【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
※働いている人の人格を侮辱するつもりで書いた趣旨はありません。あくまでも物語を盛り上げるフィクションです。
どっ、と。
心臓がやけに、強く、脈打っている。
震えた声から出た、その名前がダニーさんと被って。私はようやくはっと息をした。
それでもまだ息が上手く出来なくて。横のダニーさんを見る。ダニーさんは、それから視線を外さない。
「なんで、」
ダニーさんの声なのに、ダニーさんのものでは無いような声だ。
動揺が伝わってくる。
「……れ、れ、レナード。レナード?でも、だって。お前。」
ダニーさんの、身体がよろけて倒れそうになる。私は不器用に支える。全ての体重がかかって。結局2人して転んでしまった。
「なん、で………、」
ダニーさんの声に、それが私達に気がついた。
こちらの方を向いた。……顔がいくつもあるせいで、本当にこちらを向いたのか分からないけれど。
大きく裂けた、ぱっくりとした口が私たちに向かう。
「あっ、」
逃げないといけない。
そう思っても。それでも身体は違った。
私もダニーさんも、身体が固まってしまう。石像のような私たちにそれは直ぐに向かってきた。
頭が働かない。それでも、恐怖だけはハッキリとしている。
来る。
大きな口のやけにとんがった、歯が見えたとこだった。
「ぐぇっ」
その時、後ろに強く引かれた。掴まれた襟は私の首を締める。
尻もちをつきそうになったが、それは誰かによって支えられた。
ぼすっ、と頭に感触。ぱっと頭をあげると、そこにあった存在に私は今度こそ。
「ひぃぃぃぃっ!!!!」
叫んだ。ようやく喉が開いた。
「…………驚かせてしまって申し訳ない。」
「喋ったァァァァっ!?」
蝶々が。
白い。蝶々が。目の前に。
その蝶が喋った。いや。というか。
この人頭が!!蝶だ!?
混乱した頭は上手く考えがまとまらない。
ただ目の前の、この蝶の頭をした人……、いやその時点で人ではないが。その人と、黒い塊に私はパニックになって。
な、なんかもう………目眩がする……、
「眠るのは後にして。私は時間かせぎしかできない。」
「え、」
ごとっと何かが落ちる音がした。気がつくと目の前には黒い壁。
何これ。
瞬きをする。すると、その壁は開いたような音を立てて。
「きっと私は……全てを救うことは出来ない。」
その壁の中から、ぶわっと、白い花弁のような何かが飛び出てくる。
その量の多さに、黒い塊の姿は見えなくなり。
浮遊感。私はその蝶に抱えられた。
「えっえっ!?」
そのまま蝶は走り出す。後ろを見ようとするが上手く見えない。
だが横は見えた。蝶はダニーさんもを二本の腕で俵のように抱えている。
なんて強い力、と思った後に気がついたのは。二本の腕。
まってそれ、私を抱えてるこの手は。
…………今度こそ本当に目眩がして。私は思わず目をつぶった。キャパオーバー……。
人が嫌いだ。
だから俺は、人を負かしたくてこの業界に入った。
数字が物を言う、証券会社。順位が分かりやすく棒グラフで表示される。
色んな人間の汚さがわかるのは、好きではなかったがむしろ清々した。
誰かよりも上に。
全てを見下ろせるように。
……俺は見下ろされる側にならない。
だから俺が大きな顧客開拓した時に。皆の妬む視線は気持ちよかった。
どんな手を使ったんだと聞かれたこともある。この職種が白い顔ばかり持ってるとは思わないが。それでも俺は正統性を持ってして、いい取引ができたと思っている。
お前らと違って、俺はいい仕事をするんだよ。
お前らとは格が違うんだよ。
『すげーじゃん。』
だから、あなたのような人は予想外だった。
『いや助かるわ、全体ノルマ今月苦しかったからさ。』
おつかれと、缶コーヒーを渡されて。
俺はただ、立ち尽くすしかできない。
あなたは、俺の、いや人の成功を。
ただただ、喜べる人間なのか?
「お嬢さん、お嬢さん。起きてください。」
「ぅ……、」
頬を軽く叩かれる感覚。
うっすらと目を開ける。目の前に、虫のドアップ。
「ふぎゃあっ!?」
驚いて大きく仰け反った。ら、床に頭をぶつけた。
いったい………。
「ぅ、痛い………っ、あっ、ダ、ダニーさんはっ!?」
「ダニー……?あの男性ですか、あちらに居ますよ。」
指さされた方向に、ダニーさんを見た。
ダニーさんは床にうずくまっていて、両手で顔を覆っている。
いつもの、あの自信のある姿とは遠いその様子に心配しながらも、生きているという事実に安心したのもあった。
ここはどこだろうと辺りを見渡す。エレベーター近く。それも階が先程とは違う。
「あなたが……ここまで連れてきてくれたの。」
改めて、目の前の……恐らく、〝蝶男〟に向き合った。
私の言葉に蝶男は頷く。どうして、とつづければ彼は考えたのか、少し間を空けてこう言った。
「人助けに理由など必要でしょうか。」
「え、」
その、あまりにも綺麗な言葉に。私はなんて言っていいかわからない。
それは……正論だけれど。
私達の命に、重みを感じてないと生まれない考え方だ。
戸惑ってしまう。蝶男。この人は。何を考えているのか。
「……あなたは……いい、アブノーマリティ……なの?」
「アブノーマリティ?」
「あ……えっと、えっと。アブノーマリティって言うのは……私たちじゃない存在のことを……、えっと、」
「……あぁ、そうか。私はもう人間ではないからな……。」
「え……?」
蝶男の声は少しだけトーンが下がる。
そうして彼は、どこに付いているのかもわからない目で、私を真っ直ぐと見据えて。
「私は、元々人間だったんだよ。」
そう言った。悲しそうに。
「人間だった……、?」
「なんだよそれ、」
「ダ、ダニーさん。」
蝶男の告白に顔を上げたのはダニーさんだった。
ダニーさんは、大きく目を見開いて、そしてくしゃりと歪んだ顔で蝶男を見ている。
「どういうことだよ。……元々、人間?そんなはずないだろう。」
「本当ですよ。……私は本来、人を救うためにここに来た。人間だった頃はね、葬儀屋をしていた。」
「葬儀屋さん、」
「そう……、これでも化粧は得意でね、……美しい姿で、最後を迎える人を見るのが、悲しくて、でも、嬉しかったよ。」
「人がアブノーマリティになるはずがないだろ!?」
ダニーさんが大きく叫んで、私はビクッと肩を揺らした。
何かを訴えるように、ダニーさんは葬儀屋さんを睨む。
私は何となく、何となく言いたいことが分かった。
そんなことあって欲しくないと私も思っている。けれどきっとそれ以上に、ダニーさんは願っているのだ。
そんな残酷な現実ではないことを。
それでも葬儀屋さんは淡々と言葉を続けた。
「なるよ。だって」
「さっきのも元々は人間の身体だろう。」
ダニーさんは、ヘナヘナとそこに座り込む。
私はただ立ち尽くして、先程の黒い塊を思い出していた。
話したことの無い人は多くても、見た事のある人ばかりだった。それにきっとあれは……レナードさんなのだろう。
異臭放つ黒い塊。あの団子のように丸まった中身に、いったい何人の人が、いるのか。
やっとでてきた葬儀さんです。
もっと人外×少女にするか迷いましたが、葬儀さんの性格と元々が人間という設定も相まって
無理でした\(^o^)/ゴメ-ン
仲良くはしてくれます。
いやそれよりも、投稿遅くてすみませんでした……。
ここまで読んでくれた人、まじでありがとうございます……。