汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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遂に秘密と出会った提督達。
『先生』から語られる真実とは。

そして、初めて軽視派というものを認識した虐待提督は……。


第三十五話 時雨と秘密の施設 中編

「……すまなかったね」

 

「いえ……僕が軽率でした」

 

 申し訳なさそうにする女性提督。

 彼女の判断を、私は責める気にはなれない。

 

 完全に私のミスなのだから。

 

 紅茶を置き、椅子に座る。

 此処は、この『サナトリウム』のテラス。

 

 私は目の前の二人に話しかける。

 

「改めて。私は此処の施設長だ。艦娘からは『先生』と呼ばれているがね」

 

 私は、元帥が送り出したこの若き提督にすべてを話した。

 この場所の正体、そして、時雨の事についてを。

 

 

 …………。

 

 

 私がここの施設長になったのは、もう随分昔の事だ。

 艦娘がこの世に現れ、『軽視派』が出現して。

 

 そして、『傷ついた艦娘』が出始めてから。

 私の使命は、そんな彼女達を癒す事だった。

 

 精神的に傷ついてしまった艦娘。

 どれほど高度な技術でも、そればかりはすぐに治せない。

 そんな被害者のため、元帥と私は此処を作ったのだ。

 

 軽視派の被害者。 

 深いトラウマを植え付けられた、艦娘達の為に。

 

 この場所は機密事項だ。

 もし『軽視派』の連中にバれたらどうなるか。

 

 あのクソ共のことだ、すぐ糾弾し、潰しに掛かってくるだろう。

 だから、決められた人間以外には知らされない施設になった。

 

 この二人は、それほど元帥に信頼されているのだろう。

 妖精を視認でき、使役できるのが何よりの証拠だ。

 

 

 ……この場所は、何故か妖精の力が強かった。

 艦娘への良い影響を考えられ、ここに作られた。

 

 今まで、何人もの艦娘を治療してきた。

 そして、『艦娘』として前線に復帰することが出来た。

 

 しかし、時雨は……。

 

 

「彼女が救出された時、憲兵が声をかけたんだ。『もう大丈夫』と」

 

 軽視派が運営していたブラック鎮守府。

 悪行が露見し、特殊部隊が突入して。

 

 提督を拘束した後の事だった。

 

「その時、助け出された時雨はなんて言ったと思う?」

 

「それは、喜んだでしょう。やっと解放されたんですから」

 

 確かに、普通はそうだ。

 しかし、時雨の心はその時、もう完全に壊れてしまっていた。

 

「……『皆の所へ行かないと』」

 

「え……」

 

 彼女は、ほぼ洗脳といってもいい状況に陥っていた。

 『提督』が居なくなったから、自分の存在価値など無い。

 

 そう考えた時雨は、包丁で自分の首を掻き切ろうとしたのだ。

 

 共に戦い、海に散っていった仲間の元へ行こうとしたのだ……。

 

 憲兵が傍にいなければ、どうなっていたことか。

 

 その後、彼女の自傷行為、自殺願望は止まらず。

 仕方なく身体拘束を施され、此処へ送られてきたのだ。

 

「これほど悲しい事があるか? 人間の為に生まれ、その人間に虐げられた結果自ら死を選ぶ」

 

「……」

 

 私は時雨に、つきっきりで治療を行った。

 人へのトラウマ、男へのトラウマ、提督へのトラウマ。

 身体拘束を必要としなくなるまで、どれほど苦労したか。

 

 精神安定剤、睡眠薬の服用。

 カウンセリングによる、トラウマの克服。

 

 なんとか今の状態まで、持ってくることが出来たが。

 まだまだ彼女は、過去に苦しんでいる。

 

「さっきはちょうど薬を飲む前だったんだ」

 

「そう、だったんですね……」

 

「『提督』への恐怖は大分落ち着いてきたんだが、タイミングが悪かったな」

 

 時雨はあの後、茫然自失となってしまったため、部屋へ送った。

 

「……さっき時雨が叫んだだろう? あれは『良い兆候』なんだ」

 

「?」

 

「昔なら恐怖で竦んで、声をあげることさえできなかっただろう」

 

 それが、私を守る為に『抵抗』した。

 提督という存在にそれだけ物を言えるほどに、彼女は回復したという証拠だ。

 

 少しだけ嬉しいと思ってしまうのは、彼女に悪いが。

 

 

「あー……ちょいといいか?」

 

 二人の提督、その男の方が声をあげた。

 先程から終始黙っていたが……。

 

「なんだね?」

 

「生憎俺は難しい事はよく判らんがよォ、アイツはもう『戦えない』のか?」

 

「……そう、そこについて話す必要があったな」

 

 戦場で戦う兵士が、トラウマを負って再起不能となることはある。

 そして、艦娘にもそれは適用される。

 

 私はこれまで、そういう娘達を治療してきた。

 故に、言える確かな事は……。

 

 時雨はもう、『艦娘』として戦う事が出来ない。

 

 艦娘の艤装は精神に作用される。

 彼女はもう、艤装を使用する事が出来なくなってしまっている。

 

 そして、これからも……。

 

「ふーん……それじゃあ……」

 

 男はそれを聴くと、目を瞑って少し思案した。

 それに対し、隣の女性が噛みついた。

 

「キミっ! 変な事言うつもりじゃ……!」

 

 彼女が何か言おうとした時、不意に、我々に声がかけられる。

 

「あ、あの……すいません」

 

「時雨……」

 

 テラスの入り口を見る。

 そこには時雨が、申し訳なさそうな顔で立っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さっきは怒鳴ってごめんなさい……」

 

「いや、僕が悪かったんだよ! 事情も良く知らないのに」

 

「大丈夫だ時雨。君は悪くない。誰も、悪くない」

 

 戻ってきた時雨に、慰めの言葉をかけている奴ら。 

 けっ、お優しいこって。

 

 俺は関係ないから紅茶をしばくがなぁ!

 美味いなこれ、クックック!

 

「本当にごめんよ時雨」

 

「うん、ありがとう、お兄さん」

 

「おにっ!?……僕、女だよ」

 

「えっ!?」

 

 あー、今日は視察官のやろう、サラシ巻いてるからなぁ。

 どんだけ危険な目に遭うつもりだったんだよ。

 

「あー、時雨。ちょっとこのお姉さんに施設を案内してあげてはどうだ?」

 

「え?」

 

「同じ女性だし、いい機会だ。それに、申し訳ない気持ちが残っているなら、な?」

 

「あ……うん、分かったよ先生。 お姉さん、いいかな?」

 

「勿論だよ! それじゃ行こう」

 

 視察官、流石艦娘に甘いだけある。

 時雨に対する態度が柔らけえな。

 

 時雨も大分安定してるようだ。

 先生とやらの言ってた事、間違ってねぇようだなぁ。

 

 しかし、コイツがそんな目にあってたとは……。

 

 

 視察官と時雨が連れ添って、テラスから出ていく。

 さて。

 

「で、『先生』よォ。何が聞きてえんだ?」

 

「流石に露骨過ぎたか……まぁ、大したことじゃあない」

 

 この場で俺と一対一になりたかったのは見え見えだったぜ。

 

「元帥からの資料を見ると、君は艦娘を道具だと思っているとのことだが」

 

「そうだぜ。あいつらは道具で、兵器。それが俺の信念だぜ!」

 

 これだけは譲れねえな。

 そして、故に今回の事は理解が出来ねえ。

 

「時雨の提督だった奴、そいつは『無能野郎』だなぁ」

 

「……何故そう思う?」

 

「そりゃおまえ、自分の道具を酷使して使えなくするなんて、意味不明すぎんだろ!」

 

 まったく、俺には理解不能だ。

 なんでそんな事をするんだ?

 道具を壊しちまったら、意味ねえだろ。

 本当に深海どもと戦ってるって自覚があったのかよ、その提督はよ!

 

「物を粗末に扱うやつは、俺は嫌いだぜ」

 

「そうだな……私も大嫌いだ」

 

 ほう、この先生。

 なかなか分かるやつじゃねえか。

 

 ま、『道具のメンテナンス』をこんな山奥でやってる物好きだ。

 それくらいじゃなきゃ務まらねえか。

 

「……君の鎮守府について、少し話を聞かせてもらえないか?」

 

「あぁ? いいぜぇ! 俺の恐怖の虐待的運営、聞かせてやるよォ!!」

 

 耳の穴かっぽじってよーく聞きな!

 やつらを物としか扱わない、残酷描写をなぁ!

 

 

 …………。

 

 

「ハハハ、まったく、こんな提督がいたとは、元帥も人が悪い」

 

「ああ、そうだろ?」

 

 俺の恐ろしさに慄いたようだな。

 元帥さえもビビらせる、俺の虐待!

 

「……提督が皆、君みたいな男だったらよかったんだがな」

 

「クックック、そうなったらこの世は終わりだぜ?」

 

 マジで言ってんのかよ先生。

 海軍が終了するぜ、そんなんになったらなぁ。

 

「……さっき」

 

「んぁ?」

 

「さっき言いかけて彼女に止められた時、なんと言おうとしていたんだ?」

 

「あー……」

 

 時雨が来る直前か。

 そう、俺はあの時……。

 

「『戦えない艦娘』なんて、価値が無い、か?」

 

「……」

 

 先生が、遮って言いやがる。

 

「どうなんだ? 兵器としての役割を果たせない彼女を、君はどう思う?」

 

 先生が俺の目をじっと覗き込む。

 こりゃあ、マジだな。

 

 先生は、マジで艦娘の事が大好きらしい。

 けっ、全く、視察官といいコイツといい……。

 どいつもこいつも、甘ちゃんばっかだ。

 

 だがその甘さ、嫌いじゃないぜ?

 

 そんじゃあ、そのマジさに俺も真剣で答えてやるぜ!

 俺の本音でなぁ!!

 

「時雨はよォ、『兵器』としては終わっちまったのかもしれねえ」

 

「……」

 

「だがなぁ、『道具』としちゃあ、まだまだ終わってねえんじゃねえか?」

 

 俺の所の艦娘共。

 あいつらは『兵器』として、有能な力を示している。

 じゃあ、これまで俺が着任してから、奴らはそれしかやってなかったか?

 

 戦う事だけでしか、存在価値を示していなかったか?

 

「俺はよーく覚えてるぜ。艦娘共の力をなぁ」

 

 俺の健康カレーをマズそうに食ったり。

 勝手に服を洗われたり、寝具を奪われたり。

 給金を減らされたり、肌をジロジロ見られたり。

 無理やり仕事をやらされたり、勝負で負かしたり。

 

 一緒に出掛けたり、釣りをしたり。

 風邪の時は看病して、なんやかんや花壇の世話を手伝って。

 映画を一緒に見て、海に行って、飯を食って……。

 

 そのすべてが、俺は楽しかった。

 艦娘どもを虐めて、それに反抗してくるのを愉しんで。

 

 俺は、間違いなく幸せだったといえるぜ。

 

 その思い出の中に、あいつらが『戦う』事は無かった。

 つまり、『そういうこと』なんだよ。

 

「俺の言いたいことはシンプルだぜ先生」

 

「艦娘は、戦えなくても『艦娘』だ。まだまだ生きる価値があるのさ!!」

 

 それが俺の結論!

 もしあの時雨が俺のモンだったら、死ぬまで虐め倒してやるけどなぁ!

 

「……そうか。その通りだな」

 

「だろォ?」

 

「全く、この仕事を長い事やってきたが、まさかこんな簡単な事に気づけないとは」

 

「灯台下暗しっていうぜ。そんなこともあるさ」

 

 先生、良い目をしてやがる。

 そう、何か『覚悟』が決まったような顔だ。

 

 ふん……。

 

 紅茶を飲み、渇いた喉を潤すぜ。

 

 今回の視察で、残念な事が二つあった。

 一つは、折角元帥の弱みを更に握れそうだと思ったのに、そんなもん無かった事。

 

 そしてもう一つは……。

 

「有難う提督よ。……時雨と、後で話をしてみる」

 

 時雨と言う、虐待しがいのある艦娘を見つけたってのに。

 どうやらもう、『人の物』になっちまってるってことだ。

 

 おばあちゃんがよく言ってたっけなぁ。

 『人の物には手を出したらいかんよ』って。

 

 はぁ~あ、残念だが、仕方ねえな!

 虐待提督はクールに去るぜ。

 

 クックック!

 

 




虐待馬鹿の癖になんか良い事言ってる……。


『虐待提督』と『正義提督』はほのぼのギャグ時空の主人公。
『先生』はマジシリアス時空の主人公です。

時雨の笑顔を取り戻せ、先生!



次回、二人の僕っ娘パート。

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