汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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お気に入り10000突破記念番外編。

ある少年が、大切なものに出会うお話です。


第十九話 番外編 少年と過去

 山奥にある、とある田舎村。

 その外れに、一つの寂れた神社がありました。

 

 そこは何故か山の中なのに、船の姿をした御神体を祀っていました。

 そんな変な神社だったためか、

村でも立ち寄る者はなく、掃除をするものもいませんでした。

 

 しかしある日、一人の少年がその神社を訪れました。

 

「こんなに汚くして……」

 

 少年は、何故か箒と塵取りを持って、境内を掃除し始めたのです。

 彼はこの村の住人でしたが、この神社とは縁もゆかりもありません。

 

 それなのに、彼は掃除をしにやってきたのです。

 

「中も綺麗にしないと……蜘蛛の巣がこんなに」

 

 彼はずっと、その神社に通いました。

 

 ある日はそこらじゅうから飛び出た釘を削り。

 またある日は雑巾を手に持ち、そこら中を駆け回り。

 

 毎日毎日、神社を掃除し続けました。

 

 そして……。

 

「後はここだけだけど……なんだろう?」

 

 彼の目の前にある扉の先は、御神体を収めておく部屋です。

 扉には錠がありましたが、とっくの昔に朽ちて壊れていました。

 

 彼は、この中も掃除しようと思い、扉を開きました。

 ギギ、と重い音がして、ゆっくりと、開けられていきます。

 

 中は、真っ暗でした。

 しかし、一番奥にある『何か』だけが、淡く光を放っていました。

 

 

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「これ、は……?」

 

 彼の眼前には、光を放つ大きな船がありました。

 正確には一本の大木から削りぬかれた、船の模型です。

 

 それはこの神社の御神体でした。

 

 幼い彼には、何故それが光っているのか、皆目見当もつきませんでした。

 しかし、恐怖といったものは、全く感じず。

 

 寧ろ、好奇心を強く感じていました。

 

 彼は真っ直ぐ、御神体に近づいていきます。

 何かに誘われるかのように。

 

 そして、小さな手のひらを、ピタリとくっつけました。

 冷たい木の感覚が伝わります。

 

 その瞬間、御神体から光が失われてしまいました。

 

「……っ!」

 

 彼はその時初めて、自分はとんでもない事をしでかしてしまったのでは

ないのかと感じました。

 

 そして、光が無くなり真っ暗になってしまう部屋に恐怖を感じ。

 急いで出口に走りました。

 

 その時、彼は確かにその耳で聞いたのです。

 何か、小さなモノが笑うような声を……。

 

 

 …………。

 

 

 少年は、御神体に触れたあの日から数日間、神社へ向かいませんでした。

 恐怖と、漠然とした罪悪感のようなものを感じていたのです。

 

 彼の様子がどこかおかしいことに、彼の祖母は気付きました。

 しかし、無理に聞き出すということは決してしませんでした。

 

 いつも通り、美味しいカレーを作ってあげました。

 

「おばあちゃん……俺……」

 

「いいから食べな。冷めないうちに」

 

「……うん」

 

「自分のやった事は、最後まで責任を持つんだよ」

 

「……! ……うん!」

 

 彼は、明日、神社に行こうと決めました。

 祖母の言葉か、それともカレーか。

 

 不思議と勇気が湧いてきた彼の目は、真っ直ぐに輝いていました。

 

 

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 朝一番に飛び起きた少年は、早速神社へ向かいました。

 朝霧を身体で裂き、彼の手によって磨かれた神社に辿り着きます。

 

 そして、御神体の置いてある部屋に入りました。

 

 部屋の中は相変わらず暗いままでした。 

 

「……あれ?」

 

 しかし、前来た時には気づけなかった事に気が付きました。

 

 この部屋だけ、全く汚れていないのです。

 御神体、装飾、台座、壁、床……。

 

 全てが新品の様に、綺麗なのです。

 まるで誰かが、修復してきたかのように。

 

 今まで、誰も来なかった神社なのに。

 そして、錆びた鍵が付いていた部屋なのに。

 

 またしても、言い様のない不安が少年を襲いました。 

 しかし、彼は逃げませんでした。

 

 彼には、ある目的があったからです。

 

『この神社を自分の秘密基地にしてしまおう』という目的が。

 

 

 彼が此処を見つけたのは、全くの偶然でした。

 山で虫を取っていたら、偶然発見したのです。

 

 そして、この神社が誰からも見放された場所だとわかると。

 綺麗にして、自分のモノにしてしまおうと考えたのです。

 

 彼がおばあちゃんから教わった事を守って。

 

『自分の物は大切にしなさい』ということを。

 ……彼は『自分の物にするために大切にした』だけですが。

 

 

 だから、こんなことで逃げるわけにはいかないのです。

 寧ろ、好都合だとさえ思いました。

 

 このきれいな部屋を、自分の拠点にしよう、と。

 

 彼は、少し興奮状態にありました。

 だから、簡単なことに気が付けない。

 

 暗かったはずなのに、何故部屋が綺麗だと確認できたのか。

 それは、『何か灯り』があるからに他ならず……。

 

 彼の眼前には。

 

 大量の、光る小人が浮かび上がってきていました。

 

 

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「おばあちゃん、出かけてくるぜ!」

 

 少年は今日も元気よく家を飛び出します。

 良い顔つきになった孫に、彼の祖母も幸せそうです。

 

 しかし、一つ腑に落ちないことが。

 最近、彼の口調がおかしいのです。

 

 まるで不良のような、『ワル』い口調。

 

「……ま、好きにやんな」

 

 少年の祖母は、大して気にしていませんでしたが。

 それよりも、彼が楽しそうなことが、何より嬉しかったのです。

 

 

 …………。

 

 

 少年は神社に通います。

 此処は、彼と『友人』の秘密基地。

 

 しかし、『友人』は人間ではありませんでした。

 

「今日も来たぜ! 妖精さん!」

 

 彼が叫ぶと、大勢の小人が神社から飛び出してきました。

 彼は本で読んだ『妖精』に似ていたそれらを、『妖精さん』と名付けました。

 

 彼女たちは言葉を持ちません。

 しかし、彼には不思議と、彼女たちの考えが分かりました。

 

 何故か、意思疎通が出来たのです。

 その理由は、誰にも分かりません。

 

 妖精さん達は、少年に好意を示していました。

 自分たちの住処を、綺麗にしてくれたからでしょうか。

 

 そして少年は、妖精さんたちと色々お話をしました。

 知らないことを沢山教えてくれる妖精さん。

 

 彼の口調も、妖精さんから教わったのです。

 

『その方がかっこいい』と、妖精さんは理由もなく言いました。

 少年もその通りだと、これまた理由もなく思いました。

 

 彼は、大切な友達に出会いました。

 それは、一生の『同志』とも言えるもの……。

 

 

「妖精さん、『虐待』ってどういう意味か知ってるか?」

 

『……』

 

「そうか……そんな意味なのか……」

 

『……』

 

「格好いい『ワル』になるには、虐待上手な方がいいのか!?」

 

『……』

 

「よーし、俺、将来は虐待ばっかする大人になる!」

 

「妖精さんも一緒に行こう! 俺と、ずっと一緒に!」

 

『……』

 

「クックック! 決まりだ! ククク!」

 

『……』

 

「この笑い方? ワルっぽくて格好いいだろ! クックック!」

 

『……』

 

 彼は、自分の『夢』を持ちました。

 そして彼はその夢を、ずっとずっと抱えていきました。

 

 そんな彼の夢が叶ったのか、叶わなかったのか。

 

 それは彼自身と。

 彼の同志、妖精さん達しか知らぬ事なのでしょう。

 

 

 …………。

 

 

「さぁ! 『虐待』の時間だぜ、妖精さん!」

 

 




おばあちゃんには妖精さんは見えなかったようです。

今日は午前、午後の二回投稿予定です。

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