【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Fairy Festival_1

あれ、と思ったのは廊下を歩いている時だった。

遠くに見えるエージェントさんに、キラキラと緑の光が纏うのを見た。

目を凝らすもこう遠くてはちゃんと確認出来ない。

不思議に思って追いかけようか少し迷ったが、タブレットから作業指示の通知音が聞こえたので叶わなかった。

指示のメッセージを確認しながら自然とため息が出る。私の疲労もここまで来たかと苦笑いした。

最近研究所は忙しさに追われている。というのも新種アブノーマリティが発見されたらしいのだ。それも一体だけでなく何体も。

そのアブノーマリティ達を迎え入れる準備をしているようで人手が足りない。

しかも準備が整い次第詰め込むように次から次へと新しいアブノーマリティを入れるのだからやはり人手が足りない。

更にいえば新しいアブノーマリティは未知なこともあり多くのエージェントが危険な目にあって辞めていると聞く。だから人手が足りない。

人事部本当に仕事してほしい。

今日はいつ帰れるのだろうとタブレットの時計を見て憂鬱になった。別に残業をしている訳では無いが、このバタバタが長いこと続くのはやはり嫌だ。

階を移動しようとエレベーターに乗る。と、ほかの部署の女の子二人組が既に乗っていた。

 

「ねぇ、ケーシーさ、最近調子乗ってない? 」

「わかるー、うざいよね最近。」

 

狭い空間に響く話し声の内容にうわぁ、と嫌な気分になった。

嫌な場面に出くわしてしまった。顔をしかめないように表情筋に力を入れて、気にしていないふりをする。

 

「なんかケーシー、あのアブノーマリティに好かれてるらしいよ。なんでも〝日頃の行いがいいから好かれる〟んだって。」

「すごい自慢してくるよね。アブノーマリティが私を護ってくれるんだって。そんなのさぁ、たまたまでしょ?」

「たまたまだよ絶対。第一、あのアブノーマリティって最近来たばっかりでなにもわかってないじゃん。元々人を護ってくれるタイプのアブノーマリティかもしれないし。」

 

話の内容が他人事とは思えなくて、内心冷や汗が止まらない。

一部だけれど私もアブノーマリティに好かれている自覚はある。ケーシーさんとやらも同じなのだろう。

私も影で何か言われているのだろうか。調子に乗っているつもりはないけれど、気をつけなければいけない。

 

「いいよねー、安全が確保されてるアブノーマリティの担当って。なんだっけ、ケーシーが言ってた……妖精の……なんとか?」

 

えっ、と喉まで声がでかかって、なんとか止めた。

エレベーターが止まった。どうやら女の子達は私より上の階で降りるらしかった。

まだ下の階の私はエレベーターを降りる女の子達を見送る。女の子の1人が言ってた、アブノーマリティ〝妖精のなんとか〟。

タブレットの指示を確認する。そこにはこう表示されていた。

 

〝対象:妖精の祭典(F-04-83) 作業内容:栄養〟

 

もしかして、先ほどの話題のアブノーマリティはこれだろうか。

〝妖精の〟までしかわかっていないので確かではないが、可能性はある。

けれどケーシーさんが担当なのに、何故私が作業に選ばれたのだろう。やはり別のアブノーマリティなのだろうか。

疑問を抱きつつも、目的の階に到着したので私はエレベーターを降りた。

 

 

 

 

 

キラキラ、キラキラ。

周囲に舞う妖精達に女性エージェントのケーシーは鼻歌を歌った。

蝶のような可愛らしい小さな姿のアブノーマリティは、ケーシーを気に入ったのか収容室外まで着いてきて、その眩い光を惜しみなく放ちながら彼女を取り囲み舞う。

まるで何かのお祭りのようにそれは美しい光景であった。

ケーシーの心を満たしていたのは、アブノーマリティが可愛い以外にもあった。

そのアブノーマリティにケーシーの前にも何人かエージェントが作業を行った。

けれどアブノーマリティが収容室外まで着いてきたのは、ケーシーだけだったのである。

優秀と有名なエージェントでも、普段ケーシーのことを地味だ、つまらないと笑っていた、あの二人組のエージェントでもなく。

ケーシーだけを、アブノーマリティは選んだのだ。

 

「あはははは!!」

 

その優越感はケーシーの心を大いに満たした。

自分は特別なのだと。選ばれたのだと。

普段真面目に仕事をしている彼女にとってそれは当然の事だと思えた。日頃真面目に働いている自分だからこそ、選ばれたのだと。

例えその〝真面目〟も、荒波を立てないよう大人しくしているだけであっても。

彼女は思った。一番真面目なのは、頑張っているのは自分だと。この研究所で誰よりも偉く謙虚で美しいのは自分だと。

だって、自分は選ばれたのだから。この美しいアブノーマリティに。

 

「ざまぁみなさい。皆心が汚れてるから、アブノーマリティは私を選んだのよ。美しい、私を!」

 

高笑いする彼女にアブノーマリティが楽しそうにまた、キラキラキラキラ。

 

 

 

 

 

 

目的の収容室に着いて、ユリは深呼吸をした。

新しいアブノーマリティの作業はいつも緊張する。〝妖精〟という名前から想像するのは可愛い姿だけれど、〝無名の胎児〟で流石に学んだ。

特別な力を持ってる、なんてダニーさんに言われたけれどそれを過信するつもりはない。

確かに今までのアブノーマリティは私に敵意を持たなかったけれど、それだって偶然の可能性が高い。

だって、私は。

 

「私は、兄さん達とは違う。」

 

言い聞かせるようになってしまったのは、最近どこか自分に期待してたからだろうか。

そんなのいけない。調子に乗ってはいけない。私は特別なんかじゃない。

だから、慎重に。油断なんて絶対にしてはいけない。

大丈夫。私は自分をわかってる。

何があっても大丈夫なんて思うな。絶対に。

収容室の扉を開けて、一歩前に、進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









更新遅くなり申し訳ないです。
本当はみんな大好きな魔法少女回だったんですけど……。
公式さんがアプデに魔法少女ちゃん引き継いでなくて結構ショックでした。あと赤ずきんも。ただ絶望の騎士はかわいい良い仕事ですね。
公式さんアプデ待ってるで。





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