【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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The Knight of Despair_1

名称、〝笑う死体の山〟が現れてから数日。

あの時集められた人の中で、死人はいないようだった。

それでも大きな怪我でまだ仕事復帰できない人もいるみたいだが、私が囮として動いたことは彼らの中で評価されたらしい。

出社されると、皆から賛辞の言葉をかけられる。

前のチームではなかったことで、私は隠すことも出来ずに照れてしまった。

気分がいい。こんなにも晴れやかな気持ちで出社したことは、今まで無かったくらいに。

 

そんな私を見て、ダニーさんが失礼にもため息をついた。

 

「ダ、ダニーさん……?おはよう、ございます。」

「おはようございます。……ユリさん、今日は偉く上機嫌ですね。なんとなく、理由は察してますが。」

「ダニーさんは……その、何か嫌なことでもありました……?」

 

私とは対照的にとても機嫌の悪いダニーさん。

つい引き気味になってしまうのは私のせいではない。ダニーさんの眉間の深いシワのせいだ。

 

「……聞きたいことがあります。」

「なんですか……?」

「何故、囮になんてなったんですか。」

 

そう言われて、私は素直にことの経緯を話した。

と言っても、上からの指示であっただけなのだけで。私はそれに従っただけなのだけど。

伝えると、ダニーさんの顔がより険しくなる。

なにかまずいことを言っただろうか。顔色を伺いながら伝えたせいで、我ながらおどおどした話し方になってしまった。

 

「……上には言っておきます。今度からそういう指示があっても従わなくていい。」

「え、」

 

ダニーさんは踵を返す。早足で去っていくダニーさんを見て、慌ててその背中に叫んだ。

 

「私も、力になれるんだって。……みんなの役にたてるんだって!信用して貰えたみたいで!」

 

そう、私はあの時、嬉しかったのだ。

囮と言われて頭は真っ青になった。怖くして仕方なかった。

特別では無いと言われて、それは胸に刺さった。

何も言い返せなかった。だって、それは。

 

「ずっと私、そうなりたかったんです。」

 

守られるんじゃなくて。守りたかった。誰かの助けになって。ありがとうって言われたかった。

実際そうなった時、何を怖がってるんだと自分に苛立った。そうなりたいとずっと願ったのは自分だろうと。

アイの背中を見て、また守ってもらうのかと。

だから走った。あの時のことはまだ恐怖としてはっきり残っているけど。

それでも。

 

「ダニーさんっ、少しは私、役に立てましたかねっ!」

 

期待を込めて、ダニーさんに尋ねる。

正直褒めてもらうつもりで、そう言った。無茶しないように彼は言うだろうけど、それでも良くやったと褒めてもらえるだろうと。

成長したと、思って貰えたと。私は本当に思っていたのだ。

 

「ふざけるな!!」

「っ……!?」

 

急に大きく怒鳴られて、怖くて後ずさってしまった。

しかしダニーさんは逃がすまいと、私の肩を強く掴む。

ぎりっと、皮膚に爪がくい込んだ。痛い。

 

「いいか、なにがあっても、もう絶対にあんなことはするな!!自分の立場をわきまえろ!!」

「ダ、ダニーさ……、」

「絶対に思うなよ!!それが当たり前なんて……、それが誇りだなんて絶対に思うな!!なにがあっても安全を考えろ!!わかったか!!」

「でも、」

「でもじゃない!!言うことをきけ!!」

 

勢いに最初こそ怖いと思ったが、それを追いかけて悲しみが込み上げてきた。

なんでそんな事言うの、と唇を強く噛む。涙を、堪える。

頑張ったから、評価して貰えると思った。ありがとうと、仲間として認められると思っていた。

 

「私は!!」

 

悔しくて、悔しくて。認められないのが悲しくて。

色んな言葉が口から出そうになる。

 

「……わかり、ました。」

 

それでも、それを言ったらきっと言葉と一緒に涙も溢れてしまうから。

何もわかりたくなかったけど。大人しく、ダニーさんにそう言った。

強く手を握る。だめだだめだ。泣くな。

 

 

※※※

 

 

ダニーさんのことをできるだけ考えないようにしながら廊下を歩く。

でもやはり、悲しみは薄れなくて。とぼとぼと、情けなく仕事に向かった。

タブレットに表示されたのは、また新しいアブノーマリティ。

重いため息が出る。なんだかもう、やる気はすっかり削ぎれてしまった。

たどり着いた扉のロックを解除する。もっとちゃんと構えて仕事しないと分かってる。

新しいアブノーマリティなら尚更警戒しないといけない。

そう思っても重い気持ちがまとわりついて私の足を引っ張る。

再び大きくため息をついて、中に入った。

 

「……わ、」

 

女神がいる。と思った。

キラキラとした、夜空のような色が私の瞳を塗る。

あまりにも綺麗で一瞬呼吸を忘れた。いけない、と直ぐに我に返ったけど。

女の子がいる。キラキラしてる女の子。

 

「……こんにち、は?」

 

一応挨拶をするが、返事はない。

話せないのだろうか。聞こえてないのだろうか。どちらでもなく、ただ無視してるだけなのか。

それか眠っているのだろうか?その目は閉じている。長いまつ毛が、目の下に影を作っていた。

 

……いや。もしかしたら、生きていないのかもしれないとすら思う。

 

陶器の置物のように綺麗な人だった。

青い長い髪が、ふわりと天ノ川のように流れている。

真っ白な肌はつるんとしてて、白磁の肌とはまさにこの事だろう。

その肌に、またドレスの似合うこと。胸元のグレーから、裾の黒まで、青のグラデーションになってる。

まるで彼女の髪のようだ。そういえば彼女の髪の先も黒い。

それだけ見れば、ただの美しい人だ。

けれど決定的に、私たちと違う部分がある。

 

「……お顔……どうしたの?痛い?」

 

彼女の顔の半分は、真っ黒な闇に覆われている。

闇は角のようなトゲもあって、まるで半分だけ別物だ。

それが悲しいのか分からないけど、半分の顔は苦しそうに歪んでいた。目の下に、小さな模様がある。

雫の形をした黒い模様は、涙のように見えた。

それすらも綺麗なのは、きっと元の美しさだろうけど……。

痛々しいと思ってしまう。可哀想だと。

 

「……お姫様、なのかな?」

 

よく見ると頭に小さなティアラもしている。お姫様がなんでそんな所に……、と私は眉をひそめた。が。

 

「……姫じゃないわ。」

「え、」

 

彼女が口を開いた。

 

「魔女よ。」

「ま、魔女……?」

「あなたから、あの人の匂いがする。」

「えっと……?」

 

あの人?と首を傾げると、彼女は私のウエストバックを指さした。

なんてことない、いつものウエストバックだ。

指をさして動かない彼女に私は困ってしまう。ファスナーを開けて、中身を取りだした。

いつもの掃除用具。いつものアブノーマリティのご飯。PCタブレット。間食に持ってきたソーダの飴。

 

「それ。」

「……え、これ?」

 

そして、ハートの髪飾りが入った巾着。

これはアイからもらった髪飾りだ。友達の印と言われたので、傷つかないように巾着に入れてずっと持っているようにしてる。

巾着から髪飾りを出して彼女にみせた。

 

「あの人のだわ。」

「アイの知り合いなの?」

「アイ?」

「あ……えっと、私が、そう呼んでて。彼女も、魔女なんだけど……。」

「……仲間よ。」

「え、」

「あの人と、私は。かつて同じ目的をもった、仲間だった。」

 

その言葉に私は驚きのあまりに髪飾りを落としてしまった。

慌てて手を伸ばすが、落ちるよりも先に彼女が受け止めてくれた。

私はそれをありがとうと受け取る。幸いなことに傷はついてない。

 

「あの人は……元気?」

 

その問いに、私は震える声で応える。

ドキドキしている。興奮で体が震える。

なんとか叫びたい気持ちを抑えて、まっすぐと彼女を見つめた。

かつてアイに言ったのと同じセリフを用意する。

あの時は、アイを驚かしてしまったから。今度はちゃんと伝えるんだ。

 

「私、私ね、ずっと、あなた達に、憧れてたの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──魔法少女は一人じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






コメント返す言って返さなくて本当に失礼しました……。
前回からのコメントは順に返していくつもりです。
よく無理しなくていいって言ってくださいますが、余裕ある時は返したい。読者さんと仲良くしたい(欲望丸出し)

アンケートありがとうございました。魔法少女第2弾。みんな大好きなあの子です。原作知ってる方はアイちゃんとこの子どっちが好きですかね?2人とも大好きだけど私は小説書いててアイちゃん派になりました。かんわい。





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