汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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金の亡者め……!


第七話 青葉とお給料

「おい大淀。ここでは以前どれくらい給料貰えてたんだ?」

 

 座学で艦娘どもに計算させた表を眺めながら、俺は大淀に聞いた。

 こいつ、俺は秘書艦なんていらねえって言ってるのに聞く耳持ちやがらねえ。

 

 ま、強情なやつは嫌いじゃあないがな。

 

「……ゼロです」

 

「あぁ?」

 

 こいつ、今なんつった?

 

「一銭も、私たちは貰った事がありません」

 

「…………………………はっ」

 

 あまりに衝撃的すぎて、言葉が出なかったぜ。

 なんというか、頭をガンと殴られたような気分だ。 

 流石だな大淀、その豪胆な性格に見合った発言だなぁ。

 

 そんなバレバレな嘘、俺についてきやがるとはなぁ。

 

 お前の考え、手に取るように分かるぜ?

 貰ってない事にして、その分俺からたんまりせしめようってかぁ?

 

 くだらねえんだよ!

 

「それはそれは……大変だったなぁ」

 

「はい……本当に、大変でした」

 

 クックック、なに遠い目をしてやがるペテン師が。

 そう言えば不知火もなんか貰った事無いみてえな感じだったなぁ。

 

 まさか艦娘全員で共謀している可能性が……?

 おいおい、面白くなってきやがったじゃねえか!!

 

「ククク、なるほどなぁ、わかったぜ大淀よぉ!!」

 

「は、はい?」

 

 急に立ち上がった俺に、困惑した風な大淀。

 自分の策が見破られたかと思って焦ったかぁ?

 

「給料日は三週間後の予定だったが、気が変わった」

 

「え?」

 

 今まで貰えなかった、っていうんならよぉ。

 その分早めにくれてやろうじゃあえか!

 

 お望み通り、たっぷりとなぁ!

 

「明日渡す。全艦娘に伝えときな!!」

 

「て、提督!?」

 

 さあ、そうと決まったら虐待は急げだ。

 早速街へ繰り出すぜぇ!

 

「カモン妖精さん!」

 

 妖精さん達を引き連れて、いざ行かん!

 さぁ、『虐待』の時間だぜぇ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 鎮守府食堂は、大勢の艦娘たちでざわついていました。

 皆さん落ち着き無い様子です。

 

 それもそのはず、なんと今日は司令官が私たちに『お給料』をくださる日なんです!

 

「どうしよ青葉! なんかドキドキしてきちゃったよ!」

 

 ガサが興奮隠しきれぬという感じで話し掛けてきます。

 青葉だって、ワクワクしているんですよ!

 

 頑張った、その分お金が貰える。

 それがこんなに楽しみなことだったなんて……。

 

「でも本来はもっと先の予定だったらしいよ?」

 

「今までの分……らしいですけど」

 

 そう、前任がくれなかった分を、今日は貰えるみたいなんです。

 誰がどれくらい、というのは、司令官の裁量次第なんでしょうけど。

 

 ……『アレ』が買えるくらいは、お金が欲しいなぁ。

 

「集まってるなぁ艦娘共ぉ! 全員注目っ!!」

 

 司令官が食堂のドアを開け放ち、前に立ちます。

 みんな一斉に静かになり、彼に注目しました。

 

 沢山の妖精さんが、何かを持っているみたいですが……?

 

「今日は告知の通り、お前らに給料を与えてやる!」

 

「この大淀の進言が無ければ、この日は無かったと思いなぁ!」

 

 提督の隣りにいる大淀さんは、ちょっと恥ずかしそうにしています。

 大淀さんが、今までお金が貰えなかった事を言ってくれたみたいです。

 

 私たちは少し前まで、艦娘がお金を貰えるということすら知りませんでした。

 司令官が色々教えてくれたから、こういう事も言えるようになったんです。

 

「ククク、今まで一銭も貰えなくて、大変だったなぁ」

 

 司令官が慰めの言葉をかけてくれます。

 その言葉だけでも、今まで頑張ってきた甲斐があるってものです!

 

「その分奮発してやったぜぇ? クックック」

 

「さ、受け取りなぁ!!」

 

 提督の号令とともに、妖精さんが一斉に飛来します。

 そして、みんなに一つずつ茶封筒を渡していきました。

 

「今回は特例で、全員同じ額だぁ」

 

「次回からは働きによって違いがでるからなぁ!」

 

 なるほど、特別手当とかもこれからはあるってことですね。

 そして遂に、青葉の元にも封筒がきました。

 

 ……なんだかめちゃくちゃ厚みがあります。

 

「さぁ、さっさと開けな。クックック……」

 

 司令官は笑いながら、隣の大淀さんにも封筒を渡しています。

 みんな、言葉に従って封筒の中を確認し始めました。

 

 ……あれ?

 

「ああああああああああ青葉……これ……!」

 

「んー……これって、『一万円』ですよねぇ」

 

 ガサも青葉も、封筒に入っていたのは一万円札。

 流石の私達も、これが紙幣の最高値というのはわかります。

 

 それが、100枚。

 もう凄まじい勢いで数えましたが間違いありません。

 

 皆に、100万円。

 これが、私達の貰えるお金。

 

「……うそぉ」

 

 よく分からなくて、青葉はそれしか言えませんでした。

 そしてすぐに食堂が混乱の境地に陥ったのは、言うまでもないでしょう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 極上だ。

 兵器共の阿鼻叫喚は、実に耳あたりが良い。

 

 こいつらの嘆きが、俺の幸福なんだ。

 

「て、提督……こ、これは……」

 

「どうだ大淀ぉ。嬉しいだろ?」

 

 ククク、声も震えて、可哀想になぁ。

 しかし、俺を騙そうとした罰なんだぜ?

 

 『たったそれっぽっち』しか金を貰えないのはなぁ!!

 

 こいつらが此処に着任して、およそ三年間。

 一般的な艦娘の給料は、月給10万円だ(これでも十分少ねえ気がするがな)。

 

 単純計算して、一隻あたり360万をこいつらは得ていた事になる。

 それをごまかして、無かったことにしようとするとはなぁ。

 

 俺からそれだけもらえると、そう踏んでの嘘だったろうがな。

 残念だったな、嘘つきにはそれ相応の報いを受けてもらうぜ!

 

 三分の一しか、お前らには支払わねえ!

 

「こ、こんなに貰って、いいのでしょうか?」

 

「……クク、当たり前だろ」

 

 こいつ、この期に及んで臭い演技を!

 心のなかでは嘘がバレてハラハラしているくせによぉ!

 

 ま、嘘には嘘で、返させてもらっているわけなんだがな。

 

 あの後俺は、妖精さんと共に大本営に向かった。

 そして、速攻で今まで三年間分の、全艦娘の給金を請求したのだ。

 

 本部の人間からは、俺があたかも艦娘の為に尽力する善人に見えただろう。

 そのおかげか、すぐに口座に支払われる事になったぜ。

 

 ククク、全く、元帥様はお人好しですなぁ、ってか!

 

 そしてそれを三分の一だけ、艦娘共にくれてやった。

 残りの金は全部俺が自由に使わせてもらうぜぇ!

 

 艦娘の金を勝手に使うなんて、こんな高レベルな虐待、ゾクゾクしてくるな!

 

 そして、残った金の使い道は既に決めてある。

 そう……。

 

 この鎮守府内に俺好みの施設を、建設していくための費用なんだよ!

 経費で落とすと大本営に嗅ぎつけられる可能性があるからな。

 

 色々アイデアは浮かんでるぜぇ。

 居酒屋、酒保、甘味処、などなど……。

 

 全部俺の趣味に走った施設なんだよなぁ!

 

 ああ、風呂を増設したりすんのもいいな!

 いや、冷暖房の取り付け……。

 

 クックック、これからが楽しみだぜ!!

 

「クク、さて大淀よ、ソレの使い道を示してやるよ」

 

「え?」

 

 艦娘どもの泣き叫ぶ声も収まってきた為、俺は次の段階へシフトする。

 せっかく貰った雀の涙ほどの金を、消費させる悪魔の誘惑をなぁ!

 

「妖精さん、あれを」

 

 妖精さんが運び込んでくるのは、大量の分厚い本。

 そして同じく多数の書類。

 

「……? なんですかこの本?」

 

「おっと青葉、こいつはお前達にとっての宝箱だぜ?」

 

 本を持って首を傾げる青葉を俺は指差す。

 ククク、宝箱は宝箱でも……。

 

「そいつは『カタログ』っていうんだぜ!」

 

 際限ない誘惑の箱、ミミックだけどなぁ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「目覚まし時計! ……いる?」

 

「ボクは腕時計のほうが欲しいかなぁ」

 

「色々な服があるよ! 可愛い!」

 

「……ぬいぐるみ」

 

 皆、カタログを見て和気あいあいとしています。

 司令官曰く、この本に載っている物、全部買えるらしいんです。

 

 書類にほしいものを書いて、司令官に渡せば。

 それが送られてきて、自分の物になるんです!

 

 自分のお金を使って、自分の物を買う。

 もう目に映る商品が全てキラキラ光って見えますよ!

 

「ほら青葉、アレは?」

 

「そ、そうでしたっ」

 

 そう、青葉の欲しい『アレ』です。

 きっとカタログのどこかにあると思うんですけど……。

 

「あっ……」

 

 見つけました。

 青葉の、欲しかった物。

 

 青葉の、大好きな物。

 

「クックック、欲しい物はあったかぁ?」

 

 司令官が、青葉の横に立っています。

 青葉は高まる感情を押し殺して、はい、とだけ返します。

 

 そして、指で『ソレ』を指しました。

 

「青葉、この『カメラ』が欲しいです」

 

 カメラ。

 理由はわからないけど、私は昔からそれが欲しかった。

 

 本で読んだからか、なんなのか。

 欲しくて堪らなくなって、前任にポツリと漏らしたっけ。

 

 化け物がそんなもの欲しがるなんて、気持ちが悪い。

 なんて言われて、思い切り殴られたなぁ。

 

「ほー……カメラねぇ」

 

 司令官はカメラの商品画像と、青葉をチラと見比べます。

 ……変だって、思われたかな。

 

 艦娘が、こんな物欲しがるなんて……。

 

「いいじゃあねえか。いい趣味してんなぁ」

 

「……!」

 

 司令官……。

 変だって、笑わないの?

 馬鹿にしないの?

 

 殴らないの?

 

「俺も写真は好きなんだ。今度撮ったら見せてくれよ」

 

「は、はい! 青葉におまかせください!」

 

 青葉は無意識に、敬礼の姿をとっていました。

 なんだか、泣いてしまいそうで……。

 

 好きなものを認めてくれて、嬉しすぎて。

 

「クックック、楽しみにしてるぜぇ」

 

 司令官は手を振って、食堂の喧騒に混ざって行きました。

 私はその後ろ姿を、ずっと見ていました。

 

「……良かったね、青葉」

 

「うんっ……」

 

 青葉は今日、大切な物を貰いました。

 それはお金でもカタログでもなくて……。

 

 形は無いけれど、何にも代えがたい物でした。 

 

 




大本営まで欺く、天性の悪人。

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