HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
第三次世界大戦は腐っても科学のみを使用していたこともあり、強引な強行突入という手段しかとることができませんでした。この辺もフィフスは考えて行動しています。
それに異形の公表を決定したのも、フィフスがばらまきすぎてどうしようもなくなったことで、それなら堂々と動いて監視体制を取った方がまだ安全という判断です。内心では苦肉の策で苦渋の決断です。
本音を言えば、公表するリスクは確かにあるが、堂々と動けないことで発生するリスクの方が高いからということになります。実際に、異能が広まれば個人での戦闘能力が大幅に向上し、かなり荒れた世界観になるでしょう。
いわば本当に苦肉の策。骨を断たれないように肉を切り裂く乱暴な対処方法なのです。そこのところはご了承ください。
……そもそも各国の政府直属異能組織は異形社会にこっそり隠している、事実上の対異形組織ですから。堂々と姿をさらす時は異形社会と戦争を起こす時でしかありえません。
そりゃそんなもん異形が見ているところで使えねぇよ。そもそも事実上の非合法組織なんだから、表の戦争で使えるわけねえよ。
悪魔の未来をよりよくすることは、後天的にとはいえ悪魔になったものとして当然の義務である。
そして、そのためには転生悪魔に頼らない世界を作ることが必要だ。
誤解無きように言っておこう。俺は、
むしろ転生悪魔の権利関係は大きな改善を行う必要があると心から考えている。奴隷扱いしている連中は粛清されてしかるべきだと思うし、昇格制度も改善するべきだ。そしてそれはどんどん進んでいる。
だが、同時に純血悪魔の強化というか、あり方の改善も必要だと思っている。
だってそうだろう? どこの世界に、助っ人外国人だけを一軍にする野球チームが存在する。オリンピックとかでも、外国人を用意する国はいないだろう。普通に自国の代表は自国民にするにきまっている。
悪魔の未来をよりよくしたいのならば、本来の悪魔をよりよくする必要がある。
かといって、ドーピングに頼っているわけにもいかない。
いや、俺も強化改造は大量にしているから人のことは言えんのだが、それにしても限度がある。
また、競技試合でドーピングや強化改造を使うのはさすがに問題だろう。ああいうのはそういうのをしていない人たちが結果を出すからいいのだ。改造ありでいいのなら、それはただの技術展覧会だ。
いや、いずれ時代が進めば、人間世界でも強化兵士は出てくるだろう。というか、学園都市式の能力者は程度はともかく改造人間だ。将来的に軍事登用されることも考えれば、間違いなく発生する。
だが、それだけというわけにもいかないだろう。
ゆえに、俺たちがやるべきことは―
「おらお前ら走れ!! また十キロだぞおらぁ!!」
「な、なんでだぁ。俺は、誇り高き上級悪魔だぞ……」
「くそぉ。なんで72柱の分家であるこの俺が……っ」
汗を流してひーこらひーこら言っている上級悪魔の子息たち。
なにせ今回は魔力を使わずという条件を課しているので、こうなることは当然といえば当然だろう。
しかし、中にはヘタレながらも気合を入れている者たちも多かった。
「ぜぇぜぇ……だがみろ、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス様とライザー・フェニックス様を」
「あ、あの方々は平然と走っておられる!」
「なら……俺たちも……走らないと……っ」
そう言って気合を入れている者たちを追い抜いて、俺は二人に並んだ。
「連れてきて正解だった。二人もまじめにやっている同類がいれば、少しは気合を入れる輩も多いだろうからな」
「まああいつらの気持ちもよくわかる。根性とか努力とか泥臭いもの、貴族なら避けたがるだろうしな」
「そんなことだから転生悪魔に遅れをとるのだ。貴族の誇りがあるのなら、その誇りに見合うべく精進するべきだろうに」
同情するライザーと酷評するアルサム。
対称的な二人だが、しかし文句を言わずにすでに三組目であるのにもかかわらず、きちんと走れる当たりなかなかだ。
いま、俺たちは72柱の系譜を中心とする純血悪魔を連れて来ている。
目的は単純。純血悪魔の強化特訓だ。
……今現在、アザゼル杯では純血悪魔の敗北が相次いでいる。
逆に勝利が目立つのは、イッセーのような転生悪魔や、ヴァーリのような混血悪魔だ。
レーティングゲームの本場であるにもかかわらずこの体たらく。悪魔以外の勢力の報道関係では、酷評すらされていることだろう。
むろん、相手が神クラスであることなどもあるし、仕方ない側面もある。
だが、それでも意地というものがあるだろう。少なくとも悪魔の面目は保てない。
そういうわけで、その中でも例外であるアルサムが提唱したのだ。
………純血悪魔の若手を対象とする強化合宿だ。
ちなみに、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス率いる魔王剣チーム。フルメンバーでもないのにかかわらず連戦連勝だったりする。悪魔側での数少ない本選出場候補とも言われている。
そんな男が「自分が強くなったのと同種の方法を執り行う」などといえば食いつくのが人の性。いや、悪魔だが。
そして、レーティングゲームでプロ悪魔の中では比較的勝率の大きいライザーまでもが参加するとなっては飛びつく者たちは多いだろう。
そして参加した結果が。
「……まずは魔力を使わずフルマラソンを走れるようになることだ」
……ちなみに、開催一週間にして十分の一がリタイアした。
期間はお試しということで二週間であることを考慮すれば、結構なダメージだろう。
「これでも、一応手は抜いているのだがな」
「仕方がないだろう。いつでも逃げれる環境なら、そりゃこんなの逃げたくもなる」
「まあ、努力できるのも立派な才能だというからなぁ」
アルサムの嘆息に、ライザーと俺はまあまあといわんばかりの意見を告げる。
今までぬるま湯につかっていた者たちを、いきなり極寒の環境に入れるわけにはいかない。
とはいえ、アルサムは幼少期から厳しい鍛錬を積んできた努力家。しかもそれを確実に成果にできる才能すら持っている。今まで努力をした経験が薄いものに比べれば、努力の負担を気にしないだろう。
なにせ、今回の連中は甘ちゃんが多いのだ。其のあたりを理解できるライザーがいなければ話が難しくなる。
「まあ、これが続けば純血悪魔もより強くなるだろう。今まで才能だよりでやってきたんだ。努力でそれを磨けばより輝くのは自明の理」
「まったくだな。俺も中堅レベルでしかないが若手では有数の成果を上げている。下賤な努力もなめたもんじゃないってことだ」
俺の意見にライザーは同調する。
ああ、ライザーもなかなか成果を上げている。優勝候補には程遠いだろうが、情けない姿をさらすわけではなく、善戦しているのだ。
またレーティングゲームに慣れていることもあって、マスコミでも割と高評価をされている。最上級悪魔が醜態をさらして酷評されることもあることを考えれば、破格の成果といってもいいだろう。
「まあ、うちの姫様の方が大活躍しているのだが」
「それを言うな!! ……くそ、どこでこんなに差がついた」
まあ、姫様眷属の引きが良すぎるからなぁ。
眷属以外のメンバーでも、神滅具持ちのヴァレリーやリント・セルゼンがいるから、地力なら間違いなく悪魔側の参加者でも最高峰だろう。
しかも、まだ兵士担当のミスター・ブラックが参加していない。そして戦車枠も一つ空席だ。それで全戦全勝なら、かなり評価できるだろう。
「気にするな。私が言うことでもないが、若手の中ではかなり優秀な部類だろう。龍王を保有するシトリー家や、神滅具を保有するバアルとグレモリーが異常なのだ。アガレスに次ぐ成果を上げている貴殿なら、フェニックス本家の直系として誇れるだろう」
「アンタに言われても嫌味に聞こえるんだけどなぁ!?」
アルサムの慰めは慰めになってない。
さっきも言ったが、アルサムのチームはフルメンバーでないにもかかわらず全戦全勝。しかも覇剣抜刀を使ってない。
つまりまだ奥の手を使っていないのにもかかわらず全戦全勝だ。
さすがに神クラスには当たっていないが、現役の最上級悪魔クラスを相手にしてこの成果。見事というほかない。
まあ、次期魔王候補として推薦する以上、覇剣抜刀抜きでそれぐらいできてくれないと困るのだが。
「とはいえ私もまだ若手。魔王剣の力がなくては最上級クラス相手では厳しい。……いずれは魔王クラスをルレアベ抜きで相対できるようにならねば、あの話を受けることはできんだろう」
「あの話?」
アルサムの言葉に、ライザーが怪訝な表情を浮かべる。
ああ、そういえば知らなかったが。
「今のアンタなら信用できるなら言うが、アルサム、次期魔王候補の一人に選ばれてるんだ」
「マジか!?」
俺の説明に、ライザーは目を見開いた。ついでに転びそうになった。
まあ、俺が提唱した九大罪王の候補でしかないんだがな。
候補にねじ込むの苦労したが、必要な制度ではある。
なにせ、
ただでさえ現四大魔王はリベラル派。そんな四大魔王の選んだ候補は、どいつもこいつもリベラル側だろう。
それでは、その不満をフォンフシリーズやハーデスに付け込まれかねない。
そのはけ口として、大王派よりであるアルサムを九大罪王に据えるべきだと進言したのだ。
もとより魔王剣の保有者ということで、その発言力は莫大になっている。次期魔王候補ではあるのだ。
それを、魔王の首輪ともいえる俺が推す。下級中級上級問わず、割と了承されるものだと踏んでいる。
とはいえ、それに見合う程度の実力は示さないと話にならない。
そういうわけでアルサムも気合を入れているのだ。
「そういえば、次の試合でリオとコロナを出すんだろう? ……大変だろうが頑張れよ」
「ああ、確かにアイツ相手は大変だな」
「言うな。……できれば束縛無しでしたいのだが、さすがに彼女達を巻き込むわけにはいかないのだ」
そうだ。次の試合でアルサムはリオとコロナを参加させる。
兵士枠の右腕四天王を僧侶と騎士に据え、兵士は本来女王であるシェンが二枠分。そしてフォード連盟からの参加者が六名参加。リオとコロナは万が一の極大ダメージを考慮して戦車枠だ。
そして、女王枠として「サムライブレード」とかいう偽名の男が参加した。
これで本格的にフルメンバー。まだイッセーのところが兵士が三枠で戦車が1人空いていることを考えると、ここで負けたら魔王候補から外されることすら考慮しなくてはいけない部類だろう
「とはいえイッセーは強いぜ? 変態技抜きでも、乳乳帝はOK出てるしな」
「むろんだ。ゆえにこちらも伏せ札を開帳しよう」
俺の言葉に、アルサムはにやりと笑う。
おいおいマジかよ。覇剣抜刀以外に切り札があると?
「今はまだ調整中だが、次の試合までにはきちんと仕上げて見せるさ」
「……なあ、こいついったい何者だ?」
「先代四大魔王に認められた男だぞ? そりゃぁむちゃくちゃ強いに決まってるだろ」
ライザーに俺ははっきりと断言する。
ああ、これなら何とかなりそうだ。
そんなことを言いながらゴール地点まで来ると、そこには見知った姿があった。
「……おーい! 宮白ぉ!!」
おいおい、なんでイッセーがここにいるんだよ?