『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第六部「無限なる力」   作:城元太

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第六拾七話

 坂上遂高は、昨日石井の営所に訪れたばかりのバンブリアンが、一機のグランチュラを引き連れてやって来るのを目にする。ソウルタイガーのレーザーネストに跨り機体調整の最中、偶然開け放たれたままの門扉越しに視界に入ったのだ。

「妙な動きだな」

 だが遂高は、バンブリアンが幾分遅れがちに進んでくる事に違和感を抱いた。本来であれば営所に通い慣れている子春丸が先導するはずが、まるで小型のグランチュラに絡め捕られているように、躊躇いながら歩んで来るのだ。

 確かめる必要がある。

 遂高はソウルタイガーを矢倉門まで移動させ、門外で二機のゾイドの到着を待つこととした。

「これは坂上様、昨日は、どうも……」

 門外に到着した子春丸は、操縦席でいつもと変わらぬ愛想笑いを浮かべている。しかし、後続のグランチュラが門の前に達すると直ぐ、慌ただしくバンブリアンの頭部を下げ、営所の衛士に声をかけた。

「それは俺の連れだっぺ。なか入れてくれっけ(くれますか)」

 グランチュラの風防が開き、機内より子春丸と似たような服装の部曲民が現れる。背中を丸め、平身低頭の愛想笑いを浮かべる姿も子春丸に準じている。

 しかし、遂高はグランチュラに乗る者の眦が僅かに吊り上るのを見逃さなかった。

「わかった。暫し待たれよ、すぐに殿に取り次いで来る」

 踵を返し、ソウルタイガーは営所の工房へと向かっていった。

 

 小次郎の許可を得た子春丸は、田夫一人を伴い、石井の営所の方々を練り歩いた。

「どうした子春丸、昨日参ったばかりではないか」

 リーオを鍛える工房から、肩に多岐を乗せた小次郎が現れる。既に許可を得ており、委縮する必要はないのだが、それでも子春丸の立居振舞はぎこちない。

「はあ、本日は俺の今度手伝いに雇ったわげーてい(若い衆)に、いっぺん段取り教えっぺと思って寄せてもらいました」

 その時入れ替わりに、ソウルタイガーが営所の門をくぐって行く。

「坂上様はどちらへ」

「うむ、私の使いだ、気にするな。それより、若い衆とは、その後ろの者か」

 だが、田夫は頻りと頭を垂れるのみで、表情を覗わせようとはしない。話の途中から肩の上の多岐がむずがる。

「バンブリアンいこう、バンブリアン!」

「多岐は相変わらずバンブリアンがお気に入りよのう。子春丸、また少し娘を乗せてもらえるか」

 一瞬、後ろに控えている田夫の視線が、鋭く子春丸を突き刺した。

「多岐さま、申し訳ねえが、今日はぱすぱすで(ギリギリで)来てっから、ゾイドに乗っけることはできねんだ」

「そうか、残念だな。ではせめて、いつものようにバンブリアンの側まで寄せてもらうぞ」

 小次郎は落胆する多岐を肩に乗せたまま去って行く。その背後で、冷汗を拭う子春丸の仕種を感じながら。

 師走の空に鉛色の雲塊が漂う。東方大陸東岸の坂東では雨季を迎えようとしていた。つまり出水に備え、田の畔作りと溝切り作業の繁忙期でもある。

 嘗て孝子がしていたように、今度は三郎将頼がソードウルフを以て農作業を手伝っていた。

 多治経明のディバイソンは栗栖院常羽御厩の再建の為に牧に戻っている。

 文屋好立のサビンガも、大国玉の平真樹の元へ、正式に小次郎の軍勢に加わる旨を伝えに赴いていた。

 藤原玄明達のランスタッグ部隊は鹿島の所領へと帰郷した。

 従って営所に残されているゾイドは村雨ライガーとデッドリーコング、そして身重で操縦は不可能な良子のレインボージャークのみであった。

 田夫に変装した間者は、躊躇う子春丸を連れ回し、営所の隅々までを案内させ、半時もしないうち出立した。

「このぶんじゃあ、今夜は降ってくんなあ」

 鉛色の空を見上げ、子春丸は独り言を呟いていた。

 

 子春丸の予測通り、夜半より矢来の雨が沛然と降り始めていた。

 雨に烟る漆黒の闇夜に、雨滴を滝のように滴らせる漆黒の鋼鉄の獣達が集う。十数機を超えるダークホーンと、同じく漆黒のブラストルタイガー、そしてレッドホーンが蠢く。

「小次郎め、今宵こそは目にもの見せてくれる」

 冷たい輝きを放つアイスメタル装甲のアイスブレーザーで、蓑を纏った平良正が怪気炎を上げている。その脇で、平貞盛のブラストルタイガーと上兵他田真樹(おさだのまき)のレッドホーンは機体を寄せ、二機のみに於いて接触回線通信を行っていた。

〝貞盛様。夜襲などして首を取ったところで、卑怯者の誹りを受けるだけではありませぬか〟

〝叔父上達には何度も進言したのだが、結局押し切られてしまった。所詮避けては通れぬ道であるのだ、良兼叔父と小次郎との因縁は。だが私は違う。

 真樹、この戦深追いはならぬ。寡兵とはいえ小次郎の兵は一騎当千、万一我ら大毅が総崩れと成りうる場合は、頃合いを見て共に手筈通り東山道に退く〟

〝承知〟

 間もなく、ダークホーン部隊がアイスブレーザーに率いられ一斉に移動を開始する。左翼後方に付いたブラストルタイガーも、レッドホーンと共に進撃を始めていた。

 

 仄かに光る薄紅色の集光板を纏った白虎が疾走する。操縦席には荒々しく人息が立ち込める。

 間に合うのか。

 遂高は後部席不安そうな表情を浮かべる女を伴っていた。

 常陸の西、下野と武蔵の国境近くの結城郡付近で、白虎は無数の鋼鉄の獣が列を成して進軍する姿を遠望する。驟雨に沈む甍は、西に金堂を、東に塔を並べる白鳳寺院、結城法城寺の伽藍であった。

 後部席の女が囁く。

「あの燐光はディオハリコン、ダークホーンで御座いますか」

「ああ、私の睨んだ通りだ。岡崎村に急ぐぞ」

 ソウルタイガーは貫道を抜け、ダークホーンの大毅に先行していた。

 

 石井の営所は寝静まっている。雨音が鋼鉄の獣達の跫を包み、最も脆弱と思われる土塁の前へと停止した。凶悪なハイブリッドバルカンが一箇所に狙いを定める。ダークホーン数機による一斉射撃によって土壁を貫き、一気に営所に雪崩れ込む算段であった。

 銃身を束ねたバレルが回転し、甲高い金属音が雨音と輪唱を奏で始めたその時、射撃の軸線上に白黒のゾイドが突然飛沫を上げて躍り出た。

「やっぱこーたごじゃっぺなこた許せね」

 バンブリアンの風防の奥、子春丸の覚悟を決めた姿がある。バンブリアンは全身に無数のバンブーミサイルを装備していた。

 

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