Snow Fairly Blade Works 作:千本虚刀 斬月
突如として街はノイズの大軍勢に飲み込まれた。一切の淀みなく、統率された軍勢の様に。あるいは、蜜に群がる蟻の群の様に。
『
イリヤは諦観の表情を浮かべながらも即座に剣を抜き迎撃する。しかし哀しいかな担い手としての資格を有していないイリヤでは『
「
だが、それで撃破出来たのは攻撃態勢に入っていたノイズのみ。多くのノイズは斬撃をすり抜けていた。解っていた事ではあるが、思わず舌打ちする。
イリヤは赤原礼装に換装し、響と未来に振り返る。
「二人とも、今までで黙っていてごめんなさい。隠してた事については後でいっぱい怒られるし、全部説明する。だから、絶対に生きる事を諦めないで!!」
「う、うん。わかった!」
「私も、へいき、へっちゃら。」
二人は今にも泣き出しそうな、まるで断罪を待つ咎人のようなイリヤの表情を見てそれ以上の事は何も言えなくなってしまった。
イリヤは『
だが、街の人達全てを守り切る事など不可能である。庇いきれない範囲にいる人たちは必死に逃げ惑うも、炭に為って逝く。
その上、ノイズはイリヤをこそ最大の障害と見なした様に群がってくる。思考する機能など持たないはずなのに嫌になるほど的確な行動をとってくる。
状況を俯瞰し、指示を出している黒幕でも居なければ説明がつかない。事実として、イリヤの嫌がる攻撃ばかりしてくる。追い詰める事で此方の手の内を探ろうという意図さえ感じる程だ。
しかし、例えその通りだとしても手札を切らざるを得ない。
「くっ、『
展開された薄紅の光で出来た七枚の花弁の如き楯。一枚一枚が古の城壁と同等の防御力を持ち、トロイアの大英雄ヘクトールの『
前方の小型ノイズは一斉突撃を慣行するも、悉くが儚く散華する。槍衾の様な濁流であろうと決して越える事は許さない。イリヤは楯を支えながら再び剣に魔力を込め
「邪魔、よ!―――
眼前のノイズを薙ぎ払い一掃する。
されど、未だノイズの総数は1000に及ぶ。そしてその全てがイリヤ達を取り囲んで鏖殺せんとしている。
今まではなんとか巧く立ち回って可能な限り背後にノイズが来ない様にしてきたがソレももう限界。とうとう完全包囲されてしまう。
殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ
殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ
殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ
殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ
殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ
こうして奮戦は荼毘に付す。願わくば、少女達の覚悟と決意が、今際の悲鳴に貶められぬよう。
そして――――――
今更ではあるが
この大波が通常の塵芥の集合であったのならば
個体としては煩い雑音でしか無いが、其れはあくまでもイリヤを基準にした場合での話。か弱い少女でしかない響と未来にとっては絶望的な脅威である。
そして、自衛が凡そ不可能な仲間を背後に庇いながら戦うしかないこの状況下においては、数的な不利というのは余りにも大なハンデと為る。
例えば、襲いかかるノイズの大軍勢の内の幾らかを阻止ないし撃破出来たとしても、其れではダメなのだ。僅かでも撃ち漏らしたのならば背後の二人に致命打を与え得るのだから。
そして、今の彼女達は全方位をくまなく包囲されている。聖剣も螺旋剣も魔笛も強大な威力を誇るが、その破壊力は指向性である。四方八方からの同時襲撃には対処しきれない。
で、あるならば。――――――――残る手段はただ一つ。
「────そう、なら見せてあげる。ああ、貴方達が地獄を謳うというのなら」
そしてイリヤは謳い上げる。彼から受け継いだ世界を。
「体は剣で出来ている」
それは、彼が抱いた理想の果て。一つの到達点。
「血潮は鉄で、心は硝子」
誰も傷つかない世界。彼はそんなモノは理想に過ぎないと知った上で、それでもなお求め続けた。
「幾たびの戦場を越えて不敗」
その人生の結晶を、イリヤは受け継いだ。
「ただ一度の敗走もなく」
自身の心象を以て現実そのものを塗りつぶす魔道の最奥
「ただ一度の勝利もなし」
錬鉄の固有結界『
「遺子はただ独り、剣の雪原で黄昏を待つ」
イリヤを基点に世界が塗り替えられていく。
「我が生涯の意義は既に果たし」
晴れ渡る蒼穹と無数の刀剣類が乱立している純白の雪原。
「この体は、今や剣で出来ていた」
世界の在り方が完全に塗り替わり、それによってイリヤ達を全方位から完全包囲していたはずのノイズはまとめて彼方に移行していた。中央に立つイリヤ、その後ろに響と未来の二人は退避している構図となっていた。
人間にとって今回の大軍勢が全てを無明に飲み込む
そもそもノイズ如きがイリヤ相手にまがりなりにも優勢に立てたのは、圧倒的な数の有利と位相差障壁の二つが揃っていたからこそである。だが、そのアドバンテージは失われた。
この期に及んでノイズに残された手段はただ一つ。否、元よりそれ以外の手段など持ち合わせてはいないのだ。
例え壊滅以外の結末が有り得ないと解っていても、それでもノイズは
「ご覧の通り、貴方達が挑むのは無限の剣。剣戟の極地!恐れずしてかかってきなさい! 」
そう言いながらイリヤは、捻れた翼のような装飾が施された宝具を地に突き立てる。
「
これはある世界線において、地の獄より溢れ出た
大地を爆発的に隆起させ、圧倒的な大質量で押し潰す。
地を這いずり回るしか出来ない雑音に為す術など無く、その大半は飲まれて掻き消える。
しかし、多くのノイズが五月蠅く飛び回っている。その数は、200を超える。更に、地上の残響が凡そ100体。
数で言えばそこそこだが、大型サイズ以上の個体は一体も残ってはいない。ならば大軍宝具を後一度振るえば片が付く。魔笛による大音響でも辛うじて消し去る事が出来るだろう。
だが、ノイズには合体、融合することが可能という特性がある。個々としては脆弱であると言うならば、300全てを一つに束ねた場合はどうか?
それは今まで確認されてきた超大型を圧倒するほどに大きく、不特定多数の頭部を有し、その頭部はまるで龍の様であった。その上、後ろに居る響と未来の二人に対して、小型ノイズという毒を吐き散らかそうとしている。
「・・・本当に、つくづく不愉快な雑音ね。いいわ、雑音如きには過ぎた御業だけど、是れで消してあげる。」
イリヤはノイズを殲滅する為に、とある宝具を手元に手繰り寄せる。それは巌の守護者が生前に使用した弩。彼は是でヒュドラの100頭同時殲滅を成し、後に自身の絶技へと昇華させた。
「────投影、装填」
マスターはパスを通じてサーヴァントの過去を夢という形で垣間見る。そしてイリヤとバーサーカーは2ヶ月もの間共に在り続けた。故に、ヒュドラ殺しの場面も当然の如く夢で見ている。
(今、私が挑むべきは自分自身。ただ一つの狂いも妥協もなく、寸分違わずトレースする。)
「我は令呪を以て己に命じる。」
イリヤスフィールとして現状持ち得る全ての特権を惜しみなく動員し、今ここに神話の偉業を再現する。
「