Snow Fairly Blade Works 作:千本虚刀 斬月
ただでさえ深夜と言って良い時間帯、尚且つあの様な事件の直後だけに道中の人気は殆ど無い。そんな中、一行が車に乗せられ、走る事30分弱。辿り着いた場所はリディアン音楽院だ。
本来なら教職員や警備員くらい居てもおかしくない筈なのだが、すれ違うどころか気配さえ感じない。灯が消えて、暗く沈んだ校舎はなんとも薄気味悪い。イリヤはまだしも、響と未来はゴツい手枷を填められているのも相まって不安な気持ちになるのも致し方あるまい。
「まさか、こんな形でこの学院を訪れる事になるなんてね・・・」
「・・・うん、来るとしたらちゃんと入学した時だと思ってた。」
「うん?そっちの二人はリディアンに進学志望だったのか?」
「はい、そうなんです。その・・・2年前の、あのライブでノイズに殺されそうになったときに助けてもらって、その時のお礼が言いたくて。本当に有り難うございます。」
「あの時は助けて頂いて、有り難うございます。」
響と未来の二人は、ツヴァイウィングの二人に深々と頭を下げる。そしてイリヤも
「私からも、改めて御礼申し上げます。貴方達のおかげで私は大切な親友達を失わずに済みました。感謝致します。」
「あ~、んな改まって礼を言われる程の事じゃ無いって。あの時は考えるより前に身体が勝手に動いたって言うか・・・」
「私も、防人としての務めを果たしただけです。」
そもそも、あの一件は完全聖遺物『Nehushtan』の起動実験の結果、制御不能に陥り暴発してしまったが故の事である。その様な事情もあって、若干バツが悪そうに視線を逸らす。
「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」
場が沈黙に包まれ、やや重い空気になったところでエレベーターに乗り込む一同。ただ、6人も入ると定員一杯で結構キツい。なので、唯一の男性である緒川 慎次はかなり気を遣う事になった。何しろ現役JKアイドルとJC達である。万一にもセクハラ認定を受けぬように細心の注意を払わねばならない。
「これから一気に下まで行くので、何かに掴まって下さい。フリーフォール程ではありませんが、結構勢いがありますから。」
「「え?ええ?・・・って、うわああああぁぁぁぁぁぁ!!!??」」
二人は、絶叫を上げながら手近なモノにしがみつく。唯一の男性である緒川 慎次に。それはもうガッチリと。
ふと、イリヤと、眼が、合う
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「━━━━━━━━━━━━━━━━━━」
後に緒川 慎次はこの時の事を震えながら、こう語った。
「ええ、生きた心地がしませんでしたよ。彼女の目を見た瞬間、まるで大紅蓮地獄に堕とされたと錯覚しました。」
それはそれとして、このエレベーター、どう見ても異常だ。降下速度はもとより、シャフト自体の広大さと深遠さ、何より数多の壁画。
イリヤは不意に、途轍もなく強大な砲身の中に居る様な不安に囚われた。刹那、光の柱が天を衝き月を穿つ様を幻視する。
(こんなバカげた妄想に囚われるなんて、ダメねコレじゃあ。これから重大な交渉をしなきゃいけないってのに。)
理由も根拠も何処にも無い。自分には直感や啓示のようなスキルは無いし、千里眼にしても未来視を可能とするランクでは無い。そう考えて、目先の交渉に意識を集中させる。
エレベーターが漸く停止し、軽快な電子音を発する。そして、扉が開かれた先には驚愕の光景が広がっていた!!?
「ようこそ! 人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!」
「「・・・・・・・へ?」」
「・・・・・・・えっと・・」
シルクハットをかぶった偉丈夫が、その後ろには制服を着た職員達が満面の笑みで歓待している。吊された横断幕には大きく「熱烈歓迎!!」と書かれ、各種縁起物に、テーブルに並ぶ料理の数々。
これにはイリヤも唖然とし、殆ど毒気を抜かれてしまいそうになった。そこに一人の女性が携帯端末を片手に歩み寄って来る。抜群のプロポーションを誇る妙齢の美女なのだがマッドサイエンティストのオーラを感じる。そして何より、
「さぁさ、笑って笑って。お近づきの印にツーショット写真♡」
「・・・その前に、コレ外して頂ける?」
手枷を外して貰い、それぞれの持ち物を返却して貰ったところで、改めて自己紹介の流れとなった。
「では、改めて自己紹介だ。俺は風鳴 弦十郎、ここの責任者をしている。」
見るからに屈強な男性で、世が世なら伝説の大英雄にもなり得たかも知れない、そんな印象を抱かせる人物だった。
「そして私は出来る女と評判の櫻井 了子。ヨロシクね♪」
響と未来の二人は、場の空気に呑まれて居るのかすんなりと迎合している。しかしイリヤとしては、信頼は出来ても信用し難い。まあどの分野であっても、突き抜けた研究者は大抵がそういうものだが。
「さて、君達に此処にお越し願ったのは他でもない。協力を要請したいことがあるからなのだ。」
「―――協力、ですか。」
「ああ、そうだ。っと、その前にちゃんと説明しておかないとな。」
シンフォギア。それは聖遺物の破片から復元した程度の不完全な状態でありながら、一般人程度の身体能力しか持たない少女を超人に変貌させてのける代物。アンチノイズプロテクターとも呼称され、ノイズに対抗できる数少ない手段の一つ。ただし、汎用性に著しく欠ける。高い適性を有する人間の、心底から湧上がる歌唱が必須なのだ。一応、薬物の大量投入で適合数値を無理矢理引き上げることも可能ではあるが、使用者に尋常では無い過負荷を強いる為、実用的とは言い難い。
そんな物を見て軍事転用を考えない国家などまず存在しないだろう。そして、思い至った以上は試さずにはいられないのが人間の性である。
それが未だに為されていないのは、今はまだシンフォギア自体の数が少なく、使う事が出来る者もなかなか見出す事が出来ないからでしかない。その為のノウハウが蓄積され総数を増やすことが可能な段階に至れば、それを独占している日本から力づくでも簒奪しようとする国家が必ず出てくるであろう。
なにしろ、秘められた未知の力を解き明かすため、遥かな昔から様々な国が収集と研究を重ねて、其れでも尚、真価を発揮させる事が出来ずにいたのだから。多くの欠点が未だ残っているものの、どの国も喉から手が出るほど欲しいに決まっている。
神秘の薄れたこの時代において尚、これ程のものを生み出した櫻井 了子は神域の天才であり、同時にこの御時世においては神代の天災と言えるだろう。
もっとも、
「そして、現状において我々二課が保有しているシンフォギアは、翼の持つ第1号聖遺物『天羽々斬』、奏の持つ第3号聖遺物『ガングニール』の2つだ。」
本来、交渉の場に措いて、初手から手札をフルオープンなど愚の骨頂。そんな真似をしでかす相手など、逆に信用できないというもの。『切り札は先に見せるな。見せるのなら、さらに奥の手を持て』これは戦闘のみならず交渉の場においてもセオリーたり得る。
だが、目の前の漢はソレを、こうもぶっちゃけるなんて!?・・・信じがたいにも程がある!!
「・・・・・私、未だ要請を引き受けてさえ居ないのだけど・・」
「だが君は断らないだろう?なにせ、相当なお人好しみたいだからな。」
イリヤとしては正直、不本意な評価である。自分は決して聖人君子の類いでは無いし、正義の味方をめざすつもりも無い。そう、これはあくまでも
「━━━━━━━━━━━━━━━━━━わかりました。ただし、幾らか条件を付けさせて貰います。」
「うむ、聴こう。」
イリヤが提示した幾つかの条件を、二課長は二つ返事で受け入れていく。普通ならウラを疑うところだが、この筋金入りのお人好しが相手ではその手の心配をする方がバカらしくなってくる。
話が終盤に差し掛かったところで漸く、当然ながら尋ねられた。
「さ~て、それじゃあ訊かせて貰いましょうか?貴女自身と、その能力について。」
シンフォギア装者の戦闘能力ですが、現時点では慎二がマスターの時のライダー位を想定しています。
そして生粋の現代人なのに、ナチュラルに正当な騎士クラスとも渡り合える司令官。存在自体がある種の特異点なので死徒をも斃し得る。まさにOTONA