HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
完璧に手遅れ。
そんな状況が、一瞬で切り崩された。
「……はぁっ!!」
今までとはあり得ない速度で、炎を撒き散らしながら姫柊ちゃんがその一撃を弾き飛ばした。
「………あれ? 姫柊ちゃんってそんな特殊能力持ってたっけ!?」
「そんなわけないんだけど! っていうかあれ、獅子王機関の技じゃないわよ!?」
煌坂が俺の疑問にそう答えるが、だったらなんで―
あ!
「そういえば、七式一つ落としたのを、姫柊ちゃんが拾ってたな」
「それがどうしたってんだ?」
思った以上の驚きの展開の連続に呆けていた暁の疑問は、つまりこういうことだ。
「……この土壇場で英霊との契約を完了して、英霊を憑依させた」
あり得ないが、それ以外に説明がつかない。
「……汝は、あらゆる不幸を枷と思わぬ、慈悲のあふれし施しの英雄」
それは、契約の為の詠唱。
「……太陽神の鎧、雷神の槍を、そしてそれらが及びもつかぬ、至極の武威を今ここに」
そして瞬時に展開されるのは、黄金の鎧。
まるで太陽がそのまま鎧になったかのような輝きが、彼女のその身を包み込む。
同時に髪は白くなり、更に神の気配すら放たれた。
「お力をお借りします! そして、あの戦いに真なる決着を!!」
そこに、新たなる七式が完成する。
髪は白く染まり、眼は赤く染まる。
英霊の憑依の影響がより強く出ながらも、しかし英霊が我を強く見せていないのか人格の影響はほぼないと言ってもいい。
そして、そこからが本番だった。
「……ク、クククッ!!」
そんな嗤い声が聞こえた瞬間、嵐が真横から降ってきた。
その雨粒は全て矢。そして雷鳴は灼熱。
神話の軍勢すら一瞬で焼き尽くしかねない弓撃の嵐が、一斉に姫柊ちゃんに襲い掛かる。
「はぁっ!!」
そして、その全てを姫柊ちゃんは弾き飛ばした。
既に槍撃は目にも止まらず、神の動体視力をもってしても視認が追い付かない速度の攻撃が放たれる。
文句なしに今まで見てきた中でも最高の槍捌きを見せながら、姫柊ちゃんはそれを迎撃する。
「……ってぼさっと突っ立ってる場合じゃない!!」
ふと我に返り、俺は声を上げた。
いかん、あの圧倒的な武芸に魅了されて我を忘れていた。
七式は未だ発動時間が短いし、何より中学生に全部任せていいわけがない。
すぐにでも冷静に対応しなければ―!!
しかし、それより早く敵も動く。
「逃がすと思う? 宮白兵夜」
俺の目の前に、焼けただれた越智が踏み込んだ。
全身から肉と油の焼けるにおいを撒き散らしながら、しかしその闘志は微塵も揺るがない。
そして彼女は踏み込んで、俺が反応できるぎりぎりの一戦でストレートを放つ。
「……っ!」
くそ! これが半死半生の人間が放てる拳かよ!!
「殺す、お前は殺す。ここで殺す。必ず殺す」
既に虫の息であるにも関わらず、越智は俺を見据えて睨みつける。
「私の全てを奪ったお前を、私は決して許さない!! ああ、許せるものか!!」
『兵夜さん! 本当に心当たりないの』
「いや、逆恨みであったとしても社会復帰できる余地はきちんと残しているはずなんだが……」
どうしよう! ここまでくるとマジで心当たりがない!!
っていうかこっちも消耗が激しすぎてそろそろ限界なんだけど!?
と、そこに横合いから援護の手が。
「ああもう! 神様のくせしてなんで苦戦してるのよ!!」
「全くです兵夜。こういうのは捕らえて直接聞けばいいだけでしょう」
煌坂の次元切断に、フォリりんの疑似聖剣。
その同時攻撃がもろに越智に直撃する。
「……まだ、まだよ!!」
それでも無理やり立ち上がろうとする越智だが、しかしそれを兄貴がかっさらった。
「残念だがここまでだ。……撤退命令が出た」
「野郎! 逃げる気か!!」
暁が即座に眷獣を出して攻撃を叩き込もうとするが、しかしそれより早く飛び退る。
「そちらのハッカーの所為で模造天使のデータが破壊されてしまったそうだ。これ以上は時間の無駄と上から連絡が出てきたんでな」
藍羽ぁああああ! 本当にお前はチートだよぉおおおおおお!!!
これで模造天使の技術はフォンフに渡らずに済む! マジありがとう。後でなんか奢るぜ!!
だが、兄貴はしかしそのまま逃げたりはしない。
「とはいえそれでは目的が達成できんのでな」
走り去る方向はまっすぐ姫柊ちゃん! しかし、それは姫柊ちゃんを狙ったものではなく―
「模造天使の素体はもらっていく!!」
野郎! 目的は叶瀬夏音か!!
まずい! 遠距離射撃を捌くので姫柊ちゃんは精一杯!
これは、取られ―
「させると思うか?」
次の瞬間、兄貴は全く別の場所に転移していた。
「これは、空間制御!?」
驚愕する煌坂の視線の先、叶瀬賢生がいつの間にか魔法陣を生成していた。
「叶瀬、賢生……っ!」
「その穢れた手で、夏音に触れるな……っ」
兄貴の視線をそれよりも強い視線で睨み返し、賢生は更に術式を展開し始める。
「……潮時かっ!!」
アニキは舌打ちすると同時に、こんどこそ距離をとった。
「今回はいい死合だった。次もまた高め合おう!!」
そういい捨てると、兄貴は海上を走るという何気にすごい真似をしながら一気に距離をとる。
………とりあえず、これで何とか決着はついた、か。
そっからが大変だった。
なにせ、高速艇は戦闘の余波で大破。ラージホークはそのまま絃神島に向かうには目立ちすぎる。
仕方ないので沿岸警備隊を呼んで拾ってもらったのだが、そこにはなんと暁達の担任教師である南宮那月の姿が!!
暁達は勝手に動いていたし、俺もそれに乗っかった形だったので説教されました。
「……なんか、疲れたな」
「疲れてるところ悪いが、骨折った分働いてもらうぞ。次のアザゼル杯の試合には参加してもらう」
「勘弁してくれよ……」
そこは譲らん。過度の無償奉仕は人を駄目にするからな。
「しかし、こっちにフォンフが来ているとは。おそらく遠距離狙撃をぶちかましたやつだな、うん」
「アイツって、殴り合いが専門じゃなかったか? なんかすごい派手なことになってんだが」
少なくとも、超遠距離から狙撃をするようなタイプじゃなかったと思うのだが、と暁は首をかしげる。
まあ、それに関しては言うまでもない。
「おそらく幻想兵装だろう。それで英霊を憑依させているといったところだ」
「マジかよ。そんなものがあったら何してくるかわからねえじゃねえか」
「だからこっちも開発してんだよ。最も、姫柊ちゃんの場合は流石に想定外だったが」
「ええ、まったくね」
そこに、煌坂までもが現れて即座にため息をつく。
「あの指輪。霊的に密着してはがせなくなってるんだけど。どうしてくれるのよ宮白兵夜」
「責任取って専門医療チームを用意させていただきます。ついでに武闘派も送り込んどくから、必要な時は呼び出して使っていいぞ」
なんというか、フォンフに目をつけられたのならばそれぐらいの護衛は必要だろう。
それ位はしておかないとまずい。っていうかこれは想定外だ。
「それで? 煌坂はこれからどうするんだ?」
「私は王女の護衛よ。非公式のつもりだったけど派手なことになったから、いっそのこと公式訪問の形にするんだって」
なるほど。確かにここまでの大騒ぎに関係したら、もうどうしようもないからな。
「そういうことです。まずは生存者のお見舞いに行かせていただきます」
と、そこにフォリりんもやってきた。
「残念だったな、夏音のことは」
暁が言ったのは夏音がここに残る気だということだ。
アルディギア王国には行く気はないらしい。わりと絃神島のことを気に入っているのかもな。
「はい。ですが空隙の魔女が保護観察官になってくれるそうですし、そう悪いことにはならないでしょう。私達も騎士団を派遣するつもりですし」
おいおい。どんどん人が増えていくな、この島。
「お別れは申しません。夏音が助けられたのは全てあなた方のおかげ。この縁は、きっとまた意味を持つときがありましょう」
そう告げると、フォリりんは古城の前に出る。
そして、そのまま古城の唇を奪った。
……ふむ、なるほど。
ちなみに視線をちらりとむけると、離れたところに迎えに来た藍羽の姿が。
「あ、俺ちょっと避難してくる」
「あ、ちょっと待ちなさい宮白兵夜!! っていうか王女も何をしてるんですかぁあああああ!!!」
全力で逃走を行いながら、俺は別の理由で頭を抱えたくなる。
なかば癒着する形で発動した姫柊ちゃんの七式。
だが、それにしても圧倒的に強力すぎるのが引けてしまった。
「インド神話の英雄。それも最強格のカルナを引き当てる要素があるとするならば……」
マハーラーバタの英雄カルナ。最強と呼ばれるだけの力を保有しながら、しかし運命が全力で敵に回ったかの如く本領を発揮することができなかった不幸の男。
ああ、これはほぼ確実であいつが引き当てた英霊の正体が判明した。
そのマハーラーバタにおいて、カルナのライバルだった極大の英雄の1人。
そして、神弓ガーンディーヴァを手にした授かりの英雄。
「……アルジュナって、正義の側の英霊だったはずなんだが、まさかあそこまでの再現度で卸すとはな。これは、流石に脅威度を上方修正するべきか?」
「……まったく。今回はあまり得がなかったなこれが」
絃神島から遠く離れたところにある船の中で、フォンフの一人はため息をついた。
その特性からくるあらゆるものを確保できる素質を見込まれ、そしてなぜ英雄中の英雄といってもいい男がフォンフに宿ることを了承したのかがわからない危険視からくる遠ざけも含め、このフォンフはS×Bの技術収拾の為にやってきていた。
幸い、宿っている英霊の特性ゆえにすぐに近づいてきたLCOという組織を手を組んで技術交流を行っているが、それでも今回の件はあまり得がない。
メイガスクラフトの技術は中々優秀だったが、しかし学園都市技術で大半が代用できるものだ。
模造天使の力には期待してたが、データを破壊されたこともあり、当面は再現が不可能。技術者も最後の最後で娘を優先した為回収できなかった。
「こちらとしては問題はないが、それでこれからどうするのだ?」
天騎がそう尋ねる中、フォンフは
「当面は魔族を襲って死体を回収するだけで大丈夫だ。それだけでも十分すぎるほどリターンがある」
「できれば強い奴と死闘がしたいんだが」
「その辺についてはお前に任せる。ただし俺達のことは負けてもしゃべるなよ」
機嫌よくフォンフはそう告げる。
その様子に、天騎はいぶかしげな表情を浮かべた。
「何か、いいことでもあったのか?」
「ああ。なんでこいつが俺に宿ったのかの理由が分かった」
そう告げるフォンフの肌は、黒かった。
「……それほどまでに、奴は戦いたい相手がいたんだよ。そいつは呼ばれれば俺の敵につくと確信したから、殺し合う為にこいつは
そう告げながら、フォンフは今日闘った少女を思い出す。
少女とあの英霊との間に縁はない。ただ単に、力を望んだ彼女に英霊である彼が答えただけだ。
乞われれば力を貸す。それがあの英霊の在り方。そして、その本質はどこまで行っても善であり、ゆえに善なる少女に手を貸した。
そんな男の本質を理解していたからこそ、この男は万が一の可能性を欲してフォンフと契約したのだ。
そして、あらゆるものを手に入れられる彼は、その機会を手に入れた。
「……さあ、来るがいい
その機会を待ち望みながら、フォンフは祝杯を勢いよく呷った。