高町なのははギャンブルが嫌い 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
ある日の放課後、なのははともきの家を訪れていた。ともきの家は二階建てのアパートに一人暮らしをしている。だがともきに親はいない。だからそこの大家が親代わりなのだ。
「ともきくんダメだよ最後まで学校にいないと! それじゃまるで不良みたいだよ? それに……私だって寂しいもん」
「別にいいだろ……俺が何してたって」
「ダメ! ……どうしたの? 最近……なんか元気ないよ? それに……これ…………」
なのはは寝ているともきを揺すりながら部屋を見直し、その惨状を再確認する。彼の部屋はいつも綺麗に片付いている。なのははともきの家でちらかっている所など見たことがなかった。
しかし今ともきの部屋はまるで泥棒が入ったかのようにちらかっていた。トランプやチェス。将棋に花札等。全てギャンブルに使うような物。なのははともきの様子と合わせて心の底から不安になっていた。
「なぁ……なのは? 少し遊ばないか? 」
「え? 何して? ……あ! もしかして……またギャンブルしようって言うんじゃ……」
「ああ。勿論」
「嫌! 」
「なんでだよ。少しだけいいじゃんか! 」
「ギャンブルはいけない事なの! ともきくん今のうちにやめないと絶対将来ダメ人間になっちゃうよ! だからやらない! 」
彼女はともきの為に言ったつもりだった。でもギャンブル狂であるともきには逆効果で、すでに末期症状も始めている。故に彼女は言葉を間違えた。
「なのは……」
「何? 」
「帰れ! 」
「え……ともき……くん? 」
「……今日はもう帰ってくれ。別に狂ったギャンブルじゃなくても……お前とだったら……楽しかったんだ。……最近さ……つまんねんだよ。全然遊んでなくてさ……子供だから度を超えて勝負なんかできねぇーし。だから俺と遊んでくれないなら……今日は1人にしてくれ」
「何……それ…………」
ともきはここ数ヶ月ギャンブルをしていない。やろうとしてもなのはに止められる為だ。しかもそれに加え、彼は転生してからと言うもの前世のように勝負事に死がまとわりつくギャンブルをしておらず、その為心は満たされない。
「どうしてそんなに……どうしてともきくんはギャンブルばっかしたいの!? しかもそれで帰れって! ともきくんは私といるより、ギャンブルがいいの!? そんなの酷い! 酷い……よ……ともきくん最初……そんなんじゃなかったのに……嫌い……ともきくんをそんな風にしちゃうギャンブルなんか、大っ嫌い!!! 」
単縦な価値観の違いと今の2人の精神状態の違いはほんの少しだった亀裂にさらに拍車をかけた。なのははこれで完全にギャンブルと言うものが嫌いになり、もっと言えばその行為自体を憎むようにもなった。
なのははともきの部屋から出て行ったが、ともきは追いかけない。勿論なのはの事を大切に思っているともきは普段なら迷わず追いかけているのだが、今のともきにはそんな余裕はなかった。
「……明日……謝ればいいか。……ん ? なんの音だ? 」
ともきは車のスリップ音のようなものを聞き、気になり部屋の窓を開けて外を確認した。するとそこには今出て行ったばかりのなのはが黒服のあからさまに一般人ではない人間に車に押し込まれている所だった。
「いや!? 離して!? 嫌!? 助けてともきくん!? 」
「なのは!? クソ! 」
ともきはすぐになのはを乗せて車を追った。警察には言わず、死に物狂いで車を追いかける。だが人が車に追いつくことなどあるわけもない。ともきはすぐに息を切らせて足を止めてしまった。
「はぁ……はぁはぁ……なのは……くっ……何してくれてんだクソ共。俺の前でいい度胸だな? だがそれで逃げたつもりになるなよ。俺を誰だと思ってやがる。てめぇらが向かった場所なんかお見通しなんだよ」
歯を食いしばり、目を血眼のように変え、ともきは再び走り出した。真っ直ぐに迷いことなく。それはまるでなのはが連れ去られた場所がわかるかのように。
一方なのはは海鳴市の唯一つの森林。そこの小屋に連れてこられていた。手足を縛られ、床に放り投げられる。そしてそこには机が一つ。さらに黒服が2人の金髪で目つきの悪いアロハシャツを着たなのはと同い年ぐらいの少年がそこにいた。黒服の態度から見るに信じられないことだが、なのははその少年がボスだと判断した。いや、そう判断せざるおえなかった。
「はは、悪いねお嬢ちゃん? 巻き込んじゃってさぁ〜うははは! 」
「何……なんでこんな事するの? 私を早く帰して!? 」
なのはは見た目にあわない少年の言動や喋り方。それを目の当たりにし、気持ち悪さを感じていた。不気味に笑う少年の気持ち悪い笑み。なのははその笑みに心の底から恐怖を感じた。見たことのない何かに飢えているような底がない貪欲な感情。
「私をどうする気なの? まさか……」
「んん〜? お前をどうするか? へへ、身代金か? 殺すか? メチャメチャに嫁にはいけないような体にするか? 」
「ひっ!? ぃ、嫌……」
「だぁ〜いじょうぶ大丈夫。お前はただの餌だ。余計な抵抗をしなければ帰してやるって。僕もそこまでする気はないし。ただ〜お嬢ちゃんの仲がいいお友達はダメだ。僕はそいつに用がある」
少年はなのはの顔を下から掴み、顔をそらせないようにして真っ直ぐに目をみた。なのはは少年の話の中で出てくるお友達が誰であるかすぐにわかった。何故自分が拐われて、何故その場所がともきの家の前であったのか。そう最初から目的はなのはではなく、ともきであったのだ。
「と、ともきくんに……何の用が……」
「ちょ〜とあいつに借りがあってさ。古〜い古〜い借りがさぁ〜? ふははは」
「なら直接言ってきたらいいじゃねーかよ! なのはを巻き込むんじゃね!! 」
「ともき……くん」
2人の会話に割り込む形で突然入口の方から声が聞こえた。当然その声の主はともきで彼は金髪の少年を睨みつけながら明らかにキレていた。もともと柄は良くなかったともきだが、今の彼の顔はなのはも初めてみる顔だった。
「やっと来たか。君ならくると思った。高見ノともき! 」
「ケビン・ハノーバー……どうしてお前がここにいる? 」
「ははは、よくわかったねぇ〜? 子供の姿だからわからないと思ったのになぁ〜? それに愚問じゃないか? それは君が今この瞬間ここにいる答えと同じだよ。まさか君に復讐できる機会がまた来るとは僕は夢のようだよ! 」
金髪の少年、ケビンは今の世界でのともきの知り合いではない。前世でのともきの知り合いであった。かつて彼に敗北し、人生を狂わされ、その果てに命すらも失った人間。だからケビンが彼に復讐する理由なら十分な物がある。ただしそれは理不尽にも身勝手な八つ当たりに過ぎない。
「どうでもいいがはやくなのはを……っ!? 」
「おっと! 下手に動くなよ? じゃないとこのお嬢ちゃん殺しちゃうよ? うはは」
「た……たす……けて…………」
ともきは踏み出そうとした足を止め、怒りで歪んだ顔をさらに歪ませた。なのはは今黒服の1人の銃を突きつけられ、いつ殺されてもおかしくない状況にいた。自分の頭の横でカチャリと音がし、冷たい感覚が肌に触れると彼女は震えた声で助けをこい、泣き始める。
「目的はなんだ? 俺の命か? 」
「うはは、そんなつまんない事するわけないじゃん。少し遊ぼうよ。僕と勝負しな! でも一回とは言わない。何回かやって、僕が苦しんだように君にも苦しんで欲しいんだ」
「嫌だと言ったら? 」
「おいおい、断れる立場かぁ? その子殺っちゃうよ? 」
「ひっ!? ぃ……ゃ……死にたく……ない……ょ…………」
ケビンの言葉の一つ一つがなのはの恐怖を煽った。ともきの行動一つで本当に殺されるかもしれない。人生で感じる初めての死がまとわりつく状況。何もできず、ただただ身をゆだねなければならないこの状況は、小学生でしかないなのはには恐怖以外の何物でもない。
「うっ、ひぐっ、えぐっ……」
「なのは……悪い。こんな事に巻き込んじまって。けど絶対に助けてやるから、少し待っててくれ」
「はは、相変わらず凄いよなぁ〜? 仲のいいお友達が殺されるかもしれないのにどこまでも冷静で。本当にどうかしてるよ君の心は……」
「勝負をするんだろ。一体何をするんだ? 」
「ロシアンルーレット……なんてどうだ? もっとも、狙うのはコメカミではなく、賭けた部位にってルール付きでだけど」
「ロシアンルーレット……か。皮肉なもんだ。死ぬんだ時も……そしてこっちに来て初めてやるこんな状況でのギャンブルも同じ物だとはな」
ロシアンルーレット……それはともきがこっちの世界へやって来るきっかけにして、生涯の親友と離れ離れになるきっかけになったゲーム。確率1/6。単純だが下手をすれば命すらも失う危険なゲームだ。
「で? 何を賭けるんだ? 」
「最初は小手調べで遊ぼうよ。だから君は左手の小指を賭けろ。そして順番に失っていくんだ。指を一本一本……確実に飛ばしてやる」
「フン、それはお前が勝ったらの話だろ? 」
「勝つさ! 君は今回僕には勝てない。絶対にな! そして君が勝った時の話だが……」
「なのはを解放しろ! 」
「君がそれでいいなら喜んで? うはは! 5回勝負だ。そのうちで勝ち数の多い方を勝ちとする。いいよね? 」
「ともきくん……え…………」
なのははともきの背中を見ながら震える。彼女はロシアンルーレットについてよくわかっていなかったが、ケビンが机の上に割と小さ目のリボルバーを叩きつけるように置いた事でそれがとんでもなく危険な事と理解し、思わず息を呑んだ。
「先攻は譲ってあげるよ? 僕は優しいからねぇ? さぁ〜どうぞ? 」
そう言いながらケビンは1発だけ弾を込め、シリンダーをランダムになるように回転させるとそれを元に戻し、ともきの方へほおった。だがともきは動かない。その銃を見つめながら固まっている。
「うはは! どうしたんだ? 怖いのか? そりゃ〜そうだよね? でも感謝して欲しいなぁ〜? 最初から命を賭けてあげないだけ……だって僕は優しいっ!? な……」
「ぃ……ゃ……ともき……くん……ぁ……あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? いやぁぁあああああああああああああ!?
「うるせぇ! 静かにしろガキ!! 」
「うぐっ!? あ゛っ……つっ…………」
ベラベラと喋り、いつまでも煽るように喋るのをやめないケビンだったが、突如として銃を持ち自分の左手の小指に当てて引き金を引いたともきに驚き、言葉を失った。パンっ! っと銃声が響き、ともきの左手の小指は第2関節から弾け飛ぶ。
ともきの痛そうな顔と目の前に転がって来たともきの指を見たなのははたまらず悲鳴をあげた。あんなにも普通だった日常が一瞬にして非日常へと変わった瞬間。彼女は叫ばずにはいられない。
「き、き……みは……なぜそんな躊躇なく……」
「これはケジメだ。関係のないなのはを巻き込んだ自分への……」
「何を……言ってるんだ……それではまるで……今弾が出る事が分かっていたような言い方じゃな」
「分かっていたさ! 当然だろう? つーか、お前も知ってたろ? 今最初に弾が出る事。やり方がこずるいんだよ。こんなシンプルなゲームでつまんねー事しやがって」
撃った本人が痛そうな顔以外冷静で、その周りが動揺するこの状況はカオスに他ならない。勝負を仕掛けたケビンですら、その顔を引きつらせ、返された銃を見つめて固まる。
ケビンは恐怖するともきの姿が見たかった。しかし実際はそんな表情など見れるわけもない。それはかつてのともきを知るケビン自身がよく分かっていたはずなのに、彼はそれでもなお動揺を隠せずにいる。
「どうした? 今度はお前の番だぞ? 」
「くっ……ば、馬鹿にしやがって。ふふ、はは! まぁ〜いいや。じゃ〜僕が賭けるのはここで構わないよね? うはは」
「てめぇ……そこまで腐ってやがんのか」
次はケビンの番だが、ケビンは自分の指を賭けず、自分の前の机に銃口を押し付けた。正々堂々対等な物は賭けずに自分の身は傷つけない。もはやこれはともきにとって一方的に傷つく可能性しかないゲームでしかなかった。
またこの時ケビンは簡単に引き金を引く。カチッと軽い音がし、弾が出ずに間の抜けた音がした。
「文句はないだろ? ねぇ〜? 」
ケビンはふと……なのはをみた。その仕草が何を意味するのか、ともきは分かっている。だから逆らわないで素直に従った。何故なら……従わなければなのはを殺すと言っているのだから。
そしてともきは次の薬指に銃を当て、何の迷いもなく引き金を引く。でもそれも空撃ちで弾は出なかった。さらに次々に順番を回し、最初のケビンから5回目。
再びケビンの番の時にそれは起きた。
「さぁ〜これでどっちかが当たりになるわけだ。ワクワクするよね? (うはは! 弾の位置は常に僕の好きな位置へ持ってこれる。シリンダーを回転させる際にその位置を調整するのは僕の得意技なんだよ。さぁ〜次の君の番。薬指を飛ばして、その顔をさらに苦痛へと変えてやる) ほぉ〜ら! いくぞ〜! ……え…………」
出ないと思って軽く引いた引き金だったが銃口は火を吹き、机に穴があいた。ケビンは弾が出た状況が信じられずにまたしても固まった。無傷でありながら動揺する少年と自分の前の机と床を血まみれにしている小指を失った少年。失った物ではともきが大きいが、精神的にはケビンが追い詰められていた。この時この瞬間、ケビンの余裕は完全に消え失せた。
「このゲームは俺の勝ちだな。これで1対1だ」
「ば……かな…………き、君は……何を……したん……だ…………な、何をした!? 」
「何を? フフ……してないぜ? 何も……な? むしろ、やってるのはお前だろ? 正々堂々勝負もできねークソ野郎が! 」
現状……ケビンも、黒服も、なのはも……ともきの心の奥深くにある湧き上がりつつある感情にまだ気づいていない。ともきはまだ自分の中のスイッチを押してなどいなかった。むしろ彼がギャンブル狂だと思い知るのはここから。勝ち負けの概念を超えて快楽を求め、その先に常人では理解できない領域に足を踏み入れる。誰にも理解されない彼の本当の姿。彼の生きていく、ギャンブルをする本当の理由。
それがギャンブル狂である……ともきの本性である。
「さぁ! 次の勝負を始めようか? ケビン・ハノーバー? ……もっと俺をゾクゾクさせてくれよ。フフフ……」
次回もよろしくお願いします。