次は2年後ですね、間違いない(確信)。
なお、久しぶりの投稿なので、作風が変わってるかもしれません。
「レイジングハートを落とした?」
ユーノに困ったことがあると相談をした。
そう、何時の間にかユーノが持っていたデバイス、レイジングハートの行方が分からなくなっていたのだ。
何時落としたかなんてさっぱり、あちこち見て回ったけど、結局見つかることはなかった。
「謝って済むことじゃないけど、ごめんなさい」
探して見つかることがなかった私ができることは、謝ることだけ。
それ以外に、ユーノの私物を無くしてしまったことを詫びる方法が見つからない。
それも借りたのではなく、没収したものであったのだから始末に負えない。
「顔を上げてフェイト、怒ってないから」
顔を上げると、そこには怒ってないけれど、どこか目が遠くなっているユーノの姿が。
あ、ダメだこれは、と直ぐに悟れてしまう程度には、やばい感じであった。
「フフ、初めての給料の殆どを費やして作った、僕の考えた最強のデバイスだったんだよね、アレ」
結局使いこなせなかったんだけど、何て空目を剥きながら呟くサマは、中々にキているものがあった。
どうしよう、本当にどうしよう。
給料一ヶ月分だと、婚約指輪の大体3分の1である。
それほどの情熱を、ユーノはあのデバイスに掛けていたのだ。
「お詫びと言ってはアレだけど、出来ることがあるなら何でもする」
それくらいでしか、誠意が示せそうにないのだ。
するとユーノは、ちょっと考えたあとに、こう答えた。
「フェイト、君のお母さんのことについて、教えてもらえないかな?」
「お母さんの事?」
どうしてそんな話を?
嬉しいけど、と小首を傾げていると、ユーノが訳を話してくれた。
「君たち、最初に話した時に、お母さんのため、とだけ言ったよね」
あった、そんなことも。
でも何だか懐かしい、1年半くらい前の話のようにも思える。
「ならもっと深く知れたのなら、フェイト達の事、もっと分かる気がするから。
だからその時は僕は」
何かを言いかけて、ユーノは口を噤んだ。
だけれども、この子が言いたいことは、大体察することができた。
ちょっと呆れて、そして口元が緩む。
「良いよ、お母さんのことだよね」
ユーノはすごく真面目さんだ。
こんなにも悩んで、自分の正義感とうんうんと相談をしている。
だから、だからこそ最後に、私はこう付け加えた。
「でもね、話し終わったあとに、それを理由に手伝うって言っちゃダメ。
ちゃんと自分の意思で、手伝って、て言って」
そう言うと、ユーノは自分の頬を、ポリポリと掻き始める。
バレちゃってたか、と呟いて自嘲気味に笑っていた。
「そうだね、結局は自分の意思が重要だもんね。
卑怯な真似をしようとしてごめん」
「ううん、ユーノが私達を手伝ってくれる口実を探しているだけなのは、分かっているから」
フェイトは賢いね、とユーノは言う。
けどそれは違うよ、私は不器用だから。
だから折角のユーノの考えを無碍にしてしまったのだ。
「ありがとうフェイト、じゃあ聞かせてくれるかな」
「もう、ユーノがお母さんのことを聞く理由はないよ?」
付き合いで聞いて欲しいまでとは言わない。
そう言うと、ユーノはそれを否定した。
そして続けて、こう言ったのだ。
「単にフェイトのことをもっと知りたいだけだよ」
そうして気恥ずかしそうな声音で、こう続けた。
「だってさ、友達になれるって、そう思ったから」
……ずるい、本当にずるい。
どうしてそう思ったのだろうか、と自分を問いただせば、答えは簡単に見つかった。
――私も同じことを思ってるんだ。
気付くと、ちょっぴり胸が暖かく感じた。
友達、そう言えば私は友達がいない。
昔はもっと居たはずなのに、どうして?
良く分からない疑問が頭を過る。
けれど、それを上回る嬉しさが今はあった。
「聞いて欲しい、ユーノ」
「聞かせて欲しいよ、フェイト」
自分から話したいと意思を込めて言うと、ユーノも聞かせて欲しいと、気持ちを込めて返してくれた。
ユーノは優しいんだ、そう思いながら、私は語り始めた。
幸せのかけら、私が取り戻す為に頑張っている風景を。
「お母さんは凄く優秀な科学者なんだよ。
でもね、少しおっちょこちょいなところがあって、トースターを使うと、何故か毎回焦がしちゃうの」
フェイトの言葉に耳を傾ける。
それは彼女の日常。
そしてそこには常に彼女のお母さんの姿があった。
「私がね、バターナイフで焦げた所を削ると、お母さんがありがとうって、嬉しそうに笑ってくれる。
あの笑顔が、私は本当に好き」
「可愛いお母さんなんだね」
僕がそう言うと、それに頷きつつも、フェイトはジト目になっていた。
「あげないよ」
「取らないよ」
その発想はなかった。
ほんとに? と聞いてきているあたり、本気で警戒しているのかもしれない。
「結婚したりとか」
「出来ると思う?」
フェイトはジッと、僕のことを見つめてきた。
隅から隅まで、余さずに。
何だか擽ったいような感覚だ。
「ッハ、まさかお母さんをケモナーに!?」
「何でそうなるのさっ!」
お母さんのことになると、フェイトはどうにもおかしくなってしまうらしい。
どれだけ好きなのか、尋ねると永遠に終わりそうもない独演会が始まりそうな勢いだ。
「続きを話してよ」
「んー、ゴホン。
ごめん、ちょっと取り乱しちゃった」
ちょっと? ……きっと突っ込んだら負けになるのだろう。
耐えるように、沈黙を貫く。
するとフェイトは、何事もなかったかのように続きを話し始めた。
「買い物とかでもね、本当に必要なものを放りっぱなして、私の洋服選びに没頭しちゃったりね。
嬉しいけど、ちょっと困っちゃうよね」
「困るのも嬉しい内に入ってるのかな」
本当に嬉しそうに語るのだから、きっとそうなのだろう。
フェイトも同意するように頷く。
「そこまで分かるなんて、ユーノは通だね」
「そこで味の違いが分かる、みたいに言われても反応に困るんだけどね」
だけれど、と思う。
そういうのは、羨ましい。
だって、両親との交流というのは、そういうものであろうから。
「いいね、そういうの」
「欲しいの?」
そう尋ねるフェイトの目は、今度はジト目ではなかった。
どちらかというと、何かに興味を持っている目だ。
「心の片隅で想う程度には」
そもそも、親なんて居なかったのだから。
だから憧れはしても、焦がれるほどの思いはなかった。
「それはそれで、何だか複雑」
……子供心は難しい、でも微笑ましい。
何時もは凛としていて大人びているけれど、今は年相応だ。
「何だか生暖かい目をしてるよ、ユーノ」
「フェレットなんだから、視線が変わるなんてことないよ」
こう雰囲気が、などといっているフェイトに、ポーカーフェイスを決め込む。
まぁ、フェレットなのだから、表情を読まれるなんてことはまずないのだが。
むむ、と唸っているフェイトに、フォローになればと僕は口を開いた。
「でも、羨ましいかな」
正直な気持ちだ、ちょっと恥ずかしいけど、それでもフェイトはきっとこの言葉が聞きたかったのであろうから。
「……ありがと」
それを敏感に感じ取ったのか、フェイトは呟く程度の声で言った。
恥ずかしさと誇らしさが同居した、むずがゆい表情で。
きっとフェイトにとって、お母さんが世界を構成する大きな部分なのだろう。
それ程に人を思えるというのは、幸せなのかもしれない。
「フェイトは良い子だね」
「急にどうしたの? 褒めても何も出ないよ」
思わず漏らすと、フェイトは本当に不思議そうにしていた。
だからわかりやすく、僕が思ったことを告げる。
「お母さんをそんなに大事に思っているんだよ。
僕だったら嬉しいし、フェイトが自慢だと思うな」
「……ありがとう」
褒めたら照れが現れた、何も出ないという言葉はウソだったようだ。
でも、とフェイトはごまかすように言う。
「私がお母さんを大好きなだけ。
だからこんなにも想っているの。
好きじゃなかったら、きっと私は悪い子だよ」
お母さんが私の全てだから、そういう彼女は強くも見えて、逆に脆くも見えた。
さっきまで羨ましいと思っていた感情が、気付けば寂しい、に入れ替わっていた。
お母さんについてではない、彼女が気付いていないところが何よりも。
「フェイトの世界はもっと広いよ」
彼女の世界は、完結していない。
アルフがいるし、もしかしたら他の誰かもいるかもしれない。
それに今は、僕もいる。
決してそれだけが全て、ということはないのだ。
「フェイトが優しいのは、それだけ関わった
これからもっと、フェイトの世界は広がっていくと思う。
ここで完結するには、彼女は外に目が向きすぎている。
「でも、私はユーノを閉じ込めているよ」
それは屁理屈だとしか言えない。
だって、全く関係のないところでの話なのだから。
「言い訳にすら出来てないよ」
「ユーノ、ちょっと意地悪だね」
急に拗ねたような口調になった。
思わず笑いそうになるとフェイトは、むーと声を上げて、軽く僕を睨む。
「フェイトが寂しいことを言うからだよ」
「それほど私はお母さんが好きなの」
もぅ、と呟く彼女はすごく子供っぽくて、新鮮に感じる。
見えなかった素顔が見える、そう思うと少々の嬉しさがこみ上げてくる。
「うん、ごめんね」
僕が謝ると、フェイトは気概を削がれたかのように、少しため息を履いた。
「こっちこそ、ムキになってごめん」
「ううん、むしろ何時もそれくらいでいいと思うよ」
もぅ、と再び続けて、フェイトは顔を綻ばせた。
それ乗せられたのか、僕も自分が柔らかくなるのを感じる。
「意地悪すぎると怒るよ、ユーノ」
そう言いながら、彼女は笑顔だった。
だから、僕はそれにホッとした。
「フェイトの笑う顔、初めて見る気がする」
「そう?」
気にした風もなく、特に関心も示さないフェイト。
でも、僕の安心は然りとしたものとなった。
優しいのに笑わないのは、何だか心を不安にさせられたから。
だから彼女の笑みは、幸いだと感じたのだ。
「笑ってるの? ユーノ」
「んー、そうかもしれないね」
「馬鹿にされてる?」
「してないよ」
それは邪推が過ぎるというもの。
はっきりとそう告げるとフェイトは、そっか、と呟き、それからは喋らなくなってしまった。
だけれど、今は沈黙も嫌じゃなかった。
気まずくなんてないから、苦でもないのだ。
「フェイト」
でも、僕は沈黙を打ち破っていた。
話したいことが、伝えたいことができていたから。
「何?」
「手伝わせて……いや、元々それを、僕はしに来たんだから」
何を、とまでは言うまでもなく伝わっていた。
「ジュエルシードは、私がもらうよ?」
「それでも良いよ。
このまま、この街に放置されているよりもずっと良い」
一刻も早く、今はジュエルシードを回収することが、大切なのだから。
今は、そのことだけを考えよう。
それに、だ。
「君のお母さんは、決して悪い人じゃないんだよね」
フェイトの話からわかったこと。
それは、彼女のお母さんは、優しいということ。
だから僕は、フェイトのお母さんなのだ、ということをハッキリと分かった。
彼女が優しいのは、お母さんに影響されているんだということを。
「うん、大好き」
躊躇なく、そう伝えてくるフェイト。
だから、安心したのだ。
「機会があれば、僕もフェイトのお母さんと話がしたいな」
それで何でジュエルシードを集めたのか、その理由を尋ねよう。
話ができるのなら、それがきっかけに成りうることもあるのだから。
「……結局、お母さんをダシにしている」
フェイトからジトっとした目を、また向けられる。
だけど、これは確認上必要なことだったのだ。
「流石に、悪いことをするから集めますなら、僕も協力なんてできないからね」
でも、きっと大丈夫。
フェイトから聞いた話では、きっと信頼できる人だ。
「……よろしく、ユーノ」
「こちらこそよろしく、フェイト」
この時、僕たちは互いに感じているものがあった。
それは、混じりっけのないものであったが、擽ったいもの。
きっとそれは、友達という共通の認識。
友情ってものだったと、僕はそう思う。
「それにしても……アルフ、帰ってくるのが遅いね」
「何してるんだろ?」
アルフは今、家にいていない。
レイジングハートを、まだ探してくれているのだ。
できれば見つけて欲しい、この世界ではオーパーツな訳だし。
何かがあれば、問題になりうるのだから。
そんなことを考えていると、急にけたたましい音が鳴り始める。
「あ、電話」
フェイトが立ち上がり、そのまま受話器を取りに行く。
待っていると、フェイトがすみませんとか、ごめんなさいと謝っているのが聞こえてくる。
何があったんだろうと、若干不安になる。
そうして待っていると、フェイトが戻ってきて一言で完結に説明してくれた。
「アルフが……逮捕された」
「え?」
時空管理局……早い、早すぎる。
思っていたより、気合を入れていたのか。
「地元の警察に」
「何をやったの!?」
違った、決定的な何かが。
一体、何をして捕まったというのか。
愕然としていると、フェイトが迎えに行くと言って家から出て行った。
暫く待っていると、ショボくれたアルフを伴ったフェイトが無事に帰ってきた。
「一体何をしたの?」
「お前のせいなんだよ、このバカ!」
おもいっきし、拳骨で殴られる。
っちょ、やめて!
今フェレットだから、死んじゃうぅ!!!
「このっ、このっ!」
「ああああああああああああああああああ」
「ユーノ、うるさいよ」
「止めてよっ!」
段々と薄らいでいく意識の中で、フェイトが笑っているのが見えた。
こっちは笑い事じゃないんだけどなぁ。
なおアルフは、レイジングハートの行方を、幼女に声をかけて回っていた模様。
そう言えば、小さな女の子にぶつかったな、ということを思い出したため。
無事、通報されてしまった。