HSDD 転生生徒のケイオスワールド2 卒業生のアザゼルカップ 作:グレン×グレン
一方その頃、ノーヴェ・ナカジマは一人優勢な戦闘を行っていた。
「ちょ、ちょっと待つニャン!! なんで効いてないのよ!!」
仙術で木々を操りこちらを足止めしようとする黒歌だが、しかしそうはいかない。
なにせ、こちらは高機動陸戦仕様の戦闘機人。
不整地走破性能は抜群に高く、疑似的な空戦もこなせるのだから、こういったものは非常に相性がいい。
ヴァーリチームは必要に迫られない限りチームでの戦略よりも個人戦闘を重視した戦いを行う。
根がはぐれ者同士のチームであるがゆえのスタイルで、またそれが基本的に一番いいスタイルであるが、しかしこういう時に不利になる。
具体的には、認識していない圧倒的相性差がある場合だ。
ノーヴェ・ナカジマは戦闘機人である。
すなわちサイボーグ。それも、肉体そのものを最初からそうする為に調整したものとして生み出された以上、広義の意味でのアンドロイドといっても過言ではない存在だ。
探知関係の機器なども組み込まれており、なおかつ半分は機械。
生命の力を感知し干渉する仙術では、彼女と相性が悪い。
「……悪いけど、こっちも負ける為に参加したわけじゃないんでな」
熱源感知で冷静に場所を把握しながら、詰め将棋の如く黒歌を追い込みつつノーヴェは静かに告げる。
この試合、兵夜から受けたオーダーは何としても相性差を利用して黒歌を倒せということのみ。
なにせ、半分機械である自分は生命に干渉する仙術の影響を受け難く、更にセンサーゆえに幻術にもある程度の対処が可能。
テロリストとして活動していた時に姉の相方に対策を練られていた時に比べれば、圧倒的に楽という他ない。
ならば、警戒するべきは―
「―黒歌さん!!」
「ルフェイ! 助かったにゃん!!」
―相手の増援のみ。
「チッ! ここまで予想通りか!!」
今回の試合、不利なのはこちら側であると兵夜は断言した。
『はっきり言おう。おそらく若手のチームでなら、あいつらが最も最強候補だ。冗談抜きで優勝する可能性も考慮に入れるべきだろう』
ゆえに、勝率は低いと。
少なくとも、個々の戦闘能力の平均値なら間違いなく相手が上だ。
実戦経験の少ない古城と雪菜、そして実力は年齢不相応だがまだ子供のヴィヴィオとアインハルト。
それに反して、堂々とテロ活動を行い、禍の団の精鋭部隊であったヴァーリチームは実戦経験でも練度でも上を行く。
ゆえに―
『お前がカギだ、ノーヴェ』
戦闘用である自分が肝だと、兵夜は言い切った。
素質と練度、更に相性も含めて自分が一番だと、兵夜は断言した。
そこまで言われてはやるしかない。
……出れないのは仕方ないと思っていた競技試合。変則的な形だが、それに参加させてくれたことはありがたい。
かなり積極的に酷使していたみたいだが、エイエヌ事変でヴィヴィオとアインハルトを助けてくれた恩もある。
ゆえに―
「―押し切る!!」
―勝利に貢献することで、その恩に報いらせてもらう。
更に激戦がヒートアップする中、兵夜はというと。
「―うぉおおおおおおお!?」
―端的に言えば、酷い目に遭っていた。
このまま押し切れるかと思ったが、しかし現実は甘くない。
フェンリルは突如全盛期のように大型化し、そのまま超高速で腕を振るう。
振り払ってから本格的に攻撃を行う腹積もりだろうが、それだけは断固阻止しなくてはならない。
蒼穹剣最大の欠点である速度向上がないという欠点を考慮すれば、そんなことになればそれこそ時間までしのぐことすらできない。
それが分かっているからこそ、なんとしても喰らいつかれたままでなければならない。
兵夜は死に物狂いでしがみついていた。
『頑張って兵夜さん! 次は爪で頭を狙ってくるわ』
「ありがとうシルシ!!」
千里眼を全力で開放させ、未来を先読みするシルシの強力を得ながら、兵夜は必死に食らいついていた。
その理由は大きく分けて二つ。
態々無理を言って協力してもらっているヴィヴィオ達に対する礼儀が一つ。
もとより優勝できるかどうかなど望み薄で参戦しているが、しかし協力してくれている子供達に対して礼儀がある。その為勝てる勝てないはともかく、勝ちを狙いに行く方向で行動していた。
そしてもう一つはヴァーリとヴァトラーの戦いを長引かせることである。
既にヴァトラーに「些末事はこちらで片づける」と告げている以上、ここで自分がフェンリルに倒されるという事態だけは防がねばならない。
それに、ヴァトラーが全力を持って戦闘する機会はそう作れない。
絃神島でヴァトラーが大暴れするのは避けねばならないし、彼は仮にも重要な立場なので、中々レーティングゲームに参加させられない。
このチャンスを逃せない。この機会を逃せば、ヴァトラーの底に迫る機会がなくなる恐れすらある。
……その場合、高確率で暁古城は大変な目に遭うだろう。
ヴァトラーは間違いなくいずれ暁古城と戦うはずだ。そして、その時は情報戦で大きく後れを取ることになるだろう。
古城としても割と周囲の被害を気にしないヴァトラーに戦わせることは避けるだろうし、そうなればヴァトラーは古城の眷獣の能力を把握できるあろう。
それどころか、どうもヴァトラーは第四真祖の底を知っている節がある。少なくとも暁以上に詳しく一部の眷獣について知っている可能性がある。
……それは、明らかに事前の段階で不利ということだろう。
せめて条件をある程度近づけておくべきだ。
もし、それをしなければ―
「イッセーに胸張れないもんな、ホント!!」
『本当に、貴方はそういう人なんだから』
シルシに苦笑されるが、しかし兵夜はそういう者になりたいので仕方がない。
ゆえに、ここは踏ん張りどころなのだ。
そして、戦闘は更に激しくなる。
「なるほど、聖槍の出力は相応に引き出せているようですね。……ですが甘い」
「これは、流石に、すごい!」
コールブランドを何とか捌く須澄だが、しかしアーサーの剣術の前に一方的に攻め立てられていた。
コールブランドの能力を最大限に発揮して、刀身を別の場所から突き出していればその時点で倒されていただろう。
しかし、それがされない理由は極めて単純。
「今まで結果的に伏札にする他なかった彼女がここまで脅威だとは、少し油断していましたね」
放たれる砲撃を防ぐのに手が埋まっていたからだ。
「ふっふーんっ!! アップちゃんがいない今、私が須澄君を守るんだからねっ!!」
二体の眷獣の同時使役。
氏族クラスの吸血鬼として、それを成し遂げながらトマリはゴグマゴグの砲撃を交わしてザ・クラッシャーに迎撃させる。
今まで特に活躍していなかったトマリ・カプチーノの存在が、ここにきて戦いの流れを大きく支えていた。
アザゼル杯のルールと、暁の強化を優先する都合の二つが重なり、眷獣の使い手であるトマリは本領を今まで発揮できなかった。
しかし、今回だけは話が別だ。
なにせ今回のノンリミットは、それらの制限を取っ払う特別ルール。必然的にこれまででは使えなかった戦術をとることができる。
第四真祖という圧倒的格上にして、訓練の機会が必須の古城を優先して眷獣の発動を抑えねばならなかった今までとは違うのだ。
文字通りこの中では年季が違うトマリの能力が、今まさに最大限に発揮されていた。
ちなみに何気に攻撃もすべて躱しているあたり、彼女ものただものではなかったということだろう。
はっきり言って、ヴァーリチームはおろか兵夜達すら内心で戦慄していた。
フェンリルに振り回されている兵夜も、このうれしい誤算に戸惑っていた。
「てっきり眷獣だよりだとばっかり思ってたけど、意外とやるなおい!!」
「だって寿命が長いと暇も多いんだもんっ。結構色々試してるんだよっ」
「そういえば、私がアップさんに切りかかられたときも唯一反応できてましたね」
美候の攻撃をかわしながら、アインハルトは冷静に考えると実力を推しはかるべきことがあったことに今更気が付いた。
そこに気づかせないのがトマリがトマリたるゆえんなのだろう。
しかも、深く考え込んでいる暇を作らせてくれるほど美候は甘い相手ではない。
「すばしっこいね嬢ちゃん達!! こりゃ楽しめそうだぜぃ!!」
如意棒を素早くふるって二対一の状態を維持しながら、美候はテンションを上げていく。
「だがこの調子ならこっちが押し切れるぜい? なにせ、ヴァーリもそろそろ秘密兵器をお披露目するつもりなんだからよ!!」
そう、それがヴァーリチームの余裕の源。
史上最強の白龍皇の名を、予定ではなく確実に手にした今のヴァーリ・ルシファーは、間違いなく優勝に手が届くレベルの強者だ。
その強者が持つ新たなる切り札。その強大さをヴァーリチームはよく知っている。
それを開帳するというのなら、もはや負けなどありえない。
そして、それが今まさに解放されようとしていた。
『おぉーっとぉ!! ヴァーリ選手劣勢!! ついに膝をつきましたぁ!!』
……追い込まれたがゆえに反撃手段という、ヴァーリチームの誰もが予想だにしなかった展開によって。
ノーヴェ、割と重要ポジション。
冗談抜きでサイボーグというのは仙術の天敵ではないのかと思うのですよ。幻術に関しても、機械的なサーチは想定外の部分が多いでしょうし。型月世界で魔術が科学に追いつかれ一部では追い抜かれていることと同じです。このあたりの対策が必要不可欠。
一方、フェンリルに基本圧倒される兵夜。このあたり、兵夜のポテンシャルが決して化け物ではないことの証明です。
あくまで初戦の大金星は、アーチャーとナツミが協力して、次につなげるための戦闘だったからゆえに大金星。真っ向勝負で天龍クラスと戦うには一歩劣るポテンシャルなのです。そこをあの手この手で他力も借りて勝利をつかむのが恐ろしいのですが。
そしてヴァーリ痛恨のダメージ。これにはある理由がかかわってきますが、お互いに不幸といえば不幸でしょう。
この隙をつけるかどうかで勝負の分かれ目。ちなみに制限時間もそろそろギリギリです。