転生したらAUOの兄だった件について   作:けんさん&コハク

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(注)ヤンデレ

 いつものことながら自信がない作品となっております。
 それでも良い方はご覧下さいませ。


金星の悪魔と病み

 女神イシュタル

 メソポタミア神話において広く尊崇された愛と美の女神であり、豊穣と戦の女神でもある。

 イシュタルは月神シンの娘で、太陽神シャマシュの妹ということもあり、メソポタミア神話の神々の中でもかなり上位の神である。

 …………というのはただの表向きの顔。

 実際は自分勝手で残忍、さらには我が儘で欲しいものが手に入らないと憤るなんちゃって女神様である。

 大人になったギルガメシュに『飛蝗の群と砂嵐、子供のかんしゃくが混ざったような存在』とまで言わしめる存在である。

 ちなみに俺はイシュタルの事は嫌いだ。それはもうどうしようもないくらいに。

 先程言った我が父である王様からの無茶振りの中に、ワイバーンの討伐というものがあった。

 その原因を作ったのが、女神イシュタルなのである。

 平穏に暮らしていた村にワイバーンをけしかけ、村人が阿鼻叫喚している様子を見て腹を抱えながら笑っていたという供述まで出てくる始末。しかも事件を起こした理由というのが『あの村平穏すぎて見ててつまらないじゃない』らしい。

 本人談なので間違いない。

 そしてそのワイバーンを討伐する役目が、ギルくんと暇つぶしをしていた俺に回って来たのだ。何故俺がと思ったが、一刻も早く村に行かなければならなかったため、渋々了承。

 急ぎ兵士を連れて村へと赴き、ワイバーンを討伐する事に。仕事を終えた俺と兵士達は村人に感謝されながらウルクに帰還した。とりあえず俺は帰って来たと同時に王様に文句を言おうと玉座の間に向かった。

 そして勢いよく扉を開けたのだが、そこで見たのは痛む胃を押さえながら頭を抱えている王様だった。

 流石の俺もあれを見てしまったら同情するほかない。とりあえず俺は、静かに胃薬と頭痛薬を置いてその場を去った。

 そこで俺は考えた。王様である父のあんな姿を見てしまった以上、いくら嫌いな父であろうと恨むことはできない。

 ならばこの怒りをどこへ向けるか?

 そうだ!今回の元凶(イシュタル)を恨めばいいんだ!

 その答えを得た俺は、そこからイシュタルを恨むようになった。その時期からだらうか?イシュタルが起こす事件が増えたのは。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 頭がいたい。

 またあいつ(イシュタル)なのか……!

 あの女神は事件を起こすために生まれてきたんじゃないか?って思うくらい、イシュタルは事件を起こす。

 俺が王に頼まれる8割型はあいつが原因の事件ばかりだ。

 しかもやることが陰湿的なのが多くて、今回のように魔獣や幻獣を使って村を襲わせるのだ。

 それだけならまだまぁ、少しは許せるかな?という程度なのだが、毎度毎度俺の行く先で事件を起こすのだからタチが悪い。

 イシュタルに関係のない事件や仕事を終わらせたら待ってましたと言わんばかりに事件を、しかも一つでは無く一回につき3、4個起こすのだ。

 その度にイシュタルをしば………いや、少しお話をするのだが、全く懲りない。それどころか最初は一回につき1個程度だったのだが、最初にお話しした日からゆっくりと増え始めたのだ。

 それでもこの頃は音沙汰がなかったのでようやく大人になったかと安心していたのだが、理由が分かった。

 あいつ魔猪を育ててたんだなきっと。

 

「あの女神は何がしたいんだ一体」

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

 ギルくんが心配してくれているが、正直言って精神的にキツイ。

 あの話を聞いた後、なんかもうやる気が無くなった俺達は一度仮住まいに戻って頭を悩ませていた。

 早く解決しなければいけないのは分かっているのだが、一度整理しなければならないのも事実なので、帰ってくることにしたのだ。

 しかし、本当にどうしようか。

 今まで事件はそこら辺にいるワイバーン達を連れて来たりしていたのばかりなので、討伐すること自体は決して問題ではなかった。

 だが、今回のように女神本人が育てたとなったら話は別だ。

 ただでさえこの地を治めている女神(笑)に反抗的な態度をとること自体が問題なのに、そこで女神のペットに手を出すなんて言語道断。分かりやすく前世で例えると、日本人がオバマ大統領のペットを殺すのと同じことだ。

 実際、俺は王子でこの地の女神であるイシュタルとはお互いに不可侵………まぁイシュタルは全く守っていないのだが、そういう関係なのだ。この例えは言い得て妙だ。

 そういえば、オバマ大統領ってもうそろそろ大統領を辞めなきゃいけなかったけど新しい人ってどんな人なんだろうか?

 まぁいいか。

 

「しかし、本当に何がしたいんだあいつは?」

 

「お兄ちゃんに構って欲しいんじゃない?」

 

 はっはっは、面白い冗談だなギルくんよ。

 もしそうだとしたら不器用すぎる構ってちゃんだな。

 それに構って欲しいな凛の格好になってから出直してこい!

 

「だと良いんだけどね………」

 

 ?なんか不機嫌だな………まぁいいか。

 本当ならこんな時にイシュタルを裁く神でも居れば良いのだが、あいつは甘やかされて育ってきたのだ。

 今更あいつの癇癪や悪戯に物申す神なんているわけもない。

 つまりは俺がなんとかしなければならないのだ。

 

「どうすれば良いんだろうな」

 

「さぁ?」

 

「………………」

 

 どうしよう。ギルくんが冷たい。

 いつもならもっと真摯に相談に応じてくれるギルくんが一言二言しか喋ってくれない。

 

「………なんで不機嫌なんだ?」

 

「…………別に不機嫌じゃないし」

 

 いや不機嫌じゃん、と言いたいがそういう訳にもいかない。

 今俺はイスに座って目の前の机にホットミルクを入れたコップを置いており、ギルくんは正面のイスに座っている。

 ちなみにギルくんが何故こんなにも不機嫌なのかは全くもって心当たりが無い。

 イシュタルの名前を出した途端この調子だ。

 ジィ〜っとギルくんを見ていると視線に気付いたのか、ジト目で見返され少し方を膨らませたと思ったらまたそっぽ向かれた。

 ここまで避けられると少しショックである。

 

「…………………ハァ」

 

「………………………」

 

 このままでは中断している依頼を開始しても事故があるかもしれない。早めにこのギスギス感を直さなければならない。

 とりあえず機嫌取りを図ろうとしてもその方法が思い浮かばない。一体どおすれば良いのだろうか。

 

「…………」ガタ

 

 俺が唸ってどうしようかと悩んでいると突然ギルくんが立ち上がってこちらに近づいて来た。

 何か問題でもあったのだろうかと少し椅子を引き、ギルくんの方へと向きを変えるとギルくんは俺の膝の上に乗って来た。

 とりあえずもう一度机の方へと椅子の向きも戻すと、俺の両腕を自分の胸の前でクロスさせ、そのままその腕に抱きついて来た。

 

「ギルくん?」

 

「………!〜〜♪」

 

 俺の腕を抱きしめているギルくんは前屈みになっているためか、少しずつ前にズレて行っていたので腕に力を入れてギルくんを引き寄せると最初は驚いたような素振りを見せたと思ったら次の瞬間には満面の笑みになっていた。

 上機嫌のまま机の上にある俺のホットミルク(・・・・・・・・)を飲み始める…………って

 

「それ、俺の飲みかけだぞ?」

 

「………!?…………駄目だった?」

 

「いや、別に良いけど………」

 

 その顔は真っ赤であった。

 顔が真っ赤なのがバレたくないのか俺の方へと顔を向けた瞬間はまたムスッとしたような表情にし直すが、その顔も赤かった。

 ムスッとしたその顔で駄目だったかと聞いてきたが、兄弟だし特に気にする事でも無い。

 取り敢えず上機嫌になっているのは確かなので一時の間はこのままで良いだろう。

 

「………お兄ちゃん」

 

「…………ん?」

 

「…………もっと強くして」

 

「………………」

 

 このあと滅茶苦茶抱きしめ続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「〜〜♪〜〜〜♪」

 

 あの後抱きしめ続けたが、俺たちは兄弟。

 しかもまだ俺は7歳。

 ギルくんは6歳。

 つまり合法、決してショタコンとか犯罪者とかは言われない筈だ。大丈夫…………大丈夫だよね?

 

「そういえばお兄ちゃん、イシュタルのペットをどうすれば良いのか思いついたの?」

 

「取り敢えず、生け捕りしかねぇよな………」

 

 そう、魔猪は生け捕りにするしか無いのだ。

 しかし、問題がある。

 

「神獣クラスの神秘を秘めている魔猪だよ?

 どうやって生け捕りにするの?」

 

 ですよねぇ。

 普通の縄なんて論外だし、俺の宝物庫(ゲート・オブ・バビロン)の中にある鎖ならワンチャンあるかもしれないが、どうやってそれを魔猪に絡ませるかが問題だ。

 アーチャーギルガメッシュの天の鎖(エルキドゥ)のように鎖本体が動いて捕縛する事が出来るのならば楽だろう。

 しかし、無い物強請りも出来ない。

 

「ここはシンプルに落とし穴かな?

 落とし穴に落としてその穴の上から鎖を投げ入れるなり何なりして捕縛するのが一番良いいか」

 

 流石に真正面から向き合って鎖を使って捕縛はキツイ。

 それこそ、捕縛の伝説を残すような英雄達で無ければ無理だろうな。しかし、残念ながら俺は戦闘に特化した男だ。

 宝物庫の中にある物は霊薬や服以外は殺傷能力が高い物ばかりだ。ギルくんの宝物庫の中のように武器に傷つけるという以外の概念が付与されている物が殆ど無いのだ。

 汎用性が高そうで羨ましい。

 傷つける以外の物だってちゃんとあるにはあるが数は圧倒的に少ない。いつもの討伐系の依頼ならば全くもって問題は無いが、逆に言えば討伐以外の取り柄が無いと言う事だ。

 うん、その内弟のギルくんより全然役立たずになりそうで怖い。

 

「ギルくんは何かアイディアある?」

 

 俺がそう聞くとギルくんは顎に手をやりじっくりと考え込む。すると何かを思い浮かべたよう「あっ」という声と共に顔を上げる。

 

「まず少し離れた木二つに鎖を付け合でしょ?

 その木の間の鎖に魔猪を突撃させて鎖を絡ませる。

 で、神獣クラスの突撃なら鎖が二つの木から割れて外れるだろうから、その鎖に槍みたいに棒状の物で鎖の穴目指して射出する。

 それで地面と鎖を繋げて、最後に霊薬とかで眠らせるとか?」

 

 …………やだこの子天才?

 でも問題があるな。確かに霊薬を使えば眠らせることが出来るかも知れない。でも霊薬ってのは意外と繊細な物で、気体や固体にしたらその効果が無くなる。

 出来ない訳では無いが、それが出来るのはほんのひとつまみの人間の、それも薬学か魔術にかなり精通している奴だけだ。

 俺?そんなの出来る訳ないじゃ無いですかヤダー。

 かと言って液体のまま魔猪に飲ませるのも至難の技だし。

 こういう時は本人に聞いてみるのが一番良い。

 

「確かに霊薬を使えば何とかなるかも知れないけど、どうやってその霊薬を口の中に流し込むって言うんだ?

 悪いけど、俺には傷を付けずにする方法なんて思いつか「魔猪の歯を全部へし折って瓶ごと口の中に放り投げて、死なない程度の武器を射出して瓶を破壊すれば勝手に飲み込むでしょ?」

 

 …………………。

 

「えっいやでも、それじゃあ魔猪を無傷で捉えられないよ?

 そんなんじゃああのイシュタルがなんて言ってくるか分からないだろ?」

 

「……………………」

 

 えっ何?だんだんギルくんの目からハイライトが消えていってるんだけど?怖い、怖いよギルくん?

 

「別に…………」

 

「えっ?」

 

「お兄ちゃんが怪我をしなきゃ別にどんな生物がどんな事になろうとも関係ないよ。僕は魔猪が死んでも問題とは思わ無いし。

 それよりもお兄ちゃんが怪我をしたらそれこそ大問題だよ?

 魔猪が死んでもお兄ちゃんに怪我がなければそれで良い。

 魔猪がどれだけ苦しもうと、痛がろうと関係ない。

 お兄ちゃんに怪我がなければ別にそれで良いもん。

 イシュタルの事だってそうだよ。魔猪が凄く苦しんで死んだとして、それにイシュタルが文句を言ってきたとしてもそれはあの女神が悪いでしょ?村人さん達に迷惑をかけてるのはあっちなんだし。

 だからさお兄ちゃん、間違えても怪我しないでよね?

 もしお兄ちゃんに擦り傷がついたら僕は魔猪を殺すよ?

 もしお兄ちゃんが骨折したら王様を、今回お兄ちゃんに直接命令したあの男を殺すよ?

 もしお兄ちゃんが大怪我をしたら、村人も道連れにするよ?

 もしお兄ちゃんが死んじゃったら…………僕はイシュタルを、あの女神を殺して……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんが居なくなったこの国を滅ぼすからね?」

 

「ぎ、ギルくん?」

 

「…………何て冗談だよ?だけど怪我はしないでね?」

 

 気づくとギルくんの目に光が戻っていて、呆然としている俺に笑顔で抱きついてくる。え?何?冗談?本気?どっちなの!?

 怖いよ!普通に怖いよ!何このギルくん!?

 ヤンデルギルくん略してヤンギルくん!?

 ………でも笑顔が可愛いし、さっきの言ってた事を本気と考えてたら依頼に支障が出そうです。

 取り敢えず考えないでおこう。

 そんな事を考えていると、抱きしめてきていたギルくんの声が耳元から聞こえてきた。

 

「ほ、本当にさっきのは冗談だからね?

 怪我しちゃったら本当に悲しいけど、流石に冗談だからね?」

 

 あっ冗談なの?良かっ「あっでも」

 

「大怪我したらどうなるか………ワカラナイヨ?」

 

 結局のところどっちなんだ!?




 ヤンデレって本当に怖いですよね?
 ちなみに作者は苦手なヤンデレと好きなヤンデレがあります。



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