海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Big Bird_5

暗闇の中、大鳥の隣を歩く。ゆっくりしたその足取りに速度を合わせて歩いていく。

 

「君達はいったいどこから来たのかなぁ。」

 

何となく大鳥に聞いてみた。もちろん返事を返されても私にはわからないわけだけど。

 

「私はね、日本っていう海の向こうの島国から来たんだよ。」

 

静かな中、私は一方的に大鳥に話しかけ続ける。

それは独り言と同じだけれど、大鳥は聞いてくれていることを感じながら言葉を続けた。

 

「家族と離れて、一人になって。ちょっと心細いけど、何とかなるもんだね。」

 

でも、と言葉は続いた。思っていてもずっと口にしなかった言葉がこぼれ落ちる。

 

「……やっぱり、寂しい。」

 

ピタリと大鳥の動きが止まった。収容室にたどり着いたのかと思うけれど、扉らしきものはなくそうではないらしい。

黄色の目が私を見つめてくる。鳴き声すらなく静かに。

どうしたのだろうと首を傾げるけれど、反応は何も無い。暫く私も大鳥見つめた。

なんだかその目は哀しそうだった。だからだろうか。何も言われてないのに、私の口は自然と動いたのだ。

 

「……帰らないよ。」

 

帰りたくても、帰れないから。その言葉は飲み込んだ。

私の言葉に大鳥は喜んだように見えた。そしてまたゆっくりと歩き出す。

もう私は帰れない。生まれ育ったあの場所には、私を殺そうと待ち構えてる者がいるから。もう二度と、帰れないのだ。

だからここで生きていくしかない。

ぎぃぎぃと大鳥が鳴く。楽しそうに、幸せそうに。

私はもう1度その大きな身体を撫でる。やはり触り心地は最悪だった。

 

 

 

※※※

 

 

 

「不思議ですね……。」

 

管理人室でアンジェラはその優秀な人工知能を悩ませていた。彼女の視線の先にはモニターの中、暗闇の中を歩くユリがあった。

 

「おい、アンジェラ。」

 

アンジェラの思考を妨げたのは彼女のパートナーであるXであった。彼はアンジェラをきつく睨んでいて、怒っているのが感じられる。

それを見てアンジェラは表情を変えずに、内心で舌打ちをした。面倒くさいと。

 

「何でしょう、X。」

「黒井さんに鎮圧作業の指示を送ったの、お前だろ。ご丁寧に作業ロックかけやがって……。」

「私は最善の対応をしたまでですが?」

「なにが最善だ。本来エージェントの鎮圧作業はある程度武術の研修を受けさせてから実施するものだ。黒井さんはまだなんの研修も説明もしてないんだぞ!?」

 

アンジェラは心底思った。本当にこのパートナーは面倒くさいと。所詮駒の一つであり、道具でしか無いくせに一人前に正義感だけはあるのだ。

そう思いながら口に出さないアンジェラは、自分の事を本当に有能なAIだと思った。

 

「……勝手に行動したことは謝罪します。けれど見てください。大鳥が脱走したというのに、今回は誰一人死人が出ていません。」

 

アンジェラがそう言うと、Xは言葉を詰まらせた。

その隙をアンジェラは見逃さず、すぐさま話題を変える。

 

「それより、おかしいと思いませんか?」

「おかしい?」

「ユリさんです。大鳥は攻撃対象を魅了し、行動を制限して、対象を無力状態にして攻撃します。今回ユリさんはその魅了の対象であるにもかかわらず、意識が正常でした。」

「……精神が強いエージェントも稀にいるだろ。」

「それだけではありません。このモニターで監視していた所、ユリさんは確かに一度は大鳥の魅了にかかっていました。けれどそれは途中で完全に解けています。」

「確かに……。」

「静かなオーケストラが脱走した時も、ユリさんは〝何が起きても恐怖しない〟オーケストラの魅了にかかっていたように思われます。本人もそう言っていましたし。つまり、魅了にかからないわけではないけれど、何かの理由でそれが解けるのだと考えられます。」

 

アンジェラの頭を悩ませていたのはそれであった。

その理由がわかればユリはより使い勝手のいいエージェントになると考えていたのだ。

その為には検証をしなければいけない。けれどどうやって。

 

「……あぁ、そうだ、忘れてました。」

 

アンジェラは珍しく楽しそうに笑った。悪戯を思いついた子供のように、無邪気に。

Xはその笑顔に嫌な予感を感じる。そしてそれは直ぐに現実となった。

Xのパソコンの管理画面が勝手に動き出す。それは恐らくアンジェラの仕業であり、彼女はあろう事かユリに対してとんでもない作業指示を送ったのであった。

 

「丁度いいのがあるじゃないですか。女性エージェントのみ強い魅了をし、対象に憑依することでその身体を借りて攻撃をするアブノーマリティが。」

 

 

 

※※※

 

 

 

収容室について、大鳥に別れを告げる。

大きな体に似合わない扉の小ささに戸惑ったが、一瞬大鳥の姿が消えて収容室内に瞬間移動した時はもっと戸惑った。なんでもありか。

収容室内にはいると、ようやく明るいところでその姿を見ることが出来た。停電は大鳥の仕業らしいが、収容室内はその効果は出ないらしい。

明るいところでみるとやはり大きい。鳥という名前なのに、羽らしきものは見当たらず、代わりに二本足と一緒に手があるようだった。

目が沢山ついている真っ黒な毛玉のようにしか見えない。

 

「羽の代わりに手があるなんて、珍しいね。」

 

そう言うと大鳥はぎぃ、と鳴く。返事のようだけれどなんて言ってるのかはわからない。

バイバイ、と言うとその大きな身体を擦り付けてきた。

なんだか可愛くて、持ったカンテラを床に置きそっと抱きしめる。と言っても大きすぎて腕が回りきらないけど。

触り心地は最悪だけど、温かくて心地よい。

撫でると気持ちよさそうにぎぃぎぃと鳴く。その声は次第に小さくなっていて、ずっと開かれていた黄色い目はゆっくりと閉じられていって。

気が付くと大鳥は、眠ったようだった。

起こさないように静かに離れる。

借りていたカンテラが眠りの邪魔にならないように、部屋の隅に避ける。よく見るとカンテラの芯も特殊で、黒くフワフワした物が燃えているようだった。何なのかはわからないけど。

 

「おやすみなさい。」

 

小さく挨拶をして、収容室を後にする。どうかいい夢が見れますように、なんて思いながら。

 

 

 

作業は終わったので、とりあえず元の部屋に戻ろうとしているとタブレットから通知音がした。

画面を見ると新たな指示が表示されている。

 

〝対象:赤い靴(O-04-08-H) 作業内容:清掃〟

 

赤い靴って、名前からしたらただの物のようだけど、この研究所でそんなことがあるはずないだろう。

インカムの調子は相変わらず悪いようで、ダニーさんの声は聞こえない。

 

『引き続き私がサポートします。タブレットの案内に従って、収容室に向かってください。』

 

アンジェラさんのその言葉に少し安心する。どんなアブノーマリティなのか緊張しながら、私は廊下を歩き始めた。

 

 

 

 

 




Big bird_〝暗闇の優しい会話〟





大鳥
参考:https://lobotomy-corporation.fandom.com/ja/wiki/Big_Bird



【ユリちゃんのアブノーマリティメモ】
おっきくて丸くて目が沢山ある鳥さん。
触り心地が悪すぎてむしろクセになる。大人しい子だった。


【ダニーさんのひと言】
自分の通る廊下の電気を消す。見えない中で殺してくるやつ。
脱走する。催眠みたいなのかけて戦意喪失してる所を遠慮なく物理で殺してくるやつ。
5人以上職員が死ぬとなんか脱走の準備はじめる。人が死ぬの嫌ならお前も殺すな。




短くなりましてすいません。
次は多くの方にどうするのかとコメントを頂いていた女性キラーアブノーマリティさんです。

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