【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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【原作を知っている方へ】

※途中、死んだ蝶の葬儀の持っている棺に関しての記述で「いつから持っていたか分からない棺」という表現があります。
恐らく「いつも持ってない?」と疑問があると思いますが、ダニーとユリを抱えて走った時に置いてきているという風に書いているからです。分かりにくくてすみません。









Mountain of Smiling Bodies_8

憎しみの女王の言葉に、皆が動揺しザワついた。

その可愛らしい見た目に似合わない舌打ちが彼女から聞こえて、再度杖は振られてビームが放たれる。

それでも。その体は変わらずそこにあった。

しかし不思議なことに、当たって居ないはずの後ろの塊に、パキッとヒビが入ったのである。

 

「……成程ね、後ろの身体が、本体の身代わりになってる訳?……ならそっち共々壊すだけよ!!」

 

アイは威勢よく叫んだけれど。

私は、その白い頬に伝った冷や汗が見えた。

皆が応戦しようと、武器を構えた。しかしそれらは全て銃などの飛び道具であり、近づこうとするものは誰一人居ない。

近づきたいとは思わないが、近付けないのだ。

匂いがあまりにも強く、間近で嗅いだら、戦いどころではない。

私ははっと気が付いて、杖をしっかり握る。

私も、戦わなければ。

 

「ユリ、逃げて。」

「え、」

 

しかしアイは塊に視線を外さないままそう言った。

 

「早くここから逃げて。」

「でも!」

「……私の命をかけてでも。貴女を、守ってみせるから。」

 

その強い言葉に、私の胸はぐっと締まる。

アイは、私のことを一番に考えてくれてるのだろう。……その為に、自分の命すら、厭わない。

私は勢いに任せて、えい、と杖を振った。

思い切り降ったせいで、身体のバランスは崩れる。しかし倒れそうになりながらも杖が発した光線が、それに当たるのを確かに見た。

 

やった!

 

と、喜んでる暇もなく。

……怪物は、こちらを見る。私を。

 

 

 

 

 

 

 

破壊音が続く中、ダニーはただひたすらに、塊に向かって銃弾を撃つことしか出来ないでいた。

しかしそんなものは効いてるのか分からない。今の主力は憎しみの女王ただ1人でしかなかった。

それでもなんとか、食い止めなくては行けない。

下層エージェントの助太刀が来るまで時間稼ぎ……なんて悠長なことは言っていられなくなった。

 

状況は、ユリの放った杖のビームで大きく変わった。

 

その攻撃はその場にいる誰もが目を見開いた。

確かな威力の攻撃が、塊に当たったのだ。

しかしそれに喜んだのもつかの間……、塊はビームの方向に体を向け、突進してきたのだ。

……狙いを、ユリに定めてきた。

その場にいる誰もが理解出来るほど、あからさまに攻撃対象がユリに向いている。

皆が焦った。

彼女が怪我でもしたら……最悪、死にでもしたら。

こんな事態では済まないほどのことが起こる。それが容易に想像出来たから。

 

「逃げて!!」

「早く!!」

「走れ!!」

 

なんとか逃げ道を作ろうと、近距離武器を得意とする者は必死にその塊を抑える。

しかし力の差がありすぎる。それに加えて、この匂いだ。

銃で撃っても、剣で切っても。塊はこちらを一切気にせずユリの元に行こうとしていた。

ユリは言われた通り逃げようとしても、どう動けばいいか分からないようだった。

それに苛立ってダニーは舌打ちをする。早く!!モタモタしてないで逃げろよ!!馬鹿!!

 

「……えっ、」

「……?」

 

その時、ユリの顔色が変わったのをダニーは見ていた。

ユリは自身のインカムに手を当てて、なにか聞いているようだった。

その目は泳いでいて、唇が震えている。体は固まって、動かないようだ。

 

「何してるんだ!!早く逃げろよこの馬鹿!!」

 

誰かがユリに向かって叫んだ。

そこでようやく、ユリは意識が戻ったようで、真っ直ぐ迫ってくる塊を見つめる。

 

そして、目付きが、変わった。

 

「……なり……ます、」

 

傍の蝶男の腕を、ユリは掴んで、叫んだ。

 

「私が!囮になります!!みんな逃げて!!葬儀さん!私を抱えて、走って!!」

 

は!?

そう、声が出たのはダニーだけではなかった。

何をふざけたことを、とみんなが思っただろう。

止めようと、ダニーは声を出そうとした。

しかし蝶男は既にユリを抱えている。

 

「ユリ!!何言ってるのよ!!貴女は私がっ、」

「アイも逃げて!!……大丈夫だからっ!!蝶男さん、お願いっ!」

 

蝶男はいつからか手元に持っていた棺を、ダンっ!と自身の目の前に、垂直に立てた。

 

「人は死んだら、どこに行く?」

 

かちゃん、と、棺が開く。

 

「……否、どこにもいけないのだろう。だからここには、数えきれない蝶が眠っている。」

 

そして────、大量の、白い蝶が飛び出してきた。

蝶達は勢いよく、塊に被さっていく。

エージェントたちの視界は白で埋め尽くされて、それはまさに弾幕であった。

質のいい靴の、走る音が聞こえる。

 

「こっちだよ!!ついてきなさいっ!!」

 

ユリの声に塊は反応して、追いかけて行った。

蝶の弾幕の中見えた姿。扉向こうの廊下に出ていってしまう。追いかけて、塊も。

……そうして、扉が、閉まった。

飛んでいた蝶はしばらくするとチラチラ光の粒を放って消えてしまう。

残されたのはすっかり疲れてしまっているエージェントと、憎しみの女王のみ。

憎しみの女王は一番戦っていたせいで、所々に傷が見られる。

近くにいた1人のエージェントが、心配の声をかけようとした時。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!ユリ!!ユリ!!なんでなんでなんでなんでなんでなんで!!」

 

甲高い悲鳴が、チーム本部に響いた。

 

「なんで!!なんでそんなことするの!!私が私が!!私が貴女を!!守るのに!!私が貴女のヒーローなのに、なんでなんでなんでなんで!!私を置いていくの!!あぁぁぁぁっ!!ユリ!!私のユリ!!

クソ!!クソが!!早く魔力とりもどしなさいよこの無能が!!ユリのとこに行くのよ!!早く!!」

 

ガンッ、ガンッ、と憎しみの女王は自身の杖を地面に叩きつけている。

その姿は、恐怖しかなく。エージェントはただ後退りながら憎しみの女王を見ていた。

 

「殺す……殺す、絶対に、私からユリを奪うもの全て、死ね死ね死ね死ね!!許さない、私が、この手で、絶対に、殺してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 







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