HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
獅子王機関三聖が一人、
その通信は、この世界においてA案件と呼ばれる事件においてつながりを持ったある異世界の組織によるものだからだ。
……複数の異世界の連盟がいくつもあるというスケールの違い過ぎる事実に思うところはある。まともに戦争をすることになれば、一つの世界というパイすら取り合っているいまの地球に勝ち目はない。
そして何より、その通信は絃神島から発信されているからだ。
絃神島には自分の彼氏がいるのだ。そして、彼からややこしいことが発生していることも聞いている。
かの
ガモリーズセキュリティという社名をもつそのダミー企業は、表向きには登録魔族を中心とした警備企業という名目で通っている。そんな金のかかるものをあっさりと準備する当たりもめ事を起こす気はないのだろうが、しかしそれはそれとして困ったものだ。その設立のためにいろいろと仕事が増やされたこともあれば、なおさらだろう。
挙句の果てに獅子王機関が雪菜を送り込んだ裏の目的すらあっさりと見透かされている以上厄介な相手だ。さすがに真の監視役の正体までは、暁古城の記憶がなくなっていることもあり気づかれてはいないが、それでも危険ではあるだろう。……気づかれたら彼がさらに危険になるかもしれないと思うと気が気でない。
すでに彼らの世界群から、………女性の胸を平たんにするという目的でテロリストが侵入しているのだから、対テロを目的としている獅子王機関としては思うところしかない。
第一、ただでさえ危険な目にあいやすい立場である自分の彼氏が巻き込まれたらどうする気なのだ。
などと、時々年齢相応のことを考えながら、彼女は通信の内容を確認した。
差出人は、ガモリーズセキュリティの代表取締役として名義が出されている宮白兵夜。
彼は、暁古城と姫柊雪菜の裏についてもある程度把握する可能性がある。しかしそこについて深入りしてこようとはしていない。
下手に深入りすればこちらが自分を消しに来る可能性があることをきちんと了承しているからだ。其のあたり頭の回転が速い上に、この世界にとっての外様としての礼儀をわきまえてくれているのはいろいろと助かっている。
ゆえに、今回の彼の提案に関してもこちらのことをある程度慮ってくれていた。
彼が要求してきたのは、獅子王機関が直接的に負担をかけるようなことではない。
一つは、姫柊雪菜たちが宿泊研修で乗船する船のチケットと絃神島からの出島許可証の捏造。それと人間としての住民届けの偽造だ。
これに関してはいつか来ると想定していたため、すぐにでも可能。向こうも一人や二人ならできると踏んでいただろうから示し合わせているようなものだ。
そして、もう一つはこちらにいる彼らの世界のものに、サポートを要求するというもの。
対エイエヌの観点から、一部のものが交流を兼ねて派遣されている。その中から、念には念を入れて武闘派を送ってきてほしいというものだ。
これも、こちらがパイプにされているだけで結局は彼らの問題なのだから問題がない。
「……ということですが、誰が行きますか?」
「ならば私が出よう。幸い、万一の護衛であるゆえに私自身の仕事は特になかったのでな」
そう答える老人に、彼女はため息をつきたくなる。
何が仕事は特にないだ。
獅子王機関の中でも異世界からの者たちを警戒するものは多い。中には過激な思想を持っているものも少なからずいた。
それが、彼が来たことで二重の意味で警戒を解いてしまった。
一つは、その人柄が敵意を生み出しにくいこと。一つの宗教の要職についているだけあって素晴らしい人格者だ。
そして、もう一つは大半の者たちが「勝てない」と悟ってしまったこと。
人間的にではない。それ以上な単体での戦闘能力で、彼は自分達三聖クラスと同等、もしくはそれ以上の化け物だった。
おそらく、愛用の武器を含めた単純な攻撃力ならば第四真祖の眷獣ですら切り裂けるだろう。
あの戦闘狂の蛇使いに彼の存在を知られれば、果たしてどんなややこしいことになるか。いろんな意味で気が重い。
これが、現役を本来なら引いている人間だというのだから、もう一つの地球は恐ろしい。
そして、その地球及び周辺世界の強者たちにもまれている第四真祖は、このままいけばどんな怪物になることか。
一応は獅子王機関の長である身として、心底心から頭を抱えたくなってしまっていた。
「……先に寝させてもらって悪かったな。あとは俺が引き受ける」
「そうか、まだ二時間だがもういいのか?」
早朝、シャワーを浴びてから起きてきた俺に、アルサムが首をかしげる。
その二時間とちょっと前まで、ニーナに付き添って捜索を行っていたことを聞いているのだろうが、そこに関しては問題がない。
なにせ肉体的な疲労はそこまでないからな。精神的に結構疲れたが、それは魔術で済ませた。
ゆえにここからこそ俺の出番だ。すでに獅子王機関には話を通してあるし、これで何とかなるだろう。
「幸い、こちら側から獅子王機関に使者が送られていたから、そこから増援を引き出す要請をしていたおいた。彼らと協力してローラー作戦で一気に叩き潰す。だから今のうちに休んでおけ」
「誰が送られているのか楽しみだ。それに、この後のヴァトラーとの模擬戦も面白そうだ」
ヴァーリの奴はむしろ興奮して寝られなさそうだ。お前いつも楽しそうでいいなおい。
まあいい。さて、それではニーナのようすを見てみようか。
……そろそろ姫柊ちゃんは船に乗ったころだろうな。このまま離れてくれればこちらとしても心配する要素が減って何とかなるだろう。
……それに、念のために一人護衛をつけておいた。
上級悪魔クラスの実力者を一名、獅子王機関に戸籍まで偽造させて船に一人分開けておいた。何かあれば彼が連絡してくれる手はずになっている。
さて、それではどうするもんか。
そして扉を開けた瞬間―
「―あ」
視線があった。
そして、その瞬間に気が付いた。
こいつ藍羽だ。
………念のためにジャージを着せておいて助かった。これで乱れた服だったりしたら確実に厄介なことになる。
念には念を入れて女性悪魔にようすを見に行かせたりしてよかった。今もいるし。
「宮白さん、やっぱり来てたんだ」
「ああ、事情は何処まで?」
其のあたりがどこまで説明されているかで、国家らのややこしい度が大きく変わるんだが。
「安心してください大将。とりあえず、大まかなところはちゃんと説明しました!!」
「無断で体を使われてるのは気になるけど、ホントに危なかったところを助けてくれてたんだしそこは感謝かな?」
なるほど、どうやら説明は大体必要ない……と。
「そういうわけだ。一応代理になる義体の準備はしているが、しかしそれでも当分時間がかかる。悪いが、いやでも付き合ってもらう。……どうも放っておくのもまずい代物らしくてな」
「わかってるわよ。それに宮白さんなら悪いことにならないように一生懸命頑張ってくれそうだしね」
この信頼は裏切れんな。
さて、それにしてもいつになったら天塚は行動を起こすのやら。
こちらとしてはそれなりに準備をしているようだが―
「大将、大変でさぁ!!」
と、小走りでグランソードの舎弟が俺のところに駆けつける。
「どうした? まさかもう船に乗ったやつが緊急連絡を?」
「いえ、どうも
そう言われながら見てみた俺は、その暴走とやらの内容を把握する。
……俗物的としか思えない輩に何人も殺されていることで、我慢できなくなった都市警備隊が独自に賢者の霊血をどうにかする作戦を立てていたようだ。
その根幹は冷却。液体窒素と呪術を併用することで、とにもかくにもカチンコチンに固めてやろうという作戦だ。
確かに、この戦法なら対処の余地はあるんだろうが……。
「誰か見物に行ってるやつはいるのか?」
「はい! アルサム様が「自分なら顔が効く」とのことで様子を見に行っています」
なるほど、確かにあいつならそうするか。
なにせ都市警備隊の大半を救助した経験があるからな。気にはなるだろう。
なら万が一が起こっても対処の余地は十分にある。
この世界の錬金術師の凶悪性は、触れたらアウトな初見殺し。そこさえ分かっていれば離れたところから遠距離攻撃を中心に動くだけで充分防げる。
腐っても魔王の後継を目指す男が、そんな悪魔の基本ともいえる能力をおろそかにしているわけがないだろうし、大丈夫といえば大丈夫だろう。
さて、それじゃあ俺たちも暁と合流してからそこを目指すか。
不滅の賢者の霊血も、暁の眷獣なら対処可能な奴が二つある。
不死殺しだなあれは。よし、さっさと終わらせよう。
「……始まったようだの」
「ニーナか。まあ、確かに始まったようだ」
賢者の霊血に反応したのか、ニーナが意識を取り戻したようだ。
これ、やられる側は結構きついだろうなぁ。などと他人事なので余裕をもって考えられてしまう。
さて、それじゃあ急ぎ足で様子を確認に行くとするか。
そのころ、ガモリーズセキュリティから派遣されていた一人の悪魔は、船室ではなくレストランで軽食を取りながら使い魔に周囲を探査させていた。
あえて船室にはいかない。
剣巫である姫柊雪菜は年齢に不釣り合いなほどの優れた素質を持っている逸材だ。こと前衛戦闘においては上級悪魔クラスであろうと接近戦なら一蹴しかねないと主の主である兵夜から太鼓判が押されている。
今回の自分の仕事はあくまで保険。万が一に天塚が分身を叶瀬夏音を殺すために送り込んでいた場合に備えての、防衛戦力だ。
こと暁は、今回の宿泊研修を楽しみにしている姫柊雪菜には気づかれないようにしてほしいとの旨を伝えていた。それに関しては同意できる。
基本的にグランソードの舎弟はみな人物としてはアウトロー気味ではあるが善良なのだ。
旧魔王派の生まれである悪魔ということと、何よりグランソードの生きざまに惚れていることから禍の団の一員となったが、好んで残虐非道なまねをして悦に浸る趣味などない。むしろ表側で善行を仮にも行っている今の方が気分がいい。
ゆえに、自分は使い魔を使って周囲を探索することに集中する。
絃神島に派遣されているメンバーの中でも、こと小規模の結界に長けている自分が選ばれたのは、偏に言えば天塚対策だ。
奴が分身をいくつ用意できるのかはわからないが、当人にとっても好んで行いたがるようなものでもないようだ。ゆえに送り込むにしても一人か二人だろう。
なら、自分が結界で動きを封じてしまえば問題は全くない。
ゆえに、彼は主に人がこっそり密航するのに使いそうな場所を中心に動いていた。
………その後、スマホが鳴ったので彼はそれに出る。
「俺だ。どうした?」
『朗報だ。今、賢者の霊血と都市警備隊が戦闘に入った。カチンコチンに凍ってるから、もう―』
大丈夫と、そう言いかけた監視役の声が止まった。
「おい、どうした?」
『天塚だ! 話に聞いている売れない芸人みたいなやつが現れた!! 都市警備隊の連中マジギレで一斉射撃をぶちかましたぞ!!』
それが果たして有効策なのかどうかがよくわからない。
なにせ、天塚は分裂する。
本体でない天塚を破壊したところで、そのダメージがどれくらいかどうかなど判断できない。
いや、それにしても無意味に挑発するためだけにそんなことをするとは―
「とにかくいったん離れろ。もしかしたら都市警備隊を壊滅させるためのトラップでも仕掛けてるかもしれねえぞ!!」
『だったらなおさらだろうが!! アルサム様の使いだっていえば少し……うぉ!?』
反論した同僚の悲鳴が聞こえて、通信が途絶される。
「おい! どうした!! ……クソっ!!」
どうやら状況は大きく動きを示しているようだ。
そして、その瞬間使い魔が悲鳴を感知した。
……いやがおうにも、事態は大きく動き出す。
……いろんな人たちを貧乳にするために危害を加えるエイエヌ対策は急務なのです。
そして朝が来ると同時に本格的に事態が動き出す。さて、今回のエイエヌの行動はどうなるのかなぁ?