汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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正義VS悪、遂に決着の時!

戦いの先に生まれる物とは……。


第十六話 視察官と正義 後編

 

「キミっ!」

 

「おぉ?」

 

 視察官の野郎、鹿島と見学に行ったんじゃねえのかよ。

 血相変えて、なんだってんだ?

 

 鹿島が何か吹き込んだのかぁ?

 

「……キミ、此処の艦娘に『虐待』しているんだってね」

 

「……ああ、そうだと言ったら?」

 

 ククク、やはり鹿島め、チクリやがったな。

 後で『虐待』決定だなぁ!

 

「……具体的に、何をしているのか教えてもらおうか」

 

 はぁ?

 こいつ、俺がそれを馬鹿正直に言うと思ってんのか?

 そんなの……。

 

 隠すわけねえだろうが!

 元帥の心臓は握ってんだ、ガンガン行くぜぇ!

 

「クックック、いいだろう、耳の穴かっぽじってよぉく聴きなぁ!」

 

 俺の信念には一点の曇りもねぇ!

 全てが『虐待』なんだよ!

 

 全部聞いたときのこいつが、どんな顔するか見ものだぜオイ!

 

「まずは俺が此処に来た日の虐待を教えてやろう……」

 

 

 …………。

 

 

「……これが全てだぁ! クックック!」

 

「はぁ……鹿島さんの言ってた通り、か」

 

 俺は今までの全てを語った。

 恐らく鹿島も、ほとんど同じことを喋ったんだろうがな。

 

 俺の虐待による、恐怖体験をよぉ!

 

「さて、これを知って視察官様はどうする?」

 

「僕は……」

 

 これを元帥に報告しに行くかぁ?

 無駄な行為だとも知らずによぉ!

 

「僕は、キミの『虐待』について、咎めるつもりはないよ」

 

「……は?」

 

 こいつ、おかしくなっちまったのか?

 俺の悪事を全て知った上で、見逃すだと?

 

 ……ははぁ、いや、そういうことか。

 何も知らねえ元帥の犬だと思っていたが、

やはり俺が弱みを握っている事は知っていたんだ。

 

 それに屈服して、目の前の悪をみすみす見逃すとは。

 海軍様も随分堕ちたものだなぁ!

 

 まぁ、想定通りだがな。

 このままとっととお帰りやがれば……。

 

「だが! 僕個人的に、キミの『思想』を認めたくはない!」

 

「あぁ!?」

 

 急になんだこいつ!

 個人的ってことは、仕事と関係無い所で、ってことだから……。

 

 つまりどういうことだよ!

 

「キミ、艦娘は道具だと思っているそうだね」

 

「ああ、艦娘は『道具』だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 これは俺の信念だ。

 こいつが揺るぐ事は、未来永劫ありえねえ。

 

「……僕は、艦娘は『人間』だと思っている」

 

「クク、俺に言わせりゃ、そいつは理解不能な思想だなぁ」

 

 人間ねぇ。

 俺にはどうしても、理解できねえ考え方だ。

 

「人間じゃねえだろ。見てくれぐらいだぜ、それっぽいのは」

 

「っ、そんなことない! 感情や自我を持ってるじゃないか!」

 

「だったら『そういう』兵器なんだろうが! 甘えんな!」

 

「甘えてない! 感情を持つ兵器なんておかしいじゃないか!」

 

 こいつ……。

 ここまで俺に噛み付いてくるとは。

 

 ただの元帥の忠犬じゃなかったってことか?

 鎖で繋がれていたと思いきや、とんだ狂犬だったか?

 

 それとも、こいつはマジで、『信念』を俺にぶつけてんのか……!?

 

「そもそも艦娘って存在自体、ありえねえ存在だろがよぉ!」

 

「彼女たちは生きている、それは間違いない!」

 

「生体兵器ってことだろぉ? 道具なんだよ、道具道具道具!」

 

「いいや人間だ! 人間人間人間!」

 

 こいつ、面白え!

 思えば俺は今まで、誰かと思想のぶつけ合いなんてしたことが無かった。

 艦娘共の『反抗』も、所詮は俺の所有物としてだからなぁ。

 

 だがこいつは、俺と同じ階級、立場でありながら。

 俺と、対等に戦う意志を示していやがる……!

 

 これほどまでの『覚悟』を持ったやつ、初めてだ!!

 

「話は聞かせて貰いましたよ!」

 

「香取じゃねえか。なんだぁ?」

 

 急に扉を開けて、香取が突入してきやがった。

 なんだ、妹の弁明でもしにきたか?

 

「お二人とも、思想の相違で揉めているみたいですね」

 

「……ああ、彼の思想は好きになれない」

 

「それは俺の台詞だぜぇ?」

 

 香取のやつ、何を企んでいやがる。

 

「ほほう……なるほど。これは少し、お話の場を設けた方がいいみたいですね」

 

「話の、場?」

 

「ああ、香取。読めたぜ、てめえの考えている事がな!」

 

 こういうことだな香取。

 『五月蝿いから、どこか専用の場所で好きなだけやってろ』と。

 所有者様に向かって、とんでもねえ事を言い出しやがったなぁ!

 

 だが、今回はそれに乗ってやるぜ。

 俺は、自分でも意外だが、こいつともっと語ってみたいと感じているらしい。

 

「提督同士の決戦場は、古来より『港』でと相場が決まっているんです」

 

「よっしゃあ! 行くぞ視察官! 決着つけてやるぜぇ!」

 

「……っ! 何だかよくわからないけど受けて立つぞ!」

 

 思想同士のぶつかり合いは、暴力なんかじゃ解決できねえ。

 とにかく、お互いに語り合うしかねえんだよなぁ!

 

 香取、お前も中々、分かってきたんじゃねえか?

 それも港を選ぶとはなぁ。

 

 こないだ貸したマンガ、ちゃんと読んでるみてえだなぁ!

 

「行くぜぇ!! ……飲み物買ってくか。何にする?」

 

「僕は麦茶がいいな」

 

 水分補給は大切だからなぁ!

 今日はちょっと気温が高いんだよ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 提督と視察官の、言葉の殴り合いは、とても長い間続いた……。

 

 

「艦娘は兵器! そもそもどうやって生まれるのか知ってんだろが!」

 

「生まれで決めるのは間違っている! 感情こそ、最も尊いものだ!」

 

「人間以外にだって感情持ってるモンいるだろ! 犬とか!」

 

「そうだけど犬は道具じゃない!」

 

「猟犬とかどうなんだよ? そもそも愛玩動物って言うじゃねえか!」

 

「パートナーとしてだろ! 僕だって犬を飼っていた!」

 

「俺だって昔飼ってたわ! 柴犬をなぁ!」

 

「ウチはマルチーズだ! 滅茶苦茶かわいかったんだぞ!」

 

「俺んちの芝太郎の方が虐待しがいがあったし! 調子のんな!」

 

 

 そこに一切の遠慮は無く、ただ真剣に勝負をする、二人の人間が居た……。

 

 

「軍艦の化身なんだから兵器に決まってんだろ!」

 

「そこに魂があるから、人間なんだ!」

 

「あー、お前心霊特番とか信じちゃうタイプだな? ククッ」

 

「べ、別にいいだろ! 言っておくけど怖いとかは思ってないからな」

 

「いーや絶対ビビリだね。でも結局見ちゃうタイプの人間とみたぜ!」

 

「うっ、だ、だって面白いだろう!」

 

「あんなもん全部CG合成なんだよ!」

 

「なにをー!!」

 

 

 二人の戦いを、幾多の艦娘が目撃した……。

 

 皆一様に、暖かい目で、戦の行方を見守った……。

 

 

「お二人とも、間宮特製アイスです。ご休憩なさっては?」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

「ふん、アイスなんて全然好きじゃねえけど、熱くなってきたからなぁ」

 

「……お、おいひい! 凄く上品な甘さだっ!」

 

「オイオイ、アイスにそんな夢中になって、ガキじゃあるまいし」

 

「いいだろ別に! 美味しいものに年齢は関係ないんだぞ!」

 

「まったく、間宮もそう思うよなぁ? なぁ?」

 

「クスッ♪」

 

「……おいコラ」

 

 

 信念と信念のぶつかり合いは、更にその苛烈さを増していく……。

 

 

「僕の所の艦娘の方が凄いんだ! この間だって北方海域の姫級を!」

 

「俺の兵器共のが優秀なんだよなぁ! 南方の姫さんを!」

 

「みんな良い娘なんだぞ! よくお話聞いてくれるし!」

 

「俺の道具だって具合がいいぜ! 俺の教育が行き届いてるからなぁ!」

 

「いーや、僕の方が!」

 

「違うね! 俺の物が!」

 

 

 両者一歩も譲らない、本当のバトルがその場に巻き起こっていた……。

 

 そして……。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ふ、ふふふ!」

 

「ぜぇっ、ぜぇっ、ク、クックック……!」

 

「……こんなに誰かと話したのは、いつぶりだろうか」

 

「俺もだぜ……いや、初めてかもしれねえな。こんな気分はよぉ」

 

「ふふ、僕も、さ」

 

 

 両者が自然に取っていたのは、お互いの手であった。

 

 そこには、無言の絆の形があった。

 

 奇妙な友情があった……。

 

 

 夕日に照らされた二人の影は、どちらも真っ直ぐに伸びていった。

 

 

「友情って、いいわよね!」

 

「香取姉?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「今日はすまなかった。僕の勝手で長居をした」

 

「いいってことよ。お前のガッツ、見せてもらったぜ」

 

「ふっ、キミの志も、な」

 

 提督と視察官さんは、どうやら友達になれたようね。

 鹿島が引き合わせたみたいだけど、流石私の妹といった所かしら。

 

 二人共、凄い爽やかな顔をしている。

 胸の内を全てぶつけて、スッキリしたのでしょう。

 

 提督の貸してくださったマンガと同じだわ!

 人間は、語り合えば分かり合えるのよ。

 

「今度は視察官としてじゃなく、提督として、此処に来るよ。演習でもしよう」

 

「いつでも来な。俺と艦娘共が相手になってやるぜぇ?」

 

「首を洗って待っていろ、とでも言っておくよ」

 

「クックック……!」

 

 なんだか仲良くなりすぎな気もするけど。

 でも、提督にお友達が出来たのだからなんの問題も無いわね。

 

「ではこれで失礼する。……今日はありがとう」

 

「あぁ、お疲れサン。そして此方こそ、ありがとうよ!」

 

 視察官さんは車に乗って、去っていった。

 提督はそれを最後まで見送ると、踵を返した。

 

「クク、中々、面白え男だったな」

 

「…………ん?」

 

 面白い、男、ですって?

 もしかして、提督……。

 

「あの、提督?」

 

「あぁ? んだよ香取」

 

「視察官さんは、その、女性の方、ですけど」

 

「……………………………………おぁ!?」

 

 提督。

 そういう勘違いは、いけませんよ……。

 

 




正義は悪に屈し、これからも虐待は続いていく。
もう誰にも止めることは出来ない……。

提督に、人間のお友達が出来た様です。


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