Snow Fairly Blade Works 作:千本虚刀 斬月
夏休みに入ってイリヤは幾つかのアルバイトをしている。以前から勤めていたコペンハーゲンという酒屋兼居酒屋(とある虎教師曰く、毒婦集う女豹の巣)である。ちなみに、あくまで知り合いの手伝いをしてお小遣いを貰っている、という体裁なので労働基準法には触れないと店長は言い張っている。まあ、イリヤからすれば法律など今更ではあるが。
もう一つのアルバイトが、看板娘の蛍塚 音子さんの紹介で極道一門・藤村組の経営する「海の家」である。見目麗しいイリヤが水着でウェイトレスをするだけで大幅な集客率上昇間違いなしであろう。イリヤの着ている水着は、白のワンピースタイプで縁取りと胸元のリボンは赤、それに薄手の長袖パーカーである。陽に当たると肌がすぐあかくなってヒリヒリしちゃうのだ。
「5番テーブルのお客様、イチゴかき氷2つ、ラーメン1つ、焼きそば1つ、お待たせいたしました!」
「2番テーブルのカレー3つとかき氷(レモン2、ブルーハワイ1)お待ち!!」
「は~~い!!」
「すいませーん!ビール中瓶2つとコーラ1つお願いしまーす!」
「はい!少々お待ちを!」
イリヤはウェイトレスとして各テーブルと厨房を忙しなく行ったり来たりしている。勿論他にも店員は居るのだが、イリヤと臨時アルバイトで雇われた六導 玲霞さん以外は藤村組の厳ついお兄さんなので、彼等は基本厨房に回っている。もっとも、お客が調子に乗ってナンパやセクハラでもしようものなら即座にやって来てウラに連れて行く訳だが。
14時になり客足も落ち着きだしたので二人に声が掛る。
「お二方とも、今日はもう上がって良いですよ。というより、売上げのノルマ達成どころか普段の3倍の繁盛振りで食材が切れかかっているんです。まあせっかく海に来たんだし楽しんできてください。」
二人はそれぞれ水着に着替えて浜辺を散歩しながらおしゃべりをする。ちなみに、玲霞の水着はスカサハの色違いである。玲霞はイリヤから見てもとびきりの美人でスタイルも抜群、更に愁いを帯びた表情で儚げな雰囲気を醸し出していた。もっとも、その瞳には時折空虚な闇が垣間見えるが。
話によれば玲霞は裕福な家庭で教養豊かな育ちだったが、両親は二人共に半年前に不幸に遭い天涯孤独な身になったのだそうだ。玲霞自身もその事故に巻き込まれていて死にそうになっていたところに、偶々通りかかったイリヤに助けられたのだ。だがその時の傷心と、自分だけが生き残ったという罪悪感のようなものから、ふさぎ込んでいたところにお節介な虎教師がこのアルバイトを紹介したのだとか。当人達には与り知らぬ事ではあるが、このお節介が無ければ玲霞は絵に描いたような転落人生を歩んでいただろう。無自覚に周囲の人間の不幸を打ち消す辺り、この世界でも彼女の幸運はEXらしい。
それはともかく
玲霞とイリヤが揃って水着で浜辺を歩いているのである。当然の如くナンパされる。しかし
「Was seid ihr?Wirst du mich schlagen?」
(何、貴方達?ナンパ?)
「Gib mir einen Moment, Miss Illya.」
(お手柔らかにね、イリヤちゃん。)
「Das liegt an dir.Ehrlich gesagt mag ich nicht leichtfertig Männer.」
(ソレは相手次第ね。私、チャラい男は嫌いなの。)
「Ich stimme zu.」
(まあ、それは私もだけど。)
ナンパしてきた男共は
「うわっ!やっぱ外人じゃねぇか。」
「つか今の何語?マジでイミフ。」
「ああ、ヤベーな。ナニ言ってんのかさっぱり解んねぇ。」
等と言いながらも肩に手を回そうとしてくる。実に無礼な輩である。
「ま、何でもいいや。オレ達が楽しめりゃな。」
「「だな」」
男達は下卑た笑みを浮かべながらイリヤと玲霞を取り囲む。
「―――Willst du kastriert sein, Hund?」
(・・・去勢されたいのかしら、駄犬共)
されどイリヤは半ば英霊と化した存在。チンピラ風情、100人束になったところで負ける道理は無い。衆人環視の直中で不埒な真似をしでかす愚かな輩を成敗する。
『一夫多妻去勢拳』
からの
『呪相・玉天崩』
そして、とどめの
『常夏日光・日除傘寵愛一神』
クリーンヒット。それぞれに9999のダメージ。死んだ。
「Es ist eine schreckliche vorzeitige Ejakulation?」
「あら、まあ。なんて無惨。ご愁傷様。」
夜になり、夕飯の折に藤村組の若衆にとある注意事項を聞かされる。
「実はこの海水浴場ですがね、あっちの山の方には曰く付きの廃洋館があったりするんです。勿論普段は立ち入り禁止になっていますが、肝試しに無断侵入する若者達も相当数居ましてね。危ないんで決して行ったりしないでくださいね。」
イリヤからすれば無名の亡霊などは大したものではない。その程度ならば、万一こちらに飛び火してきても充分祓えるレベルである。というか、魔術回路を励起させるだけではじき飛ばせる。それこそ柳洞寺のサムライのような例外でも居ない限りは。
「その廃洋館には何かしらの曰くがあったりするのでしょうか?」
「はい。何でも、とある旧家の華族だかが住んでたらしいんですがね?どうもその一族には、下々の者には理解しがたい風習があったみたいなんです。噂では地下に牢獄があって、壁には爪の痕や血で書かれた文字がびっしりとあるとか。」
「あら、まあ。それは怖いですね。」
「ええ。おまけに、肝試しに行ってそのまま帰ってこない奴まで出る始末でして。そんな訳でその廃洋館には絶対に行かないで下さいね。お二人の身に万一何かあろうものなら大河お嬢に顔向け出来ない。」
「はい、分りました。」
「ええ、了解よ。」
その話を聞いて、イリヤはマキリを思い出した。彼もかつては理想を掲げていたが、自身の延命のために幾度も外法を重ねた結果、掲げた理想は魂諸共に腐敗し、吸血蟲の魔物の如く存在になり果てていた。余談ではあるが、シナリオ担当は彼のことが大好きで、登場するとタイピングのノリが変わるのだとか。
イリヤの連想は決して、何の脈絡もないただの追憶では無かった。その廃洋館には、実際に魔物が存在していたのである。
『空柩』の字を持ちながらも
六導 玲霞
読み:りくどう れいか
年齢:16歳
誕生日:1月9日 / 血液型:B型
身長:157cm/体重:48kg
スリーサイズ:B84/W56/H85
特技:料理・ピアノ・戦略シミュレーションゲーム
好きなもの:平穏 / 苦手なもの:肉体的苦痛
所属:私立リディアン音楽院高等科2年生
魔術回路:0本
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。サーヴァントどころか魔術師でさえない現代の一般人としては最高ランクと言えよう。
精神異常:D
事故の影響から情緒がやや破綻気味なため、他の精神干渉系魔術を低確率でシャットアウトしうる。目の前で残虐な行為が行われていてもあまり動じない。物事を俯瞰で見る事が出来る上に、必要に迫られれば倫理や道徳を棚上できる。
魅了:C-
ほんの少し憂いを帯びた表情を浮かべただけで、男を狂わせるような蠱惑的な美貌。声も浮世離れした甘い響きがあり、すれ違っただけで声を掛けようと思う男達が大勢いるが、大半は彼女の瞳に垣間見える虚無に気圧され、諦めている。
これでも一般人です。・・・・・本当ダヨ?だってApocrypha本編よりメンタルがマイルド仕様になってるからネ!