【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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※証券会社について語る文がありますが、あくまで作者が調べた知識でしか書いてません。
※働いている人の人格を侮辱するつもりで書いた趣旨はありません。あくまでも物語を盛り上げるフィクションです。







The Funeral of the Dead Butterflies_5

どっ、と。

心臓がやけに、強く、脈打っている。

震えた声から出た、その名前がダニーさんと被って。私はようやくはっと息をした。

それでもまだ息が上手く出来なくて。横のダニーさんを見る。ダニーさんは、それから視線を外さない。

 

「なんで、」

 

ダニーさんの声なのに、ダニーさんのものでは無いような声だ。

動揺が伝わってくる。

 

「……れ、れ、レナード。レナード?でも、だって。お前。」

 

ダニーさんの、身体がよろけて倒れそうになる。私は不器用に支える。全ての体重がかかって。結局2人して転んでしまった。

 

「なん、で………、」

 

ダニーさんの声に、それが私達に気がついた。

こちらの方を向いた。……顔がいくつもあるせいで、本当にこちらを向いたのか分からないけれど。

大きく裂けた、ぱっくりとした口が私たちに向かう。

 

「あっ、」

 

逃げないといけない。

そう思っても。それでも身体は違った。

私もダニーさんも、身体が固まってしまう。石像のような私たちにそれは直ぐに向かってきた。

頭が働かない。それでも、恐怖だけはハッキリとしている。

来る。

大きな口のやけにとんがった、歯が見えたとこだった。

 

「ぐぇっ」

 

その時、後ろに強く引かれた。掴まれた襟は私の首を締める。

尻もちをつきそうになったが、それは誰かによって支えられた。

ぼすっ、と頭に感触。ぱっと頭をあげると、そこにあった存在に私は今度こそ。

 

「ひぃぃぃぃっ!!!!」

 

叫んだ。ようやく喉が開いた。

 

「…………驚かせてしまって申し訳ない。」

「喋ったァァァァっ!?」

 

蝶々が。

白い。蝶々が。目の前に。

その蝶が喋った。いや。というか。

この人頭が!!蝶だ!?

 

混乱した頭は上手く考えがまとまらない。

ただ目の前の、この蝶の頭をした人……、いやその時点で人ではないが。その人と、黒い塊に私はパニックになって。

な、なんかもう………目眩がする……、

 

「眠るのは後にして。私は時間かせぎしかできない。」

「え、」

 

ごとっと何かが落ちる音がした。気がつくと目の前には黒い壁。

何これ。

瞬きをする。すると、その壁は開いたような音を立てて。

 

「きっと私は……全てを救うことは出来ない。」

 

その壁の中から、ぶわっと、白い花弁のような何かが飛び出てくる。

その量の多さに、黒い塊の姿は見えなくなり。

浮遊感。私はその蝶に抱えられた。

 

「えっえっ!?」

 

そのまま蝶は走り出す。後ろを見ようとするが上手く見えない。

だが横は見えた。蝶はダニーさんもを二本の腕で俵のように抱えている。

なんて強い力、と思った後に気がついたのは。二本の腕。

まってそれ、私を抱えてるこの手は。

…………今度こそ本当に目眩がして。私は思わず目をつぶった。キャパオーバー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人が嫌いだ。

 

だから俺は、人を負かしたくてこの業界に入った。

数字が物を言う、証券会社。順位が分かりやすく棒グラフで表示される。

色んな人間の汚さがわかるのは、好きではなかったがむしろ清々した。

 

誰かよりも上に。

全てを見下ろせるように。

 

……俺は見下ろされる側にならない。

 

だから俺が大きな顧客開拓した時に。皆の妬む視線は気持ちよかった。

どんな手を使ったんだと聞かれたこともある。この職種が白い顔ばかり持ってるとは思わないが。それでも俺は正統性を持ってして、いい取引ができたと思っている。

 

お前らと違って、俺はいい仕事をするんだよ。

お前らとは格が違うんだよ。

 

 

『すげーじゃん。』

 

 

 

だから、あなたのような人は予想外だった。

 

『いや助かるわ、全体ノルマ今月苦しかったからさ。』

 

おつかれと、缶コーヒーを渡されて。

俺はただ、立ち尽くすしかできない。

 

あなたは、俺の、いや人の成功を。

ただただ、喜べる人間なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢さん、お嬢さん。起きてください。」

「ぅ……、」

 

頬を軽く叩かれる感覚。

うっすらと目を開ける。目の前に、虫のドアップ。

 

「ふぎゃあっ!?」

 

驚いて大きく仰け反った。ら、床に頭をぶつけた。

いったい………。

 

「ぅ、痛い………っ、あっ、ダ、ダニーさんはっ!?」

「ダニー……?あの男性ですか、あちらに居ますよ。」

 

指さされた方向に、ダニーさんを見た。

ダニーさんは床にうずくまっていて、両手で顔を覆っている。

いつもの、あの自信のある姿とは遠いその様子に心配しながらも、生きているという事実に安心したのもあった。

ここはどこだろうと辺りを見渡す。エレベーター近く。それも階が先程とは違う。

 

「あなたが……ここまで連れてきてくれたの。」

 

改めて、目の前の……恐らく、〝蝶男〟に向き合った。

私の言葉に蝶男は頷く。どうして、とつづければ彼は考えたのか、少し間を空けてこう言った。

 

「人助けに理由など必要でしょうか。」

「え、」

 

その、あまりにも綺麗な言葉に。私はなんて言っていいかわからない。

それは……正論だけれど。

私達の命に、重みを感じてないと生まれない考え方だ。

戸惑ってしまう。蝶男。この人は。何を考えているのか。

 

「……あなたは……いい、アブノーマリティ……なの?」

「アブノーマリティ?」

「あ……えっと、えっと。アブノーマリティって言うのは……私たちじゃない存在のことを……、えっと、」

「……あぁ、そうか。私はもう人間ではないからな……。」

「え……?」

 

蝶男の声は少しだけトーンが下がる。

そうして彼は、どこに付いているのかもわからない目で、私を真っ直ぐと見据えて。

 

「私は、元々人間だったんだよ。」

 

そう言った。悲しそうに。

 

「人間だった……、?」

「なんだよそれ、」

「ダ、ダニーさん。」

 

蝶男の告白に顔を上げたのはダニーさんだった。

ダニーさんは、大きく目を見開いて、そしてくしゃりと歪んだ顔で蝶男を見ている。

 

「どういうことだよ。……元々、人間?そんなはずないだろう。」

「本当ですよ。……私は本来、人を救うためにここに来た。人間だった頃はね、葬儀屋をしていた。」

「葬儀屋さん、」

「そう……、これでも化粧は得意でね、……美しい姿で、最後を迎える人を見るのが、悲しくて、でも、嬉しかったよ。」

「人がアブノーマリティになるはずがないだろ!?」

 

ダニーさんが大きく叫んで、私はビクッと肩を揺らした。

何かを訴えるように、ダニーさんは葬儀屋さんを睨む。

私は何となく、何となく言いたいことが分かった。

そんなことあって欲しくないと私も思っている。けれどきっとそれ以上に、ダニーさんは願っているのだ。

そんな残酷な現実ではないことを。

 

それでも葬儀屋さんは淡々と言葉を続けた。

 

「なるよ。だって」

 

「さっきのも元々は人間の身体だろう。」

 

ダニーさんは、ヘナヘナとそこに座り込む。

私はただ立ち尽くして、先程の黒い塊を思い出していた。

話したことの無い人は多くても、見た事のある人ばかりだった。それにきっとあれは……レナードさんなのだろう。

異臭放つ黒い塊。あの団子のように丸まった中身に、いったい何人の人が、いるのか。

 

 







やっとでてきた葬儀さんです。
もっと人外×少女にするか迷いましたが、葬儀さんの性格と元々が人間という設定も相まって

無理でした\(^o^)/ゴメ-ン

仲良くはしてくれます。



いやそれよりも、投稿遅くてすみませんでした……。
ここまで読んでくれた人、まじでありがとうございます……。


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