Snow Fairly Blade Works   作:千本虚刀 斬月

9 / 13
随分と遅くなってしまった。本当に済まない。


特異災害対策機動部二課

 特異災害対策機動部の一課が現場に到着したのは、ノイズ発生から15分後の事であった。二課からの報告ではアーチャーと名乗る少女が残存するノイズ約1000体全てを結界に引きずり込んだらしい。俄には信じがたいが実際に街にはノイズは1体も確認されなかった。

 

街の住人の多くが負傷していてる為、一課の職員達は先ず重傷者の救急搬送を行い、比較的軽傷な者に治療を施す事にした。流石に良く訓練を積んでいるだけあって、仮設の治療施設を拵えるまで5分と掛っていない。すぐ近くにシェルターがあり、手持ちにない物資もそこの備蓄を拝借する事で補えたのが大きいだろう。

 

二課の面々が到着した頃には、人でごった返しあちこちで怒号や悲鳴が飛び交う修羅場と化していた。場が沈静化し、職員達が一息付ける様になるまでに数時間を要した。

 

そして、そこから幾何か離れた場所に3人の少女が沈痛な面持ちで蹲っている。橙と蒼の魔法少女と白銀の姫騎士である。格好こそ変わっているが、あの少女こそ『Archer』に相違ない。

 

二課の職員達は一課と共に民間人の対応に当たると共に、件の少女達へ細心の注意を払い続ける。この機会を決して逃がさない様に。

 

 

二課の女性職員が3人に飲物を手渡しに行く。その際にシンフォギア装者であるツヴァイウィングの目配せをし、二人もそれに確りと頷く。

 

「あの、あったかいもの、どうですか?」

 

「・・・ありがとう、いただきます」

 

「「・・・・・ありがとうございます。」」

 

「・・・む!・・・美味いわ」

 

「・・・ほぅ。本当だ。」

 

「・・・うん、あったまる」

 

騎士の少女は立ち上がり死者を弔う詩を口ずさむ。未練を残さず迷う事無く往ける様に。

 

「主の恵みは深く、慈しみは永久に絶えず。 あなたは人なき荒野に住まい、生きるべき場所に至る道も知らず。 餓え、渇き、魂は衰えていく。 彼の名を口にし、救われよ。生きるべき場所へと導く者の名を。 渇いた魂を満ち足らし、餓えた魂を良き物で満たす。 深い闇の中、苦しみと鉄に縛られし者に救いあれ。 今、枷を壊し、深い闇から救い出される。 罪に汚れた行いを病み、不義を悩む者には救いあれ。 正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を。―――去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)

 

その洗礼詠唱は囁き程度の音量であったが、清んだ鈴の音を思わせる聖歌のようであり、同時に未だ受け入れる事が出来ない人々に現実を突きつける厳かな鉄槌のようでもあった。

 

「これでノイズの犠牲になった人たちも、・・・ちゃんと往けたのかな?」

 

「そうだと、良いね・・・」

 

「さて、どうかしら?」

 

現実を生きていく以上はどんなに辛くても悲しくても背負っていくしかないのだ。過去とは縋り付くものでは無く、未来に進むための礎であるべきだろう。とある怨天大聖の言葉を借りるなら、その苦悩は誰も理解してやる事は出来ない。人間に支え合う事ができるのは荷物じゃなく、荷物の重さで倒れそうな体だけなのだから。それでも世界は続いている。瀕死寸前であろうが断末魔にのたうちまわろうが、今もこうして生きている。であるのなら、未だ充分なせる事があるはずだ。其れが何であろうと構わない。全ての生命は、後に続く者達に認めて貰うために現在を走り続けるのだから。

 

 

 現場の悲壮感が幾分和らいだところに装者の二人に対して司令部に待機している弦十郎より通信が入る。

 

『奏、翼。件の少女達についてだが、調べがついている範囲までだが説明しておく。どうやら地元の公立中学校に通っているらしい。3人とも三年生だ。名前は橙色の魔法少女が立花 響君、蒼色の魔法少女が小日向 未来君。そしてアーチャーと思われる騎士の少女が衛宮 イリヤスフィール君だ。前者二人に関しては、恐らく本当に一般人なのだろう。これと言う様な目立つ経歴も見られなかった。だが』

 

「アーチャーの奴には、何か特別な経歴とかでもあったってことか?」

 

『ああ、彼女は数年前に赤十字のスタッフだった衛宮 切嗣に拾われて養子になった様だ。しかしその切嗣氏も凡そ2年前に他界している。今は残された武家屋敷で独り暮らしらしい。学業においては全国模試で1位になった事もあり、体育の成績もトップクラス、家庭科においてはプロ並みとのことだ。ただ、それ以前の事については全く判らない。いっそ不自然なほどにあらゆる痕跡が見付から無いんだ。』

 

「ふぅむ。・・・それは、また」

 

『だが特異災害対策機動部としては、彼女とは可能な限り友好的な関係を築きたい。それに前回のライブと今回の件で、日本政府の上層部はもとより、各国政府も彼女の存在に注目するはずだ。外交のカードに利用される程度なら未だマシ。このまま放置すれば最悪の場合、強制的に拉致されて非人道的な実験の対象にされる可能性すら考えられる。』

 

「ったく、これだから政治ってのは、難儀なモンだな。」

 

『まったくだ。手間をかけさせてしまい済まないが、頼んだぞ。』

 

「あいよ。」

 

「了解しました。」

 

 

 

 

 

「衛宮 イリヤスフィールさん、お疲れのところで申し訳ありませんが、貴方をこのまま帰す訳には行きません。特異災害対策機動部二課まで同行していただきます。」

 

想像以上にド直球だった。駆け引きも交渉もあったもんじゃ無い。実直で融通の利かない不器用な性格なのだろう。

 

イリヤにとってその要求は既に予想できていたし、無理をしてまで断る理由も無いため、大人しく連行されていくつもりであった。だが

 

「待って下さい。あの・・・わたし達も一緒に「ダメよ、未来。響も」

 

「イリヤちゃん、いくら私でもこのまま日常に帰って普通に過ごせるほど脳天気じゃ無いよ。」

 

二人は固有結界の中で聖杯戦争(イリヤのルーツ)についての大凡の事情を聞いていた。

 

かつて、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは大聖杯によって穿たれた孔を閉ざした。結果としてあの世界線の大聖杯は消滅し、孔を閉じる事には成功した。しかし、その際にイリヤは「」への開通が為されてしまっているのだ。つまり、膨大な魔力さえあれば閉じた門を再び開き『天の杯(ヘヴンズ・フィール)』に到る事も決して不可能では無いのである。

 

もっとも、その事を特異災害対策機動部二課や櫻井 了子(フィーネ)が知るのはもっと後の話だが。其れはともかく

 

「もう嫌なの。何も知らないまま、ただ守られるだけだなんて・・・」

 

「一つ言っておくわ。自分の意思で戦うのなら、その罪を罰も自分が生み出したモノ。背負う事すら理想の内よ。でもそれが罪悪感からの強迫観念故のモノであるのなら、理想を抱いて溺死することになるでしょう。理想のために戦って救う事が出来るのは理想だけなのだから。その果てにちゃんと自分自身をも救うという望みが無い限りはね。」

 

イリヤは敢てその先を言葉にせず視線だけで二人に問いかける。貴女達が放棄しようとしている日常は、一つのきっかけで容易く崩れ去る程度には儚くて、だからこそ眩しいくらいに尊いモノなのだど。

 

「「────────────」」

 

だが二人は真っ直ぐにこちらを見据え続ける。この二人の性質上、一度こうなったら恐ろしく頑固だ。もう梃子でも折れないだろう。

 

「・・・この先は地獄よ?」

 

「それでも私は進むよ。例え偽善であったとしても、助けられるのなら苦しむ人たち全てを救いたいっていう願いは決して間違いなんかじゃ無いと思うから。」

 

未来も同意見なようで、確りと頷いている。

 

「どうやら話は纏ったみたいだな。んじゃま、歓迎するぜ。行こうか、特異災害対策機動部二課の本部にな。」

 

 

 

 

 

 

 




宝具
貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)。
人間の幻想を骨子に作り上げられた武装のこと。
本来は、その英霊の伝説に登場するとりわけ有名なアイテムが宝具となるが、その英霊が有する伝説上の「特殊能力」も宝具に該当する場合がある。
また、「生前に築き上げた伝説がカタチになったもの」という性質から、伝説には明確なカタチで登場せずとも、英霊となったことで得られた、いわば死後の後天的な宝具というものも存在する。


壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)
魔力の詰まった宝具を爆弾として相手にぶつけ破裂させる技能。
宝具によっては本来の威力を越えたダメージを与えるが、使用するということは多くの英霊にとって「わずかしか持たない切り札の破壊」と同義であり、加えて宝具の修復は困難であるため、まず使われることはない手段である。
「無限の剣製」の特性故に比較的気軽に使用できる。



干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)
ランク:C-

陰陽二振りの短剣。エミヤを象徴する宝具。黒い方が陽剣・干将、白い方が陰剣・莫耶。互いに引き合う性質を持つ夫婦剣。
二つ揃いで装備すると、対魔力、対物理が上昇する。宝具としてのランクは高くないが、投影の負担が軽いことと、先の特質から愛用している。エミヤの手によって刀身に魔除けの文句が刻まれており、巫術器具として使うこともできる。
真名解放されたことはないが、この剣を投擲した上でさらに別の干将・莫邪を投影、前述の引き合う性質で最初の剣が戻ってきたところに斬撃を加え、計三回の投影による三重の刃の重ね当てを行う必殺技「鶴翼三連」が存在する。
更に切り札とも言える、干将・莫邪を巨大な剣「オーバーエッジ」へと強化することも可能。これを使用して「鶴翼三連」を行う場合もある。
なお、投影品ではないオリジナルの干将・莫耶は、怪異に対し絶大な威力を発揮する「退魔の剣」であり、大海魔やゴルゴンの怪物をも正面から真っ二つにできるという。


偽・螺旋剣(カラドボルグII)
ランク:A(弓で放った場合の凛の分析)

射出型魔剣。名前通り、螺旋を描く刀身を持つ。「偽」や「II」が示す通り、本来のカラドボルグとは異なり、エミヤのアレンジが施されている。
真名解放して放たれた際は空間すら捩じ切る貫通力を発揮する。
射法八節における「打起し」の動作までは螺旋剣のまま弓に番えているが、「引分け」の動作の際に矢に形が変わる。


熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)
ランク:オリジナルはA+ランクの『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』と同等

エミヤが唯一得意とする防御用装備。彼の用いる投影の中でも最高の防御力を持つ。投擲武器や、使い手から離れた武器に対して無敵という概念を持つ概念武装。光で出来た七枚の花弁が展開し、一枚一枚が古の城壁と同等の防御力を持つ。また花弁に魔力を注ぎ込むことによって防御力の底上げもできる模様。


射殺す百頭(ナインライブズ)
ランク:C〜A+

ヘラクレスの所持する最高万能攻撃宝具。一つの兵装ではなく、生前の偉業「ヒュドラ殺し」で使った弓の能力を元にヘラクレスが編み出した、言わば「流派・射殺す百頭」。その本質は、攻撃が一つに重なる程の高速の連撃にある。一息のうちに百撃を加える神速の猛撃を繰り出す事さえ可能。




今作においては、宝具と聖遺物は凡そ同一の物として扱う事とする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。