中尉のダンジョン攻略! 作:中尉好き
とりあえずシュピーネさんの形成を聞けて、モチベーションが上がったので投稿します。
次話は遅れると思います。
初の講習はかなり長い時間行われた。ダンジョンとはどういったものか、という話から始まりレベルが1ということで第5層までの説明、そこに発生するモンスターの詳細、魔石やドロップアイテムについての情報や換金の仕方など説明するべきことが多かった故の長時間の講習だった。
講習の間ヴィルヘルムは半ば放心状態だったが、一度聞けば大体覚え、難しい話も感覚で理解できていたのでこれでも講習はかなり短くなった方だ。もし、ヴィルヘルムがこれらのことを理解したり、記憶したりするのに時間がかかっていれば、この日はもうダンジョンに向かえていなかっただろう。
「危ないと思ったらすぐに引き返すんですよ?」
ミルフは最後にそう言ってヴィルヘルムを解放した。
「ああクソ。時間かけやがって」
不満を漏らしながらヴィルヘルムはダンジョンへと足を延ばした。
到着したダンジョンは思ったよりはきれいな場所だった。流れる風は雰囲気こそ暗いものの、通路のそこらに死骸が転がっているわけでもなく、血の匂いもほとんどしない。予想では、もっと生臭く、それこそ死骸だらけの腐臭まみれ。それでいて血の匂いがひっきりなしな場所だった。この予想が外れてくれたことは活動のしやすさにおいて、うれしい誤算だった。
思ったより綺麗といっても、ここは既にモンスターたちの巣だ。ヴィルヘルムは一切気を緩めることなく、ダンジョンの中を進んでいった。
しばらくダンジョンを進むと道端に人が装備するような道具が落ちていた。道具には血痕があり、きっとこれを装備していたものはダンジョンに敗れ、この世を去ってしまったのだろう。
常人がみればダンジョンの孕む恐ろしさに顔を引きつらせ、警戒心を上げてしまうだろう場面。しかし、ヴィルヘルムは口を歪め笑っていた。
「なんだ期待させるじゃねぇか」
装備は所謂名品と呼ばれるようなものではないが、それでも堅実な仕事が窺えるしっかりとした造りのものだ。こういう代物を扱う人物は大抵の場合、そこそこできる奴だとヴィルヘルムは知っている。そんな輩でも、こんな入りかけのとこであろうと気を抜けば死んでしまうというこの環境に、本来のヴィルヘルムの闘争心が刺激された。
「お?」
さらにもうしばらくダンジョンを進む中、ヴィルヘルムは何か生物の動くのを感じた。大きなものではないし、複数の気配でもない。ちょっと物足りないなと感じながらも、初の獲物に笑みを浮かべながら、ヴィルヘルムは気配のもとへと移動した。
移動した先にいたのは一般にゴブリンと呼ばれるものだった。醜悪な顔に小さな体躯。その手にはその小さな身相応の小ぶりな棍棒を携えている。このダンジョン内で最弱とされているそのモンスターはヴィルヘルムが近くに来たということすら知覚できず、ゆっくりとダンジョン内を歩いていた。
その光景を見てヴィルヘルムは一人小さくため息を吐く。初めてのモンスターとの邂逅はヴィルヘルムにとっては不作に終わったからだ。冒険者になりたての人物でもゴブリンは大した敵ではない。数がいれば脅威足りえる彼らだが、一体しかいないのでは話にならない。一般人にとっては脅威になる膂力も、冒険者では容易くいなせるレベルのものでしかない。危険な戦闘というのを期待していたヴィルヘルムはそれ故にいかにもがっかりしたという態度だった。
ヴィルヘルムは警戒をゴブリンからその周りへと移し、悠然とした足取りでゴブリンの前へとその姿をさらけ出した。
それを見たゴブリンはすぐさま戦闘態勢に移行する。突如敵が現れた側であるゴブリンからすればそれは当然の態度であった。しかし、ヴィルヘルムはその態度には少し感心する。
「へぇ、いいな。面倒なく戦闘に移れるってのはいい。だが―――」
突然の襲来に驚くことなく戦闘を準備を済ませたことには良い評価をするヴィルヘルム。しかし、それだけだ。
「―――その程度じゃ俺のは止めれねぇぞ?」
一瞬のうちに腰を深く落とし、突撃するヴィルヘルム。ゴブリンはそれに驚きながらも迎撃しようと棍棒を振り下ろす。しかし、ただ振り下ろされただけの棍棒では当然ヴィルヘルムを捉えることはできない。無情にも振り下ろされた棍棒は空を切り、ゴブリンはヴィルヘルムを前にその顔をそのままにさらしてしまった。
焦って棍棒を戻そうとするゴブリン。しかし、既に突撃からゴブリンのすぐそばまで来ているヴィルヘルムにとってそれはひどく緩慢な動きだった。
「遅ぇよ」
突き出されたのは拳。未だステータスで強化されていないはずのその拳は、それでもかなりの威力を持っていた。鋭く、速さを携えたその拳にゴブリンは反応できない。無情にもその拳は無防備なゴブリンの顔に突き刺さった。
拳をまともに食らったゴブリンは、そのままダンジョンの壁まで吹っ飛び沈黙する。その顔は拳の大きさ分陥没しており、それが致命傷でゴブリンの命を奪い去られた。
「弱すぎるな」
ヴィルヘルムは当然不満を漏らす。
「つってもまだ導入部分だしよ、期待を捨てるのはもったいねぇ。…ハハハ、そうか下まで来いってことか。いいぜ誘ってやがるなら行ってやるよ」
既にこの辺の階層には興味を失ったヴィルヘルムは、もっと深く潜るために足を動かした。
ヴィルヘルムが次にファミリアの
ヴィルヘルム
Lv.1
力:I 0→F 317
耐久:I 0→G 201
敏捷:I 0→F 339
器用:I 0→F 350
魔力:I 0→H 105
《魔法》
【
詠唱式[
・基本アビリティに上昇補正。
・攻撃した対象からあらゆるエネルギー、基本アビリティを吸収する。
・一度の精神力消費で発動を停止するまで効果永続。
【
詠唱式[
・ 自身を展開し周囲からあらゆるエネルギーを吸収、自身の基本アビリティを強化する。
・ 渇望の丈により効果上昇。
・【
《スキル》
【
・ 基本アビリティ上方補正。
・ 攻撃時、攻撃対象から微量に基本アビリティ、体内エネルギーを吸収する。
・ 特殊状況下により効果上昇。
「上昇値トータル1300⁉」
イシュタルはそのありえない数値に、最初からスキルと魔法があったこと以上に驚愕した。確かに冒険者になりたての頃、ステータスは上がりやすい傾向にある。しかし、これほどの上昇値は、今までたくさんの子の話を聞いた中にはないものだった。
しかも、これだけの成長に必要とした期間はたったの五日だ。
「…あなた、一体何してきたの?」
イシュタルはたまらず聞いてしまう。いったいこれだけのことをやってのけれたのはなぜなのかと。
「あん?そんなこと俺が知るかよ。俺はただ殴って嬲ってぶっ殺しただけだ」
ヴィルヘルムは簡潔にそう答えた。実際、ヴィルヘルムがやったことは彼が言ったこと、それだけだ。
(つまり、やっぱスキルの力ってことね…。)
ヴィルヘルムが本当のことを言っているとわかるイシュタルは、スキルが関係しているとあたりをつけた。
イシュタルにはスキルの名称が何なのか、ついでに言えば魔法の名称と詠唱式すら読むことができなかった。しかし、その効果だけは読むことができていた。『基本アビリティの吸収』。それこそがこのアホみたいな上昇値の、からくりの正体だろう。
基本アビリティとは本来、他者から譲渡することなどできない。基本アビリティとはそのものの実力、言わば身体能力だ。人から人へ身体能力は渡せるか?否だ。
(だとしたら、何という強力なスキル‼)
イシュタルはこのスキルの強力な特性に早くも気が付いた。恩恵の渡した時はスキルと魔法が最初からあることばかりに目を取られ、その内容にまでは意識を向けていなかったが、その効果を直に確認したことでこの能力の強さにまたもや驚愕する。
そして、イシュタルは考えをさらに巡らせる。
今回ヴィルヘルムは、ダンジョンにてこの能力を無意識の内に使っていたのだろう。スキルなのだからそれは当然だ。そして相手はモンスター。彼らモンスターからは基本アビリティを吸収することができるということは今回で分かったのだ。ならば人からは、
スキルの内容には、吸収の対象は攻撃対象となっている。ということは冒険者からでも吸収は可能ではないだろうか。そしてそれができるのなら、
基本アビリティを
(つまり、あのフレイヤの奴に一泡吹かせてやれるかもってことか⁉)
イシュタルの顔に悪い笑みが浮かぶ。憎きフレイヤにやっと一矢報えるチャンスかもしれないのだ。これは仕方のないことなのかもしれない。
「…おい悪いこと考えるのは別に止めやしねぇが、てめぇが見終わったんならさっさと俺にも見せやがれ」
「あらやだ、…はいどうぞ」
ヴィルヘルムは自分の今のステータスを確認した。
「ちっとはましになったが、まだまだだな」
未だ納得するには至らないヴィルヘルム。イシュタルからはこれだけでもすごいと言われたが、数値を見る限りではまだ低いと言わざるを得ない。それにステータスが低いのも勿論気に障るが、そこが上がってくれば、次はレベルの欄が気になってくる。レベル1というのは最低のレベル。つまりそこらの有象無象と変わらない弱者ということだ。それがヴィルヘルムは気に入らなかった。
「おいイシュタル。俺はまた潜ってくるが、問題ねぇよなぁ」
「…ええ、ええ問題ないわ。あなたはもっと強くならないと、ね?」
ニコニコと笑顔でヴィルヘルムを見やるイシュタル。その目に邪な感情が含まれていることを理解してヴィルヘルムは気分を悪くしたが、ダンジョンへの許可は取った。多少の不快さはダンジョンで晴らせばいいと、ヴィルヘルムは足早にダンジョンへと向かった。
イシュタルの部屋を出たヴィルヘルム。とりあえずダンジョンへと向かうことは確定しているが、まずは腹ごしらえだと、どこかで食える場所はないかと動き出した。五日間飲まず食わずで戦い続けられたのはスキルのおかげで養分すら吸収できていたからだ。しかし、腹に何か入れておきたいという気持ちが強くなりつつあるのをヴィルヘルム自身感じていた。我慢できないこともないが、せっかく戻ってきているのだし、食うのも悪くはないだろうと、ホームに帰ってきてからヴィルヘルムはずっと考えていた。
「さてどこで食うか」
ホームにももちろん飲食できるところはある。しかし、ヴィルヘルムは甘ったるい匂いが常に漂うこのホームが嫌いだった。故に外で食べようと思うには思っていたのだが、あいにくヴィルヘルムは外の街を探索したことはない。貧民街での生活では食べ物は盗むのが当たり前で店なんかに行くことは全くなかった。それ故、ヴィルヘルムは飲食店というものを全く知らなかったのだ。
「まぁ適当に見つかんだろ」
時間はたっぷりある。急ぐこともないのでのんびり探すか、とヴィルヘルムは街へと繰り出そうとしていた。そこへ、丁度ファミリアの仲間が現れ、ヴィルヘルムに声を掛けてきた。
「おっ、最近入った白髪君じゃないか」
それは肌の多くを露出した女だった。その肌の色は特徴的な褐色で、アマゾネスなんだと一目見ただけで分かる。
「なんだ女?用もねぇならとっとと失せろ」
ヴィルヘルムはアマゾネスの女に対して拒絶するような態度で接する。
「あらあら冷たいねぇ。あたしはアイシャ、飯屋を探してるんなら一緒にどうだい?」
「…ヴィルヘルムだ。あいにくとここの奴らとなれ合う気はねぇな」
「やだねぇ、ただ入団祝いしようってだけさ、ほら来な」
そう言ってアイシャは一人進み始めた。ヴィルヘルムが付いて来ないとは微塵も思ってないような歩き方だ。ヴィルヘルムは着いていくか迷う。普段なら確実に無視していただろうこの提案だが、
「はぁ…」
仕方なく、本当に仕方なく、ヴィルヘルムはアイシャの後を歩き始めた。