汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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艦娘達の顔も恐怖と疲労で引き攣って……!


第四話 銃と掃除

 

 

 実に、気持ちのいい朝だ。

 

 昨晩、艦娘どもを寝かせた後、俺は自室へ向かった。

 勿論、前の奴が使っていた所だ。

 

 たいして見どころも無い、つまらん部屋だったな。

 甘ちゃん野郎だったようだからしょうがねえか。

 

 どうやら大本営の特殊部隊に拘束され、前任は解任させられたらしい。

 一体どれだけ無能だったんだって話だ。

 

 部屋を漁ってたら金属バットやら縄みたいな物が出てきたが、これは処分した。

 どうせ艦娘どもと楽しく野球やら縄跳びやらしてたんだろうな、くだらねえ。

 

 大切な思い出の品、全部俺が消し去ってやったぜ!

 

 当然、ベッドも処分した。

 野郎が散々寝たベッドなんて、使いたくねえんだよ。

 だから予め用意してあった、高級羽毛布団を代わりに使用した。

 

 ゆくゆくは床も畳張りにしてえな……俺は和風派なんだ。

 

 俺は部屋を出て、大広間へ向かう。

 時刻は6時57分、艦娘どもが集まっているはずだ。

 

「おはようございます、提督!」

 

 大広間に入った瞬間、整列していた艦娘達の挨拶が響き渡った。

 朝の挨拶は、しっかりできてるじゃねえか。

 

「おはよう兵器ども……昨日はぐっすり眠れたか?」

 

 クックック、いちいち嫌味を言ってくるお前らに、嫌味で返してやるぜ。

 昨日俺がこいつらに用意したのは、ホームセンターで安売りしてるぐらいの低レベル寝具。

 今まで使っていたであろう高級品は、全て妖精さんに没収してもらったぜ!

 

 使い慣れた、寝心地の良い布団を安物に変えられて、さぞかし寝辛かっただろう。

 俺の虐待は、こいつらのおはようからお休みまで続くんだよ!

 

 更に! こいつらの汚え制服は、全て俺と妖精さんで昨日の内に洗濯してやった。

 そして乾燥させた服は、全艦娘の部屋の前に籠に入れて置いといてやったぜ!

 

 こいつら兵器と言えども、いっちょ前に人間の感性を持ってやがるからなぁ。

 俺みたいな男に勝手に服だの下着だのを洗われて、さぞかしショックだろう。

 

「はい! とってもよく寝られました! それに服も、ありがとうございました!」

 

 前列にいる変な頭の……阿武隈、そう阿武隈が元気よく答える。

 

 ……こいつ、よくもそんな嘘平気でつけるな。

 顔だけ見れば寝不足じゃなさそうだが、これは巧妙な偽装だな。

 どうせこいつら兵器の癖に化粧とかしてんだろ。

 ここの艦娘どもはどいつもこいつも綺麗な顔してやがるからなぁ。

 

 そんな作り物の顔で俺を懐柔出来るとでも思ってんのか?

 

「はっ、いつまでその態度が続くか見ものだなあ、阿武隈」

 

「えっ、提督、何で私の名前……」

 

「あぁ!? 昨日の夜にてめえら全員の顔と名前は覚えたんだよ!」

 

 まったく、こいつ、俺のことを舐め過ぎじゃねえか?

 こいつら全員で100隻以上はいやがるが、この程度何の問題も無い。

 妖精さんがくれた艦娘名簿、1時間で全て暗記したわ!

 

 自分が使う道具の名前くらい、知ってて当然だからな。

 

「そ、そうなんだ……阿武隈の事、ちゃんと覚えてて下さいね!」

 

「あ? おう、言われなくてもな」

 

 いきなりなんだ、俺がそんなに忘れっぽく見えるってことか?

 俺が、一度覚えた道具の名前を忘れるわけねぇだろうが!

 

「さて、お前ら朝食はまだ食ってねえだろうなぁ?」

 

「は、はい!」

 

 よしよし、勝手に作ってたりしたらどうしてやろうかと思ったぜ。

 

「生憎今日はやることが山程ある。だから朝飯の時間を削減させてもらう」

 

「え、それは、食べさせてもらえないって事ですかぁ?」

 

 阿武隈のやつが、意味不明なことを言ってきた。

 

「あぁ!? 朝飯は絶対欠かさねえに決まってんだろが! 朝飯舐めんな!」

 

 朝食を抜かすと、午前中のパワーが出ねえだろうが!

 そんな事も分かんねえのかよこいつらは。

 

「朝飯は食わせてやる、が。時間がねえからこれだけだぁ!」

 

 そういって俺が取り出したのは、普通の食パンだ。

 トースターなんて使わせねえ、そのまま食ってもらうぜ!

 

「提督、それってパン、ですか?」

 

「ああ、こんなパン見たことねえだろう?」

 

 どうせ今まで、ロールパンやメロンパンみてえなのしか見たことねえんだろうな。

 残念ながら、こいつはただの食パン!

 それも乗っけられるのはジャム、バター、マーガリンの3種だけだ。

 

「さあ、お前ら一隻につき4枚までだ、早く取りにきなぁ!」

 

「は、はいっ!」

 

 たったの食パン4枚じゃあ、満足できねえかもなぁ。

 お前ら兵器にはお似合いだけどな!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「美味しい、美味しいね長良お姉ちゃん!」

 

「うん! こんな美味しいパン初めてね」

 

 私たちは提督がくれた食パンに、夢中で齧り付いています。

 私はジャム、他のお姉ちゃん達はバターやマーガリン。

 いろんな味が楽しめて、ほんとうに美味しいです。

 

「いつも固い『カンパン』しか貰えなかったからねーほんと美味しい」

 

「鬼怒、提督の事どんどん好きになってくよ! マジパナイ!」 

 

「アンタは単純ね……」

 

 お姉ちゃん達、みんな楽しそうです。

 ……これも、提督のおかげなんですよね。

 私の名前も覚えてくれていたし、本当に新しい提督はいい人だと思います。

 

 前の人は、一度も私を名前で呼んでくれたことはありませんでした。

 『化け物』としか、言ってくれませんでした。

 だから、提督に名前で呼ばれた時、私は本当に嬉しかったんです。

 

 『阿武隈』を、ちゃんと見てくれた気がしたから……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあ朝飯も終わったことだ、早速お前らに命令だぁ!」

 

 艦娘どもがパンを食い終わるのを見計らって俺は切り出した。

 

「今日はお前らに……掃除をしてもらうぜ!」

 

 掃除。

 昨日ここの寮とか工廠とかを見て回ったが、くそ汚え!

 前任に甘やかされたこいつらが、掃除をサボってたのがひと目見てわかったぜ。

 

「お、お掃除? でも五十鈴達……」

 

「いいや、何が何でもやってもらうぜ。口答えは許さん」

 

 五十鈴、お前の魂胆は見えてんだよ。

 艦娘の仕事じゃないとか、掃除なんて録にやったことがないとか。

 そういう言い訳で体よくサボろうってことなんだろう。

 

 逃がすわけねえだろうが!

 

「分担や方法は俺が指示する。お前らは俺の命令に従ってればいいんだよ!」

 

 どうだ、この作戦は。

 俺自ら前に立つことで、こいつらから逃げるという手段を奪う。

 やりたくもない掃除を、必死こいて強制させられるんだよ!

 

「……ええ、分かったわ! 五十鈴に任せて!」

 

「あ、阿武隈だってご期待に応えます!」

 

 ふん、逃げられないと分かったようだな。

 往生際の良さは認めてやろうじゃねえか。

 

「さて、全艦娘による鎮守府大掃除、開幕と行こうじゃねえか!」

 

「おー!!」

 

 ククク、大げさに掛け声なんて出しやがって。

 まあ空元気になっていられる今のうちだけだ。

 

 お前らはすぐに、地獄を見ることになるんだからなぁ……!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 提督の指揮の元、掃除を開始してから1時間程が経った。

 

 私自身、任せてなんて言ったものの、すぐに掃除が終わるとは思っていなかった。

 そこらじゅうが汚れ、掃除どころか修理まで必要な私達の鎮守府。

 それに加えてそこそこの敷地面積。

 

 全艦娘を総動員しても、一週間以上はかかる、そう思っていた。

 でも……。

 

「提督ゥ! 東棟は2階まで終わったヨー!」

 

「よし、金剛型どもは西棟の援軍に向かいなぁ!」

 

 提督、そして妖精さんたちの力は、私の想像をはるかに超えていた。

 

 提督の指揮は迅速かつ的確で無駄が少ない。

 一切の躊躇はなく、私達に指示をくれる。

 そこに迷いは無い。

 

「妖精さん、西棟頼むぜ!」

 

 提督の号令に、多数の妖精さんが廊下を飛んでいく。

 妖精さんとこんな完璧に意思疎通が出来る人間なんて、初めて見た……。

 

 そして、妖精さんたちの能力は凄まじい。

 修復が必要な箇所に取り付くと、ものの数分で直してしまう。

 艦娘の皆と妖精さんの協同戦線で、鎮守府はどんどん綺麗になっていった。

 

「オイ五十鈴、なにボケっとしてんだぁ!?」

 

「あ、ご、ごめんなさいっ!!」

 

 提督の声に、慌てて振り返る。

 もう前任のクズは居なくなったのに、条件反射で謝ってしまった。

 

 ……提督とアイツは、違う人間なのに。

 

「これからお前ら長良型は風呂掃除だ……ほらよ」

 

「? これは……?」

 

 提督が私に手渡してきた物、それはゴム製の手袋だった。

 長良型の人数分。

 風呂掃除へ向かう私にコレを渡したってことは、そういうことなんだろうけど……。

 

「……アナタって、結構優しいわよね」

 

「ハッ! 道具風情が勘違いしてんじゃねえよ!!」

 

 提督は大声で、周囲に聴こえる様に語り出す。

 

「……ちょっとした例え話をお前らにしてやるぜ。銃とガンマンの話だ」

 

「あるガンマンは碌に掃除も整備もせず、適当に銃を扱っていた」

 

「またあるガンマンは毎日手入れをし、カバーをかけて大切にしていた」

 

 提督の芝居がかった手振りと口調に、私を含めた艦娘達が注目する。

 

「そんな二人のガンマンが、命を懸けた決闘をすることになった」

 

「武器は拳銃。己の命を預ける道具だ。そして……」

 

 提督は手に持ったハタキを銃に見立てて構えると、バン! と叫んだ。

 

「勝者は当然、銃を大切にしていたガンマンだ」

 

「……提督」

 

 提督はニヤリと笑うと、踵を返して歩き出す。

 

「つまりそういうこった。お前ら道具は、俺の為に存在してんだ」

 

「掃除用洗剤なんて素肌で触ったら、肌荒れが半端ねぇだろうがよ!」

 

 ……私は、提督に渡されたゴム手袋をもう一度見る。

 

 手が荒れないように、ただそれだけのために渡されたコレ。

 あの人の、不器用で、ちょっとかわいい優しさが形になったもの。

 

「ふふっ♪」

 

 私は、大浴場へ向かって歩き出す。

 

 私は艦娘、提督の『銃』。

 どうしようもない地獄から、救ってくれたアナタの為なら。

 私は、何だってしてみせるわ。

 

 




おや? 五十鈴の様子が……

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