海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Singing Machine_2

〝歌う機械〟の収容室の中はとても静かだった。

その静寂を不気味に思いながら足を踏み入れる。中には何か、大きな四角い金属の箱が置いてあった。

え、まさか。と思う。恐る恐るその金属の箱に触れる。冷たい。動いていないようだ。

これが、〝歌う機械〟?

何の変哲もない、ただの機械のように見える。なんの機械かはわからないけれど。

4本足で立っているそれには、四角いボディの上に小さなパイプが着いている。あと真ん中に切込みのような線があって、正面にある黒い円状の部品まで続いていた。

もしかしたらパカっと縦に開くのだろうか。パペットの口みたいにパカパカって。

作業用に取り出しておいたフレークを見つめる。もしここが開くのなら開いたそこにフレークを入れろということ?

試しに機械を開こうと手をかけて力を入れてみる。重い。でもちょっと動く気配がする。

諦めずに踏ん張って力を入れる。何だか無理矢理感があるけれどこれあっているのだろうか。

 

「うっ、わ!」

 

と、急に機械が軽くなって、機械がパカッと開いた。反動でよろけて機械の中に倒れそうになるが何とかバランスをとる。

倒れそうになっていた先にあるのは―――なんと、刃物だった。

さぁ、と血の気が引く。慌てて身を引いた。

驚きと恐怖で心臓がうるさい。今度は慎重に機械の中を覗く。

いくつも金属の刃が並んでいる。刃は回転する薄い円状になっていた。

これ、もしかしてあれじゃないだろうか。肉の塊をミンチするやつ。ひき肉を作る機械。

日本にいた時に、大手飲食店のハンバーグが出来るまでのテレビを見た時に、これと似た機械があったような気がする。

かなり曖昧な記憶だけど機械の中の部品も何か切るようなものだし、可能性としてはあると思う。

それだと〝歌う〟機械ってどういうことだろう。

〝歌う機械〟なんて名前をしながら実は〝肉をぶった斬る機械〟でした。それ名前詐欺じゃないか。

それか動く時に音が鳴るとか?それこの機械に必要な機能?なんで肉を切る時に音楽があったらいいよねってなったの?ノーミュージックノーライフなの?

考えてもわからない。機械が動く気配もないし、何だか面倒くさくなった私はとりあえず刃物が覗く機械の中に作業用のフレークを一袋入れてみた。

粒状のフレークはカラカラと音を立てて機械の中に入っていく。再びこれあっているのだろうかという疑問。というより間違っていたらこの機械壊れるんじゃないだろうか。

……やってしまったことは仕方ないので、機械の蓋を閉じてみる。開けた時とは違って簡単に閉じてくれた。

そして、沈黙。

 

「あー……まずい、かな。これ。」

 

なんの変化もなし。これは間違っていたかもしれない。

けれどタブレットを確認するも指示の更新はされていない。とんでもない間違いをしていたのなら流石になにか連絡がくるだろう。そう結論づけた私は、もうやることも無いと収容室を出ようとした。

しかしその足は止まった。後ろで音がしたのだ。

ピーッと電子音がした後に、ゴウンゴウンと空気を巻き込む音。

振り返ると、機械が動いている。

先程までなんの変化もなかったコンクリートのボディが上下しているのを見て、電源ボタンのライトが目に痛い人口色に光っているのを見て私は思わず一歩引いた。

―――なんで、急に。

突然のことに跳ねた心臓が落ち着いてくれない。驚きの後についてくる恐怖。

やめて欲しい。私洋画ホラーの、あの突然大きな音で脅かしてくるのとか苦手なんだから。

慎重に近付くと、やはり機械は作動したようだった。

といっても私がいれたのは肉の塊なんかではなく固形の小さなフレーク粒。中で金属の刃が空振りしている音を聞いて苦笑いする。

 

「……音?」

 

小さくだが、メロディのような音が聞こえた。

その音はすごく小さい音で、耳をすませないとわからない程。

どこから聞こえるのか探ってみると、機械についていた小さなパイプから、中でかき混ぜている空気と一緒に音楽が流れているようだった。

聞いたことの無いメロディー。けれどとても美しい音。なんという曲だろう。

暫くして音は止まってしまった。

……この曲。もう少し、聞いていたいような。

私はウエストポーチからフレークを取り出し、再び機械の中に入れた。するとまた音楽が流れる。

やはりいい曲だ。でもどうしてこんなに音が小さいのだろう?

もしかしてフレークだからいけないのだろうか。元々肉を切断する機械かもしれないのに、肉の代わりにフレークでは味気ない。

大きな肉が必要。生の肉。切断する作業が長くかかりそうな物がいい。なら骨の着いた大きな肉。

どこかにないだろうか。そんなものが。例えば……例えば、人間の体(わたし)のような生き物が―――

 

「っ、熱っ……。」

 

首筋が一瞬熱くなる。

咄嗟に首を抑えて、熱を持った場所を摩った。それは痛みが残る事もなく直ぐに引いたけれど。

この熱を発するのは、確かオーケストラが私を精神的な攻撃から護ってくれる時に発するはず。

目の前の機械を見る。私は今このアブノーマリティから攻撃を受けていたのだろうか。全然心当たりがない。

そういえばエンサイクロペディアにこう書いてあった筈だ。【作業を行う上での注意点】【①エージェントはアブノーマリティの本体(機械)が作動していないことを確認する。作動している場合作業は中止し、速やかに収容室から退室すること。】

どうしよう。これ、どう見ても動いてる。動いているのにフレーク機械に入れちゃったよ……。

けれど別段異変はないし、危険な感じもないので大丈夫だろうか。まだ起こってないだけ、とは考えたくない。

何か起こる前に私は今度こそここを去ることにする。

フレークが中に残ってるのか、まだ作動している歌う機械。そのうち止まるだろうと収容室を後にした。

 

次の作業指示を確認するためにタブレットを開く。すると〝お昼休憩〟の文字。

お昼休憩はエージェント達が交代でとれるようにXさんが調整して指示をくれてる。今日は比較的いつもより早くお昼が取れるみたいだ。

今日は何を食べようかなぁ。節約でお弁当を持ってくることもあるのだが、基本めんどくさいので一度外に出て買ってくることが多い。

 

「あ……ハンバーガーにしよう。」

 

そう思いついたのは歌う機械の作業をしていたせいだろう。

ひき肉=ハンバーグ、=ハンバーガー。

我ながら単純だけれどお腹はもうハンバーガーを向かい入れる準備をしていて、 私は楽しみにお昼休憩に向かうのだった。

 

 

歌う機械が、歌を止めないのを私は知らない。更に言えば何故か段々と大きくなっていることを、まるで、誰かを誘い込んでいるような。

そしてその歌を聞いた他のエージェントの瞳の色が変わるのを、それがどういう事なのかも私は知らずに、呑気にハンバーガーを買いに行ったのだった。

 

 

 

 

 

 




遅くなり申し訳ございません。
暫く小説からもハールメンからも離れておりました……。
一ヶ月一回は最低でも更新したいのに……。
文章力の方でのスランプが強いのでリハビリしながら書き進めていきます。ネタという名の妄想はたっぷりあるのじゃ。
誰かマジで脳内の映像を文章にする機械作ってくれよマジで……

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