「う……ん」
眩しい日差しが窓から差し込む。
籠の中に敷かれたタオルケットのごわごわした感覚にを感じる。
次第に意識が虚ろな物から現実に引き戻されていく。
「ここ……は?」
彼が目覚めた場所はマンションの一室。
窓からは青空が広がり街の様子が見下ろせる。
「……え」
ここで気付いた。
何時も首に下げていたレイジングハートが見当たらないことに。
それと同時に彼の最後の記憶が蘇る。
ジュエルシード、輸送事故、第97管理外世界、黒い影
そして、失敗。
あの後倒れた自分に何があったのか。
その考察に入ろうとした時、違和感があるのにも気が付いた。
体が軽い。
あれだけ消耗していた筈なのに魔力が回復している。
いや、何処からか魔力が流れてきている。
一体何が、そう思っていると、
「お、起きたねネズミ」
燈色の髪をした女性、犬の耳が頭に生えている彼女はおそらく使い魔だろうか。
そんな彼女に、起きて早々訂正を求めなければならないことができた。
「僕はフェレットです」
「どうでもいいよ、そんな事」
にべもなくユーノの訂正は切って捨てられたのであった。
■
「起きたんだ」
その言葉に頷きつつ、目の前の金髪の少女を見上げる。
「君が助けてくれたんだね、ありがとう」
彼女が助けてくれたということはどう見ても自明だった。
だからお礼を言ったのだが彼女は首を振る。
「君を助けたのは聞きたいことがあったから」
そう言われて首をかしげたユーノだったが、彼女のポケットから出てきたものを見て目を向いた。
「レイジングハートッ!」
彼の首に掛かっていたはずのレイジングハートは、彼女の手の掌にあった。
そして、
「ジュエルシードも……」
レイジングハートに収容されていたジュエルシードが、彼女のデバイスから姿を現す。
「そう、君に聞きたいことはこれのこと」
無感動に告げる彼女に、嫌な予感を覚える。
「そ、それはとっても大事な物なんだ。
輸送中にばら蒔かれてしまったロストロギアで、このままじゃこの世界の人に被害を与えてしまう。
早く封印しなくちゃいけない物なんだ」
だが、ユーノはその予感を振り払い、彼女に危険性をここぞとばかりに危険をアピールする。
彼女はユーノの必死な言葉を一つ一つ噛み締めるように聞いていく。
必死に話して伝えたい事は伝えた。
話しいて彼女が理知的なことは理解できた。
だから少し体から力が抜けてしまっても、おかしくないだろう。
だって彼女はどれだけ危険なのか分かってくれるのだから。
「ありがとう、これのことは良く分かった」
フェイトが小さく頭を下げる。
その姿を確認して、無事に伝わったとユーノは受け取った。
「うん、だから管理局が来るまでちょっと危ないかもしれないけど待っていてくれるかな」
「管理……局?」
思わずオウム返しのように聞き返してしまうフェイト。
それほど今言われたことは重要な一言だった。
「そうだよ、こっちに来る前にちゃんと連絡してきたから」
だから安心してって言い方はおかしいけど少しは気楽にしていいよ、などとのたまうユーノにフェイトは焦りを覚えた。
『あいつも余計な真似をしてくれたねぇ。
もしかしたら他にも何かありそうだし、もうちょっとあいつに聞いておいた方がいいかも知らないね』
少し苛立ち気味にアルフが念話で伝えてきた。
その言葉にフェイトも同意してもう少し探りを入れてみることにした。
「質問するから答えて」
いきなりのことでユーノも少し驚くが、僕の説明で不足なところがあったのかな?と思ったので快く引き受けることにした。
「先ずは一つ目、ジュエルシードを追ってこの次元世界に来たの?」
これは前提条件の確認である。
他に何か別の目的があってこの世界にいるなら、それはそれで問題がある。
「そうだね、僕は輸送中に散蒔かれたジュエルシードを回収しにこの世界に来たんだ」
この部分は想像通り、とフェイトは理解し次の質問に移る。
「この世界には1人で来たの?」
ずっと思ってた、彼の主人はどこで何をしているのだろか、と。
使い魔だけをあんな場所に、それもラインを切って、それがフェイトにはそれが気になっていた。
もし使い魔だけをあの場所に置いて主人が逃げたのならば、きっと私はその人のことを好きになれない。
漠然とだが、フェイトにはそう思うだけの倫理観と優しさがあった。
「そうだね、1人だけで来たよ。
一族の皆は管理局の圧力で止められてしまって……。
だからせめて僕だけでもって思ってここまで来ました」
ユーノが拾われてからそこで暮らしてきた居場所、スクライア一族はロストロギアを発掘する流浪の一族である。
今回の事件で、ジュエルシードの回収に真っ先に手を挙げたのもこの一族であった。
尤も管理局的にも面子があり、自力で回収すると協力を突っぱねてしまったのだが。
「一族?」
さっきから分からないことが多くて、困惑に気味に頭を傾げるフェイト。
そもそもスクライアの一族のことなど聞いてないのだから、分かるはずがないのだが。
「ええと、スクライアの一族。
ロストロギアを収集、それらを管理局に譲渡してる一族なんだけどね。
……やっぱり知らないかなぁ」
マイナーだよね、と言いつつも少し寂しく感じるユーノ。
ミッドチルダの学会などでは重要視されている一族ではあった。
だがそんなことをリニスから教わっていないフェイトは知らなかったのだが。
「それから」
急にユーノが硬い声音で声を出した。
緊張しているであろうことがフェレットモードでありながら、ありありと感じ取れた。
「大切な事を伝えなきゃいけない」
苦しそうな雰囲気が自らの罪を告発する罪人のようで、フェイトはヒヤリと何かに撫でられた感覚に陥る。
これはユーノの義務感から発せられるものである。
「言って」
その場に広がっている何かに飲まれそうになりながらも、小さく続きを促すフェイト。
後ろに待機しているアルフは、何を言い出すのか興味津々とといったところである。
自分が助けてもらい恩を受けた相手に、ずっと黙っておくわけにはいかない。
そう踏み出す勇気を出し語り始める。
「ジュエルシードは僕が発掘したんだ」
誰かが小さく息を呑む。
恩人か使い魔の方かは確認していない。
気にせず続きを話し始める。
「初めてにしては上手く発掘できたと思った。
周りのみんなもそう言って持て囃してくれた。
あの時は少し調子に乗ってたのかもしれない」
独白が続く、誰も口を出そうとはしない。
「でもね、輸送船を手配したあとは殆ど何もしなかったんだ。
事故に遭うなんて微塵も思ってなかった。
そう考えるとね、もし自分が最善を尽くしていたらって考えるようになったんだ。
あんな危険な物だったんだからね」
独白は続く、誰かの手が握られていた。
「そう考えると居ても立ってもいられなくなった。
管理局に通報して、一族でジュエルシード回収の特別チームだって組んでもらった。
今度こそ自分ができる最善を尽くそうと思ったんだ」
独白は続く、心臓が速く脈打つ。
「だけどね、僕じゃダメなのかまたダメだったんだ。
さっき言ったように管理局の圧力によってチームは解散、一番近い管理局の船でもここに来るのに1ヶ月位は時間が掛かる。
それまでこの世界はジュエルシードの被害に遭うと考えるとね。
落ち着いてなんかいられなかった、つい衝動的に動いちゃったんだ
本当は駄目だったのに一人で来てしまった、一族の皆にも黙ってね」
独白は続く、予感を覚える。
「でもジュエルシードは想像以上に凶暴だった。
見通しの甘さを責めてもいいくらいに。
せいぜい回収できたのは1個だけ。
後はどんどんと体力を無駄にしていって、気付けばやられていた。
だけど、そこに……」
独白は続く、記憶を確かめる。
「君たちが現れた。
そのおかげで本当に助かったよ。
本当にありがとう……それと、巻き込んでしまってごめんなさい」
独白は終わった。
それと同時に沈黙が訪れる。
「バカじゃないのかい」
そんな中で開口一番に飛び出した言葉がそれである。
顔を向けるとアルフがイラついた表情でまくし立てる。
「第一輸送していたのは管理局なんだろう。
それなのにあんたがそこまでする必要があるのかい!」
「で、でも」
いきなりの全力否定に、何か言い返そうとするがそれさえも遮り、話は続く。
「大体あんた一人で何ができるのさ。
フェイトみたいな能力がある訳でもなしに。
あれかい、自分は頑張りました、そんな自分が格好良いとでも思っているのかい」
心に刺さる言葉が多くて沈黙してしまうユーノ。
アルフも普段ならこんなことは言わない。
ああ、そうかい、大変だったねえ、と同情を含んで哀れんでいただろう。
だがユーノが見せた自己を顧みない姿勢が、プレシアの為に献身を尽くすフェイトが連想されてしまい頭に血が上った。
だから、ついねちっこい言い方をしてしまった。
言ってから後悔するといったものである。
一方フェイトはユーノの姿勢に少し感銘を受けていただけに、アルフの言葉はショックだった。
『そこまで言う必要はあったの?』
『あいつは潜在的な敵だよ。
今はフェイトの使い魔だけど、前はスクライア一族がうんちゃらってそこの使い……魔?」
ここでアルフは自ら述べる言い訳の中で、疑問が発生する。
『あいつ、使い魔なんだよねえ?』
そう言われてフェイトも、引っかかりを覚えた。
使い魔にしては主人のことは話さないし、発掘調査で責任者をしたりしている。
リニスのような徹底して、できる使い魔というのも今までの印象として違う。
見つけた時に主人とラインが繋がっていないと思っていたのは実は……。
ひとつ冷たい汗がフェイトの背中に流れていた。
「……君は誰の使い魔だった…の?」
恐る恐る聞く。
自分が想う嫌な予感が的中しないことを祈りながら。
「え、違うよ!こんななりだけどちゃんとした人間だよ」
「あんた、しょっぱなフェレットだって訂正したじゃないのさ」
「あれは今の姿のことです」
さっきまでの雰囲気は吹き飛び、ユーノとアルフがガヤガヤと騒ぎ始めるがフェイトはそれどころじゃなかった。
(や、やっちゃった)
てへぺろ、で許されない状況だとフェイトは気づいてしまった。
「ちょっと待って。
いま人間の状態に戻るから」
あまりに食い下がるアルフに、業を煮やしたユーノが人間の状態に戻ろうとする。
だが途中で固まる。
何度も、えい!っと踏ん張っても何をしても戻る気配がない。
「フェレットモードが固定されてるうぅぅ!!!」
衝撃を受けて崩れ落ちるユーノに、自分はとんでもない事を仕出かしたんじゃないかと不安をフェイトは覚えるのであった。
フェイトがドジっ子なのは仕様です。
ご不快な方は誠に申し訳ございません。
でもこうでないとこの話はなじまらないんですよね。
以上、言い訳でした。