高町なのははギャンブルが嫌い 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
いまだに続くロシアンルーレット。ともきとケビンはその3回目の勝負を始めた。ケビンがシリンダーを回し、ランダムに見せかけその弾位置を把握。後は先攻と後攻を弾位置に合わせて宣言すればいい。
ケビンはイカサマをしている。ただそれは常人離れした耳があって初めて成立する事で、彼は回転するシリンダーの音を聞き分け、その回転数で弾の位置を把握する。
しかしケビンは気づいていなかった。このイカサマがそもそも意味をなしていない事と全てがともきの手の中で踊らされていると言う事を。
「さっきは僕が先攻だったから、次は君に譲るよ。勝負は公平じゃなきゃならないんだろ? ハハハ」
「そうか? なら遠慮なく……」
「うはは! 」
「もうやめて!! 」
ともきはテーブルの銃を取り、左手の薬指に銃を向けた。そしてなんに躊躇もなく最初と同じように引き金を引こうとしたが、そこでなのはが声を荒げた。もはや彼女からすれば見ていられない状況。泣きつくし、涙は枯れているが、その目を真っ赤に腫らして彼女は必死に訴える。ともきがこれ以上傷つくのを見ていたくないが為、彼女は必死で声を出した。
「お願いもうやめてよ!? 嫌……もうともきくんが傷つく所なんて見たくないよぉ……お願いだがら゛……もうこんな事やめてぇ……」
「はは、うは、ははは! いいなぁ〜ともき? モテモテで? しかも可愛い子だし、いいのか? お嬢ちゃん泣いてるぞ? ……っ!? 」
「何言ってんだ……ケビン? フフフ、良いも悪いも……俺がこの引き金を引かない理由があるわけないだろ? なのはが居ようが居まいが関係ねぇんだよ。これを引けば、このギャンブルの決着に近づく。ゾクゾクするだろう? この引き金一つで、お前と俺との勝負に影響が出るんだぜ? だからやめる理由なんてないだろうがよぉ? 違うか? ケビン・ハノーバー? フフフ」
「ぃ……や……嫌!? やめてともきくっ……ぁ……あ…………」
なのはの言葉は関係ない。ケビンの揺さぶりなどなんの効力もない。ともきは構わず、笑いながら引き金を引いた。カチっと間の抜けた音がし、ともきの握った銃からは弾は出なかった。
なのははそれにほっとしつつも、今の一回で心臓が止まるほどの緊張を味わい、それ以上言葉が出せなくなってしまった。
「ほら! お前の番だぞ? 」
「くっ……狂ってる」
「狂ってる? はは! それはご挨拶じゃねーか? お前だってこんなギャンブルを俺と変わらない歳で俺みたいな子供に挑んでんじゃねーかよ。しかも……人質までとってな? そうだろ? それだって……十分狂ってる。お前は俺と変わらない。同類だ。狂った異常者だ」
「っ!? い、一緒にするなこの『化け物』!!! 」
ケビンは大声でそう叫び、勢いで引き金を引いた。しかし当然の如く弾は出ず、次のともきの番へと順番が移った。銃を受け取り再び薬指へと銃口を向けたともきだったが、ここで彼はさっきのようにあっさりと引き金をひかなかった。
銃口は薬指を向けたまま、ケビンの方へ顔を上げ話し始める。ただその話はその場にいたなのはや黒服を含め、全員を人間を凍りつかせた。
「……2本かぁ〜……この歳で失うには……少し抵抗があるなぁ〜流石に。でもまぁ〜これでなのはが怪我せずに帰ってくるなら良いお買い物か」
「き、き……みは……何……言って……んだ……」
ケビンは動揺した。言葉が途切れ途切れになり、言葉がうまく出てこない。ともきの言っている事は理由は分からなくても意味は理解できる。そこにいるなのはさえ。
何故ならともきの言っている2本とは最初に失った小指と今まさに銃口を向けている薬指に他ならない。むしろそれ以外を表す意味もない為だ。
「待てよ……君は自分が何を言ってるのか理解してるのか? 僕が言えた事じゃないが、き、君は……今弾が」
「うるせぇよ。こうすればわかるだろう? ほら! ……づっ!? あ゛っ……てぇ……」
パンっ! と今度こそ本当の銃声が響き渡った。そして再び弾き飛ばされた指がなのはの目の付くところに転がると、彼女は発狂したかのように悲鳴をあげ叫んだ。
「きゃぁぁぁぁあああああああああ!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!? いやぁぁああああああああああああ!? もういやぁぁあああああああああああああああああ!? 」
「クソっ、静かに……(馬鹿か俺は……こんな状況で落ち着ける子供なんかいるわけない。と言うより……これ以上は止めないと取り返しのつかない事になる) 坊ちゃん! ……っ!? 」
なのはをつかまえている黒服は立場上ケビンを止めることができない。ただ状況が状況だけにもうなのはを静かにさせる事をやめ、黒服はケビンに呼びかけたが、途中でおし黙る。
テーブルの2人を見て、黒服はその場の緊張感に呑まれた。
(これで僕のリーチ。次で決まる。さっき僕が当たったのはまぐれに決まってる。何故なら僕は知ってるんだ。君が何者で、何を得意とするギャンブラーであるか……つまり君は)
「フフフ……なに次で勝てるみたいな顔してるんだ? 面白いのはここからだろぉ? 」
「うはは! 強がりもそこまでにしたほうがいい。このゲーム、この回で終わりだよ! ……は? ……え……なん……で…………」
ケビンはシリンダーを回し、数回の回転音を確認すると出ないとわかっているため、軽く引き金を引いた。しかしこれがケビンの絶対の自信を粉々に砕く。
「これで2対2。どうだぁ〜? 勝負がどっちに転ぶかわからないってのは〜ゾクゾクするだろう? フフフフ」
「な……な……ぐっ! ぶざけるな!? 何を! 何をしたんだ君は!? 最初の時もそうだったが、何故君が勝てる状況が生まれる! 僕が負けることなど今回絶対に!! ……ひっ!? 」
ニヤリと……ともきはまともとは思えない笑みを浮かべ、その目は狂ったように怪しく光っていた。ケビンは完全に呑まれている。自分が追い込んでいたはずなのに、結果は同列。4回の勝負が終わり。本当に次で勝負が決まる状況でありながらケビンは取り乱していた。
「そう怖がるなよ。楽しくいこうぜ? ケビン? ほら、はやく弾を準備しろよ。始めよう! 次で終わりだ! お前か! 俺か! 果たして立っていられるのはどっちか! ノーリスクでやってるんだからもう少し思い切ってやってみせろよ。張り合いがねー」
「クソっ、クソっ! ナメるな!? 君はなんなんだ!? 僕の人生をメチャクチャにして、僕の命を奪っておきながら、何故のうのうと楽しんでいられる!? 後悔させてやる! 絶対に!! 絶対にだ!!! 」
ケビンはシリンダーを勢いよく回し、銃をともきの方へ投げた。そしてケビンはこの時、弾の位置が初期の位置……ともきの先攻で弾が出る状態になっている事を知ってともきに先攻を譲った。つまりケビンの後悔させるとはそう言うことだった。
なんの抵抗もできずにその指を再び失わせる。ケビンは心の底から笑い、はやく引き金を引けと考える。だがともきはそれをあざ笑うかのように、トチ狂った事をし始めた。
「フフフ、なぁ〜ケビン? お前、これで弾が出るとわかってるんだろう? お前はそういう奴だ。だからよぉ〜? 指なんてチャチなもん賭けるより……こうしようぜ? 」
「なっ!? 」
「えぇ……ともき……く……ぁ……ああっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!? う゛わぁぁああああああああああ!? いやぁぁああああああああああああああああ!? やめてぇぇぇええええええええ!? ともきくんお願い!? そんな事しないで!? いやぁぁあああああ!? う゛わあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛んっ!? 」
ともきがし始めた行動を見て、張り裂けそうだった彼女の心はさらに張り裂けそうになった。ともきは銃口を指ではなく、コメカミに向け、トリガーに指をかけたのだ。なのはは泣き叫び、ケビンはありえないような物を見る目でともきを見た。まるで現実ではない何かを見ているような目。
「よ……よせ……僕はそこまで望んでなんか……君を少し懲らしめようと……やめ……ろ……じゃないと本当に死ぬぞ!? 」
「バーカ! だからおもしれんじゃねーかよ。フフ、さぁ〜? いこうか? せ〜の! 」
「いやぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? ……ぁ……と、ともき……くん? ……とも……き……く……ぅ……」
カチっと間の抜けた音が響き、なのははショックと緊張の糸が切れ、気を失った。幼い彼女の心はこの状況に耐え切れなかった。常軌を逸したギャンブル。最後の最後でともきがやった異常な行動はともきの本質に他ならない。普段友人に優しく、ただギャンブルがしたい人間性の彼は、一旦スイッチが入るとその人格は破綻する。
故に……ここにいる今のともきはなのはの知らない裏のともきだった。
「なん……だと……ば、馬鹿な…………」
「俺の勝ちだ! ケビン・ハノーバー」
「な、なにを……まだ弾は!? ……へ…………」
状況が信じられず、ともきの勝利宣言に腹を立てたケビンだったが、彼が声を荒げた瞬間、テーブルに向かってともきが引き金を引いた事でケビンは目を丸くして固まる。だがそれもそのはず、その瞬間テーブルに穴が空いたのだから。
「何故……何故……なん……だ…………僕の耳は……確実に」
「ああ。お前の耳は完璧だ。しかしだからこそ……俺が勝った」
「何……」
ともきは笑みを浮かべながら語った。実はこの勝負、ともきに勝ち目がないように見えてそうではない。むしろ逆。仮にケビンがもう少し慎重な人間であったなら結果は変わったかもしれないが、ともきはそれも含めて完全にケビンという人間の器を見切ってしまっていた。
昔一度勝負している相手。それだけでともきが負ける要素を失う。それほどまでに彼はギャンブルに対しての才があった。
いうならばブラフの天才。
ともきは相手の精神状態と思考。そして何より相手の思惑を操作することに長けている。かつて20歳そこそこのともきがが裏の世界で親友2人とその名を轟かせた事はだてではない。
「お前は気づくべきだった。最初に俺が指を飛ばした時に……俺は言ったはずだぜ? 弾が出ることがわかっていたってな? 当然だろう? お前の耳は誰よりも優れている。そんなお前が間違えるわけはない」
「だがシリンダーを操作しているのは僕だ!? 君が介入する余地などどこにも!? ……え……そ、それは…………」
カチっカチっ! と……ともきは手の中で何かを鳴らした。ケビンはこの瞬間初めて理解する。ともきによって操作されていたのはシリンダーでもましてや銃自体ではない。ケビン自身の耳である事を。
「馬鹿な!? 嘘だ!? そんな事できるわけがない!? 」
「フフフフ、できるさ! なんの為に俺が指を2本も飛ばしたと思ってるんだ? 人は血を見れば、どんな人間でも2割は動揺する。ましてやお前ぐらいの器の人間、冷静でいられるわけがない。だからお前は聞き間違えたのさ。この数取機の音とな? 」
ともきが最初に指を飛ばしたのはなのはを巻き込んだケジメ。確かにそれもあった。しかしそれ以上にそうする事でケビンの精神につけいるスキを作り出すことが目的だった。普通にやってもイカサマでともきに勝ち目はない。でもそれを利用した場合勝率は逆転する。
「ま、2本目は単純にお前が聞き間違えなかっただけだったんだがな。そう考えると、やっぱり凄いよ。お前の耳は。だからこそ……おしい。そんなくだらない性格なのが。ギャンブルの素質だけなら……俺はお前の事嫌いじゃない。だが! こいつを……なのはを巻き込んだことだけは許せない。だから嫌いだよ。お前なんか! 」
「か、仮にそれが正しいとして、何故最初に弾が出る事をバラす必要がある!? もし僕が君の思惑に気づいて裏をかいたらどうするつもりだったんだ!? 」
「フフフ……ククク………それりゃ〜お前……100%勝てたらつまらないだろ? 」
「な……にを言って…………」
理解不能。それがケビンがともきに抱く今の感情と思考。それはイカサマをし、100%リスクを負わずに勝つやり方しか考えないケビンには到底理解できない思考だった。
ともきがケビンに対して弾が出ることがわかると言ったのは相手が気づく可能性を作り出す為。相手に対して勝つ為のチャンスを作り出す為。
そう、ともきはイカサマをされている状況で、負ける可能性を自ら作り出すという常人では理解できない事をやっていた。
フェアーじゃないギャンブルをともきは好まない。例え命がかかっていたとしても、その根底は揺るがない。
何故ならともきはギャンブルで勝つことに対して並々ならぬ快楽を感じる人間。ギャンブル狂なのだから。
「不条理だ!? 理解できない!! 狂ってる!? イかれてるぞ君は!? 勝てるなら……リスクを負う必要なんて……」
「は? ……ほんとわかってねぇーな? リスクのないギャンブルなんて……何が面白いんだ? 」
「っ!? 」
どこまでも……どこまでも冷たいともきの目。さっきまでと違い、ともきはケビンに対して壊れたおもちゃを見るような、そんな目をしていた。
「もういいだろ? なのはを離せ。そして次から2度となのはに関わるな! 俺に用があるなら……直接こい」
そう言ったともきはなのはをおぶさりそこから立ち去った。なのはをつかまえていた黒服は抵抗することなくなのはをともきに渡し、ケビンも唖然と見ていただけ。ギャンブル全てにおいて、ともきは規格外であった。勝負の為の犠牲や器量。命すらも天秤にかける異常な感性は彼の武器に他ならない。
そしてこの日を境に……なのはは、ともきをさけるようになってしまった。
次回もよろしくお願いします。