僕の主人は何を思うか   作:ペンギン3

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4ヶ月ぶりの投稿。
但し、相変わらずの話の進まない症候群です、すみません。


7話

 あの悲しいアルパカ事件から数日。

 僕達は全力で、荒野を駆ける様にしてジュエルシードを集めていった。

 そんな中で、気になることがあるとすれば……。

 

 

 

「ユーノ! アルフ!

 今度はカピバラさんが二足歩行してる!!」

 

「こいつ、四足歩行の癖に歩こうなんて、十年早いのさ!」

 

「もしかすると、このカピバラはある種の進化の過程に居るのかもしれないね。

 そう、猿が人類へと進化した様に」

 

「阿呆なこと言ってないで、バインドで追い込みな、ユーノ!」

 

 僕の知的考察を即効で詰まらないと切り捨てたアルフにわだかまりを覚えつつ、けれども乱れない連携でまるで人間の如く腕を振りながら走るカピバラを追い詰める。

 しかし、カピバラも中々補足されずに、まるで奇妙な踊りを舞うかの様にフェイトのザンバーを交わしていく。

 そこには、進化の果てに辿りついた知恵と、動物の本能が混ざり合った究極の姿があった!

 

 …………癒しが売りのカピバラなのに、致命的に可愛くない。

 あまりに酷い姿を晒しているその姿に、やっぱり動物は動物のままの方が可愛く思えるんだなって、そう感じざるを得なかった。

 というかアルフ、君も元はといえば四足歩行だったろうに……。

 

 

 などという事が有り、即ちジュエルシードはやはりロクでもないものだったという事が証明された(前のアルパカ事件の時に重々承知していたが)。

 他にも、自動車にジュエルシードが取り込まれて変形したり(近くに持ち主が倒れてたから、恐らくは妙な願い事をしたのだろう)、駆けつけてみたら物理的にパソコンに頭がのめり込んでいる人物が居たり(パソコンの中に入りたいとでも願ったのか?)、悲しくも切ない事件が多発していた。

 

 ……何だか塩っぱい事件も幾つか紛れてる気がしないでもないけれど、兎に角問題はそこではなくてこんな凄惨な事件に巻き込まれてしまっている現地の人がいるという事。

 ジュエルシードがこの街に落とされなければ、こんな事には為らなかった。

 そう考えると、早くこの街からジュエルシードを回収しきらなくては! と強い気持ちに駆られる。

 でなければ、こんな悲しい事件が、更に拡大してしまうのだから!

 

「そういう訳でフェイト、アルフ。

 これからも申し訳ないけど、一緒に頑張って欲しい」

 

「アンタに言われるまでもなく、あたし達はジュエルシードを集める。

 別にアンタの為にやってんじゃないんだから、わざわざそんなの言わなくて良いよ、面倒くさい」

 

「ごめんユーノ、アルフは照れ屋だから」

 

「フェイト!」

 

 などと僕の所感を述べたところ、最終的にアルフが怒っていた。

 しかも睨まれるし……でも、フェイトの言う様に最近は照れ隠しなのかなって、そう思うここのところ。

 雑な言動にはさらされるけれど、何だかんだで面倒を見てくれてるし、嫌われてるわけじゃないと思う、多分。

 

「アルフ、これからも宜しくね」

 

 なのでフェイトの言葉に便乗する様に言うと、アルフはフェイトじゃなくて僕をキッときつい目で睨んでくる。

 反射的に怯んでしまう僕に彼女は一言、こう言った。

 

「アンタ、今日の餌抜き」

 

「何で!」

 

 けど、何時もこういう流れになる。

 まぁ、何だかんだ言ってご飯は出してくれるんだけれど。

 嫌われてるわけじゃないよね? 多分大丈夫だよね、きっとそうだよね?

 

 と、こういう風に自問自答を繰り返してしまう今日この時。

 アルフはそっぽを向いたまま、フェイトは優しい目でこっちを見守っている。

 何とも言えない状況だけれど、一つ言えることがあるとすれば。

 

「大分、馴染んできたかな」

 

 小さく、小声でそう呟く。

 アルフの耳がピクピク動いてるので聞こえてるかもしれないけど、何も言ってこないので彼女もそう思ってくれてると考えておこう。

 

 取り分け何か特別な事があった訳ではないが、自然と受け入れられていると、そう感じられるのだ。

 フェイトからも、アルフからも、そして僕自身も。

 それぞれのやり方で、彼女達と僕という境目を曖昧にしている。

 一線は引いてあるけれど、共闘する他人という立ち位置から、一緒に戦う仲間という区分へと移り変わって。

 だから、それが嬉しい。

 遠くに感じていたものが近くに感じられて、それを共有してる感覚があるのだから。

 

「何ニヤニヤしてんだい、気持ち悪い」

 

「え、フェレットの表情、分かるの!?」

 

「雰囲気で分かるんだよ、そんなの」

 

 思わずフェイトの方に目を向けると、彼女は微笑みながらこう言った。

 嬉しい様な、楽しい様な、そんな表情を少し忍ばせて。

 

「ね、アルフは照れ屋さんだって言ったでしょう?

 ユーノのこと、たくさん見てるんだよ」

 

「このネズミが調子に乗るから、あんまりそういうこと言うんじゃないよ、フェイト」

 

「だからフェレットだって、何回言えば分かってくれるんだ!」

 

 ガヤガヤと騒いでしまう一日の始まり。

 二人の特徴も特性も、こうして一緒に居ると結構掴めてきたりしている。

 そんな朝の始まりが、僕は嫌いではない。

 そんな、ジュエルシードを集める合間の一時。

 ――この共同生活は、およそ一週間目を迎えていた。

 

 

 

 

 

「それで、今日はどうしようかな」

 

 朝食を食べ終えてから少し経って、フェイトは本日の目的を策定しようとそんな事を言い始めた。

 ソファーで熱いコーヒーにフゥフゥと息を吹きかけながら、上目遣いに僕の寝床である机の上の籠を覗いての事だ。

 

「確か、今日までに集めたジュエルシードの数は五個だったよね?」

 

「うん、アルフやユーノのお陰で、もうこんなに集まったんだよ」

 

 フフ、と嬉しそうに微笑むフェイトを見てると、こっちまで笑顔を浮かべてしまいそうになる。

 こうして気を楽にしている時のフェイトは、周りの人まで心穏やかにしてくれる優しい雰囲気を持っているのだ。

 何と言えば良いのか……敢えて形容するならば、肩に頭を預けてしまいたくなる様な感覚。

 無防備だと一瞬でやられてしまいそうな、ちょっと困った感じ。

 

「フェイトが僕達の中で一番頑張ってる。

 気持ちで、一番勝ってるのかもしれないね」

 

 けれど、それに流されない様にしながら僕は言う。

 ちょっと面映かったのもあるけれど、それよりもフェイト自身が頑張ってると認識して欲しかったから。

 必死で、懸命に戦う彼女にこそ、それを自覚して欲しかったから。

 ……けれど、彼女は、フェイトはニコリと笑ったままで。

 

「うん、ありがとう。

 お母さんの為なら、私は何だってできるから」

 

「……マザーコンプレックスって言うんだっけ、こういうの」

 

「うん? ユーノ、何か言った?」

 

「ううん、相変わらずフェイトはお母さんが好きなんだなって」

 

「え、ユーノまた私のお母さんの話が聞きたいの?」

 

「今は結構かな。

 また今度、聞きたくなった時にお願いするよ」

 

 そう返事をすると、フェイトは露骨に面白くないと言わんばかりの顔をして、そう、と小さく声を出した。

 分かりやすい態度に苦笑いを浮かべつつ、さて、と僕も少しばかり考える。

 何についてかといえば、フェイトの体調について。

 

 フェイトはここ一週間、休む事なくジュエルシードを集め続けて来た。

 街の中を探索し、発動しなければ中々見つけられないジュエルシードをコツコツと街全体でダウジングをする様な要領で探し続けてきた。

 そして発動してしまったジュエルシードとの戦闘もあり、彼女は思っているよりも消耗していると思われる。

 だからこそ、考えてしまうのだ。

 ――そんなフェイトに、無茶をさせてしまって良いのかと。

 

「ユーノ、何か考えてる?」

 

「分かるの?」

 

「うん、私もユーノの事、ちゃんと見てるから」

 

 サラリと言われると、中々に反応に困る。

 ありがとうと返そうにも、それも何か違うような気がするから。

 僕もと返事をしようものなら、間違いなく耳の良いアルフから変態と罵られる事は間違いない。

 故に、ここは慎重に答えなきゃいけないところで……。

 

「そう言われると、ちょっと照れるね」

 

 結局、口から溢れたのは、まるで女の子の様な妙な言葉。

 言ってから、しまった!? と頭を抱えてしまう。

 トンチキな答えこの上なく、考えた上で言ったのにいざ口にすると強烈な羞恥に襲われる。

 頭と言葉の現実との乖離、空気に触れれば言葉さえ見事に色が付いてしまうのだから、本当に困ってしまう。

 因みに、さっきの言葉は赤色に染まっている。

 

「そう? ユーノは恥ずかしがり屋なんだ」

 

「それは何か、違うかな?」

 

「違うの?」

 

「うん」

 

 自分の言葉選びのセンスの無さで、ちょっと首を絞めてしまっただけ。

 だから顔が真っ赤になってたとしても、息苦しかったと答える所存。

 ……フェレットだから顔が赤くなったりとかはしないけど。

 

「まぁ、そんな事はどうでも良いんだよ。

 それよりも、今日の事」

 

「あ、そうだったね」

 

 これ以上話していると自ら地雷を踏み抜きそうだったので、無理矢理気味に話題を修正する。

 フェイトが首を傾げていたけど、全面的に無視するのが正しい選択。

 だから勢いに任せて、僕はこんな提案を投げかける。

 今日の方針、その形について。

 

「今日は休みにしよう。

 定休日を設けておかないと、簡単に疲れ果てちゃうよ。

 ジュエルシードが発動したら、その時は全力で駆けつけよう」

 

 それでいいかな? とフェイトに尋ねれば、少し悩んだ顔が現れて。

 以前なら真面目の一言で判断できた表情も、フェイトの事が分かってきた今になったら違う風に見えてくる。

 即ち、お母さんの為に動きたくてウズウズしている。

 そんな彼女が居る事を、何となくで分かってしまえるのだ。

 なので、僕はダメ押しする為に、もう一つばかり言葉を付け足す。

 フェイト、と彼女の名前を呼びながら。

 

「これは提案じゃなくてお願いだね。

 勝手に僕が心配して、気にしてしまってるから、ただそれだけの事なんだ。

 最悪、僕一人で今日は探索すれば良いし」

 

「ユーノ一人に探させられる訳ないよ」

 

「だったら、今日だけは休んでくれると嬉しい。

 そうすると、僕も安心できるから。

 ずっと動いてるより、適度に休んだ方が効率的なんだよ」

 

 理屈と気持ち、両方を押し出す形でフェイトに訴える僕。

 考えれば考えるだけ不安が大きくなってきたからこその、このゴリ押しであった。

 勿論、ジュエルシードが暴れる事は不安ではあるが、それでも今の僕はフェイトに頼るしか回収方法は存在していない。

 つまり、フェイトこそが僕の生命線で、この街の生命線だと言わざるを得ないのだ。

 

 感情と理屈、その両面からフェイトを酷使するのは良くないという僕の結論。

 それをフェイトに納得させる為の言葉で、ある種の沈黙が部屋に満ちようとしていた……その時である。

 そこに、何処からともなく声が飛んできた。

 大きな声で、元気で勝気な女の人の声。

 

「たまにはネズミの良いこと言うじゃないかい!」

 

「アルフ、おかえり」

 

「猫じゃないのに何でネズミにそんなに拘るのさ!

 あと、おかえり」

 

 散歩に出かけて部屋にいなかったアルフの、帰ってきての第一声がそれであった。

 ただいま、とアルフは軽快に告げてから、フェイトの元へと駆けていく。

 尻尾がフリフリと楽しげに振られている事から、アルフの気持ちがある程度汲み取れる。

 犬的に考えると、御主人に構って構ってとじゃれ付きに行った感じで。

 ……こう、思わず頭を撫でたくなる感覚に襲われる、現在進行形で僕はフェレットだけれど。

 

「フェイト、折角だからどこか出かけようよぉ」

 

「え、休みなんだよ?」

 

「ユーノ、アンタは何にも分かってない!」

 

「え、何が?」

 

 休みなんだからゆっくりするのが当然じゃあ、と考えている僕に、アルフは力説する様にこう言う。

 曰く、ただ家に居る事だけが休むにあらずとの事だそうだ。

 

「家に引き篭ってたら、体力は回復するかもしれないけど気疲れするね。

 こういう時こそ、ちょっと買い物に出たりするのさ。

 別に一日中って訳じゃない、三時間とかそこらで切り上げる。

 普通の休日って、そういうものさね」

 

「なるほど」

 

 確かに、一理あると頷く。

 僕自身、フィールドワークや発掘などで疲れた後の休日は寝てることが多かったけど、休みが出来た時に図書館に文献を借りに行ったり、本屋で古書を探すのはすごく楽しかった。

 気分、精神的なところは、確かに言われてみれば大切なもので。

 つい目に見えるものだけを気にしすぎて感がある。

 ほぅ、と感心していると、アルフがどうよ、と言わんばかりに良い笑顔を浮かべていて。

 僕は、自然とコクンと頷いていた。

 

「じゃ、フェイト、そういう事で良いね?」

 

「えっと、別に良いけど……」

 

 勝手に進んでいた話し合いで、フェイトは目を点にしてコクコクと首を縦に降るだけで。

 それじゃあと、僕とアルフは図った様に動き出す。

 僕はアルフの肩へ、アルフはフェイトの手を取って。

 さぁ、出かけようと、準備を始める。

 

 ――今日の予定は、どうやら出かける事になるらしい。

 ――フェイトの顔は、戸惑ってるけど少しばかり緩んでいた。

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