HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
原作では出てたけど本作では影も形も出なかった彼女に悲劇が……っ!
クスキエリゼの施設のうちいくつかは、流石に戦闘の余波で崩れ落ちていた。
その残骸を弾き飛ばしながら、一台の小型の戦車が姿を現す。
今では珍しい丸い車体に、四方向から生える脚部。真ん中には榴弾砲が搭載されていた。
とある国で研究されている、対魔族用の多脚式戦車だった。
「むむむ。まさかこのような展開になるとは想定外でござった」
残念そうに唇をへの字に曲げ、その操縦者である少女、リディアーヌ・ディディエはへこんでいた。
諸事情あって太史局の依頼でLYLの制御などのプログラミング関係を手伝っていたのだが、いろんな意味で大損したといえるだろう。
「女帝殿と一戦交える気でござったが、そのまえにLYLが用済みになってはどうしようもないでござる。まあ、無用な犠牲が生まれなかったのはようござったが……」
いろんな意味でこんな展開は想定外だ。
「……はぁ。これはいろんな意味で大損でござるよ。ディディエ重工にも何か言われそうで―」
「―具体的には何を言われるのかな?」
後ろから投げかけられたその言葉に、リディアーヌはビクリと肩を震わせた。
恐る恐る振り返ると、そこには赤茶色の髪をした少女と見まごうばかりの少年の姿があった。
「じょ、女帝殿の御友人の……」
「宮白兵夜だ。いやいや、あれだけのシステム、制御に相当の使い手が必要だと思って藍羽に調べてもらったが、まさかあんただとはなぁ?」
全身から怒気を漏らしながら、兵夜はにやりと笑顔を浮かべる。
「さて、これだけの大騒ぎの原因なんだ。いくら小学生とはいえただで済ますわけにはいかないと思わないか?」
「……しからば御免!!」
判断は一瞬だった。
即座に戦車に乗り込みなおすと、全速力で逃げの一手を打つ。
そしてその瞬間、脚部が凍り付いて動きが完全に固まってしまった。
「なんと!?」
「逃がしませんのよ~? こっから色々と大変ですから」
同じくビキビキと女の子が浮かべていいものではないものを浮かべながら、雪侶もまた回り込んでいた。
忘れてはならない。この兄妹は双方ともに後天的に龍に連なるもの。
対魔族用とはいえ、試作型の戦車如きでどうにかなるような代物ではないのだ。
「安心するといいですのよ? 別にとって食べようというわけではありませんの?」
「ゆりかごのもみ消しが大変だが、これ以上藍羽を巻き込むのも億劫だったんでな。いやぁ、あれだけの騒ぎに一枚かんでた輩なら、酷使しても心が痛まないから安心安心」
サディズムが浮かぶ表情で、二人は戦車からリディアーヌを引きずり出しにかかった。
「ござるぅうううううううううううううう!!!」
「つ、疲れた……」
「なんでこんなことになったのかしら……」
レヴィアタンも深海へと戻ってから、古城と紗矢華はため息をついた。
想像以上の激戦だったというほかない。古城としては、エイエヌとの決戦に匹敵するほど疲れた気がするほどの戦いだった。
なにせ、下手をすれば絃神島が崩壊していた事だろう。それほどまでにレヴィアタンは強大だったのだ。
リゾートに来たと思ったらバイトに駆り出されて、挙句の果てに世界最強の魔獣と一戦交える事となるとはどんな事態だ。
古城は世の中の不条理を心から呪った。
自分はこの絃神島で普通の高校生として暮らしたいだけなのに、なぜトラブルはこの絃神島に集中して起こっているのだろうか?
人生の不条理を心から嘆きながら、古城は心底疲れた足取りでコテージまで歩いていた。
驚くべきは、まだ島外には出ていなかった観光客が全員観光する気満々だということだ。
流石は魔族特区。その根性には敬服するしかないなどと兵夜が言っていたような気がする。
「今日はもうさっさと休む。観光なんて気分じゃないし、っていうかもう起きてるのも限界だ」
「私も限界。ベッド余ってたら貸してほしいんだけど。始末書は仮眠取ってから書くわ」
げんなりしながら古城と紗矢華はコテージへと向かう。
既に二人の体力は限界に近い。それほどまでの大ごとだったのだから当然といえば当然だ。
「カッカッカ。流石にこれはきつかったしな。当然っちゃぁ当然か」
「同感。さっさと観光に行った須澄達がすごいな」
流石に子どもゆえに限界がきて眠っているヴィヴィオとアインハルトを背負いながら、グランソードとノーヴェも苦笑する。
既に須澄達は、トラブルに巻き込まれた部分を挽回しようと満喫し始めていた。
あのバイタリティは見習うべきかそうでないべきかなどとグランソードは考えるが、まあそれはいいだろう。
何十万人の命すら関わるほどの激戦を潜り抜けたのだ。今はゆっくりと休んでも罰は当たるまい。
そんな中、雪菜はふと不安げな表情を浮かべた。
「あの、でもいいんですか? たぶん―」
その言葉に全員が視線を向けたその時、コテージが何やら騒がしくなっていた。
「あぁん? なんだ?」
グランソードが怪訝な表情を浮かべる中、古城の姿を見つけた浅葱が顔を青くしてかけてくる。
「こ、古城!! ヤバイ!!」
「浅葱? なんだよヤバイ……って?」
視線を前に向けた古城の視界には、カートがあった。
そして、自分が昨日担当した屋台を担当するスタッフのお姉さんもだ。
「やあ待っていたよ。さ、仕事の時間だよ?」
……その時、古城は思い出した。
自分達は観光の名目で誘い出されていたが、実際のところはバイトなのだという事実に。
「や、矢瀬!!」
助けを求めて思わず友人に詰め寄るが、リリスによる精神干渉を受けてぐっすり眠っていた矢瀬は何もわかっていない。
「な、なんだよ? 言っとくが、今回の費用はお前らのバイト代から出てるから、休めねえぞ?」
言いたいことはわかる。確かに、そういうことになっていたのは仕方がないから理解した。
実際凪紗と雪菜が遊べるだけでも御の字ではある。
だが、世界最強の魔獣やら多次元世界を股にかけるテロリストやら、魔族保護をもくろむエコテロリストと戦いを繰り広げた報酬がこれはひどいだろう。
「ま、待ったお姉さん。そいつらはちょっとこっちの不手際でひと悶着あってロクに寝てなくてだな……」
見かねたグランソードが割って入ろうとするのが、神の福音に見えて涙が出てきそうだった。
古城も浅葱も救いの神に最後の希望を見たとき―
「―ダメです!!」
いつの間にか起きていた結瞳が割って入った。
まさか小学生に妨害されるとは思わず、チーフも矢瀬も面食らう。
こ、これはいけるか? などという情けない期待が二人に満ちたその時、爆弾発言が飛び出した。
「古城さんはこれから私と遊園地で遊ぶんです!! だから邪魔しないでください!!」
…………あれ?
古城の感想を一言で言うなら、これに尽きるだろう。
「ま、まて、結瞳? 何がどうしてそうなった?」
何が何だかわからない古城が聞くが、結瞳はまったく聞いてない。
「古城さん、私のことを一生幸せにしてくれるって言いましたから。今日からでも幸せにしてもらいますから」
「………先輩。宮白さんが言った通りのことになりましたね」
ジト目で残酷なことを雪菜が言い放ってきた。
ああ、確かに告白ものだと宮白が揶揄してたなぁと、古城はついさっきにことを思い出す。
だが、それにしてもこれは行き過ぎではないだろうか?
「……あぁ~。とりあえず俺、こんなもんです」
「ん? なになに? ガモリーズセキュリティ……?」
「ちょっと夜に起きた騒動でそちらさんの2人巻き込んじまってね? 朝まで眠らずに頑張ってくれたんだよ、お二人さん。ウチからテキ屋でバイトしてた奴ただで送るから、ちょっと今日は休ませてくんねえか?」
グランソードがどさくさに紛れて交渉してくれているのが心から嬉しいが、しかしどちらにしても自分は休めそうにないかもしれない。
「待っていてくださいね古城さん。まだまだ子供ですけど、五年もすれば古城さんに釣り合う立派な女性に成長してるはずですから」
などと照れ顔で行ってくる結瞳に、自分は何を言えばいいのだろうか?
「先輩……」
「古城……」
そして後ろから突き刺さる二人の冷たい視線もまた、疲労を加速させる。
「い、一生幸せに!? 古城君まさかのプロポーズなの? いつの間に!? っていうか古城くんやっぱりロリコンだったの!? そんな、だったら私も……いやいやなに変なこと考えてるの私!!」
妹は妹で暴走している。
古城は、どちらにしても休息からは程遠いであろう今日一日を思って、空を見上げた。
清々しいほどに晴れ渡っている空が恨めしい。
「勘弁してくれ……」
第四真祖、暁古城。
平穏を愛する彼に、しかし平穏は彼にそう簡単に訪れてくれないものなのであった。
とりあえず、一旦更新は停止しようと思います。
このままのペースで更新していると、原作のペースに間に合いませんから、後々ややこしいことになり可能性がありますので。
とはいえ、ケイオスワールドには自分も強い愛着がありますので、できれば続編であるこの話も完結まで持っていきたいところです。