【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
名称、〝笑う死体の山〟が現れてから数日。
あの時集められた人の中で、死人はいないようだった。
それでも大きな怪我でまだ仕事復帰できない人もいるみたいだが、私が囮として動いたことは彼らの中で評価されたらしい。
出社されると、皆から賛辞の言葉をかけられる。
前のチームではなかったことで、私は隠すことも出来ずに照れてしまった。
気分がいい。こんなにも晴れやかな気持ちで出社したことは、今まで無かったくらいに。
そんな私を見て、ダニーさんが失礼にもため息をついた。
「ダ、ダニーさん……?おはよう、ございます。」
「おはようございます。……ユリさん、今日は偉く上機嫌ですね。なんとなく、理由は察してますが。」
「ダニーさんは……その、何か嫌なことでもありました……?」
私とは対照的にとても機嫌の悪いダニーさん。
つい引き気味になってしまうのは私のせいではない。ダニーさんの眉間の深いシワのせいだ。
「……聞きたいことがあります。」
「なんですか……?」
「何故、囮になんてなったんですか。」
そう言われて、私は素直にことの経緯を話した。
と言っても、上からの指示であっただけなのだけで。私はそれに従っただけなのだけど。
伝えると、ダニーさんの顔がより険しくなる。
なにかまずいことを言っただろうか。顔色を伺いながら伝えたせいで、我ながらおどおどした話し方になってしまった。
「……上には言っておきます。今度からそういう指示があっても従わなくていい。」
「え、」
ダニーさんは踵を返す。早足で去っていくダニーさんを見て、慌ててその背中に叫んだ。
「私も、力になれるんだって。……みんなの役にたてるんだって!信用して貰えたみたいで!」
そう、私はあの時、嬉しかったのだ。
囮と言われて頭は真っ青になった。怖くして仕方なかった。
特別では無いと言われて、それは胸に刺さった。
何も言い返せなかった。だって、それは。
「ずっと私、そうなりたかったんです。」
守られるんじゃなくて。守りたかった。誰かの助けになって。ありがとうって言われたかった。
実際そうなった時、何を怖がってるんだと自分に苛立った。そうなりたいとずっと願ったのは自分だろうと。
アイの背中を見て、また守ってもらうのかと。
だから走った。あの時のことはまだ恐怖としてはっきり残っているけど。
それでも。
「ダニーさんっ、少しは私、役に立てましたかねっ!」
期待を込めて、ダニーさんに尋ねる。
正直褒めてもらうつもりで、そう言った。無茶しないように彼は言うだろうけど、それでも良くやったと褒めてもらえるだろうと。
成長したと、思って貰えたと。私は本当に思っていたのだ。
「ふざけるな!!」
「っ……!?」
急に大きく怒鳴られて、怖くて後ずさってしまった。
しかしダニーさんは逃がすまいと、私の肩を強く掴む。
ぎりっと、皮膚に爪がくい込んだ。痛い。
「いいか、なにがあっても、もう絶対にあんなことはするな!!自分の立場をわきまえろ!!」
「ダ、ダニーさ……、」
「絶対に思うなよ!!それが当たり前なんて……、それが誇りだなんて絶対に思うな!!なにがあっても安全を考えろ!!わかったか!!」
「でも、」
「でもじゃない!!言うことをきけ!!」
勢いに最初こそ怖いと思ったが、それを追いかけて悲しみが込み上げてきた。
なんでそんな事言うの、と唇を強く噛む。涙を、堪える。
頑張ったから、評価して貰えると思った。ありがとうと、仲間として認められると思っていた。
「私は!!」
悔しくて、悔しくて。認められないのが悲しくて。
色んな言葉が口から出そうになる。
「……わかり、ました。」
それでも、それを言ったらきっと言葉と一緒に涙も溢れてしまうから。
何もわかりたくなかったけど。大人しく、ダニーさんにそう言った。
強く手を握る。だめだだめだ。泣くな。
※※※
ダニーさんのことをできるだけ考えないようにしながら廊下を歩く。
でもやはり、悲しみは薄れなくて。とぼとぼと、情けなく仕事に向かった。
タブレットに表示されたのは、また新しいアブノーマリティ。
重いため息が出る。なんだかもう、やる気はすっかり削ぎれてしまった。
たどり着いた扉のロックを解除する。もっとちゃんと構えて仕事しないと分かってる。
新しいアブノーマリティなら尚更警戒しないといけない。
そう思っても重い気持ちがまとわりついて私の足を引っ張る。
再び大きくため息をついて、中に入った。
「……わ、」
女神がいる。と思った。
キラキラとした、夜空のような色が私の瞳を塗る。
あまりにも綺麗で一瞬呼吸を忘れた。いけない、と直ぐに我に返ったけど。
女の子がいる。キラキラしてる女の子。
「……こんにち、は?」
一応挨拶をするが、返事はない。
話せないのだろうか。聞こえてないのだろうか。どちらでもなく、ただ無視してるだけなのか。
それか眠っているのだろうか?その目は閉じている。長いまつ毛が、目の下に影を作っていた。
……いや。もしかしたら、生きていないのかもしれないとすら思う。
陶器の置物のように綺麗な人だった。
青い長い髪が、ふわりと天ノ川のように流れている。
真っ白な肌はつるんとしてて、白磁の肌とはまさにこの事だろう。
その肌に、またドレスの似合うこと。胸元のグレーから、裾の黒まで、青のグラデーションになってる。
まるで彼女の髪のようだ。そういえば彼女の髪の先も黒い。
それだけ見れば、ただの美しい人だ。
けれど決定的に、私たちと違う部分がある。
「……お顔……どうしたの?痛い?」
彼女の顔の半分は、真っ黒な闇に覆われている。
闇は角のようなトゲもあって、まるで半分だけ別物だ。
それが悲しいのか分からないけど、半分の顔は苦しそうに歪んでいた。目の下に、小さな模様がある。
雫の形をした黒い模様は、涙のように見えた。
それすらも綺麗なのは、きっと元の美しさだろうけど……。
痛々しいと思ってしまう。可哀想だと。
「……お姫様、なのかな?」
よく見ると頭に小さなティアラもしている。お姫様がなんでそんな所に……、と私は眉をひそめた。が。
「……姫じゃないわ。」
「え、」
彼女が口を開いた。
「魔女よ。」
「ま、魔女……?」
「あなたから、あの人の匂いがする。」
「えっと……?」
あの人?と首を傾げると、彼女は私のウエストバックを指さした。
なんてことない、いつものウエストバックだ。
指をさして動かない彼女に私は困ってしまう。ファスナーを開けて、中身を取りだした。
いつもの掃除用具。いつものアブノーマリティのご飯。PCタブレット。間食に持ってきたソーダの飴。
「それ。」
「……え、これ?」
そして、ハートの髪飾りが入った巾着。
これはアイからもらった髪飾りだ。友達の印と言われたので、傷つかないように巾着に入れてずっと持っているようにしてる。
巾着から髪飾りを出して彼女にみせた。
「あの人のだわ。」
「アイの知り合いなの?」
「アイ?」
「あ……えっと、私が、そう呼んでて。彼女も、魔女なんだけど……。」
「……仲間よ。」
「え、」
「あの人と、私は。かつて同じ目的をもった、仲間だった。」
その言葉に私は驚きのあまりに髪飾りを落としてしまった。
慌てて手を伸ばすが、落ちるよりも先に彼女が受け止めてくれた。
私はそれをありがとうと受け取る。幸いなことに傷はついてない。
「あの人は……元気?」
その問いに、私は震える声で応える。
ドキドキしている。興奮で体が震える。
なんとか叫びたい気持ちを抑えて、まっすぐと彼女を見つめた。
かつてアイに言ったのと同じセリフを用意する。
あの時は、アイを驚かしてしまったから。今度はちゃんと伝えるんだ。
「私、私ね、ずっと、あなた達に、憧れてたの。」
──魔法少女は一人じゃない。
コメント返す言って返さなくて本当に失礼しました……。
前回からのコメントは順に返していくつもりです。
よく無理しなくていいって言ってくださいますが、余裕ある時は返したい。読者さんと仲良くしたい(欲望丸出し)
アンケートありがとうございました。魔法少女第2弾。みんな大好きなあの子です。原作知ってる方はアイちゃんとこの子どっちが好きですかね?2人とも大好きだけど私は小説書いててアイちゃん派になりました。かんわい。