海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Fairy Festival_4

いつも通りにオーケストラさんの収容室を清掃していく。

毎日清掃しているので特に汚れもないが、床と壁を磨くだけでオーケストラさんは喜ぶ。

作業している間もオーケストラさんは私と会話(といっても脳に語りかけるという方法だが)をしてくれるので、こちらとしても話し相手がいるこの作業は楽しかった。

しかし今日は少しやりづらい。原因は腕にしがみついている妖精達であった。

私がオーケストラさんの収容室に入るのを嫌がった妖精達。拗ねたように小さな手で私にしがみついてくるのはちょっと可愛いけれど、とても動きづらい。

私が腕を動かしたせいで妖精達が壁とか床にぶつかったら、何かの拍子に腕から落ちてしまったら、と考えながら作業するのはなかなか頭を使う。

途中途中「嫌なら外で待っててもいい」と伝えているけれど、妖精達は膨らませた頬をより膨らませるだけであった。ずっとしがみついているのも疲れるだろうに。

 

―――随分好かれていますね。

 

ぎこちなく作業を進めていると、オーケストラさんの言葉が頭に流れてきた。

オーケストラさんが言ってるのはきっと妖精のことだろう。

最初は不思議だったこの脳に直接話しかけられる感覚ももう慣れたものだ。私は手を動かしながらオーケストラさんの本体に顔を向けた。

 

「うーん、かわいいんだけど、腕動かした時にどこかにぶつけちゃわないかかちょっと不安。好いてくれるのは嬉しいけど。」

 

―――相変わらず優しいのですね。

 

「いや、普通だよ。怪我したら可哀想でしょ?」

 

―――妖精は結構頑丈ですよ?

 

「え?そうなの?こんな小さいのに?」

 

―――自分の何十倍の大きさの生物を捕食したりしますからね。

 

「捕食!?え、妖精って花の蜜とか吸ってるんじゃないの!?」

 

―――いろんな種類の妖精がいますからね。ただ恐らくそちらは肉食でしょう。

 

「肉食!?この見た目で!?」

 

思わず腕に掴まっている妖精を見る。こんな小さな身体で、こんな可愛らしい見た目で、肉食。

けれど猫だって肉食だし、そう考えると不自然ではないのかも知らない。魚とかネズミとか狩って食べるのだろうか。

……むしろ妖精の方が食べられてそうだけど。

 

「何故妖精にそんな詳しいの?」

 

―――昔いた所で一時期よく見ましたからね。

 

「……オーケストラさんって、ここに来る前どこにいたの?」

 

―――おや、前に話しませんでしたっけ?.=%)s7*-; という所にいましたよ。

 

「……やっぱりわからないか……。」

 

頭に流れてきた言葉は、重要なところだけわからない。

わかってはいたがついため息をついてしまう。

好意的なオーケストラさんは色んな質問に答えてくれるけれど、所々わからない言葉があるのだ。

それは聞こえないとか、何かに邪魔をされてとかではない。ただわからない。その言葉を私は聞いたことがないのだ。

前にも同じ質問をして、その時はどんな場所か教えてもらった。場所の名前がわからなくてもその場所がどんな所かはわかると思ったのだ。

 

その時言われたのは

〝そこは8 ,##[がいて、ibx?gi$$_{に溢れていて、ここよりも暗く![./38[な所。〟……らしい。

暗いことしかわからない。

そのいる何かについて聞けば

〝jjT*-:#4=yが生えている、isjm.ユ色に近い赤色の生物〟らしい。

赤いらしい。

なるほどわからん。そんな会話になってしまった。

おそらくそのわからない言葉の部分は、私達の世界には無いものなのだろう。私はそう考えてオーケストラさんの過去を聞くことを諦めた。

私に解読する力があれば何か変わったかもしれないが、そんな力は持ち合わせてなく、更にその教えてもらったよく分からない言葉の発音すら出来ないのでどうしようもない。

私よりもっと優秀な人に、オーケストラさんの声が聞こえてればよかったのに。

 

余談だがオーケストラさんが演奏する曲は昔いた場所の音楽らしく、私には楽器の音しか聞こえてなくても実は歌も歌ってるらしいのだ。

その歌は聞こえる人と聞こえない人がいて、オーケストラさんいわく〝人が聞いてしまうと脳が爆発してしまうかもしれませんね?〟

……オーケストラさんはたまにこういうブラックジョークをかましてくる。怖いからやめてほしい。

 

オーケストラさんと話しながら壁を磨いているところで、ぐぅ、とお腹のなる音がした。

私のものではない。確かに朝ごはん作るの面倒くさくてシリアルにしたけど私のではない。

あとオーケストラさんはお腹がならない。と思う。根本的に鳴る胃がない。と思う。

となると。私は腕にしがみついている妖精に目を向けた。さっきまでしっかりと立っていた羽が少し下がり気味で、元気がなさそうだった。

ぐぅ、とお腹の音。ぐぅぐぅ。今度は複数。

 

「お腹減ったの?」

 

妖精に聞くとキュウ……。と弱々しく鳴かれた。さっきあんなにフレーク食べていたのに、この小さな身体の燃費はどうなっているのだろう。

助けてあげたい気持ちはあるが、作業指示もないので勝手にフレークをあげるわけにはいかない。かと言って腕でお腹の音と悲しそうな鳴き声でアンサンブルされては流石に良心が痛む。

 

「ちょっとご飯あげてもいいか確認してみるね。もうちょっとでお掃除も終わるから待ってて?」

 

そう伝えると妖精はキュウ!と嬉しそうに鳴いた。

やっぱりかわいい。

私はタブレットを取り出して、Xさんにメッセージを送る。もしすぐに返事がなければインカムを使おう。このインカム繋がりが遅いからあまり好きではないけれど。

キュウキュウと鳴きながら妖精達は頬を腕に擦り付けてきた。その姿に思わずにやけてしまう。

オーケストラさんとかこの子達みたいに好意的なアブノーマリティならいいのに。そしたらこの研究所もだいぶ安全になるだろう。

 

―――妖精と会話できるのですか?

 

「あはは、まさか。でも私は何言ってるのかわからないけど、この子達は人間の言葉わかるみたい。同じ鳴き方が何回かあるから、頑張れば理解できそうだけど……。」

 

そう、妖精の声は思い返してみると何度か同じ鳴き方をしているのだ。

例えばさっきのキュウキュウ、は収容室の大きな妖精が同じ声を出していた。確かそれは私の質問への返答。

その声の意味はもしかして。小さな期待が芽生え膨らむ。私は妖精にそれを悟られないようできるだけ平然に、尋ねてみた。

 

「ねぇ、妖精さんにとって、部屋の大きい妖精さんはどんな存在?」

 

キュウキュウ、と声。予想どおり。

 

「じゃあ、私は?」

 

また同じ、キュウキュウ。

 

「……友達って、なんていうの?」

 

ドキドキしながら聞いた言葉の返答は―――――、キュウキュウ。

その返事に芽生えた期待は開花する。友達!キュウキュウは友達!そして私もキュウキュウ!

妖精の友達なんて、なんて素敵なのだろう。

私は喜びを隠さずに満面の笑みをする。きゅうきゅう、なんてあんまり上手くない妖精のモノマネをしてしまう程度には、嬉しくて浮かれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 










次回、「ケーシー死す」でゅえるスタンバイ!

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