HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
ホワイトハウスで、大統領は微妙な表情を浮かべた。
とはいえ、作戦の結果は想定の範囲内だ。
もとより今回の作戦は、実戦経験を保有したものを確保して、今後の対異形要員育成の為のノウハウを手に入れる事。作戦の成功に関しては、実はそこまで重要視されていない。
ましてや兵藤一誠は乳乳帝を発動させれば生半可な神クラスを凌駕する力を持つのだ。宮白兵夜は弱体化しているものの偽聖剣を取り戻し、最上級悪魔に任命されかけた程の功績を持つ。
どちらも、間違いなく個人戦力として一級品なのだ。そのうえで優れた眷属悪魔を保有し、さらに上級悪魔が何十人もいる。とどめに同じく最上級悪魔クラスのアルサム・カークリノラース・グラシャラボラスまでいる始末。
どう考えても難易度が高い。普通に考えれば、未だ対異形戦闘は素人の自分達では勝ち目がないと断言できるレベルだ。
ゆえに、その最上級の脅威度を肌で感じた者を生き残らせ、そんな彼らの教導によって戦力の質を上げる事が目的だった。
だが、こちらに犠牲者が出ていながら一人も殺せていないのは、流石に残念だった。
こんな事なら全部特殊自衛隊に任せるという案もあったが、しかし世界の警察として戦闘経験を保有していないという事実は、のちの将来において対異形戦術において後れを取る。
選択肢としては、これしかなかったのだ。
「もう少し兵力を多く用意するべきだったか。彼らには悪い事をしたな」
「お言葉ですが大統領閣下。彼らもまた覚悟の上参加したのです」
秘書官はそう言ってたしなめる。
そう、彼らは逃走できないと自己判断すれば、その場で自決する事も覚悟した者達だけで編成されている。
そもそも、有事の為にあの手この手で来歴を抹消した、いざという時の為の汚れ仕事担当の兵士達だ。
今の発言は、その彼らの覚悟に泥を塗りかねない。
だが、大統領は静かに首を振った。
「いや、そういう彼らだからこそ、できる限り大事に使うべきなのだよ。これだけの覚悟を示した者達は、我が合衆国の暗部を担う貴重な人材なのだから」
まだまだ数には困ってないとはいえ、犠牲は犠牲だ。
せめてその死を悼む事だけはしておきたい。
それが、大統領の考えだった。
「……この犠牲には報いねばならない。少なくとも兵藤一誠と宮白兵夜という悪魔が、我々の政治に関与することだけは阻害しなければならないだろう」
「当然です閣下。今こそ、その為の準備も急がなければなりません」
そう答える秘書官は、新たな資料に手を伸ばす。
「既にウッドフィールド大佐相当官の研究は大詰めを迎えております。あとは臨床試験さえ行えば、我々は大能力者を量産する事が可能です。今回のテストも成功した以上、有効な戦力として活用できるかと」
「そうか、それは素晴らしい」
大統領は、その結果に手放しで賞賛する。
今後の世界の情勢に、能力者の存在は必要不可欠だといえるだろう。
なにせ、最高峰の能力者のポテンシャルは、高位神器の禁手にも匹敵する。彼らが戦場に出てくることになれば、今後の軍事戦術や戦略は大幅に変更される事になるだろう。
むろん、問題点はある。
それは、能力者は精神的資質や肉体的資質に左右される為、思った通りの能力を思ったように生産する事は困難だということだ。
だが、それも人造神器計画で解決の兆しが見えている。
既にそのテストも完了した。
エドワードンのレプリカを使用して、そのテストも完了した。結果は成功といっていいだろう。
エドワードンクラスの兵器を運用する為には、相当の動力源を確保する必要がある。
その代用を成功させた人造能力者のテストは完了。あとは生産ラインを拡大させるだけだ。
「話による、能力者のパーセンテージはどうなる?」
「はっ。ウッドフィールドの開発した
それは、言葉でいうのならば少ないというしかないだろう。
また、
本格的に異形達との戦闘を考慮するならば、できれば
……だが、これまで手に入れた技術を最大限に使用すれば、強能力者で十分なのだ。
「ああ、ウッドフィールドの能力を発動できるように調整する人造神器。ウツセミの技術提供があったとはいえ、生産できたのは僥倖だ」
「閣下。あくまでウツセミは日本と我が米国の共同開発です。それをお忘れなきよう」
秘書官が苦笑交じりに告げるが、まあ実体は技術提供といっていい。
なにせ、九割は日本が開発したようなものなのだ。どう考えても日本が主導である。
とはいえそんなものがばれれば、日本の現政権が終わるだろう。それの考慮ぐらいはしてやらないといけない。
しかし、このデータだけでも値千金。のちの異形達との戦いで、間違いなく役に立ってくれるだろう。
「……勝つぞ。少なくとも、譲歩だけは引き出して見せる」
「承知しました。我が国に未来を」
アメリカ合衆国。その最強国家としての威信は、クージョー連盟によって地に落ちた。
こと集中攻撃を喰らった事が原因で、どうしても一強の地位からは下がらざる得ないだろう。
だが、それでも人類の大きな戦力であるという事実に変わりはない。
ゆえに負けるわけにはいかない。
兵藤一誠と宮白兵夜に一大勢力のかじ取りをさせるわけにはいかない。
その為に、全力を尽くす必要があるのだから。
「なんか、大変な事になったよなぁ」
「お前とアルサムの試合前に、いらんケチが付いたな」
俺は心底イッセーに同情した。
悪魔側で大人気のイッセーとアルサム。そのチームのレーティングゲームがそろそろ開かれる。
その前にこの事件は、色々と評判が悪くなりそうだ。
とはいえ、怪我人こそ出たが死人が一人も出ていないのは僥倖だろう。
それにアルサムが提出した資料にも不備はなく、あくまで沿岸警備隊が護衛部隊と揉めたのはアメリカ側の落ち度であることも発覚した。
まあ、これなら比較的ダメージは少ないか。
「すまなかったな。手間をかけたようだ」
と、アルサムがライザーと一緒に俺達のいたところに近づいてきた。
「よお、赤龍帝に宮白兵夜。昨日は大変だったみたいだな」
「やあ、ライザー・フェニックス。今回は手間をかけさせたようですまなかったな」
「まったくだ。フェニックス本家の出身である俺を、よくもまあ雑用に駆り出してくれたな」
口ではそんな文句を言うが、しかしライザーも達成感はあるようだ。
「結局一週間そこらで終わったが、この特訓で得た物がある奴も多いだろう。少なくとも、努力の価値を知った奴らなら、今後のレーティングゲームで活躍するだろうさ」
「ああ、だろうな」
努力というものは、かみ合いさえすれば程度はともかく結果を残す。
むろん、努力でどれだけ伸びるかについても個人差はある。どちらにしろ才能というものは結構重要だ。
だが、それでも努力に価値がないわけじゃあない。
今回の特訓で、それについて少しでも理解してくれればいいんだがなぁ。
「まあ、今回で理解しろというのは大変だろうな」
アルサムは、そう苦笑しながら言い切った。
まあ、一週間かそこらのブートキャンプじゃあ、「努力はつらい」の方が理解度としては強いかもしれないな。
「だ、大丈夫ですって! だって、アルサムさん一生懸命頑張ってきたじゃないですか! きっと分かってくれる人はいますって!!」
イッセーはそういうが、しかし悪魔がどいつもこいつも根性あるわけじゃない。
むしろ、今回の件で心が折れた連中がいたって不思議じゃないからなぁ。
アルサムもそれを理解しているのか、静かに首を振る。
だが、それでもその目には諦めの色は浮かんでいなかった。
「だが諦めんさ。まずは努力に効果があることを理解してもらうところから始めるべきだった。そこから少しずつ、努力できる環境を作っていくさ」
「まあ、及ばずながら力を貸そう」
ああ、それは間違いなく必要な事だ。
努力し続けるというのは、きっとつらい環境だ。
だが、努力を怠れば人は先に進む事ができなくなる。
だから、努力しやすい環境を整えるというのは必要だろう。
努力に価値がある事を知り、よりよい努力を行なえ、そして努力に疲れた時はちゃんと休憩できる。
そんな環境ができれば、人はきっと、少しずつ努力を続ける事ができるようになるはずだ。
そうすれば、優れた素質を持っている上級悪魔もその地位に見合うだけの戦闘能力を今後も確保できる。下級悪魔や中級悪魔の中からも、優れた素質を持つ者が居れば引き立てられるだろう。
魔王派にしてみても大王派にしてみても良い事だ。そうすれば血統主義の強い魔術師も制御できる。
いや、そもそも
それをきちんとしている貴族と同盟を組んだ方が、心情的には好感が持てるだろう。
なにせ
将来的な九大罪王も、その大半は四大魔王が見据えた人物になるだろうし、そこも考えればあいつらが離反して野に下る可能性は大きい。
……それは何としても避けたい。
元々魔術師何ていう連中は秘匿を前提としているのだ。一度隠れられると探すのが大変で、しかもパトロンがいない分外道な手段に走る可能性も上がっていく。
それを防ぐ為にも、大王派には一定の権力を持ってもらわなければならないのだ。
第一、こういう政治体制において勝とうと思えば確実に勝てる程度の厄介な敵は残っておいた方がよく回るものなのだから、必要といえば必要だろう。
……変化は必要だ。だが、その速度は急激すぎると反動がでかい。
その為のブレーキ役は、どうしても必要なのだよ。
ゆえに九大罪王にアルサムは入ってほしい。
能力のある貴族ならきちんと厚遇し、彼らの復権の為に動いているアルサムなら、大王派の受けもいい。そのうえで貴族を復権させる為の方法として努力を植え付け、少しずつましな方向に発展させていけばいい。
どうせ悪魔という生き物は血統間の素質の差をひっくり返せないのだ。四大魔王はその辺の配慮が足りてないから、俺が頑張るしかないのだよ。
とはいえ、今回の件は失敗に終わりそうに……。
「……アルサム様、少しよろしいでしょうか」
と、そこに声が届いた。
振り返れば、そこにいたのは今回参加した悪魔達の半分以上。
なんだ? 文句でもいいに来たのか?
「すまなかったな。警備体制を甘く見積もりすぎていた。あとで正式に詫びの品を送らせてもら―」
「我々も、努力をすればアルサム様のようになれますか?」
アルサムの声をさえぎって、そんな質問が飛んできた。
実戦で得た生きたデータは、軍事関係においては非常に貴重。これだけでも米国にとても日本にとっても値千金です。
一人でも重要人物を暗殺できれば文句はありませんが、実戦経験を獲得できただけでも非常に莫大な利益であります。この失態は将来的に非常に大きく響くことでしょう。
ですが、冥界もまた大きな影響を受けております。
はたして、これは人類にとって大きな打撃を受けるかどうか……?