【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Mountain of Smiling Bodies_11

ごめんね、とあなたは謝った。

どうして。

 

「ゆ……り、」

 

憎しみの女王は、ぱっとその手を離した。

彼女の手はユリの首を掴み、支えていたようなものなのでユリはそのままごちんと頭をぶつけることになる。

しかし、ユリは目をつぶったまま、動かなかった。

 

「ゆ、ユリ!ユリ!!起きて!!ねぇ!!」

 

ぐったりと意識を失ったユリに、憎しみの女王の顔が青くなる。

手が、震えている。先程まで彼女の首を絞めていた、手が。

 

……私の、せい。

私が ユリを。

 

「っあああああああああぁぁぁっ!!!」

 

私が!!私が!!

私はあなたを護るためにあるのに!?

ちがうのちがうの!!ねぇちがうのよ!ユリ!!

私そんなつもりじゃなくて!私はあなたの敵じゃなくて!!

 

「やだやだやだやだやだ!!嫌いにならないで!!起きてユリ!!」

 

乱暴に憎しみの女王はユリの身体を揺する。

それでも彼女の目は開くことなく、絶望にただただ叫ぶばかりだ。

 

「えっ……なにごと!?」

「っ……憎しみの、女王……?」

 

そこに駆けつけたのは、エージェントのダニーとリナリアの二人。

二人はある程度の応急処置を受けた後、管理人からの指示によりユリを迎えに来たのである。

二人はただ【エージェントユリによって、対象は収容された。】という事実だけを聞かされてここまで来た。

そのため目の前で何が起こってるのかさっぱり分からない。

 

「お、おい、憎しみの……いや、えっと、アイ?一体何が、」

「あぁぁぁぁっ!!私が、私がぁっ!!そんなつもりじゃなくて、でも、うう、私のせいで!!ユリ!!ちがうのぉっ!!」

「お、落ち着け!!……ユリさんは、気絶してるだけみたいだし、大丈夫だ!」

 

泣き叫ぶ憎しみの女王に、ダニーは恐る恐る近付いた。

その腕の中にいるユリの胸が動いてるのを見て安堵する。呼吸は乱れていない。どうやら本当に気絶しているだけのようだ。

何とか憎しみの女王を宥めようとするも、話にならない。このまま暴れられたりしたら被害は余計広がる。ダニーは頭を掻いた。

 

「ふぇ、ユリ、嫌わないで、お願い嫌わないでぇ……っ。」

「いや……、この人があんたを嫌いになるのってなかなかないから大丈夫だろ……。」

 

ただ泣きじゃくる憎しみの女王に、何を今更。とダニーはため息をついた。

こうも見た目が人間に近いと、アブノーマリティへの恐ろしさよりも女性の扱いへの面倒くささが勝ってくる。

蛇の姿を見て、彼女は歩み寄ろうとさえしたのだ。ヒステリーになった姿すらも見せているというのに、嫌われる。とは。この女は何を言っているのだ。

 

「ふぇぇぇんっ、だってだって、私、私、ユリの首、しめちゃった……!」

「え。」

「え。」

 

憎しみの女王の言葉にリナリアとダニーは固まる。

首を、締めた?その馬鹿力で?

慌ててダニーはユリの体を見る。

うっすら赤くなってる首。折れてもいい力を持ってるのに、無事ということはさすがに手加減はされたのだろう。

しかし、どうしてそんなことになったのか?

その理由を聞きたかったが、話してくれるようには思えない。

とりあえずダニーはここを動きたかった。

ユリが気絶してるのなら、医務室に運ばなければならないし。

すぐ横でゴミと化してる死体の塊が、いつまた動き出すかも分からないからだ。

 

「とりあえず、大丈夫だから、な?ここを出よう。ユリさんを医務室に運んでもらえるか?」

「ひっぐ……ごめんなさい……ごめんなさい、ユリ、本当に……ごめんなさい……。」

「あー、もう!!よく考えてみろ!ユリさんに首締められたらお前嫌いになるか!?」

 

苛立ったダニーがその場を収めようとした出任せに、リナリアは怪訝な表情を浮かべた。

 

「へ、な、ならない……。」

「だろ!ユリさんも同じだ!!た、多分……。」

「……そう、かしら……。」

「そうだ!多分……。」

「……ユリ……は、嫌いにならない?」

「大丈夫だ!信じろ!」

「……そう、よね。」

 

憎しみの女王は自分の顔を強く擦って、ようやく泣き止んだ。

ダニーは彼女を元気づけるために笑う。

 

「医務室に運んでもらえるか?ユリさんの為に。」

「……勿論。テレポートは、負担がかかるから……歩いていくわ。道案内をお願い。」

「あぁ!」

 

憎しみの女王はダニーの言葉に頷き、ユリを横抱きに歩き出した。

それはそれは、大切そうに、ユリを優しく運ぶ。

そんな二人の会話を聞いてリナリアは「それはちょっと違うと思う」と考えたが。

特に何を言うでもなく。リナリアは大人しく後ろを着いて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた時、ユリは医務室にいた。

グラグラと揺れるような頭痛を感じながら、なんとか体を起こす。

すると手に違和感。何かに、掴まれている。

不思議に思ってそちらを見ると、驚いて思わず振り払ってしまった。

すると、掴んでいた本人はかなりショックを受けたようで、大きく目を開いてうるうると瞳を揺らす。

 

「ぅ、ユリ、やっぱり、私のこと、嫌……?」

「ああああっ!!ごめ、ごめんねアイ!違うの!驚いて振り払っちゃったの!!」

 

そう、私の手を掴んでいたのはアイだったのだ。

泣きそうになっているアイの手を、私は慌てて掴み直す。

触れるとその手は震えていて、私はぎゅっと、強く握る。

ポトンポトン、と、手に水滴が落ちる。

 

アイが、泣いているのだ。

 

私はどうすればいいか分からなくて。何を言えばいいか分からなくて。

どうすることも出来ずに、ただどうすればいいか考えていると、先にアイが口を開いた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……私、ユリに酷いことをしたわ……。」

「え、な、何かされたっけ……?」

 

そう言うと、アイはまた大きく目を開く。

謝ってもらっても、気を失う前の記憶が曖昧で、なんのことか分からなかった。

アイは何か考えてるようで、視線を泳がせる。しかし直ぐに私を、また泣きそうな目で見つめた。

 

「……首、しめちゃったの……。」

「え、」

「わ、私、ユリが、私を頼らないで、置いていったのが、悲しくて、信じられなくて……!それで、混乱しちゃって、ユリの、首を……!」

「も、もういいよ!」

 

そこまで聞いたところで、私はアイの声を遮る。

彼女の顔が真っ青で、これ以上言わせてしまっては体調が悪くなってしまいそうだったから。

アイの言葉を頭で復唱。首を絞めた?あぁ、でも確かにそう言われれば、息苦しかったような気がする。

 

「……ごめんなさい……。」

 

アイは俯いて、ただ静かに謝罪をするだけになってしまった。

その弱々しさといったら。普段の彼女からは想像つかない。

それが可哀想で仕方なくなってくる。どうにか安心させたくて、わたしはもう一度強く、その手を握った。

 

「もう、しないでね。それでいいよ。」

「……許してくれるの……?」

「勿論。」

 

そう言うと勢いよく抱き着かれて、ベット後ろの壁に頭をぶつけてしまった。

だいぶ痛かったけれど、よかった。よかった。とまた泣く彼女を見ていたらその痛みすら許してしまう。

 

「あ……そう言えば、レナードさんは……。」

「レナード?」

「えっと……さっきの、黒い大きな塊のこと。」

「あぁ!あれなら、しっかりやっつけておいたわよ!」

 

得意げに笑うアイの声がまだ鼻声で笑ってしまう。

事態が落ち着いたなら良かった。けれど私が気にしてたのは、それだけでは無い。

サイドテーブルに置かれた仕事用タブレットを手に取る。

アイがいるから分かってはいたけれど、まだ勤務時間内のようだ。

何か情報がないかとメッセージや、タイムラインを見返す。

メッセージには私への過去の指示が残っていた。

 

〝対象:???(T-01-75-?)〟〝作業内容:鎮圧〟。

 

アブノーマリティの番号をエンサイクロペディアで調べてみる。

するともうあの黒い塊の情報は提示されていた。

そこにはこう書かれている。

 

 

〝突如として現れた正体不明のアブノーマリティ。〟

 

〝極めて危険な個体である。警戒せよ。〟

 

〝いくつもの死体が融合し出来たものと考えられる。〟

 

〝その死体の山は、たくさんの笑顔で死の臭いを探している。〟

 

 

名前までもう、決められているようだった。

 

 

〝笑う死体の山。〟

 

 

私はその文字を見て、収容室のことを思い出す。

やはり曖昧な部分は多い。それだけショックだったということだろうか。

それでもさすがに、忘れられない。

 

 

『ごめん』

 

 

 

 

 

「……笑ってなんか、いなかったけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新人と紹介された時の、貴方の驚いた顔に思わず笑ってしまった。

我ながら怖い後輩だ。尊敬してるからと言って、先輩を追いかけて転職までするなんて。

 

それでも俺は後悔はしない。ずっと貴方の背中を追いかけて、いつか隣に並ぶんだ。

 

そしていつか、俺に後輩が出来たら。

そいつが誰にでも誇れる、いい仕事したら。

言ってやるんだ。あなたのように。『すげーじゃん』って。

 

 

『ありがとう』って。

 

 

 

 

 







ばいばいレナード。




死んだ蝶の葬儀_死んだ私はどこに行く?

参考:https://lobotomy-corporation.fandom.com/ja/wiki/The_Funeral_of_the_Dead_Butterflies


笑う死体の山_sorry.

参考:https://lobotomy-corporation.fandom.com/ja/wiki/Mountain_of_Smiling_Bodies











以下読まなくてもいい補足、アンケートです。


【ちょっとしたネタ】

死体の山のレナードの『ごめん』。「」ではなく、回想時に使ってる『』を使ったのは、レナードが過去の人だからです。





【死体の山について、原作知ってて、ん?ってなった人へ】

今回あまりに上手く書けなかったために伝わらなかったであろう笑う死体の山の補足。

百合ちゃんの〝人外に好かれる体質〟はこのアブノーマリティには通用しません。
ゾンビのように食欲のみが残ってるという理由もあるのですが、そこは書かなかったのでこの作品には影響してないです。
笑う死体の山は元々エージェント達だったので、百合ちゃんへ特別な好意を持つことは無いです。
今回百合ちゃんを襲う一歩手前で止まったのはレナードのおかげでした。

レナードについては本編では一応これで終わり。もしなにか掘り下げて聞きたいこととかあればコメントいただけると。



【アンケート】

次何書くか迷ってます。



昔話は好きですか?寝物語に貴方は何を聞いてましたか?
誰も知らない森の、三羽の鳥の話はいかがですか。

「ぼうや、ぼうや、古い物語を聞きたい?」

彼女は私にそう言った。目に蠢く蛆に寒気を覚えながらも私は耳を傾ける。

誰もいない黒い森には恐ろしい怪物が住んでいる。
だから私は、知らなければならない。




「結局私は道具でしか無かったの。」

そういった彼女は泣いていた。私はそれを拭うけれど、溢れてしまったそれは、永遠に流れているように思えた。

テレビの中のあなた達はキラキラしていて、憧れだったけど。
こんな世界に実際にいたら……きっと、彼女たちは傷付いてばかりなんだろう。

──魔法少女は一人じゃない。




①と②どっちが見たいですかね?上のように書けるかは分かりませんが今の大体のプロットを書いてみました。


アンケートご協力お願いいたします。いつもありがとうございます。


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