Snow Fairly Blade Works   作:千本虚刀 斬月

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Archer

 あのライブでの事件から数ヶ月が経過した。あの一件は世間に大きな波紋をもたらした。ノイズによる直接的な被害者は少なかったのだが、それでも少なからず死傷者が出た。しかもその主な理由が逃走中の将棋倒しや避難経路の取り合いなのだからどうしようも無い。

 

そしてもう一つの理由が、ある動画である。それは観客が撮影していた物で、イリヤがノイズ相手に無双し、螺旋剣でノイズの群を空間ごと抉り穿った場面までバッチリ映っていた。宝具の完全投影+公衆の面前での魔術行使など、もしこの世界にも魔術協会があれば封印指定確実のやらかしぶりである。

 

生存者へのバッシングは暫くすれば落ち着いたものの、当然今度は謎の少女についての考察および探索の流れになった。その当の本人は―――――――

 

 

 

 

 

 朝の5時、まだ空は暗い。イリヤはその時間に起床する。広い武家屋敷に一人暮らしなのだから勉強以外にもやるべき事はたくさんある。洗濯や朝食の仕込みに放課後のアルバイト、そして鍛錬。睡眠時間は驚きの平均4時間と常人なら間違いなく潰れるところだが、平気なのはデミ・サーヴァント故の耐久力と『鞘』の回復力の賜物である。

 

あの一件でイリヤは痛感した。いかにデミ・サーヴァントと成ろうと、能力も技術も所詮借り物でしか無いと。あの時はツヴァイウィングという想定外のイレギュラーのおかげで響と未来は助かった。だがもしも再びあのような事態に陥った場合、今の自分では守り切れないかも知れない。借り物の力を、本当の意味で自分の物にしなければならない。

 

屋敷には様々な結界を重ね掛してあるので多少の魔術行使ならば外に魔力が漏れることは無く、外出するときは聖骸布を身に付けている。表面上は一応の平穏を保てているが、そんなものは何時までも続くものでは無い。

 

今朝の鍛錬は道場で体術である。エミヤが習得していた武術は、八極拳を中心に空手、合気、サバット、システマ等の様々な流派を独自にCQCに昇華させたものである。それをひたすらに反復することで身体に直接覚えさせる。

 

2時間後、鍛錬を切り上げ、シャワーを浴び、朝ご飯を食べる。どんなに忙しくても食事はきっちり欠かさず食べる。単にルーティンや栄養摂取だけでは無く、美味しいものを食べると楽しいし元気が出るのだ。

 

今朝の献立は、炊きたての白米、若布とえのきの味噌汁、だし巻き卵、豆腐の肉巻き甘酢あんかけ、キュウリの浅漬けの5品。何品かはお弁当にも流用しているがそれくらいは許して欲しい。なにしろ毎日のことなので内容を考えるのも大変なのだ。主婦は偉大なのだ。

 

食べたら食器は直ぐ洗う。放置するほどに汚れはどんどん頑固になっていくのだから当然だ。うっかり一晩放置されたカレー鍋など目を覆いたくなる。

 

時刻は8時、朝のホームルームまであと30分。少し急げば充分間に合う時間。

 

「さて、と。それじゃ、行ってきます。」

 

 

 

 

 

 イリヤ達は3年生に進級していた。そろそろ高校受験を本格的に視野に入れなければならない時期である。クラスにも徐々にピリピリとした緊張感が漂い始めていた。イリヤは家庭の事情も相まって最寄りの公立校へ、親友の響と未来は私立リディアン音楽院の高等科への進路を第一希望としている。

 

だがそれはそれとして、色恋沙汰に興味を示さずには居られない年頃でもある。女三人寄れば姦しいと諺がある通り、今日も放課後の帰り道で3人寄り集まって盛り上がっている。話の種は昼休みの時に男子から告白されたイリヤについて。

 

イリヤはモテる。文武両道で才色兼備。恐ろしいほどに整った顔立ちと紅玉の如き瞳に処女雪を思わせる髪、時折取る貴族然とした所作と言動、エミヤ譲りの家事スキルと隠しきれない世話焼き気質。モテすぎる余りにモテない逆転現象まで起きているほどである。「雪の妖精」だの「白銀の姫君」だの「アルテミス様」だのいろんな渾名を頂戴していたりもする。もっとも、殆どの男子は直接アタックする度胸も無く遠巻きに眺めながら互いに牽制し合っている状態である。

 

しかしイリヤ自身はその事を余り自覚していなかった。精々が「この見た目の所為で何かと目立っている」程度の認識である。今までその手の経験など碌に無く、さして興味も湧かなかったのだ。

 

そもそもイリヤは男性の知り合いが少なく、その中でも好意に類する感情を抱いたのは父親である切嗣、義弟である士郎、自身が召喚したサーヴァントであるヘラクレス、アーチャーにして未来の士郎であるエミヤ、此方の世界の切嗣の5人くらいだ。この面子との比較に耐えうる男などそう居るはずも無い。

 

以上の事情から、イリヤは後腐れの無いように丁重にお断りさせてもらい、当たって砕けた男子は塵も残らず霧散した。

 

「で、断っちゃったんだ。相変わらずの鉄壁だねぇ。」

 

「今まで良いなって思える人とか居なかったの?」

 

「う~ん、殆ど居ないわね。」

 

「むー、もったいないな~。」

 

「イリヤちゃん、すごくモテるもんね。」

 

「私のことはいいの。それを言うなら二人はどうなのよ?二人とも実は結構ファンが多いらしいじゃない?」

 

「えぇ~!そんなことないよ~!」

 

「そうだよー、未来はともかく私なんか全然だよ。」

 

数日後には忘れていそうな他愛の無い話、これもまたありふれた青春の一幕であろう。

 

「響と未来はこれから塾だっけ?二人が目指す私立リディアン音楽院高等科って偏差値高いから、響は特に頑張らないとね。」

 

私立リディアン音楽院は基本、小中高一貫教育を掲げているが中等科、高等科への切り替え時に外部の生徒を編入させることもある。まず各種音楽教科を中心に据え置き、そこに一般教科を組み込むという独自のスタイルで有名だ。更にタレントコースが特設されて、ツヴァイウィングの二人が在籍している為、憧れて入学・編入する生徒があとを絶たないのだとか。

 

「あうぅ。でも頑張る!合格して入学出来れば、奏さんはもう卒業だけど翼さんには会えるだろうし。」

 

「そうだね、あの時のことをちゃんと聞きたいし。」

 

「・・・・・・そう。ま、そういう事なら尚更頑張って勉強しないとね。」

 

イリヤは親友である二人に真実を打ち明けられないことに忸怩たる思いを抱きながらも表情には出さない。それに自分のことはともかく、あの二人の力やバックグラウンドについては本当に何も解っていないのだ。

 

(少なくとも天羽 奏と風鳴 翼の二人は利己的な悪意や邪な下心で動く人間には見えなかったし、響と未来は目撃者ではあっても此方側のことは何も知らない一般人。私が調べた限りライブから生還した後、不自然に失踪した人も居ない。リディアンが怪しいのは確かだけど、危ないって程じゃないか。)

 

 

 

 

 

 この世界において、魔術は彼方の世界と殆ど変わらぬカタチで信仰されている。つまり魔術基盤は大差なく、しかし若干の違いがある。彼方では世界で最も広く強固な魔術基盤を有しているのは、聖堂教会による神の教えであったが、此方ではノイズとなっている。なにしろ遙か昔から人類だけを殺し続けてきた災厄として誰もが恐れながら、詳細は一切不明と来ている。

 

神秘はより高位の神秘によって打ち消され、敗れた側は空想に堕ちるのが道理である。生半可な概念武装では通用しないだろうノイズの位相差障壁を問答無用で否定出来るだけのものなど極限られる。

 

一つめは固有結界。術者の心象風景で現実世界を塗りつぶし、異界を製造する大禁術『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)

 

二つめが神造兵装。最強の幻想(ラスト・ファンタズム)と誉れ高い星の聖剣『約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

だがイリヤは余程の状況でも無い限り使うつもりはない。それ以外にも相性の良い特性を持つ宝具は有る。因果逆転の呪詛を帯びた魔槍『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』空間ごと抉り穿つ『偽・螺旋剣(カラドボルグII)』魔術的防御を無効化させる『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』或いは魔音による衝撃波で広域破壊をもたらす『恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)』も有効かも知れない。

 

とは言え、この状況下ではどれも必要ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 山間部にある小規模な集落に顕現したノイズの一団、軍隊で言えば中隊を越える規模である。人間を狩る災厄の群。だがこの場においてノイズは蹂躙される側に立っていた。シンフォギアを纏った二人の少女によって。二人の連携はかなりの精度で、並のサーヴァントとなら戦えるだけの域に達していた。

 

「ちっ!結構飛べる奴の数が多いな。全く鬱陶しいったらない!」

 

「うん、大型は少ないけど飛行型が常に間合の外から隙を突こうとしてくる。気を抜けない。」

 

「あの高さじゃ私達の歌はギリギリ届いても攻撃が中々当たらねぇ。」

 

 

その様子を遠く離れた位置にあるビルの屋上から視ていたイリヤは弓に矢をつがえる。鷹の瞳は直線距離にして約9㎞先のノイズを鮮明に映している。

 

 

「ああもう!!こうなったらいっその事、絶唱でまとめて「ちょっと!ダメだってば!!」じゃあどうすんだよ!?」

 

だが二人の口論の決着が着く前に彼方から飛来する赤色の流星群によって飛行型ノイズは悉く薙ぎ払われた。

 

「!?こ、これってもしかして」

 

「・・・アーチャーの仕業かな。ったく、来るのが遅ぇっての。」

 

 

「さて、後は二人だけで充分でしょうし私はお暇させて貰おうかしら。」

 

イリヤは颯爽とその場から立ち去った。今は未だ接触すべき時ではない。時が来れば嫌でも顔を合わせることになるのだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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