HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
暁古城とシルシ・ポイニクスは、念の為に兵夜が用意していたPMC(所属人員全員悪魔)の用意した高速艇で、金魚鉢まで即座に向かっていた。
そして、暁古城は今大絶賛剣を突き付けられていた。
「どういうこと暁古城! 雪菜があなた以外の男と一緒だなんて聞いてないんだけど!? しかも無人島で二人きりって、羨ましいんだけど!?」
「仕方ねえだろ! あの場で戦闘する可能性があるから、俺は危険すぎるって言われたんだから!!」
煌坂紗矢華。獅子王機関に所属する攻魔師の1人であり、かつての姫柊雪菜のルームメイト。
恐ろしいレベルで雪菜を溺愛しており、其の為古城は一度殺されかけたことがあるほどだ。
……ちなみに、古城はそんな紗矢華にフラグを立ててしまっていることに気が付いていない。
鈍感すぎて刺されないか不安になるものも数いるが、今は別の理由で刺されそうな状況になっていた。
「……とりあえず落ち着きなさい。あと兵夜さんは略奪愛とかしないから大丈夫だから」
見かねたシルシが止めに入り、もう一度懇切丁寧に事情を説明する。
「……ってことは、もしかして私があそこに置いてけぼりにされかけたってこと?」
「やっぱりあなたが関わっていたのね。それで? 一体どういうこと?」
シルシとしてはそこは確かめておく必要があるだろう。
「ええ、私も詳しくは聞かされてないんだけど、護衛する予定だったアルディギアのお姫様は、その叶瀬夏音に会いに来るのが目的だったのよ」
それに関してはまあ納得である。
既にアルディギアの王族と夏音の顔つきが非常に似ているのはわかっている。
王家との関係がある可能性は既に分かりきっていたが、まさかこんなところでも繋がりがあるとは。
「それで、行方不明になった理由は一体何なの?」
「生存者の話では、移動のために使用していた飛行船が魔族に襲われたらしいわ。槍を持っている吸血鬼と、獣人の二人組だったそうなんだけど」
「……たった二人で王族を拉致しようとしたの? 相当の腕利きの護衛がいるでしょうに」
シルシも貴族の出であるゆえにそれは理解できる。
上級悪魔ならば大抵が眷属悪魔という直属の部下を持つものだ。そしてそれは基本戦闘能力で選ばれる。
つまりは護衛ということだ。そしてそれは彼らが動かせる悪魔の中でも有数の実力者になる。
ましてや人間の王族ともなれば戦闘能力が高いというわけではないだろう。必然的に護衛の戦力は精鋭が選ばれるはずだ。
それを突破するとなれば、必然的に相当の腕利きだろう。
それを想像して苦い顔をする二人を見ながら、古城はおずおずと手を挙げた。
「なあ、それでその王族ってのはどうなったんだ?」
「それはわからないわ。生存者の話では脱出ポッドに乗せたって言ってたんだけど」
つまり、生死不明の状態ということだろう。紗矢華の言葉を聞いてシルシはそう考えた。
とはいえ、王族の脱出ポッドともなれば普通に考えて救難信号の発信装置は用意されているはずだ。
それが絃神島の近海で撃沈されたのになされてないということは……。
「既に確保されてるって考えた方がいいのかもしれないわね」
もしくは、少ない可能性だがその王女とやらが自分で発信機を切っている可能性だ。
追撃を考慮してそう判断してくれているのなら、まだ安全な可能性はあるのだが……。
「一応聞くけど、その王族というのはどういう人物なの?」
もしかすると今回の事件に関与している可能性もある。
場合によってはついでに捜すのも考えるべきと考えながらのシルシの言葉に、紗矢華は一瞬だけ躊躇したがすぐに答える。
「ラ・フォリア・リハヴァイン。北欧アルディギアの第一王女よ」
そして、高速艇は金魚鉢へと到着した。
合流用に魔術的発信機のすぐ近くに強引に乗り付けた船から、一個分隊の歩兵戦力が即座に展開。
そして、それより早く古城と紗矢華は飛び込んだ。
「姫柊、無事か!?」
「大丈夫、雪菜!!」
雪菜と、そして優先順位は低いが兵夜の心配をした古城達の目に衝撃的な光景が飛び込んだ。
「フォリりん、姫柊ちゃん。南海魚の磯鍋だ。暑い時に熱いものを食べるというのも乙なものだから早めに食べるといい」
「暖かいものは数日ぶりです。大義でした兵夜」
「あ、あの、先輩と紗矢華さんが見てるんですが」
出来立ての磯鍋を囲んでいる、兵夜と雪菜。そして紗矢華が護衛する予定だったラ・フォリアの姿だった。
「「なんじゃそりゃぁああああああ!!!」」
奇しくもシンクロツッコミを入れる二人に、兵夜は笑顔で発泡スチロール製のお椀を出す。
「まあとりあえず食え。今のうちに飯食っておかないと後が大変だぞ?」
「兵夜さん。私の分はあるのかしら?」
「安心しろ。二十人分作っておいた。これならギリギリ足りるだろう」
シルシと兵夜は長年の夫婦を思わせるような会話をしているが、しかし古城と紗矢華にしてみればたまったものではない。
「そうじゃねえよ! っていうかそんな料理道具どこから出した!!」
「忘れてないか暁。俺は四次元ポケットを持っているようなものだぞ」
そういえば、この男はどこからともなく大量のレーションを取り出したりしていたことがあった。
それなら料理道具を持っていても全くおかしくない。冷静に考えれば普通に思い当たるべきだった。
しかし、問題はそれ以外にある。
「って、っていうか宮白兵夜……さん?」
「ああ、アンタが煌坂か。それでなんだ?」
さっさとお椀を受け取ってほしいという感情を込めながらの兵夜の質問に、紗矢華は震える声で指を突き出す。
「なんでこんなところにラ・フォリア王女がいるのよぉおおおおおおっ!!!」
「……なるほど、大体事情は分かった」
頭痛を堪えながら、古城は兵夜達の説明をさらりと告げる。
「この島に放り出されてから、お前が使い魔で全方位探査したら救難ポッドを発見したんで、とりあえずそこに向かったら出くわしたと」
「ああ、フォリりんから事情を聞くのはとりあえず合流してからだと思い、とりあえず飯の準備をしておこうかと思ってな」
極めて簡略的な説明を終えながら、兵夜達は夕食を開始した。
「っていうかフォリりんってなんだよ」
一国の王女にそんな呼び方とかどうだよ、と言外ににおわせたツッコミだが、肝心のラ・フォリアは全く動じず笑みすら浮かべる。
「日本では私のような名前にはそういう愛称なのだと調べました。他国の文化を学ぶのも王族の責務です」
「安心してくれ。俺は自陣営の政治のトップを「たん」づけで呼んでも怒られない男だ。当人から許可をとっているのなら何の問題もない」
「セラフォルー様はむしろ人にレヴィアたんと呼ばせたがるから例外じゃないかしら」
王族、成り上がり、貴族の三人の上流階級が揃って平然としているのを見ると、実は上流階級とはフレンドリーなのかもしれないと思い始めてくる古城だったりする。
実際、吸血鬼の貴族であるディミトリエ・ヴァトラーもフランクだったなぁと思いながら、古城は磯鍋を口に運んだ。
他にも森で見つけたハーブを使った魚の蒸し焼きや、樹液を煮詰めて作ったシロップを使ったフルーツポンチなど、あえてその辺りで取った材料で作った料理で割と豪勢な食事となっている。
「……さて、それじゃあそろそろ話を纏めよう」
食事の手を止めながら、兵夜はラ・フォリアに視線を向ける。
「現在、そこの姫柊雪菜の同級生である叶瀬夏音が未登録魔族に近しい存在となっている。そして養父の職場に向かった俺と姫柊ちゃんはそこの煌坂と勘違いされてこんなところに投げ捨てられた」
それに関しては不幸な行き違いもあるが、しかし問題はそれどころでないのはわかりきっている。
「煌坂はフォリりんの行方不明を受け、その目的であった叶瀬夏音に接触する為に連絡を入れた。そして、彼女とフォリりん達の顔立ちは非常に似通っており、彼女の養父は元アルディギアの宮廷魔術師」
どう考えても関係があるとしか思えない。
「王女、事情を知っているのなら教えていただけないでしょうか?」
「個人的にもお願いするわ。ここまで来たなら少しぐらい知っておきたいわね」
紗矢華とシルシの言葉を受けて、ラ・フォリアもまた食事の手を止める。
「そうですね。ではまず私と夏音の関係から話しましょう」
そこからの話は、兵夜の推測がほぼ当たっていた。
夏音はラ・フォリアの祖父である先代国王とアルディギアに住んでいた日本人との間に生まれた子供だった。
つまり夏音は王位継承権はないが、傍流どころか直系の王族である。
ちなみに、ぶっちゃけ不倫である。現在祖母である王太后は怒り心頭で夫を問い詰めていると同時に、その日本人とは友人だったらしくすごく気にしているらしい。
そんな逆説的に情けない前国王の話を聞いて、シルシははあとため息をついた。
「あらあら、いっそのこと重婚を認める法律を作ればよかったのに。それなら兵夜さんは責任取って嫁にしてくれたでしょうに」
「当然だ。そもそも俺は不倫はしない」
「すいません。脱線してます」
夫婦漫才にツッコミを入れた雪菜の言葉で話は戻し、そして続く。
とにもかくにも、前国王の腹心が天寿を全うした時の遺言でそれが発覚し、今アルディギアは割と大騒ぎ。
とりあえず放っておくわけにもいかないと、ラ=フォリアが代表として迎えに来たのだが、まさにそのタイミングで襲撃を受けたのである。
「叶瀬賢生やメイガスクラフトは、おそらく王族の霊媒体質。彼はあなた方も知っての通り宮廷魔導技師。おそらく実験台にする為に夏音を引き取ったのでしょう」
「その辺りはおおむね想定通りか。……それでフォリりん、叶瀬賢生がどんな術式をかけるつもりなのかについての心当たりは?」
問題はそれだ。
それが夏音を化け物へと変えた元凶なのはほぼ確実。
「メイガスクラフトはおそらくその術式の軍事転用を目論んでいる。藍羽が調べた情報から推測すれば、メイガスクラフトは割と経営不振な上、軍事的なものと思われる取引もほぼ失敗と見ていいだろう」
ゆえに、叶瀬賢生の術式で一発逆転を目論んでいるのだろう。
おそらく賢生の術式は金が掛かる為、彼もそれを受け入れたのだろう。
古城は、その術式の影響で変質したと思われる夏音の姿を思い出して眉をしかめる。
「俺達が見たとき、叶瀬は怪物のような姿に変わっていて、同じような奴と殺し合ってた」
「そうですか。やはり賢生は
それは、賢生がアルディギアで研究していた術式の名前。
人為的な霊的進化を引き起こすことで、人間をより高次元の存在へと生まれ変わらせる術式だった。
「やれやれ。天使って意外と俗っぽい生き物なんだがねぇ」
「まあ、そちらの天使は割とクリーチャーだということで納得するしかないわね」
そう言いながら、兵夜とシルシは立ち上がる。
それが意味するところを察して、古城達も警戒心を強めた。
「……あれですね」
雪菜が雪霞狼を展開しながら戦闘態勢をとる先、そこには一隻の船をバックに迫る、数隻の揚陸艇があった。
「私を確保しようとしたものは、メイガスクラフトの
「駄目よ王女様。……中にあなたとそっくりの子がいる」
ラ・フォリアの言葉を遮って、シルシが目を細める。
彼女は世界を見通す一歩手前の高位の千里眼を保有する存在。その目が捉えたというのならばそれは確定事項。
そして、こんなところに態々送り込んだということは―
「最終テストを俺達で行おうって腹か、外道が……っ」
兵夜はそういうと、躊躇することなく赤い龍の鎧を展開する。
暁古城の眷獣は、少なく見積もっても龍王や魔王クラスの火力を持つ。
それをやすやす突破するような模造天使が相手となれば、防戦を中心にするにしても相当の準備が必要だった。
決戦の、時は近い。
兵夜は四次元ポケット持ってるようなものですので、孤島に置き去りにされた程度では話手ようがないのです。
それはそれとして、フリーダムなトップに振り回されたせいでフリーダムな王女にもある程度対応ができているあたり、敬虔って大事。