高町なのははギャンブルが嫌い 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
とある地下深くの空間で2人の青年が机を挟んで向かい合っていた。1人はリボルバー式の拳銃を持ち歯を食いしばりながら相手を睨みつけ、もう1人はまるで感情がないかのように真顔で相手を見ている。
「本当によかったのか? 」
「い、今更何言ってやがる……くっ……お前たっての頼みだ。断れるかよ。それに……ハン。お前の感性に付き合えるのは……お、俺だけだからな」
余裕のない青年は震えながらそう答えた。ただそれは武者震いではない。純粋な恐怖から来るもの。怯え、慄き。手が動かなくなる。男の精神状態は限界だった。
「悪かったな? 巻き込んじまって。でもさ……俺今……最高に楽しいよ」
「っ!? 」
そう言って余裕のある青年はまともな人間の物とは思えない笑みを浮かべた。目に狂気と快楽を映し、余裕のない男を見る。
「お前を満足させて死ねるなら……本望かもな…………」
「……ともき」
「ふふ、はは! 見てろよ親友! お前が相手にした男は後にも先にもお前とタメをはれる最強の男だって事をな!!! 俺の事忘れんなよハル! うおぉぉぉおおっっっっっ!? 」
絶叫。最後の雄叫び。そんな物に混じりパンッと銃声がその場に響き渡った。青年は持っていたリボルバーをコメカミに当て引き金を引いたのだ。
2人はギャンブルをしていた。俗に言うロシアンルーレットと呼ばれるゲーム。拳銃に1発弾を込めそれを自らのコメカミに当て撃つ。確率は6分の1。ただこの時既に5回このやり取りが終わっておりこの青年が死ぬのは確定していた。
「ああ……お前は間違いなく最強だよ。すっごく楽しかった。ありがとうな。……でもお前がいない世界はさぞつまらないだろうよ……ともき」
「ん? ここ……どこだ? 」
「こんにちは! そしてようこそ! 天国へ! 君は死にました」
今しがた死んだ青年は真っ白な空間に来ていた。
そこは何もなく、ただただ純白に白く、そこに1人の少女がいるだけ。まるで絵に描いたような天使のワッカを頭につけ、背中からは白い羽が生えている。青年は自覚した。自分は死んだ。ゲームに負け、親友の前で命を落とした。
だが悔いはなかった。そもそも青年がギャンブルに命をかけたのは他ならない親友の願い。命を賭して、親友が認めた自分と本気の勝負がしたいと願った結果だった。どんな方法でもいい。その快楽に浸りたいと願った親友のたった一つの願い。それを青年は叶えた。
「バッカだよねぇ〜あんなくだらないことで死んで。頭おかしんじゃねないの? 」
「あんた口悪くない? つーかこれからどうなんの? 俺? 」
「う〜ん……このまま極楽にここで過ごすか転生するかだけどぉ……どうする? 決めていいよ? 」
「俺が決めんの? と言うか転生って……アニメかよ。……どっちでもいいな。特に未練もない。あ! なぁ〜天使様? 」
「はい? 」
青年はギャンブルと言うものに取り憑かれていた。親友ほどトチ狂っていたわけではないが確実に常人の感性をしていない。普通の人間なら生を選ぶ。生き死にの状況で迷わずに生きたいと生にしがみつく。
しかし青年は違う。強欲にして求めるのはそこまでも狂気。
故に青年の言葉は神に等しい天使にすら理解不能だった。
「地獄ってあるの? 」
「え……勿論あるけど。すっごく苦しい所だよ? 滅多なことじゃそんな所行きにはならない場所だけどぉ」
「あるんだ。はは……」
「ん? (何だろう……変わった子だな)」
「それじゃさぁ〜天使様? 俺とギャンブルしない? 」
「は? な、何言ってるの? きみ…………」
真っ白な髪をなびかせ天使は目を丸くした。何百何千と数え切れないほどの人間を導いてきた天使。でも自分に対して勝負を挑む輩は初めてでどうにもこうにも次の言葉が見つからない。すると青年方が先に話を切り出す。
「天使様の言う転生って言うの? もし俺が勝ったらそっちにするわ。でももし俺が負けた時は……地獄に送ってくれ」
「なっ!? ば、馬鹿なの君は!? 地獄に行く? いやいやいや! 馬鹿でしょ絶対! 理解できない! どうしてわざわざ負わなくてもいいリスクを」
「はは、何言ってんだ天使様? 」
「え…………」
「リスクのないギャンブルなんてつまんねーよ! 」
心の底から何の疑いようもなく天使は青年を狂ってると思った。しかしだからと言って天使である彼女はそれを無下にできない。天使とは迷い送られてくる魂をそのものが望む形へと導く役目がある。つまり青年の願いは聞き届けられるべき物。
「わ、わかった。それじゃどうすればいいの? 私ギャンブルなんてやった事ないんだけど」
「ならジャンケンにしようか」
「ジャっ!? 」
「な、何だよ。俺変な事言ったか? 」
「変どころの話じゃないよ!? 君は地獄に行くリスクがあるんだよ!? そんなに軽い決め事で!? 」
「軽い? 今から出すグーチョキパーでこれからの俺の運命が決まるんだぜ? たったそれだけの事で地獄か天国。こんなギャンブル滅多にできねーよ。ゾクゾクすんじゃんか! なぁ〜そう思わないか天使様? 」
全てを包み込む善の塊のような天使はこの時恐怖を感じた。生まれて初めて人間から恐怖という感情を抱いた。この人間は間違いなく危ない。善悪その境界線が曖昧な人間。もしかすると地獄におちていてもおかしくない人間なのではと天使は思った。
青年は純粋に求めているが故にそれの対しての善悪がない。ギャンブルに喰われた人間とはそういう人種だ。快楽。快楽。快楽。金を求めるののではない。本質を求める。
ギャンブルと言う真の本質。青年はそれを知ってしまい、それに飢えているのだ。
「そ、それじゃ……ジャン、ケン」
一瞬で結果は訪れる。ジャンケンとは一瞬で決まるものだ。結果から言えば青年は勝った。よって青年は天使により生まれ変わる世界へと送られた。その場にチョキを出したままの天使を残して。
天使は震えていた。受け入れたとは言え、天国にいる人間を地獄に送る事などしたくはなかった。だから天使はホッとして固まっている。同時に自分がギャンブルの扉に手をかけてしまったとも知らないで。
「はぁ……何だろう……なんかモヤモヤする」
「天使ちゃん天使ちゃん助けて!? 」
「うわっ!? てて……もう! 何するの悪魔ちゃん!? 転んだでしょ!? 」
「お願い助けて!? 嫌だ、あんなの人間じゃない!? もう地獄じゃ手に負えないよ!? だから天国で何とかして!? もう嫌!? 嫌なの!? わ゛だじまだじに゛たぐない゛〜!? 」
「はぁ? 悪魔が人間にビビってじゃないわよ。……へ? 」
天国に真っ黒い空間が歪んだゲートが現れた瞬間そこからまた絵に描いたような悪魔が姿を現し天使に泣きつき始めた。そしてその後すぐにそのゲートを通って1人の青年が現れる。
「なんだ? ここが天国か? ……まぁ〜いいや。で? 今度は天使が相手してくれるのか? なら」
「え……え? 」
「俺とギャンブルしようぜ? 」
これが青年達の新たな人生の始まり。また天使と悪魔にとっては悪夢の始まり。
「ここ……公園? ……って!? 俺ちっさ!? 子供になってる!? 」
転生をはたした青年は公園で目を覚ました。それまで無かったはずの記憶も一緒に浮き上がり、青年は自分が新たな人生を歩み始めたと改めて自覚した。
すると誰もいないと思った公園で青年はブランコで1人揺れる少女を見つけた。
悲しそうにうつむきどこを見ているわけでもなく1人孤独にブランコに揺られる。青年、もとい少年はそんな少女へと近づき声をかけた。
「1人で何やってるんだ? 」
「え? ……ほっといて。なのははいい子にしてなきゃいけないの。だから……だから」
「なのはって言うのか。可愛い名前だな。でもいい子って言うのはどう言う事なんだ? 」
少女は一瞬だけ少年の方を見たが関わって欲しくない為にすぐに下を向く。元気が無く、何かを押し殺して我慢している少女は少年を突き放した。
しかし元々限りなく善人である少年は放っておけず話しかけ続ける。
「お父さんが……大怪我しちゃって……みんなたいへんだからかまってくれなくて……でも……なのはは我慢しなくちゃ、みんなに嫌われたく……ないもん」
「そっか……なら俺と遊ばないか? ギャンブルしようぜ? 」
「ぎゃん……ぶる? なに? それ? 」
少女は聞きなれない単語にブランコから跳び下りると少年の目の前まで行き興味深々で次の言葉を待った。まだ5歳児である少女がその単語を知っているわけもなく、それを知っている少年は大人からしてみれば将来が不安になるに違いない。
「簡単に言えば賭け事だ! 勝負だよ。互いに欲しいものを賭けて何かで競い合ってそれを勝ち取る! 」
「う〜ん……よくわかんない。でもなのはの欲しいものくれるの? 」
「ああ。俺がやれるものなら何でも勝った時にあげるぜ。勝った時にな! それでなのはは何が欲しんだ? 」
「え? う〜ん……えっと……えっと……なのは別に何もいらない。で、でも、お友達が欲しい!? 何もいらないから! だから、だからなのはとお友達になってください!! 」
「っ!? ……ははっ、なら勝ち取ってみせろよ。もし俺に勝ったら手に入るぜ? 友達」
「へ? 」
もし仮にここにいる少年が普通の5歳児ならば今のでOKを出しているに違いない。だが少女が相手にしているのは前世のギャンブル狂。何事もギャンブルを絡ませなければ気が済まない。勝ち負けは別としてそこに熱い何かを求めて彼はギャンブルをする。
「それじゃ〜コイントスだ」
「ん〜? なぁ〜に? それ? 」
少年は一枚のコインを少女に見せ、そのやり方を説明した。ピーンといい音を立たせ少年は上に弾いたコインを手の甲で受け止めそれが見えないように覆い隠す。
「なのは、コインの裏と表をあてるんだ。もし当たればなのはの勝ち。外したらなのはの負けだ」
「……わ、わかったの! む〜! 」
ジッとなのはは少年の手を見つめ、それが何かを予想する。しかしこの時少女は知らなかった。このギャンブル最初から勝ち負けなど関係ないと言うことに。
何故なら少年は少女にどちらがコインの裏で表かを教えていない。相手が5歳児なのを利用し、それを告げずにゲームを始めた。確かにギャンブル好きの人間である彼だがこの状況で少女を泣かせるほどロクでなしではない。
勝負は始める前から決まっているのだ。
「う、裏なの! 」
「へへ、それでいいんだな? 」
「え!? ま、待って!? ……う、う〜ん、う〜ん……やっぱり表! 表でお願いします! 」
「よしそれじゃ〜お! ラッキーだなぁ? ほら表だ! 」
「え!? やったー! やったの! 」
「んじゃ、これからよろしくな。なのは! 俺はともきって言うんだ」
「え……う、うん! よろしく! よろしくともきくん! えへへ」
それから4年の月日が流れ、2人は本当の意味で友達になった。いや、もっと言えばそれ以上だろう。まだ彼女に恋愛という概念がないこの歳では親友がいいところなのかもしれないがその絆は大きなものだった。
登校、学校にいる時、下校、放課後。2人は一緒にいることが多かった。何より彼女の方が彼にベッタリだったため過ごす時間が長い。今では彼女にもさらに2人の女の子の親友ができ、彼だけではないがそれでも人生初のお友達は何より彼女の中ではでかいものに違いない。
ただ彼女には悩みがあった。それは彼がギャンブル狂だという事。昔は知らなかったその意味。今ではそれは理解して彼にそれをやめるように言うようになっていた。
「ともき、昼ごはん一緒に食べましょう? なのは達も一緒だけど。と言うかなのはがともきが来てくれないって泣きついてくるんだから来なさいよ! 」
「アリサ……へへ、いいぜ? ただし、俺にギャンブルで勝ったらな」
「またあんたはそうやって…………」
少年は相手が誰であろうと関係なかった。例えそれが自分担任だろうと交番の警察官だろうと、彼にとっては同じ。満たされない。今の少年は身に余るギャンブルが許されない為、彼の心を満足させるギャンブルができない。それはギャンブル狂の少年にとってはストレスにしかならず、元々尖った性格だった少年をさらにやさぐれさせた。
「ともきくんギャンブルは良くないって私いつもいってるでしょ!? いいからお昼行こうよ。私ともきくんと一緒に」
「ああ〜悪いなのは。俺お腹いっぱいなんだわ」
「あ、ともきくんどこ……行くの? 」
「帰る」
「え……」
「ちょっ、待ちなさいともき!? まだ学校終わってないでしょ!? あ、こらぁぁぁああああ! ともき!! 」
彼女……なのはは少し涙目になりながら教室から出て行く彼を見ていた。その横にいる親友のアリサは怒って彼を呼び、それを彼はまるで聞かない。彼がこうして学校を早退する事はこの時初めてだった。その為なのははこの時から少しずつ自覚し始める。
彼との心が離れつつある事を…………
それが今のなのはと彼の現実だった。
次回もよろしくお願いします