東方ヤンデレ短編集   作:触手の朔良

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ヤンデレ講座 基礎編

 幻想郷で宴が開かれる事はさして珍しくもない。

 しかし、今晩博麗神社で開かれている宴会の、その中央を陣取るのは珍しい人物であった。

「いいぞ~○○~!」

 赤ら顔した少女が徳利(とっくり)片手に囃し立てている。

 ○○と呼ばれた男は腹を出し、クネクネとタコの様に奇妙な動きをしている。腹に描かれた墨の顔が、○○の動きに合わせて面妖に表情を変えていた。

「うわはははは!」

 ある者は大口を開けて笑い、ある者は呆れていた。またある者は恥ずかしげに顔を逸らしつつも、ちらりと横目で伺っているようだった。

 兎も角、宴会で今尤も注目を浴びているのは○○で間違いないだろう。

 さて、そんなお調子者の○○だが、ある性癖の持ち主であった。

 それは最早皆が知る所であり、酒の進んだ○○は気持ちよさげに朗々語り始めた。

「ヤンデレはいいぞぉ~? ひっく」

 ――また始まった。

 誰もがそう思ったものの、止めてやるのも野暮かと語るがままにさせてやる事にした。

 

 

 

 

 いいかぁ? ヤンデレってのはなぁ、純愛、純愛なんだよぉ?

 そこんとこちゃんと分かってる~?

 ぬな? ヤンデレのどこがいいんだって? 暴力的なだけだって???

 はぁ~~~。分かってない、分かってないねチミは!

 そうだなぁ。ヤンデレの良さってのは――。

 

「おかえりなさい○○。……今日は随分と遅かったのね。どこへ行ってたの……?」

「……ふぅん、そう。予想外に仕事が大変だったのね」

「――嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘よッ!!」

「だって――ほら! ○○から女の匂いがするもの!」

「ねぇ、○○……。どうして嘘つくの? 嘘を、つかなきゃいけない理由でもあるの?」

「魔理沙のとこ? それとも咲夜!? 妖夢!? 早苗!? ねぇ!? どのオンナのとこへ行ってたのよ!?」

「へぇ、そう……! ソイツのこと、庇うんだ……」

「これはちょっと、お仕置きが必要よね、えぇ。悪いことをしたら叱ってあげないと、また同じ過ちを犯しちゃうもんね」

「安心してね○○。ちゃぁんと、私だけしか見られないようにしてア ゲ ル カ ラ」

 

 

 

 

 ――という風にだね? 彼氏に辛くアタるのも、彼を想う故の、嫉妬心が暴走しちゃう結果なのよ。

 え? まだ良さが分からないって?

 んじゃぁさ――。

 

「うぅ……。どこへ行ってたんだよぉ○○……」

「心配したんだからな? すっごく、すっごく心配したんだからな!?」

「お願いだからどこへも行かないでくれよぉ。私を、一人にしないでくれよぉ……!」

「う、○○はモテモテだから……。私を捨ててもっと魅力的な娘のとこへ行っちゃうんじゃないかって……」

「ヤダ……。ヤダよぅ……! ○○が他のオンナのところへ行っちゃうなんて!」

「なぁ!? 私頑張るから! もっと、○○好みの女になるから!」

「お願い……、お願いだから、私を捨てないでくれ……」

 

 

 ――と自分に依存してくる姿なんて、もうたまらんなくたまんないのですよ!?

 ……ハ? メンヘラ?

 はぁ~~~。これだから素人は。

 いいか? メンヘラってのは、自分を第一に考えてるようなヤツの事なの! 相手が自分を大事にしてくれるから、生まれる依存なの!

 ヤンデレは逆! 相手への想いから生まれる依存心! これ重要よテストに出るよ~。

 ……んまぁ、ヤンデレにメンヘラ要素がゼロとは言わないけどさ。

 これの何が良いのかって?

 かぁ~~~。まだ分からんのかい。

 それじゃぁ――。

 

「あら○○。こんなところで、奇遇ね」

「私? 私は食料の買い出しよ。今日はハンバーグがいいなんて、お嬢様のワガママも困ったものね」

「あ、今のは館の皆には内緒にしてね。……もうっ。そんなに笑わなくていいじゃないの」

「そうそう。○○はちゃんと食事を摂ってるかしら? 面倒だからって外食とかありあわせで済ませてないでしょうね?」

「……はぁ。やっぱりね。そうだと思ったわ。まぁ男の人の独り暮らしなんて、そんなものなのかもしれないけど

「――そうだわ! ねぇ○○? 良かったら私がご飯を作ってあげるわ。定期的に」

「何遠慮してるのよ。知ってるでしょ? 私には、時間なんてあってないようなものだって」

「もう、最初から素直に言えばいいのに。……そうね。折角ですし、今日はアナタの好きなものを作ってあげるわ」

「何がいいのかしら? 肉じゃが? オムレツ? それとも、アナタもハンバーグかしら?」

「えぇ、大丈夫よ。ちゃんと、アナタの好みは把握しておくから、ね?」

 

 

 

 

 ――と、ジワジワと日常を侵食していくような恐怖心!

 くぅ~~~! これもたまらんね!

 え? 何? 怖いのがいいとかマゾなのかって?

 いやいやいや! マゾじゃないよ!? マゾ違うよ!?

 だけど、ん~、なんっつーのかなー。これも結局は好意からの行動でしょ?

 それがね、こう、たまらんのですよハイ。

 ……ハイそこ! うわ気持ち悪い引くわ~って顔しないの!

 くっそ~。こうなったら嫌でもヤンデレの良さを叩き込んでやる!

 

「あ、○○さん。こんにちは」

「今日はどうしたんです? お買い物ですか? ……へぇ、あそこの団子屋さんが、ですか」

「そうなんですね。団子は美味しいし、……売り子さんも可愛い、と。へぇ」

「……あぁ、すいません。ボーっとしてしまいまして。えぇ、大丈夫ですよ」

「お団子、幽々子様が喜びそうですね。それじゃぁ○○さん、失礼します」

「……御免下さい。こちらに■■という方が――あぁ、貴女でしたか」

「えぇ、突然の事ですいませんが、○○さんへ色目を使うのはよしてくれませんか?」

「貴女の如きオンナの視線で○○さんが穢されるかと思うと、その、……正直不快ですので」

「ハ――? そんなことはしていない? 言い掛かりはよせ?」

「成る程……。それはつまり、貴女は○○さんが嘘を仰っていると」

「はぁ……。穏便に済ませたかったんだけどなぁ」

「――身の程を分かりましたか? えぇ、これに懲りたら、金輪際○○さんへは近づかないで下さいね。今度は、髪だけではすみませんよ?」

 

 

 

 

 ――と! 独占欲がいくとこいっちゃって! 一線も超えちゃったり超えなかったり?

 いいよね……。

 はい。そんな残念そうなモノを見る目を向けるんじゃありません!

 これでも駄目かー。

 んー、それじゃぁ――。

 

「こんにちは○○さんっ。今日は団子屋へ行かないんですか?」

「へ? 何で知ってるかって? あはは、嫌ですねぇ。以前○○さんが、美味しいって言ってたからじゃないですか」

「そうだっけ、って……。そうですよ、そう! も~、○○さんったら、忘れっぽいですから」

「そんなことより、○○さんっ。あそこの洋食屋でカレーを始めたんですって。行ってみませんかっ」

「え、だって○○さん、カレーが大好きじゃないですか」

「肉じゃがよりオムレツよりハンバーグより、好きですよね。カレー」

「あっ! それともアレですか! 遠回しに私に作って欲しいって事ですね! いやん、もう! ○○さんったら」

「えぇ! 大丈夫です! 任せて下さい、私も元は外の人間ですからね! カレーなんてお茶の子さいさいですよ!」

「うふ。楽しみにしてて下さいね。ちゃぁんと○○さんが大好きな、甘口の、肉の大きなポークカレーを作りますから」

「うふふ……! 安心して下さい。○○さんのことなら全部、ぜぇんぶ知ってますから、……ね」

 

 

 

 

 ――と! 本人の知らぬ所のストーカーも! 好意からだと思えば愛おしさも生まれるやん!?

 で、だ。

 どうよ。ヤンデレの良さが分かっただろ!?

 え? やけに具体的な話だったって?

 アハハー、やだなー。そんなわけないじゃん?

 あーあ。俺もこんくらい激しく愛されてみたいねぇ。

 ……あれ? 黙りこくっちゃってどうしたの?

 何か、目ぇ怖いよ? ねぇ?

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