今回は一年半ぶりの投稿ですね(白目)。
次もそのくらい掛かったら済みません……。
というか、今回も感想と評価をもらえたから更新したっていう即物的なモノでして……。
お出掛けしよう!
そう僕とアルフで、フェイトを説得した直ぐ後の事。
さぁ、出かけるぞというタイミングで、唐突に問題にブチ当たった。
何が? と問われたらとても簡単なこと。
日本という国は、ペットをそのまま放し飼いにするのは駄目だという事(大体の次元世界でもそうだけれど)。
そして、僕の体を見下ろせば、どう見てもモフモフ。
つまりは、そういう事なのだ……。
「ユーノ、お前はどうしてネズミなんだい」
「僕はあと何度、ネズミじゃないと言えばいいんだ……」
「分かった、訂正する。
ネズミ、今日の昼食はお前で良いかい?」
「殺害予告!?」
自然界では仕方ない事さ、と呟くアルフの目はどう見ても僕を非難している目であった。
どうしてネズミはネズミなの? と本音が、ヒシヒシと伝わってくる。
「そっか、ユーノはこのままじゃ出掛けられないんだね」
ぼそりと呟かれたフェイトの言葉に、苦い思いを浮かべながら頷く。
もし出掛けるなら、それこそペット用のキャリーケースを買わないといけない。
しかし、フェイトは僕が元々人間だという事を理解しているだろう。
彼女には、人間の男の子をキャリーケースに詰め込む趣味は無いのだ。
ウンウンと頷いてる僕に、サラリとアルフが呟いた。
「いや、あんたネズミじゃないかい」
「アルフは自分の事、人間だと思ってるのかな?
それとも、狼?」
「私はフェイトの使い魔さ。
狼とか人間とか、そんな細かい事はどうだって良い。
まぁ、あんたの言いたい事は分かったけどね」
「分かってくれたんだね!」
「あー、分かったから、取り敢えず檻の中に入ろうか」
「全然理解されてない!?」
どこからか、アルフはキャリーケース(ペット用)を持ってきていた。
プラスチックではなく鉄製のそれは、どこか強制収容所を思わせるものがある。
管理局の牢屋は、こんな感じの寒い場所なのだろうか。
は、はは、と小さい笑い声が漏れてしまう。
別に牢屋が大好きとかそういう事じゃなくて、純粋に遠い目をしてしまう状況なだけだった。
「懲役何年かな」
「フェイトが帰宅するまでだよ、早く入んな!」
「そっかぁ」
アハハと声を出しながら、いそいそとキャリーケースの中に足を踏み入れる。
嫌だけれど、本当に嫌だけれど、もうどうしようもなくてアルフも見逃してくれないと分かっていたから。
もし僕がここで、一人でお留守番してるからね、何て言ったら何だかんだでフェイトは気にしてしまう。
優しいから、容易にその状況が想像できてしまうのだ。
ただ、敢えて一つダメだった点を言うとすれば……。
「――待って、ユーノ、アルフ」
優しいフェイトが、この状況で黙ってはいないという事にまで頭が回っていなかったという点だろう。
僕はフェレットなのさ、と謎の固定概念に囚われかけていたのも原因かもしれない。
「何さ、フェイト」
「やっぱり檻は……良くないと思う」
気遣わしげに、僕の顔を覗き込むフェイト。
それが有り難くて、同時に申し訳無い。
良くも悪くも、フェイトは他人を慮らずには居られないのだから。
「いや、良いさ」
「ユーノ?」
だからこそ、踏ん切りがついたのだろう。
今日から、ユーノ・スクライアはイタチ科のフェレット。
人間でもネズミでもないんだと言い聞かせる。
そうして、いそいそと檻もといキャリーケースの中へと足を踏み入れようとして……。
――ヒョイっと、首根っこを掴まれて持ち上げられたのだ。
「……フェイト?」
「ユーノ、やっぱり嫌そうだよ。
無理、しないほうが良い」
「でも」
「それに、これ持ってお出かけするのは、多分疲れちゃうよ」
キャリーケースを人差し指でツンとして、私もアルフも女の子だもん、とフェイトは言う。
僕はフェイトの両手に抱えられて、どうするの? と掌から彼女を見上げる。
すると、フェイトは大丈夫だよ、と少し微笑んでからこんな事を言いだしたのだ。
「私も、ユーノを閉じ込めるのは嫌だった。
だから、ちゃんと考えたんだよ」
そう言って、彼女が取り出したもの、それは……。
「ユーノ、これでお出かけできるよ」
「え?」
どこからどう見ても、輪っかで、丸くて、リードがあって……。
「犬をお散歩しているの、よく見かけるよね?
だったら、犬がフェレットに変わっても誰も気にしないよ」
「……えぇー」
本気なの? と視線を向けても、フェイトは微笑んだままで。
冗談抜きで、これが最善策だと思ってるのだと理解せざるを得なかった。
「だからね、ユーノ。
この首輪をつけて欲しいの」
「訳が分からないよ!?」
前から思ってたけど、フェイトは少しおかしな娘かもしれなかった。
どういうことなの! と目を剥いていると、フェイトは小さな子供を諭す様な落ち着いた口調で語り始める。
ねぇ、ユーノと、柔らかな声で。
「私はユーノを檻の中に閉じ込めるのが嫌、ユーノは檻に入るのは嫌。
ここまでは良いよね?」
コクリと頷けば、フェイトは続けて言う。
「私はユーノにお留守番させて、自分だけ遊びになんて行けない。
でも、ユーノをそのまま連れ歩くのは、ちょっと大変。
だったら、この方法しかないって思ったの」
「それが首輪なんだ……」
呆然と呟けば、何故か、本当に何故だか分からないけど自信有りげにフェイトは頷いた。
チラッとアルフの方に視線を走らせると、アルフは懐かしそうに昔は私もフェイトに散歩を~等と回想していた。
どう考えても犬の扱いだよ、オオカミさんと言えば良いのか。
兎に角、アルフは頼りにならない事は良く伝わってきた。
なら、と一つばかり確かめたい事を、一つフェイトに尋ねる。
「フェイトは、僕だけがお留守番してるのが嫌なの?」
「うん、そう」
何を当たり前のこと、聞いてるの? と言いたげにフェイトが首を傾げていた。
もうこの時点で、大体の成り行きが想像付いてしまったが、それを押し殺して続けて質問していく。
「フェイトは僕がフェレットだと思う?
それとも人間だと思ってる?」
「ユーノはユーノだよ?」
あっさりと、フェイトはそんな答えを返してきた。
それ以上でもそれ以下でもなく、僕のあるがままの姿を受け入れていると言わんばかりに。
フェイトの回答を聞いて、あぁ、成程と理解した。
つまりは、僕がフェレットの姿である限り、フェイトは僕を人間として認識してくれてなかったという事。
今までは僕を人間と認識してくれていると思っていたけど、フェイトにとって友達は人間でも動物でもどっちでも良かったのだ。
ある意味で衝撃の真実に絶句していると、首元でカチャリと鉄の擦れた音がした。
あ、と声も漏らす余裕もなく、それは成されていた。
「うん、これで大丈夫」
どこか満足気なフェイトの声。
首元には、僅かに締め付ける感覚がする赤の首輪があって。
「うん、とっても似合ってる」
「流石はフェイト、センスが良いねぇ」
どうやら、僕に首輪が付けられるのは覆しようもない流れ。
思わず溜息が我慢できなかったのは……まぁ、仕方がない事だった。
「首輪……首輪付けられて外に出かけてる。
心なしか皆に見られてる気が……もしかして、僕は変態として注目されてしまってる?」
「なに震えてるんだい。
アンタはネズミなんだから、誰もおかしいなんて思っちゃいないよ」
「うぅ、アルフ、僕は蔑まれてないよね?
フェイトに首輪されて、喜んでるなんて思われてないよね?」
「どこから、そんな発想が生まれてくるんだい。
ナイナイ、安心しなって」
現在、天下の海鳴市を僕らは闊歩している。
うん、つまりはリードで繋がれた僕が、衆目に晒されているという事で。
思い出されるのは、スクライア一族での探索作業。
あの時はみんなフェレットだったなぁ、と懐かしい気持ちに駆られてしまっていた。
比べて今の僕は、どこからどう見ても立派なペット。
もし他の一族の皆に見つかったら、ユーノはペットプレイに目覚めて美少女に調教されていると噂が流れてしまうかもしれない。
もしそうなったら、僕はどこか遠い次元世界への亡命も辞さない覚悟だ。
探さないで下さいと書置きを残して、どこかの管理外世界でヒッソリと考古学に精を出すことだろう。
「大丈夫だよユーノ。
多分だけど、ここら辺でフェレット飼ってる人が少ないだけだと思うから」
「そ、そうかな?」
「うん、多分。
ううん、きっとそう」
「だったら良いけど」
「一回深呼吸してみたら?」
「……そうするよ」
悪い夢を見ている、ある意味で夢見心地だった今まで。
そのせいで周りが見えてなかったのは確かなので、フェイトの提案に従って深呼吸をする。
――吸って、吐いて、吸って、吐いて。
これを何度か繰り返して、ようやく少し落ち着けた気がした。
なので、今度はゆっくりと辺りを見回すと……。
「見ろよ、イタチだぜ。
首輪して散歩って、珍しい飼い方してるなぁ」
「ていうか飼い主の娘、可愛くね?」
「あー、ワカランでもないが、手を出せばロリコンだぞ?」
「仕方ないからペットのイタチで我慢しておくか」
貞操の危機!?
あ、いや、きっと何かの聞き間違いに違いない。
でなかったら、きっとあそこの人は特級レベルでの変態なのだろう。
そういうのは無視するに限る、気に掛けないようにしなくちゃ。
コホン、と軽く咳払いして違う箇所へと目を向けた。
……今度は変な人がいなきゃ良いけど。
「ほらほら、あの仔こっち向いた!」
「可愛いねぇ」
「フェレットだよね、あれ。
ペットショップで見たことあるよ」
「あ、でも、確かフェレットってくさいんじゃなかったっけ?」
「え、そうなの?」
「この前テレビで見てたけど、そうらしいよ?」
「あんなに可愛いのに……」
とっても、残念なモノを見る目で見られてる。
というか、素直に落ち込んでしまう。
堂々とくさいって言われるのがこんなに傷つくなんて、初めて知ったよ……。
あと、一般のペットショップにいるフェレットは、においの原因になる箇所を切除されてるから、くさくないよ!
「大丈夫ユーノ。
全然におわないし、モフモフが好きだよ?」
「あ、うん、ありがとうフェイト……」
「当たり前だよ、毎日あたしが洗ってやってるんだから」
「アルフもありがとう」
ハイハイと適当な返事を返してくるアルフだけれど、これで面倒見は良いのだ。
お風呂の時、アルフには何時もお世話になっている。
フェレットの手では体が洗えず、アルフにはシャンプー(フェレット用)をしてもらっているのだ。
ちょっと口は悪くてもアルフは何だかんだで勤勉で、頭が上がらなくなりそうな事も多々あったりする。
尤も、アルフは一々気にしなくていい、と鬱陶しそうに言うけれど。
「それよりも、この街の人の視線が厳しいから、ここは早く立ち去りたいかな」
「うん、フェレットが珍しくて、ここの人達も驚いてるんだね」
多分珍しいのはフェイトとアルフもだよ、と思ったけれどそれは口にせずに心の中にしまい込む。
もし言ったら、アルフは兎も角フェイトは周りの視線に過敏になっちゃうだろうから。
促す様にぽんぽんと靴を叩くと、心得たようにフェイトは再び歩き出して。
これじゃあお出かけっていうより、僕の散歩そのものだよね……。
なんて事に気が付いてしまったのが、何とも苦い思いを呼び起こしてくれたのだった。
「このネズミ連れてたらお店に入れないし、このまま商店街で買い物って感じでいいね、フェイト」
「うん、今日も晩御飯とか買っちゃおう」
こうして、名実共に僕の散歩と化してしまったこのお出かけ。
申し訳なく思ってたら、アルフにペシっとデコピンを入れられてしまった。
気にするな、ということらしい。
『あ、あの惣菜屋さんのコロッケとか、美味しそうじゃない?』
現在商店街、人混みが多いので僕はフェイトに抱えられての移動。
ついでに言えば、言葉も喋る訳にはいかず、今の様に念話を飛ばしている。
「ユーノはあのコロッケ、食べたい?」
「あたしはどうせなら、メンチカツの方が良いけどねぇ」
「じゃあ、両方買おう」
「フェイトは?」
「私はコロッケかなぁ」
「フェイトは痩せ気味なのに、もっと肉食べなって」
『まぁ、コロッケの方が食べやすい時もあるからさ』
ワイワイガヤガヤと、テンポが良いのか悪いのか分からない会話を繰り広げながらの買い物。
尤も、僕はダンマリだから、時々誰と話してるのこの娘? といった視線は向けられたりする(フェイトは気が付いてないけど)。
それに最後まで気が付かずに、ついに会計。
ちょっとホッとしたところで、フェイトは支払いを済ませて。
さて、帰ろうか、というところで店員の人から待ったを掛けられた。
渡すものがある、とのことらしい。
「えっと、これは?」
「向こうでガラガラやってるから、その券だね。
千円分で一枚なんだ」
「ガラガラって?」
「そっか、外国人の娘だもんなぁ。
ちょっと分からないか。
あれはね、くじ引きみたいなもので、当たると何か貰えて外れるとティッシュが貰えるんだ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
へぇ、と呟いたフェイトは関心があるのか、吸い寄せられる様にガラガラと呼ばれたモノの所までやってきた。
別に大量の列があったわけではないので、待つ時間はあっという間に終わって。
『何か、当たれば良いね』
「フェイト、三等の牛肉を当てとくれ!」
「うん、頑張るね」
真剣な表情で、僕をアルフに預けたフェイト。
両手で回す取っ手の部分を掴んで、気合は必要以上。
見ている方も、思わず力が入ってしまいそうになるくらいに力んでいた。
「君、少し落ち着いて。
ゆっくり回してくれたら良いから」
「はい」
係の人に言われて少し冷静になったのか、ゆっくりと、けれども両手でフェイトはガラガラを回し始めた。
中から、大量の玉が回転する音が聞こえてくる。
ガラガラ、ガラガラ、そう音が響き渡って、そして――。
カラン、と一つ玉が出てきた。
――色は、金色。
「お、大当たり~っ!!
一等賞、温泉一泊二日の旅が当たりました!!」
係の人が叫んで、それが何なのかを理解する。
フェイトの顔を覗き込めば、理解が追いついてないのか、目が点になっていて。
『フェイト、温泉だって。
一等賞だよ、凄いよ!』
「さっすがフェイト、良くやったね!」
僕らの声で、ようやくフェイトの目に理解の光が灯った。
嬉しそうに顔を綻ばせながら、深く頷く。
「うん、三人一緒に行こうね!」
休暇の日、延長決定の瞬間だった。
友達に首輪を喜々として装着するフェイト、流石のユーノも苦笑い。
もしユーノが人間に戻れた時、フェイトが人間のユーノに首輪を付けたがらないか、ちょっと心配です、はい。