HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
まったく。先日はひどい目にあった。
フォンフの関係者と思われる謎の勢力による襲撃は、いまだ世界が禍の団の脅威に晒されているということに他ならない。
禍の団の主要派閥は壊滅し、そしてその影響で散り散りになっているが、それゆえに世界中に分散して問題を起こしている。
異形社会はまさに正真正銘の対テロ戦争時代。これまで以上にはるかに事件が頻発することだろう。
なまじ集まって巨大な勢力として戦争を挑んでいたころの方がある意味で楽だったろう。これからは負けることはまずないだろうが、犠牲者が細く長く頻発することになるはずだ。
あげく、E×Eの尖兵となる可能性も否定できない。クリフォトの行動の真逆だが、しかしこの状況下では充分にあり得る。
ゆえに、俺たちは倒せるうちに倒しておかないといけないのだが……。
「まさか、今更教会で騒ぎが起きるとはな」
はあ、とため息をついた俺は悪くない。
教会でのクーデターはエルトリアの暴走で大きな被害と引き換えに未然に防がれた。
そしてその火種も、大規模演習によって大幅にガス抜きができた。
しかし、俺はうっかりしていた。
……別に、教会の人は悪魔祓いだけじゃないよね!!
普通の神父とかシスターとか事務員とか、そう言った教会の非戦闘員の不満の方のガス抜きを忘れていた。そして誰が手引きしたのか一斉に集まって数万人単位で引きこもり。
……運悪く、俺はその時ちょうど別件でその近くに来ていたのだ。
対テロ組織D×Dの出身であることから、俺に協力してほしいという使者が来てしまった。ぶっちゃけ一瞬断りたいと思ったが、そうもいかない。
「……で? どうするよグランソード」
「どうしようもねえだろ大将。俺たちこういうのはやったことねえだろ?」
俺は、連れてきたグランソードとうなづき合うとため息をついた。
なぜグランソードがいるかというと、極めて単純。
今回、俺がここに来たのはグランソードを使うためだ。
三大勢力の交流を進めるために、教会に関係する場所で、悪魔があえて動くことで心象緩和を狙ったのだ。
いかにガス抜きを行ったとはいえ、これまで殺し合ってきた者たちの関係なのだ。そういういがみ合いを阻止するためにも、下の連中も交流するのがいいに決まっているのはわかっていた。
と、言うわけで罪人集団でもあるグランソードの舎弟たちに教会の雑務を行わせることで、教会の人間の悪魔に対する心象を緩和させようとしたのだ。
グランソードの舎弟はこの場合適任だ。もともと罪人だから、教会の連中が暴走しかねない少し危険な場所でも一般市民よりは送っても心が痛まない。さらに人格はグランソードの舎弟名だけあって多くが個人的には善良なので慣れれば受けいられやすい。挙句武闘派なのでもし襲われても自力で切り抜けやすい。
そして冥界側もグランソード一派の罪状緩和政策は積極的に行いたいらしい。正統ベルゼブブ末裔たるグランソードには、将来的にそこそこの地位についてもらいたいようだ。どうも九大罪王の準候補とのこと。
まあ、グランソード本人が要職に就くことを固辞しているからあくまでほかの候補がダメだった時の保険程度ではあるがな。少なくともアルサムの方が優先順位は上だ。
しかしまあ、グランソード本人はいいやつだ。そして能力も優秀だ。ならそこそこいい立場いいた方がいいだろう。それに関しては俺も同意見ではある。
ま、そういうわけで俺はグランソードを売り込むべく教会の施設に営業に来ていたわけだが……。
「まさか教会の連中の爆発が今更起きるとはな。大将も流石に予想できなかったか」
「情けないことにな。悪魔祓いのガス抜きでもう終わったもんだと思っていたところはある」
うかつだった。悪魔祓いだけ何とかしてもそれは不満の封じ込めにしかならないだろうに。
戦闘能力がないなら、クーデターは起こさないと思い込んでいた!! 迂闊だった!!
だが、実際戦闘能力がない以上勝算がないだろうに。加えていえば時期を大いに逃している。どう考えてもこれは成功しないだろう。
それともフォンフに唆されたか? エイエヌの技術すら取り込んでいるあいつなら、|死肉より創造されよ我が従僕《アナイアレイション・メーカー・フランケンシュタン》の応用で戦闘技術を付加するとかやってのけそうで怖いんだが。
いや、エイエヌはくたばったわけだし、さすがにそれはない……と言い切れないのが怖い。いや、レイヴンはこっちが確保してるんだし可能性は低めで見積もってもいいだろう。
「大将? あんた考えすぎて煮詰まってねえか?」
「あ、悪いグランソード。我に返れた」
ふう。ちょっと考えすぎたな。
とにかく。今考えるべきことはこの現状でどうにかできる手段があるかどうかだ。
今更巻き返しができないことを理解できていない連中なら、今更恐れることはない。少なくとも返り討ちにできることは確実だ。
問題は、巻き返しができる方法を向こうが持っている場合だ。これは厄介だ。
もしそうだとするならば、対テロ戦争どころか再び大戦争が起きる可能性がある。それはできれば避けたい。
それをどうにかするためにも、なんとしても安全に事を運びたいところだ。
「……それで、立てこもっている連中は何か要求をしているか?」
「いえ。それが立てこもった上で不可侵を要求しているだけです。それ以外に要求は起こしておりません」
妙だな。そんな要求をしても、どうしようもないだろうに。
不可侵をするにしても、建物の内部で行っても意味がないことはわかるだろう。ライフラインの確保などができない以上、迂遠は自殺にしかならない。
まあ、今更和平の撤回などを要求しても呑めるわけがないんだが。それを要求しないだけ馬鹿ではないということか。
だが、それならこんな要求をするわけもない。
……これは、少し行動した方がいいな。
「……現地担当官。これはやはり―」
「―わかっています。おそらくこれは時間稼ぎでしょう」
ああ、そうとしか考えられない。
もしかしての可能性もあるが、これはおそらく時間稼ぎだ。
何か他の行動を同時進行でおこなっているのだろう。それが陽動なのか不意打ちなのかはわからないが、何か考えている。
「グランソード。奴らは人質を取っているわけじゃない。……強行突入の準備をするぞ」
「OK大将。それぐらい荒っぽい方がこっちもやりやすいぜ」
悪いが、こちらもいろいろ忙しいので時間をかけているわけにはいかない。
ゆえに、多少の流血は覚悟のうえで早期決着を―
その瞬間、建物は極光に包まれた。
「―なんだと!?」
それを叫んだのは、俺かグランソードかはたまた別の誰かか。
正し一つだけ言えるのは―
その瞬間、地図から巨大な建物が一つだけ完全消滅したということだ。
「……新兵器か何かか? どうやら教会も面白いものを作っているようだな」
「なんでいんだよヴァーリ」
ツッコミありがとうグランソード。
ああ、俺もまさかお前がいるとは思わなかったぞヴァーリ。
「いやなに。主神オーディンの養子という立場がどこまで通用するか暇つぶしに試してみれば、教会の非戦闘員が立てこもりを起こしたというじゃないか。強行突入に対抗する手段の一つぐらい用意しているだろうと思って、こうして様子を見ていたのさ」
何食わぬ顔でヴァーリはそう言い切るが、しかしまあこいつも暇人なもんだ。
一応魔王直系の数少ない生き残りという自覚はあるんだろうか。しかも白龍皇だというのに。止めに元テロリスト。
そんなのがフリーダムにウロチョロされると、される側は落ち着かないというか心臓に悪いんだが。
……まあ、養父二人もフリーダムだから移ったんだろう。さすがに全部こいつが悪いということにはできまい。
それに俺も魔王の末裔を連れてきているからな。グランソードが近くにいる以上文句が言えん。なにせ三つ中ふたつが当てはまってるからな。しかもどっちもシャレにならんぐらい強い。
まあ、それはそれとして都合がいいということでいいだろう。
「……様子を見に行くぞ、付き合え」
あの様子では生存者は絶望的というかいると考える方がどうかしてるが、できる限り早いうちに情報を入手しておきたい。
幸い放射能は確認されてないからな。このメンツなら様子見はできるだろう。
「躊躇なく俺を労働に使うな、君は」
「そりゃ俺たち元テロリストだしよ。こういう時にポイント稼いどかねえと駄目だろ」
グランソード説得ありがとう。
うん。単純に戦力として考えると、ヴァーリがこの場にいる奴では最強なのは間違いないんだ。
で、あるならば。連れてこれるのなら連れて行きたい。
もしこれが、爆発ではなく能力によるものだとするならば危険だ。これを為せる連中が近くにいる可能性がある。
「運が良ければ手練れと戦えるぞ? その時は最初の内は一騎打ちさせてやる」
「なるほど。それは面白い」
よし、これで説得は完了だ。
「……現場の連中はその場で待機! 様子は俺たちが身に行ってくる!」
「おお、魔王ルシファーの末裔と魔王ベルゼブブの末裔が行ってくれるのか」
「信徒としては微妙だが、しかしこれなら安心はできるぞ!!」
対応に当たっていた信徒たちからも反対の声は出ない。
まあ、俺たちはあのフィフスを打ち倒した英雄だ。ことヴァーリと俺はとどめを刺した四人の戦士の1人。其れなりに評価もあるだろう。
そんなことを考えながら、クレーターと化した建物跡地へと踏み入っていく。
綺麗にすり鉢状になっているうえに、表面がガラスみたいになっている。
高熱で溶けたようなものか。どうやらあれは炎のようなものらしい。
「二人とも、どう思う?」
「これが個人の能力だというなら龍王クラスはありそうだ。楽しめそうで何よりだな」
「確かにな。これだけのことができる連中は、最上級クラスに手が届いてやがる」
だよなぁ。とはいえ一体何をしたらそんなことができるのやら。
などと考えながら、俺は土煙や湯気やら何やらで見えにくくなっていた中心部に視界を向ける。
………そこに、一つのメイスをもった男がいた。
「来たな、ヴァーリ・ルシファー……っ!!」
ヴァーリに対して憎悪の視線を向ける、一人の小柄な男がいた。
まったくもって情けない話だが、俺たちはこの時点ではおろか事が起こるその時まで甘く見ていた。
エイエヌの遺した爪痕は、思った以上に根深かったことを。