【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
※ヤンデレしかいませんすみません
後ろからの優しすぎる声に、私は背筋が寒くなった。
必死にドアを叩くけれど、ビクともしない。
「私達の邪魔をするものは私が切り捨ててあげる。」
「え……それ、どういう、」
エミの言葉に振り返る。
彼女は美しくそこに佇んでいた。相変わらず人形のような、作り物のように美しい彼女。
美しい笑みを浮かべる彼女が、逆に私の恐怖を煽っていく。
震える声で尋ねた。「何をするつもりなの、」するとエミは形のいい唇から小鳥のような声を出してこう言った。
「魔法を解いたのは、あの人でしょう。」
「え……、」
あと人。
思い浮かんだのは、可愛く笑うアイの姿だ。
表情豊かに笑う彼女を思い出す。その姿と、目の前のエミが交互に頭によぎる。
強く、強く心臓が脈打つ。暑くもないのに汗が流れる。それが頬を伝って、落ちて、襟から服に入る。冷たい。
「アイ、に、何をするつもりなの。」
絞り出したのはそんな情けない声。
エミはクスクスと笑うと、顎に手を当てて考える素振りをする。
「何をしようかしら?」
「ふざけないでっ!アイに、アイに酷いことしないでよ……!?」
「どうして?」
「どうしてって……な、仲間なんでしょ!?なんでそんな、酷いことしようとするのっ!」
「だって……裏切ったのはあの人の方だわ。」
「え……。」
「私とあなたの邪魔をするなんて、酷いと思わない?」
「それは……っ、アイは私のためにしてくれたことで、」
必死に言い返すも、会話に出口が見えない。
それはエミも気がついていたようで、彼女は些か面倒くさそうに首を振る。
「大丈夫よ、あなたもそのうち分かるわ。私が正しいって。」
そうして、音も立てずに消えてしまった。
取り残された私はただ立ち尽くす。タブレットが振動する。遠くで、警報がなっているような気もする。
しかし収容室内には外の音も、衝撃も。何が怒ってるのか分からない。
遮断されている。私を阻む扉を呆然と見ていると、頭の中で声が聞こえた。幼い私の声。『情けない』。
ずっと思っていた。後悔していた。
外の世界など知らなければ……私が守っていれば。
貴方は、私を裏切らなかったのだろう。
私の可愛い王様。
今度は間違えない。
憎しみの女王は、いつもどおりに部屋の静けさを満喫していただけだった。
そうして、可愛いあの子のことを考えては鼻歌を歌う。今日はいつ来てくれるのだろう、どんなお話をしよう。いくつも考えては笑顔が咲く。
こんなにも大切なものが出来ることを、彼女は知らなかった。
彼女にとって大切なのはいつだって自分の〝正義〟で。
他者を守ることが正義であると考えてはいたが。
今の彼女にとって、ユリという存在は正義そのものであった。
例えば……、ユリが誰かを傷付けたとしても。
それは、傷つけられた側が悪いのだ。
ユリが世界を支配したいというのなら。
彼女が上に立つ世界こそが正しい形なのだろうと、憎しみの女王は、一切くもりない瞳で答えるだろう。
二人の世界になればいいのに。と、何度も考えている。
けれどそれはきっと、ユリが悲しむのだ。彼女は外の世界の話をキラキラした瞳で話すから。
時折それを悲しく感じるけど、そのキラキラの中に自身の姿が映っていて。
その笑顔を向けられるだけで、そんなのはどうでもいい事だと思えてくる。
ユリが笑顔であれる世界が正しいと、憎しみの女王は考えている。
そうして、その世界があるのは自分のおかげであるべきだとも考えている。
ユリの笑顔を見てると、とてつもなく泣かせてしまいたい衝動に駆られることがある。
憎しみの女王は、ダメダメ、とその度に首を振り、考えを打ち消すけど。
ユリが好きだと笑う世界を。その瞳のキラキラを。
ぐちゃぐちゃに壊して、バラバラにして。
貴女が泣きじゃくって。悲鳴をあげて、助けてと叫んでも誰も来なくて。
絶望に、死を覚悟した時。
助けてあげたいと思う。
自分に縋るユリを想像するだけで、憎しみの女王は意味もわからず股を濡らした。
子宮がキュンと疼いて、どうしようも無い感情が込み上げてくる。
アイ、と。自分に泣きつく彼女の可愛さは想像するよりずっと可愛らしいのだろう。
もしも、『あなたしかいない』なんて言われたら。
正気を保てる気がしなかった。
「……、ふふ、だめね、楽しくて夢ばかり見ちゃうわ。」
浮かれた頭にクスクスと笑い、部屋の隅に立てかけた杖を手に持つ。
可愛いピンク色と、パステルイエローの杖。上機嫌にくるっと一振。
杖は光を放って、部屋を包み込む。慣れた眩しさに目を瞑る。
光は段々と落ち着き、やがて収まるが。
そこにもう憎しみの女王の姿はなかった。
そうなることを、憎しみの女王は予想していたのかもしれない。
ユリにかけられた魔法を解いた時から。
憎しみの女王は、かつての自身を思い出した。
彼女には仲間がいた。みな同じ、平和を願った仲間だった。
結局みんな、闇に呑まれてしまったけれど。
魔法少女として戦う彼女たちにも、彼女達の地獄があったのだ。
その地獄に絶望し、打ちひしがれた時、彼女たちは魔法に呑まれてしまう。
けれど憎しみのは思うのだ。ほんの少しでも希望があったのなら。
あんな地獄には落ちなかったのかもしれない。
「馬鹿ね……、ずっと間違ってたの。護るべきはあなただけだったのにね。」
ねぇ、ユリ。と。そんなことを呟く。
彼女は至って冷静に、場所を移動した。
ふわりと浮かんだからだが地に着く。コツン、と魔法の靴が音を立てる。
顔を上げる。ふんわりと揺れるブルーの髪。ユリが綺麗だと触れる、自慢の髪。
目の前の、標的を捉える。大きな瞳で。琥珀の宝石とユリが褒め称える瞳で。
「私はね……、悪が有るから、この場所に来たのだと思ってた。でもね、違うのよ。ユリに会うためにここに来たの。」
その時、1つの衝撃波が憎しみの女王に向かって飛んできた。
それをひょいっと横に避けて、くすくすと笑う。
「相変わらず物騒なもの持ってるのね。」
憎しみの女王の言葉に、目の前の彼女は苛立ちを覚えた。
しかし表情は崩さない。ただ静かに、憎しみの女王に向かう。
そう、彼女は──絶望の騎士だ。
「貴女を倒しに来ました。」
絶望の騎士の手には一振の美しい剣。
細長く、スラッと刃を伸ばすレイピアは、彼女の愛用の武器だった。
騎士に似つかわしい、真っ直ぐとした剣。
騎士である彼女は、反則などという卑劣極まりない行為は決して許さない。
かと言って彼女が優しい戦闘をするかと聞かれれば決してそんなことなく。
彼女の正義が込められた攻撃は、相手の心もを突き刺す。慈悲もない。
「彼女は……ユリは、私の正義です。」
「……あはは!」
絶望の騎士の言葉に、憎しみの女王は声を上げて笑う。おかしくてたまらない。
「……その夢見の頭は、一度身体を焼かないとわからないかしら?」
「覚悟は出来てます。……貴女を殺す、覚悟は!」
「いいわ。来なさい、小娘。惨めに返り討ちにしてあげる!」
かつて憎しみの女王は、絶望の騎士の前を歩く人であった。
絶望の騎士は覚えている。照れくさく思いながら、先輩と彼女を呼んでいた日々。
目の前の壁はとても高い。けれど超えなければいけない。だってあの子が部屋で待っている。綺麗な瞳で待っている。
その瞳を汚す貴女を、私は絶対に殺さなければならない。
【原作を知っている方へ】
絶望の騎士の戦い方に違和感を持つかと思います。
原作の戦い方と違うのは、あくまでも原作は暴走した時の状態であると作者が考えたからです。
通常時の戦い方ですが、EGOの性能を高くしたものと考えています。憎しみの女王がそうであると私が考えているからです。
違和感があるかもしれませんが、ご了承いただければと思います。よき人外ライフを!この場合百合ライフだろうか。