尤も、2年も半年も対して変わらないですが。
頭の中がふわふわしている。
深く物事を考えられない。
ここはどこ? アルフやユーノは?
そんな疑問も、直ぐにどうでも良くなる。
ただ、ぼんやりとした頭で、歩いていく。
どことも知れないコンクリートの道を、ブラブラと。
周りには木々があって、時折獣道の様な物が見える。
何かが通った跡なのか、誰かが通った跡なのか。
気になって、一つの獣道へとブラリと寄り道。
何か予感があった、どんなものかは理解できてないけれど。
そうして、歩き続けて幾分。
距離も時間も分からないけど、大して疲れてないから大丈夫だって思う。
うん、これなら行けるはずって。
だから遠慮なく進んで、入って、進んでを繰り返して。
辿りついた場所には……ナニカがいた。
恐らくは全長10mはある巨大生物、人間ではない。
愛くるしい顔つきをしていて、思わず撫でてあげたくなる……10mもなければだけど。
その妙に可愛くて怖い生物。
それが私を認識して、そして喋ったのだ。
「僕の真の姿を見てしまったんだね、フェイト」
それは、およそ10m位の大きさであったフェレット、友達になったユーノの声であったのだ。
………………
…………
……
ピピピピッ、と朝を告げる目覚ましの音が鳴る。
フェイトは一人目を擦りながら、こう呟いた。
「どういう、ことなの……」
天に意志があれば、恐らくは”知らねえよ”と返すであろう疑問であった。
「ユーノ、君はもしかしていきなり10mの高さになんて変身しないよね?」
「フェイト、朝から何を言ってるのさ?」
おかしなモノを見るような目をするフェイトに、同様の視線を返す。
僕は人間の姿には戻れるけれど、そんなおかしなメタモルフォーゼは果たせない。
たまにフェイトは、こんなおかしな事を言い始める。
頑張りすぎておかしくなってるんじゃないか疑惑まで、僕の中では浮上していたりする。
まあ、口に出したらアルフに噛み付かれるから(物理的に)何も言う気はないのだけれど。
「うーん、でも……」
どこか納得いかなげに、フェイトは僕を見て眉間に皺を寄せていた。
一体何が彼女を悩ませるのかはサラサラ疑問だけど、僕がおかしい訳ではないはず。
だから、むむ、とこっちまで悩みそうになってしまう。
けど、そんな僕に対しては横槍が入れられた。
「ほらユーノ、フェイトが10mになれって言ってんだから、ちゃっちゃと行動しな」
「アルフ、もっとよく考えて無茶振りしてよ!」
「無茶振りするのは良いのかい」
自分で言いながら、困惑しているかのようなアルフ。
理不尽な命令だって、自覚していたのかもしれない。
アルフは割と理不尽をこじらせる事があるから困る。
「ユーノは10mにはなれなくて、巨大フェレット族でもない?」
「巨大フェレット族って何……」
フェイトの疑問も、最早支離滅裂であり意味不明の物体となっていた。
スクライア一族はフェレット一族とも言えるのか? とこっちまで理解不能の考察を始めてしまいそうになる。
もうこれ以上考えるだけ、アレな様な気がする。
考えたら負け、と考古学的に負けな考えをしつつ、僕は咳払いを一つする。
「それよりも」
「何よりも?」
フェイトが首を傾げながら訊ねてくる。
結局、フェイトの中での巨大フェレット族なる謎の部族は、何か適当に淘汰されたのであろう、実に良いことだ。
「次の行動方針だね」
「その通り」
僕の代わりに、アルフがその言葉を発した。
それに頷きつつ、僕は二人を見る。
未だ寝惚け眼チックなフェイトと、気怠そうに背伸びをしているアルフ。
ちゃんと話を聞いてくれるか不安になりつつ、取り敢えずは話を話を始める。
僕たちがすべきこと、それが何であるかをだ。
「目下、僕達はすべき事が幾つかある」
それを明確に、一つ一つ口にしていく。
フェイトもアルフも、それを静かに聞いていて。
……真剣というよりは、単に眠たいだけだと思うけど。
「一つ目は一番最重要な、ジュエルシードの回収。
これは他の何よりも優先すべき事柄だね」
ジュエルシード、これは何時自爆するか分からない核弾頭がそこかしこに点在しているのだから当然と言えるだろう。
集めきれなかったら、僕達どころかこの街全体が終わってしまう。
「で、二つ目はレイジングハートだね」
チラリとフェイトに視線を向けると、っう、頭が!? と言いたげな顔をする。
どうやら眠気は飛んだようで、大変良いことだ。
まぁ、それだけフェイトにとっても後ろめたい内容だということだろうけど。
「ウン、ゼンゼンオコッテナイヨ?」
「嘘だよっ、無茶苦茶カタコトになってるよユーノ!?」
どうしようどうしようと、フェイトが慌て始める。
負い目のある分、どうにも過敏に反応してしまうらしい。
「――そこの毛玉」
しかし、どうやらそれは、後背の保護者まで刺激したようで。
くるっと振り返ると、とてもイイ笑顔をしたアルフが、そこには立っていた。
同落とし前付けてくれるんじゃワレ、とイケナイオーラ全開である。
あ、ダメだ、これ詰んだ。
そう思った時に、アルフから優しい声音で告げられる。
「雑巾になるか、ドブに落ちるか、それともフェイトを慰める。
選択肢は色々あるけど、どれにするんだい?
命が保証されてるのは、実質一択だけど」
「はい、誠心誠意を込めて、慰めさせてもらいます!」
ぼそりと呟いたアルフの言葉が耳に入るや否や、脊髄反射で返事をしていて。
全力でフェイトのところへと駆けていった。
「大丈夫、僕にとっては大したことないから!」
「でも、お給料三ヶ月分……」
「そんなみみっちい金額、このフェレットが気にする分けないだろうフェイト」
僕の言葉を、アルフが援護していく。
……物言いたくなる気持ちはあるが、気にしないように努める。
今はそれより、目の前の半泣き状態のフェイトをどうにかしないと、僕の命が潰えることになるのだから!
「そうだよ、フェイト。
それに僕がレイジングハートを気にしてるのは、別に感情でどうだからと考えてるわけじゃない。
もっと重要な理由があるからだよ」
「重要な理由?」
それを聞いて、フェイトは慌てるのをやめて、耳を傾ける。
だからそこに畳み掛けるように、僕は言葉を紡いでいく。
「そう、大切なこと。
それはね、この世界にあってレイジングハートは、解析されない科学と魔法の結晶だからだよ」
あっ、とフェイトが声を上げる。
納得したのか、それとも驚いて声を上げたのか。
どちらにしても、彼女が理解した事に違いはない。
だから僕は言葉を続けていく。
「もしレイジングハートが解析されたなら、なんて過程は多分無意味だとは思う。
何故なら、見た目は単なる宝石か綺麗な赤い玉としか見られないだろうから。
でもね、それでも不確定要素として、この世界にそんな技術を残しておくのは大変に宜しくないんだ。
今すぐにじゃなくても遠い何時かに、レイジングハートの秘密が分かってしまうかもしれないんだから」
確率的にはどれだけ低くても、中にはそんな事が起こりうる可能性がある。
それを考えると、どうしてもそのまま放置して帰るなど出来そうに無いのだ。
「だからね、ジュエルシードを全て探し終えたら、一緒に探して欲しい」
そう言うと、フェイトは真面目な顔で、うんと頷いた。
無事に分かって貰えて何よりだ。
……僕の命も掛かっていたしね。
「それで最後に三つ目。
それは、君達の家庭問題だね」
「私達の?」
フェイトが首を傾げて、アルフは真剣に、半ば睨みつけるようにして僕を見る。
アルフからすれば、コイツは急に何を言い出すんだ、と思っているだろう。
警戒して然るべき反応だ。
だけれど、これは恐らく何時かはぶつかる問題だから。
今の内に問題提起をしておいた方が良いと思ったのだ。
「現状、フェイトとアルフがこの世界に来てるけど、はっきりと言って違法行為だ」
そう言うと、分かってはいるけど、ムッとした顔を隠さない二人。
だけれども、重要な事だから今の内に話さないといけないのだ。
「わざわざ自分じゃなくて娘にそんな事をさせるんだから、それなりの理由があると思う。
けど、理由があったからって、全部終わってから管理局に逮捕されました、じゃあまりにあんまりだと思うんだ。
……折角協力してくれてるのに」
そう言うと、何か言いかけた言葉を、二人共飲み込む。
一理あると思ったのであろう。
僕としても、それで大いに助かる。
このまま、折角友達になったのに捕まりましたは洒落にならないのだから。
「フェイトのお母さんが何をやろうと思っているのか。
それ次第で、情状酌量の余地も生まれてくるし、足枷はあるけど逮捕される事は無くなるんだ。
それを、今度フェイトのお母さんに聞いてきてくれないかな?」
だから、僕にやれることをやろう。
手段を尽くして助けよう。
僕に出来ることは少ないけど、それでもこのまま何もしないよりかは断然に良い。
友達が困っていたら、助けるのが友情の在り方であると思うから。
「……分かった、お母さんの為だもんね」
フェイトが頷いたので、僕もホッとする。
強硬に反対されたのなら、僕に手段は何も残されなかった事は請負である。
全く持って嫌な自負だが、特に最近は思うのだ。
僕に出来ることは少なく、限られていると。
だからこそ、出来る範囲の事は必ず成し遂げたいと思う。
くだらないプライドかもしれないけど、それでも役立たずなのも不義理なのも御免被る。
出来ることに、全霊を掛けたいのだ。
「今度お母さんに会いに行く時は宜しくね」
「うん」
これで、不安要因の一つは取り除けた。
フェイトが言うところには、お母さんは悪い人物ではないので、きっと大丈夫。
なら、後は信じて待つのみ。
ジュエルシードを回収しながらの、結果報告待ち。
それが最良であると思う。
「よし、じゃあ今後はその順序で行こう」
「……ユーノは頼りになるね」
取り敢えずは決まった事にホッとして安堵の息を吐いていると、フェイトが微笑みながらそんな事を言ってきた。
頼りになる……自分の事だけど、かなり円遠い言葉だと思える。
「僕はフェイトを頼りにしてるよ」
「っうん!」
だけれど嬉しかったから、僕もフェイトにそう返す。
するとフェイトにも伝わったのか、嬉しそうに笑顔を浮かべて。
ちょっと胸が暖かくなったのだった。
「ユーノ、ちょっと良いかい?」
「何かな、アルフ」
それからちょっとして、特にジュエルシードの反応がないから寛いでいた時の出来事だった。
アルフが僕に声をかけてきたのだ。
しかも、尋ねながらも有無を言わせぬ迫力を持って。
底知れぬ嫌な予感に襲われながら僕が返事をすると、アルフは顔を近づけて小さな声でこう告げたのだ。
「フェイトはああ言ってるけど、鬼婆……フェイトの母親はロクデナシだよ。
あの子の事、痛めつけてる姿しか見たこと無いからね。
だから、きっとジュエルシードの使い方も、ロクでもないことに決まっている。
あんたには、その時の為に、何か対策を練って欲しいのさね」
「え、それって」
驚いて返事をしようとしたのだけれど、アルフはそれ以上いう事はないと言わんばかりに、その場を離れていった。
アルフの表情は真剣で、嘘の色なんてどこにも見当たらない。
それだから、すごく心配をしてしまう。
……何かが、噛み合ってないと、そう思ったから。