海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Butterfly Man?_4

 

 

 

 

 

 

最後に言い残したことはありますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タブレットをいじりながら廊下を歩いていると、ドンッと、強い衝撃。

少しよろけたあと、不注意で誰かにぶつかってしまったのだと気がついて慌てて頭を下げた。

 

「すみませんっ、前見てなくて、」

「いえ、私も……、あれ?ユリさん。」

「え?あ、ダニーさんっ!」

 

なんとぶつかったのはダニーさんだった。相変わらずたくましい背中で、ぶつけた鼻はヒリヒリしている。

なんとまぁ、今日はよく会うものである。作業が終わるタイミングが同じだったのか。

 

「ユリさんも作業終わりですか?」

「はい、そうなんですよ。今からチーム本部に戻るところで……、いつもは直ぐに別のアブノーマリティへの作業なんですけど……。」

「奇遇ですね、俺も待機指示でましたよ。」

「ふーん……、」

「………俺たちだけじゃなさそうですね。」

「え?」

 

ダニーさんはじっと廊下の先を睨んで、眉間に皺を寄せている。

ダニーさんが言うには、先程から同じ方向に歩いていくエージェントと何人もすれ違っているらしい。

みんな、自身の本部に向かっているのだろうと。

エージェントが、集められている?

 

「な、なにかあったんでしょうか……。」

「でしょうね、多分、管理人が想定しないでいる何かが、」

「え?」

 

予想できる何かなら、もう既に行動はしているだろうとダニーさんは呟いた。

でも、わからないから、とりあえずみんなを集めているのだと。

 

「……収容違反じゃ、ないですよね、警報なってないし……。」

「そうですね……。蝶男のこともあります。急いで戻りましょう。」

 

ダニーさんが歩く速度を早めたのでそれに必死に着いていく。

不穏な空気が流れるものの、私はダニーさんと合流できたことに安心していた。彼と一緒なら、とりあえず大丈夫だろう。

 

「ダニーさんにあえて良かったです、安心します。」

「……あまり過信しないでくださいね。」

「あは、すみません、でも、ベテランと一緒だと安心しますよ。」

「いや……私は別にベテランでは無いですよ、エージェントとしては、まだ一年目です。」

「え、そうなんですか?」

「はい、転職でこの会社に来て、最初一年は営業してましたから。」

 

ダニーさんが営業なんて初耳だ。

……でも、なんかエリートのオーラは感じていたので、納得。

でも腹黒いし、サドだし……、そんな競争社会だと孤立しそう……。

 

「ユリさん今失礼なこと考えてませんか?」

「えっなんで、」

「なんか、癪に障る顔してます。」

 

どんな顔だそれは。

そう聞こうとした時。

 

──キァァァァァァッ!!

 

「っ、」

「な、なに、」

 

私の声を、女性の甲高い叫び声が遮る。

振り返る。声は、私たちの背中から聞こえた。

心拍数が一気に上がる。じっと廊下の先を見つめるけれど。何も見えない。

 

──ヒィィィィィィッ!!

 

「……行きましょう。」

「えっ、よ、様子を見に、」

「危険だ。早くこの場から離れますよ。」

「でも、でも。誰かが。」

「いいから。」

 

ダニーさんは乱暴に私の腕を掴んで引っ張っていく。

力の抜けた身体簡単に引きずられていくけれど、心はそうはいかない。

 

「誰かが、危険な目にあってるのに、」

 

精一杯声を出して、私はダニーさんを止めようとする。

 

「あのですねぇ、ユリさん。」

「だって、もし、リナリアさんとかだったら、」

「っ、」

 

私のその一言で、ダニーさんは足を止めた。

わかってる。私だって一刻も早くここから逃げ出したい。

でももし、リナリアさんが襲われてるなら。

 

私は、助けに行きたいと思ってしまう。

 

多くの人が私を避けていた。アブノーマリティと仲良くしてる、危ないから近づくな。得体の知れないやつだ。と。

その気持ちはわかる。私だって、みんなの立場なら避けてたかもしれない。

だって、面倒事は避けるのが懸命だ。誰だって自分の身が一番で。

幸いか、私は一人に割となれていた。帰る家に人がいないことは多かったし、親戚には約立たずと言われたし、他人は見てもくれなかった。

表面上の友達はいたけれど。その子達は私以外にいつだって囲まれていたし。

でもリナリアさんは、私に話しかけてくれて。

心配もしてくれて。……私のために、怒ってもくれて。

もし、リナリアさんなら。

そうでなくても。

 

「アネッサさんなら、」

 

アネッサさんだってそうだ。

私にあった日から今日までずっと優しくしてくれた。

ヘルパー君の時だって、停電の時真っ先に心配してくれた。

……それに、それにアネッサさんは。

 

 

──ご飯、近いうちに行きましょうね。

 

ここに来て初めて、ご飯に誘ってくれた人だ。

 

 

「ダニーさん、助けないと。」

そう、助けないと。

 

「後悔、しそうで。」

 

私の言葉に、ダニーさんはこれ以上ないほど嫌そうに顔を顰めた。

新人が何を言ってるんだと思ってるんだろう。私だって偉そうなことを言っている自覚はある。

ダニーさんは大きくため息をついて、ガシガシと頭を乱暴に搔いた。

わかってる。なんて偽善的な話だろう。

それでも足はもう、前に進まない。私は振り返って歩き出す。

頼りない足だ。震えている。それでも、私に出来ることがあるかもしれない。

そんな私の肩をダニーさんが掴む。

 

「……俺が、先に行く。」

「え、でも。」

「いいから。俺の背中に隠れて歩いて、でもってやばそうならすぐ逃げる。俺もすぐ逃げるから。」

「あ、ありがとう、ございます!」

「本当だよ。はぁ………。ひとつ言っておく。俺の生徒として、これだけは、絶対に何があっても、覚えておけ。」

 

ダニーさんは真っ直ぐと私を見つめた。いや、睨んだのだ。

 

「死なれるのが一番迷惑だ。」

 

言い放たれた言葉に。

その重さに。私は声を詰まらせた。

 

なんて、重い言葉だ。思わず目を逸らしてしまう。

ダニーさんはスタスタと私の前を歩いた。

慌てて着いていくけれど、いつもよりも歩くスピードに差を感じる。

でも、待ってなんて言えない。

無理をしてでも、私がついて行くのだ。

 

 

 

 

しばらく歩くと、少しずつ嫌な空気が漂ってきた。

私とダニーさんが足を止めてしたことはまず、鼻をつまむことだ。

 

「なんだ、この匂い。」

「わ、わかんないです。」

 

おえっと嗚咽が出るほどの匂いだ。

何かが腐った匂い。上手く言えないが……、理科の時間に習った腐卵臭の記憶が蘇る。

あれって確か……長く嗅いでたら目眩とかするのではなかったか。

進むにつれ濃くなる匂いにダニーさんは顔を顰める。

私も胸が気持ち悪くて、気分が悪い。

それでも何とか前に進むと、バキッと音が聞こえた。

何かが折れたような音。

ダニーさんが廊下の先を指差す。

隅に何かの塊が見えた。黒い、ゴミ袋みたいな。

少し離れたここからでも分かるので、大きさはそれなりにありそうだ。

まん丸の、でかい塊……。

バキッ、とまた音がする。

近づくにつれて嫌な予感が増す。それはダニーさんも同じなようで、足が慎重になっていく。

バキッ、バキッ。音に合わせて、塊が動いているのがわかる。

その異様な光景に、私とダニーさんはついに足を止めた。

ここからなら、先程よりもそれの見た目がはっきりわかる。

その塊は黒いビニールなどではなく、鳥の巣のように様々ななにかの部品やゴミにが固まった、〝ごちゃごちゃとしたなにか〟だった。

その黒い巨体の表面には、白く丸い模様が浮かんでいる。

不気味にも、その丸は人の顔のようだった。

 

……人の顔のよう、ではなく人の顔なのだろう。

 

血の気がないせいで白になってるだけで。丸は様々な輪郭をして、目と口を持っている。

目玉など、舌など無く。空洞だけれど。

それは人の顔だ。人の体が、その黒い巨体を構成している。

その見た目が、あまりにも衝撃的で。

私たちは、思わず呟いた。悲しいことにその言葉が全く同じだったせいで、予想は、想像は確信になってしまう。

その顔のひとつが。

 

「レナード……?」

「レナードさん……?」

 

悲しいことに、顔の皮膚は腐っているようで。

ドロリと崩れた目尻は、笑っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 







読者「いや先におまえが出るんかい」





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