HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
今、いずれそうなる男の決意表明が始まる。
俺達はちょっとよくわからなくて顔を見合わせるが、アルサムは真正面から見据えてそれに答える。
「必ずしもとは断言できん。なぜなら、努力とは才能を磨くためのものであり、10の努力で得られる結果が1の場合も100の場合もあるからだ」
そう、それが努力の残念なところ。
同じ対価で同じ恩恵が出るわけではない。どうしてもそうなってしまうのだ。
「サイラオーグ・バアルが魔力を持たずに大王家当主の座を実力で得たのは、彼に格闘技の才能があったからだ。しかもそれを文字通り血を吐くほどの努力で磨き上げた。あれは、誰にでもできるようなものではない」
そう、あれに関してはあらゆるものが上手くかみ合ったからこその結果だろう。
努力とは宝石の原石を磨く作業だ。元々磨いても光らない奴は努力しても大して結果が出ない。
また、その努力というのは基本的に辛く苦しいものだ。ゆえに、すごい努力を常時続けられるのは一種の才能だ。どうしても個人差が出てしまう。
さらに、努力に耐えらえる体かどうかもまた個人差がある。常人がサイラオーグの努力をしても、おそらく体の方がついて行かない場合がある。
そう、だからこそ、自然に才能が伸びて強大な力を手に入れられる悪魔にとって、努力は根付き難いものだ。
それを懇切丁寧にアルサムはあえて説明した。
「……すまん。私も実感で理解したのはつい最近だ。ゆえに慣れていない君達にとっては苦しいだけの―」
「では、質問を変えていいですか?」
別の悪魔が、真剣な表情を浮かべていた。
「努力をすることで、我々は強くなることができますか?」
「できる。適切な努力を十分な量行なえば、人は必ず成長できる」
そう言ったのは、ライザーだ。
「赤龍帝や神喰いがここまでこれたのも、ひとえに適切な努力を積んできたからだ。努力ってのはばかにならない。それは俺が保証するぜ」
そう、ライザーははっきりといった。
おお、お前がそんなことを言えるようになるとは思わなかったぞ。
「苦行ってのは、慣れるともっとできるようになるもんだ。そしてそれは窮地に陥ったときに必ず役に立つ」
「ではライザー様。もし我々貴族が常に己を磨き続けていれば―」
さらに新たな者が、質問を続ける。
「―我々は、転生悪魔に負けませんか?」
それは、ある意味で俺やイッセーに喧嘩を売るような発言だろう。
ゆえに、少しだけその悪魔も躊躇った。
だが、彼ははっきりと尋ねたのだ。
その根性は褒めてやる。
「―少なくとも、今よりもっと渡り合えるようになるさ」
だから、俺は褒めてやる。
「いい質問だ。そう、とてもいい質問だ。そしてそれは正解だと褒めるとも」
俺は笑みを浮かべると、その貴族の肩に手を置いた。
「そうだ。今の上級悪魔に足りないのは、自分や眷属を磨き上げようとする意志だ。基本的にあんた達は下級中級を凌駕する才能があるのに、磨き上げないからそうやって追い抜かれる」
そう、それはとても残念な事だ。
ぽかんとするその貴族達を見渡しながら、俺ははっきりと断言した。
「なああんた等! あんたらは俺達まがい物なんかに最上級の座を取られそうになっていて、本当にそれでいいと思ってるのか!? 本物が偽物に格下扱いされて平気だと?」
あえて挑発的なをさせてもらう。
「卑怯なんて言葉は敗者の負け惜しみなんて言葉があるが、それは違う。真の強者は
心底馬鹿にした表情で、俺は全員を見渡した。
「72柱やそれに並ぶ高尚な一族様が、そんな雑魚の手段を使って偉そうにしてて恥ずかしくないのか? 高貴たるもの、高貴たる方法をもってして勝ってこそだと思わねえか?」
「……貴様、少し黙ってもらおうか!!」
「そんなこと、したいに決まっているだろう!?」
「下劣な手段で勝つより、真正面から打倒した方が素晴らしいに決まっているだろうが!!」
「この無礼者が!!」
相当イラついたのか、その悪魔達から殺気すら出てくる。
「お、オイ宮白、ちょっと言いすぎだって―」
「オマエ、本当に首をはねられる―」
イッセーとライザーが止めに入ろうとするが、ちょっと黙っていてくれ。
ここからが本番なんだから。
「
「だったら少しは己を磨け!!」
はっきりと、俺は一喝した。
その言葉に、全員が押し黙る。
「はっきり言おう。現在の貴族達の利権削減は、身から出た錆だ。怠慢のツケだ」
そう、彼らは本来才能に優れているのだ。
少なくとも、下級悪魔や中級悪魔より素質においては優れている。
人間にしてもそうだ。並の神器の使い手程度、返り討ちにできるだけの潜在能力をこいつらは持っている。
にも関わらず、その権利は大幅に削減されて言っている。
それは何故か。
「……貴族とは、本来民に選ばれた者だ」
アルサムが、俺が何か言うよりも早く言葉を紡いだ。
「ゆえに我々は、選ばれた者である事を証明する為にもそれだけの存在である事をしっかりと示さねばらない。同じ数の下民よりも、貴族の方が優れているという事を示さずに、どうして民が忠誠を誓うというのだ?」
アルサムは、懇願するように皆に声を届ける。
それは、アルサムの王道がそれを必要としているからだ。
王とは奉仕対象。民が指導者として祭り上げた者が王なのだから、当然民は指導者に使えるのが基本。
ゆえに、王侯貴族はそれに見合う存在である事を証明する。そうであってこそ、存在の価値に差がある事を民は認めるのだから。
そして、それを認め傅き奉仕する者達に恩賞を与える。その御恩と奉公の関係ゆえに必要とされるものが
「民が忠誠を誓うに足る存在でい続ける。それが貴族たる者の義務であろう。それを示せないのならば、貴族が零落するのは当然の結末だ」
だが、貴族達はやり方を間違えた。
己を磨き上げる努力を放棄して、血統だけで選ぶ。挙句の果てに実力が必要だと思ったら、八百長試合で偽りの実績を重ねる。それでも足りないのならば、何の鍛練もせずにドーピングに手を出す。
強化改造をしてでも必要な力を手に入れる事に否はない。将来技術が発展すれば、いずれ戦闘要員に強化改造が施される事もあるだろう。スポーツの試合も、強化改造が前提となるかもしれない。
だが、それだけでは駄目なのだ。
そんな安易に改造すればいいだなんてあり方では、誰もついて行きはしない。
そして、どれだけ改造してもそれを使いこなせなければ、本当の意味で力になっているとは言い難い。
「だから、どうか貴族であるから貴族なのではなく、貴族足らんとするからこそ貴族である事を前提としてほしい」
アルサムは、頭を下げた。
「頼む。……己を磨き上げるという行動を、どうか怠らないでほしい」
必要とあらば、自ら頭を下げる事をいとわない。
72柱の次期当主に選ばれ、魔王剣ルレアベに選ばれた者。
そんな立場の者が、下の者に頭を下げるのは屈辱だと言ってもいいだろう。
だけどアルサムはそんな事を思ってもいない。
頭を下げる必要があるのなら、頭を下げるのが貴族としての、王としての責務だと本気で思っているのだ。
なあ、お前らはどう思うよ?
俺は、視線を貴族達に向け―
「お顔を上げてください、アルサム様」
―彼らが笑っているのを見て、目を見開いた。
それは嘲笑でも憐憫でもない。
素晴らしいものを見たという、感動の笑みだった。
「我々分家の末席に連なる者達に頭を下げないでください。むしろ、我々が頭を下げる方です」
「だが、私は今回見積もりの甘さで貴殿らを窮地に―」
アルサムはそこを気にしているみたいだが、しかし貴族達は一斉に首を横に振った。
「いえ、本来ならあの程度たやすくしのげてこその貴族というもの」
「人間達とは違い、我々は明確に力を持っているのです。出来なかった事を恥と思うべきでしょう」
「鍛錬や訓練を積んでいれば、もう少し抵抗が出来ていたであろう事は、我々でも想像できます」
な、なんだなんだ?
「み、宮白? これ、もしかして―」
イッセーが戸惑いの声を上げる中、貴族達は一斉にある行動を行った。
片膝をついて跪き、そして首を垂れる。
誰が見ても分かる、忠誠の証だ。
「アルサム様。我々は目が覚めました」
「あの窮地の中、我々を助けるべくその身命を賭した御姿。まことに感服いたしました」
「真なる四大魔王様の遺骸に選ばれたのは、偶然でも戯れでもない」
「貴方は、真なる四大魔王様が王として認めたお方なのでしょう」
「いや、例えそれが間違いであったとしても問題ではありません」
次々に忠誠の証を示す中、先頭の貴族がまっすぐにアルサムを見上げる。
「真に悪魔の王を目指し、自らその規範を示すその姿に、我々は魔王を見させていただきました」
そして、腰につけていた飾りの宝剣を取り出すと、それをアルサムに差し出した。
「我々は皆、アルサム様の配下になりとうございます。其の在り方に、心より敬服いたしました」
「………な、なんだと?」
あ、流石に戸惑ってる。
「我々がアルサム様のようになれるとは思いません」
「ですが、アルサム様に恥じぬ貴族になりたいのです」
「どうか、お願いします」
一斉に、彼らは立ち上がると頭を下げた。
これだけの貴族が一斉に、次期当主候補如きに頭を下げるなど、大きな騒ぎになるだろう。そんなことは誰もがわかっている。
だが、それでも彼らはそうする事を選んだのだ。
「我々に、真に貴族にふさわしき悪魔を目指す機会をお与えください!!」
「それは違うぞ、お前達」
その言葉に、全員の視線がアルサムに集まった。
「貴族に生まれた時点で、それに相応しいものであらんとするのは義務だ。私に与えらえるまでもなく、それは貴殿らがしなければならん事だ」
そう、アルサムは言い切った。
そうだ。アルサムの王道にとって、王侯貴族が民にとって使えるに足る存在になる事は当然の義務。
ゆえに、アルサムはそんな機会を与えない。
与えるのは―
「だが、安心するがいい」
アルサムは、ルレアベを引き抜くとそれを地面に突き立てる。
そして、その場にいる貴族達を見渡し、アルサムは告げた。
「お前達が高貴たる者の責務を果たさんとする限り! 私もまた、その契機となるに相応しい存在であり続ける事をここに誓う!!」
それは、アルサムの新たな決意表明。
「私は誓おう。現四大魔王が推し進める七代魔王改め九大罪王制度。……その末席に私も必ず連なる事を!!」
まっすぐに、全員に、嘘偽りなく、はっきりと言い切った。
「ゆえに貴殿らも誓ってくれ。72柱に代表される上級悪魔……その血筋に生まれた者に相応しい者を目指し続ける事を!!」
それは、命令であると同時に懇願だった。
「其の為ならば、私もまたそうであろうとする者がそうあり続ける為の環境を整え続ける事を誓って見せる!!」
そう、アルサムは貴族に生まれた事をイコールで貴族とはしない。
貴族に生まれた者として、それに相応しい存在でい続ようとする者達を貴族としているのだから。
その言葉の意味を、彼等もまた理解したのだろう。
『『『『『我らの命、アルサム様と共に!!』』』』』
ここに、のちに九大罪王の一人となる若き上級悪魔、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスとその臣下の第一勢が誕生した。
彼らは貴族足る存在になるべく不断の努力を行い、またそうなる為に必要な技術を持つ者を迎え入れる為に礼を失さぬ者達として、多くの下級中級そして転生の悪魔達から敬意を持たれる存在となる。
彼は貴族悪魔達の軌範であらんとして、あえて皮肉な一つの大罪を選び、そして他の大罪王の座に移る事を良しとしなかった。
それは、自分を飾り立てるもの。自らをそれ以上の存在にせんとする死に至る罪。
それを宝飾ではなく鍛錬と研究でなさんした、学問を司る九大罪王。
虚飾の九大罪王、アルサム・イリテュムの真なる始まりをここと見定める評論家は、数多かった。
アルサム、シンパ多数獲得!
目の前で命張ってまで経験を積ませようとするアルサムの姿に、男惚れした者たちが続出。
今後彼らはまず間違いなく努力を欠かさないでしょう。アルサムの背中を見て、そんなアルサムに恥じない存在になりたいのですから