海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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※ロボトミーコーポレーション(会社)の捏造が凄まじいです。
オリジナル展開強いので苦手な方は避けた方がいいかと。


海外移住したら人外に好かれる件について

罪善の作業を終えて、収容室を出た。

なんだかどっと疲れてしまったが、心はとても晴れやかで、これが〝たった一つの罪と何百もの善〟の力かと感心してしまう。

 

「……ありがとう。」

 

収容室の扉越しに、お礼を言った。

現状は何も変わっていないけれど、少なくとも私は変わった。恐怖を忘れた訳では無い。でもちょっとだけ元気になった。

タブレットの通知音が耳に入る。作業指示であった。対象は〝静かなオーケストラ〟。作業内容は〝清掃。〟

指示の文章と一緒に『体調が優れないようなら報告するように』と書かれていた。その文面の優しさが嬉しい。

けれど大丈夫。私は真っ直ぐとオーケストラの収容室に向かった。

ちゃんと、仕事をしよう。出来ることからでいい。

そしてちゃんと生きよう。だって私はいつか姉に謝らなければいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理人室のモニター越しにユリを見て、Xは安堵した。

罪善に苦しそうに話すユリの声は管理人にも届いていて、無理をしているような様子をXはとても心配していたのだ。

作業を終えたユリに即時作業指示を送ったアンジェラに慌てて、ユリの体調を心配するメッセージを送ったのだが、モニターの彼女は問題なく次の仕事へと向かった。

 

「特別な家系……なるほど、ユリさんの体質はそこから……。」

「……おい、アンジェラ。」

「まさかご家族も特質を持つとは……いえ、考えれば自然なことですね。つまりアブノーマリティへの影響は引き継がれている遺伝子……染色体から?それがわかれば……。」

「アンジェラ!」

「X!ユリさんの遺伝情報を研究しましょう!ただちに!これは大きな発見になるかもしれません!」

「いい加減にしろ!!」

 

自分勝手に話を進めるアンジェラに、Xはついに怒鳴った。

流石のアンジェラも、その声に言葉を止める。

 

「お前、黒井さんを、職員をなんだと思ってる?」

「……一緒に働く仲間ですよ?」

「そんな風には思えない。勝手に作業指示を出して危険な目にわざわざ遭わせたり、研究、なんて言ったり。職員は生きている。人権のある、それぞれ人生を持っている人だ。それを会社のためになるからって、お前の好きにしていいわけがない。」

「待ってくださいX。言い方が悪かったです。ユリさんに協力してもらいましょう。彼女の体質の研究はきっと役に」

「黙れ。……黒井さんや他の職員の指示は暫く俺の独断で進めさせてもらう。アンジェラ、お前の処遇も考えるからな。」

 

そう言ってXは視線をアンジェラから再び管理モニターに戻した。

アンジェラはXの後ろで暫し考えるような沈黙をしていたが、やがて、口を開いた。

 

「……今回はもう、失敗ですかね。」

 

呟いた言葉は、諦めたようだった。

 

「X、ゲームはお好きですか?」

「……は?」

 

突拍子もないアンジェラの質問に、Xは怪訝な表情で応えた。

 

「この研究所に似た施設を管理するゲームが、この世界には存在するんですよ。」

「ゲーム?」

「はい。主にパーソナルコンピュータで行うゲームです。名前は〝legacy〟。遺産、という意味です。

そのゲームで、プレイヤーはXと同じ管理人の仕事をします。どうしてこんなゲームが存在するか、わかります?」

「答えは仕事の効率化を目的とする為。同じ状況をゲームという仮想空間に作り出して、多くの人にプレイしてもらえれば様々な管理パターンを知ることが出来る。パターンだけではありません。管理人に適した人格もよくわかります。優しさも、残酷さも必要ですからね。

「その中でよりすぐりを選んで管理者にデータをインプットするんです。」

「その効率化が成功しているかどうか……は、今のところ微妙ですが。管理の質は確かに上がったけれど、何度やっても元の状態に近づいてしまう……。」

 

アンジェラはXを見て、残念そうに顔をしかめた。

 

「今回は特に早かったですね。……ちょっと優しい人格にしすぎたのかもしれません。エージェント殺害人数が少ないプレイヤーを選んだのですが。」

 

アンジェラの言うことが、Xにはわからない。

けれどこみ上げてくる嫌な予感が、彼の背中に冷たい汗を垂らす。

 

「よくわからないって顔をしてますね?……ではわかりやすく言いましょう。X、貴方はより効率的に仕事が進むようにプログラムされた、作られた存在なんですよ。」

「……は?」

「あぁ、身体は人間です。この会社には人間の管理人が必要だった。臨機応変、が機械は苦手ですから。」

「待て、何を、言ってる。」

「口調まで元に戻ってきましたね。やはりこの会話をすると脳に影響が出るのはしかたないことなのでしょうか……。」

「おい!さっきから、わけのわからないことを!」

「あなたは所詮、効率のいい管理人データをしまう為の器にしか過ぎないんですよ。……ここまで話したなら、もう思い出したでしょう?」

 

淡々と話し続けるアンジェラに苛立ったXは、彼女に殴りかかった。

けれど所詮アンジェラは映像にしか過ぎない。Xの拳は空を泳ぎ、勢いをつけた体は止まることが出来ずよろける。

そしてXの身体は床に倒れた。打った腕に痛みを感じながら、なんとか身体を起こそうと力を入れる。―――が、動かない。

この感覚を、Xは知っている。頭だけが動いて、身体が言うことをきかない。前に同じことがあった。

床に伏すXをアンジェラがのぞき込む。相変わらずの綺麗な顔で、アンジェラはこう言葉を続けた。

 

「もうずっと昔に、あなたの身体は死んでいる。思い出しましたか?」

「うそ……だ。」

「現に動かないでしょう。今までのはアブノーマリティから得られる特殊エネルギーによって活動停止した細胞を強制的に活性させて動けていただけです。」

「俺は、生きてる……!」

「……まぁ、生きてはいますかね。一度死んだというだけで。」

 

Xはアンジェラを強く睨んだ。身体の動かせない今、彼にとって精一杯の彼女への反抗だった。

それをアンジェラは本当に面倒くさそうにため息をつく。

 

「エージェントダニーといい、貴方達は本当に面倒くさいですね。そんな睨まないでください。貴方を殺したのは私達ではない。どちらかと言えば命を救ったんですよ。」

「ふざけるな!」

「ふざけていません。思い出してください。貴方を殺したのはアブノーマリティ。〝何も無い〟。でしょう?」

 

あれは悲しい事故でしたね。とアンジェラは特に悲しそうな素振りもせずにXに言った。

 

「アブノーマリティに襲われ死んだ貴方を私達は特殊エネルギーを使って生き返らせた。貴方は運が良かったです。他のエージェントで同じことをしても、生き返ったのは貴方だけでした。

だからまぁ、本当は死んだ命。少しくらい私達に尽くしてくれてもいいじゃあないですか。」

 

Xの身体にアンジェラは手を伸ばす。それは映像であって触れることはないのだが、強烈な嫌悪がXの胸に溢れかえる。

 

「最後にどうしてこんな話を貴方にするか教えます。この事実を貴方が知ることが、貴方の人格とデータのリセット条件なんですよ。毎回元の人格と話すのは、正直胸糞悪いですがね。」

 

Xの思考がだんだん白に染っていく。視界はぼやけて、見えなくなっていく。

固くなっていくXの身体をアンジェラは見つめる。いや、彼女はAIだ。もっと正確に言えば設置されたカメラにXの身体を映して、状況の情報整理を行う。

優秀なAIは考えた。より良い管理人にする為にはどうしたらいいか、データをかき集める。

今度はもっと好奇心の強い人格の方がいいか。行動パターンは積極的にするべきか。

そうだ、それがいいと考えついた。興味を持ったものに対して、迷うことなく行動する。そんな人ならば、未知の可能性を持つユリへの研究を咎めることは無いだろう。

早速アンジェラは膨大なデータから適したものを見つけ出す。それはどこかの日本人のデータであった。人格、行動パターンからして今までのXと少し違いすぎるようにも思えた。

もしかしたら別人のようになってしまうかもしれないと危惧するも、それも仕方ないことだとアンジェラは思うことにした。

 

「……そうだ、せっかくだし貴方達とも接触させてみましょうか。」

 

アンジェラは研究所内の映る管理モニターに向かってそう呟いた。

その表情は、人工的なものとは思えないほど自然で、人間的で、心底楽しそうな、笑顔であったという。

 

「私の部下として、いい結果を出してくださいね。Sephirah。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーケストラの収容室に着いたユリは、いつも通りの慣れた手つきで清掃の作業を開始した。

オーケストラが奏でてくれる美しいメロディーをBGMに床を布で拭いていく。

少し前にダメもとで作業中なにか演奏してほしいとねだってみたら、意外にも快くオーケストラが引き受けてくれた。その日からオーケストラはよく作業中にこうして演奏をしてくれるようになったのだ。

 

「……そういえば、オーケストラさん。」

 

―――なんですか?

 

「オーケストラさんって、なんで私にこんなよくしてくれるの?」

 

―――好きだからですよ。

 

「なんで、好きなの?」

 

―――好きに理由は必要でしょうか?

 

「うーん……わかんないけど、理由を知れた方が、安心するかな。」

 

―――安心ですか?

 

「うん。……ちょっと、過去のことを思い出して。」

 

ずっと知りたかったことではあった。

ここのアブノーマリティ達は何故か自分の事を好いてくれている。嬉しいし、助かるのだがその理由が全くわからなかった。

日本にいた頃では考えられない話だ。なんの力もない弱い私は、好かれるどころか殺されそうになるくらい、そういったものに嫌われていたのだから。

 

―――理由…

―――ユリさんは、私にとって特別な存在だからですかね。

 

「特別……。」

 

―――はい。特別です。

 

「特別って、どこが……?私、何も出来ないよ。」

 

―――何が出来るから特別という訳では無いでしょう。

 

「それは……確かに……そう、なのかな……。」

 

―――……ユリさん?

 

「……特別って、なんなんだろう……。」

 

―――ユリさん、何かあったんですか?

 

心配そうにするオーケストラに、私は無理矢理笑顔をつくった。

けれどあまり上手くいかなかったようで、心配したのかオーケストラの演奏が止まる。

 

「特別って言葉は、私には似合わないかな……。」

 

ずっとそうだった。あの素晴らしい力を持つ家族と並んで、自分の事を〝特別〟なんて呼ぶことは出来なかった。

圧倒的なその格差を前にそんなこと言うのは勿論、思うことすらおこがましいと感じていた。

憧れた言葉〝特別〟。決して手に入らないと思ったそれを、こんなにすんなりと言われてしまって、それで納得しろというのも難しい話だ。

 

―――ユリさんは特別ですよ。

―――特別とは〝他とは違う〟ことです。

―――私の中で、ユリさんは他とは違う。

 

「……どこら辺が?」

 

―――ユリさんは綺麗です。

 

「えっ!?き、綺麗ではないと思うんだけど……。」

 

―――綺麗ですよ。私にとっては。

―――他の人がどう言おうと、ユリさんが疑おうとも。

―――私にとって、ユリさんは他とは違う、大切な、特別です。

 

「オーケストラさんに、とって。」

 

―――はい。

―――好きですよ、ユリさん。

 

オーケストラのストレートな言葉に、身体が熱くなるのがわかった。

どうしてこのアブノーマリティは、こう恥ずかしいことをはっきりと言ってくるのだろう。

まだ完全に〝なぜ私を好きでいてくれるのか〟の疑問は解決していないけれど、なんだかもうよくなってしまった。

これ以上聞くのは、恥ずかしくて耐えられないかもしれない。

それに、これ以上なんてきっとオーケストラにはないのだろう。

今の言葉がオーケストラの本心で、事実なのだ。オーケストラが嘘をつくようなアブノーマリティでないことは、わかっている。

 

世界にとって、私は決して特別ではない。

でも、オーケストラにとっては、特別。

他とは違う、特別。

そういう、話。

 

「他とは違う、のが特別なんだよね。」

 

―――はい、そうですね。

 

「じゃあ、私にとってオーケストラさんは特別かな。」

 

―――私が?

 

「うん。」

 

こんな私を、特別と慕ってくれる。

この優しいアブノーマリティを特別に好きにならない方が、きっと、難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海外移住したら人外に好かれる件について

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず1回区切る感じになります!
コメントで多くいただいてたセフィラについて。出しますが皆さんに期待していただけるほど出番はないかもです……。

裏ネタ)
話にでてきたゲームは言わずもかな本家さん。
でもレガシー版の方を指してます。
アップデート版が当作品のリアル世界とかんがえていただければ。
収容方法とか作業内容はレガシー版をベースにしてるからややこしくてすいません 

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