフトを貰っているのかと思うと……何だか、悲しくて、悔しくて……。

 

「凄く嬉しい……!大事にします!」

 

鞄に大切にしまう。傷つかない様に。

なんだか、今日のこの出来事だけで頑張れそうだ。

私が「いつも元気を貰ってばかりですね、」というと、オーケストラさんは穏やかな笑い声を出した。

とても優しい。オーケストラさんの声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからそう、次こそは。

次こそは、ちゃんと。

間違えないようにすると決めたのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミへの作業指示がきた時、私は待ってましたと急いで収容室に向かった。

エミが私にどうして魔法をかけたのか知りたかった。何を考えているのかも。

もし彼女が私達に協力的なら、その魔法をユージーンさんとかダニーさんに使ってくれるかもしれない。

アイだって、私達を助けに来てくれた。同じ魔法少女の彼女なら。

 

「エミ!!」

「あら……こんにちは、ユリ。来てくれたのね。嬉しいわ。」

 

勢いよく部屋に入る私とは対照的に、何とも雅やかな佇まいだ。

一瞬エミの姿に見惚れるが、直ぐに本題を思い出す。

しかしどう聞けばいいのか迷っていると、エミの方から話しだした。

 

「魔法……解かれてしまったわね。今度はもっとちゃんとかけないと、」

「あ、あの!魔法って……なにか、私にかけたの?」

 

まさかエミの方から言ってくれるとは思わなくて、私は食い気味に魔法のことを聞いた。

するとエミはちょっとだけ笑って、自身の唇に指を立てる、まるで内緒話だ。

 

「特別な魔法をかけたの。この魔法はね、本当に、とっておきなのよ。」

「それは……どんな、魔法なの?」

 

私がそう聞くと、彼女は私の胸をトン、とつつく。

 

「あなたの心も、心臓も守る魔法。」

「心も……心臓も……、」

「そう。すごく久しぶりにかけたけど……上手くいったみたいでよかったわ。」

「前も……使ってたの?」

「ええ。どうしても護りたい人がいてね。その人が、どんな辛い現状にも心が病まないように。どんな攻撃からでも護れるように。」

「そうなんだ……」

 

「でも、裏切られたの。」

 

「……え?」

 

急に変わった声のトーンに驚いてしまった。

エミの眉間にはシワがよっていて、その気迫に私は押されてしまう。

 

「前に言ったでしょう。魔女なんていいもんじゃあないって。……結局彼は私を道具としか見てなかったの。」

「なにが……あったの?」

「私の力で護られた彼は……、自分の意にそぐわない人を殺していった。私は平和のために戦いたかったけど、結局大切に守っていたものは平和でも正義でもなかった。」

 

ねぇ、とエミの口が動く。

 

「ユリは、私を道具なんて思わないわよね?」

「エミ……、」

「だって貴方は、私を素敵って言ったもの。大好きって。ねぇ、」

 

強く、腕を掴まれた。

あまりにも強い力。痛みに顔を歪める。

けれど、振り払ってはいけないような気がした。今はこの手を、絶対に振り払ってはいけないと。

 

「道具なんて思わないよ、でも……。」

 

でも……。

 

「私は弱いから、何も返せないかもしれない。」

 

自分で言ってて、酷く情けない気持ちになる。

オーケストラさんにも、アイにも。私は何も返せない。ただ一方的に、力を貸してもらってるだけだ。

もしそれを、道具と言われたら。

そんな事ないと否定しても、説得力はないだろう。

 

「エミ、……私は、弱いから、強い貴方たちの気持ちは分からないけど。でも。」

 

私は家族の姿を思い浮かべる。いつも前を歩いていた皆。私は後ろに隠れるようについて行って。

 

「弱いからこその、悩みも考えもあるの。……きっと、それは話し合うべきだったんだと思う。」

「話し合う?……何を?あの人は私を裏切ったのよ?」

「それは酷い事だし、最低な事だと思う。許さなくても、いいと思う。でも……。」

 

あぁ、言葉が上手く出てこない。

私は、何を言ってるんだろう。

エミは、私の家族ではない。父ではない。母ではない。兄でも姉でもない。

こんな言葉、エミに向けるものでは無いのに。

 

「……苦しまないで、ほしいの。相手の人にも、事情があったかもしれない。理由があったかもしれない。きっと、汚い感情だけで、エミに接していたわけじゃないと思う。」

 

お姉ちゃん。嫌いなんて言ってごめんなさい。

でも私にも理由があったの。

お兄ちゃん。本当は隣に立ちたかったの。

でもそんなこと言えなかった。

 

お兄ちゃん。お姉ちゃん。

私ね、二人とは違って弱くて。だからずっと二人を羨ましく、妬ましく思ってた。

でも、ちゃんと、ちゃんと好きだったよ。

 

「恨むななんて言わないけど、でも……。」

 

信じて欲しい。最後の言葉が全てではないの。

妬みが、羨みが全てではないの。

 

「……ごめんね、偽善だよね。こんなの。貴女には貴女の事情があるのに。今日は、もう出るね。」

 

余計なことばかりを言っている自覚はあった。

私はこの場から逃げたくて、早い動きでドアに手をかける。

がたん。と、鈍い音。

 

「え……?」

 

開かない、?

 

「私ね、思ったの。彼が裏切ったのは、誰かにそそのかされたのかもしれないって。」

「え、?」

「あなたの言うとおりね。きっと何か事情があった。その事情から、私は彼を護れなくて……彼は、変わってしまったの。」

 

後ろから、綺麗な声がする。

私は振り返れない。

ぶわっと、冷や汗が吹き出した。乱暴にドアを開けようとするが、少し揺れるだけで少しの隙間もできない。

 

「ずっと思ってたの。あの時……私が護ってれば。そうすれば。」

 

「あの人は私を裏切るなんてしなかった。」

 

「大丈夫。……今度は間違えない。大切なものはしまっておかないといけなかったの。」

「……っ!誰か!!誰か!!」

 

大きく叫ぶ。助けを!助けを呼ばないといけない!!

 

「私が、護ってあげる。ユリ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆さんの暖かい言葉で本当に泣く私。
そのため早めに投稿出来ました。本当にありがとうございます。

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